第8部;九月〜定められている七人の運命〜-7
「別にオレは文句を言おうとしているんじゃありません。むしろここの生活を与えてくれた水鏡さまに、感謝してもしきれないと思ってる。」
アキラは視線を逸らせた水鏡に向かって、一方的に喋り続けた。
「ここの生活は、オレの憧れてた生活のままだった。だからこそ実感させられた。オレの平凡な生活は、オレの両親が殺された瞬間に終わった。いや、生まれた時から与えられていなかったんだろうって、そんな気がする。だって、平和に任せて安穏と暮らしてると、かえって気分が休まらないんだ。
オレはせっかちだから、こういう静かで穏やかな生活ってのが合わないみたいだ。だから欲しいもんがあったら獲りに行く。
待ってたって焦れったいばかりだ。向こうから来てくれるわけがないの、解ってんだ。
オレはあなたに導かれるままに《夏青葉》を見付けた。次は青風月。あなたは何の為に、オレに夏青葉を捜させたかを考えたら、答えは一つ。オレの為、谷の為、青風月を見付けだす為じゃないか。
あなたは仮にも女長老。谷のことを第一に考えるべき立場にある人。だったらオレは、あなたの望むままに動く。自分の性格に従って生きる。だから区切り良く、三年になったら東京に戻る。
大体、オレら一族は逃げてばっかだから弟御子一族に追われるんだ。このままじゃあ終わりは来ない。だから、オレは逃げない。所詮血塗られた人生、どうせ同じ道ならば、後の世代に平和を伝えたい。
オレは平和の為の戦争はないと思ってる。必要悪なんて認めないけど、そいつがなかったら、人間が変わるきっかけなんて生まれないとも思ってる。だからオレは、自分が認めない必要悪になる。
オレは初めて大切にしたいと思う人たちに会ったけど、それはあなたのお陰だ。
オレは人間そのものを憎むことはしなくなったし、不思議とこいつらの為なら、憎まれてもいいから必要悪となって守りたいって思うんだ。
安心して下さい。オレは世界を滅ぼしたりはしない。誰にもこの術は教えない。その為にも、この術を狙う弟御子一族は邪魔な存在。だからオレは目立った行動を取って、奴らの長、氷河王を引き寄せ、奴らを狩ります。
お互い顔を知らないけれど、きっと血が引き合うだ運命のはずだから。絶対にオレは氷河王を狩る。だって、オレは空蝉ですもん」
アキラは一気に話しきり、相手の反応を見守った。
そんなアキラを見て、水鏡はため息をついた。
アキラにとってそれは、とても意外なことだった。水鏡なら、静かに何かしら言うと思っていたのだ。
しかし水鏡からすれば、今日、葵に頼んできたことが、全て無駄になってしまったのだ。ため息をつかずにはおれない。
「そなたには、二つの人生が用意されておった」
「決められているということ自体、オレには不愉快だけど、どうせ今こうして選んだ道が、そのどちらかではないのですか。つまり、オレがそのどちらかを選ぶことも、決められていたこと」
まるで吐き捨てるようなアキラの言葉に、水鏡は隠さずに頷いた。
「確かにその通り。
そなたは光を抱いた闇の女王。日光という名の通りの光の娘になるか、日光に照らされた緑から生まれる陰という存在になるか、それを選ぶ人生だった。
……そしてそなたは陰の道、修羅に堕ちることをやはり選んでしまった」
「育った環境とオレの性格を考えたら、そうなることは必然でしょう。あなたならば、初めから判っていたはずだ」
そのアキラの言葉に、水鏡は答えなかった。まして、知っていたとしても、抗おうとさっきまでしていたことなど。
代わりに、水鏡は預言をした。
「何れにせよ、そなたは青風月王を見付ける運命です。それは定められている未来。
近道をしても遠回りをしても、そなたの一番身近な者として、青風月王はそなたの前に現われることになっています」
「そりゃそうじゃないですか。唯一の身内ですよ。一卵性双生児ではないにしろ、やはり双子なんですから」
「……そう、今の瑞穂の谷の長にはお解りになれぬでしょう。いくら長とはいえ、あなたはまだまだ子供。
それに、あなたは家族というものを知らなさすぎている。一番身近な者とは、何も家族だけではありません。それはあなたの心が決めることなのですから」
「?」
アキラは首を傾げた。不快ではあるが、家族というものを知らないということは、否定できない事実なのだ。知らないことを余計に反発するわけにはいかない。アキラは謙虚になることにした。
「つまり、水鏡さまは、例えば今オレの周りにいる、……そう、先程お会いになったカズヤみたいなのが、青風月王だった、という感じで身近にいるかもしれない、そうおっしゃられているのでしょう。
勿論、例えばの話ですよ。冗談じゃない、あれが青風月王だったら、こっちが困ってしまう」
アキラは大きな口を開けて笑った。
さっきカズヤを痛め付けてきたばかりだ。仮にも双子なら、もう少し自分に似た人間を例えにすれば良かったと、あまりに可笑しくなってしまったのだ。
だが、水鏡は笑っていなかった。
「それと、重要なことをもう一つ。わたくしは神々から見せられている、あなたの未来を知りすぎています。
あなたが修羅を生きるのであれば、わたくしは水鏡としてあなたの前に現われることは、もう二度とありませぬ。用件がお互いある場合は、マザを介するか、巫女紅龍妃を通さねばなりませぬ。そういう巡り合わせなのです」
突然の話に、アキラは戸惑いを隠せない。
「え?何故でしょう。未だあなたには、教わらねばならぬことが……」
しかし水鏡は何も答えず、全身で答えることを拒絶していた。
次回から第9部;九月〜初舞台〜を始めます。
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