表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/99

第8部;九月〜定められている七人の運命〜-2

 恐怖の八月二十六日がやってきた。

 さすがのアキラも、その日は朝から気が滅入めいっていた。

「お早よう、アキラ。今日は正午にそちらに行きますからね。わたくし、その時間帯しか時間を作れませんでしたので、担任の先生にお願いして下さいね」

「は、はい……」

―――そんなに忙しいなら、別に来ないでもいいじゃんかよ。

 アキラは心の中でぼやいた。

「ああ、そう言えば、あなたの担任の先生は、あなたの部活の顧問でしたね。何と都合の良いことでしょう」

「はあ……」

―――全然、都合なんか良くねえよ…… 

「では後ほど。わたくしは、一度谷に戻ります。いいですね、正午ですからね」

 にっこり笑って念を押し、水鏡は姿を消した。

「あぁっ、もうっ、ふざけんなっ!」

 とうとうアキラは叫んだ。こんなに悪気ない立ち振る舞いで、精神的圧迫を受けたのは初めてだ。

 アキラは観念し、真面目に制服を着ていた。入学して以来初めてのことだ。

 スカート丈は今更どうにもならないが、ボタンを閉めて、スカーフをリボンに結び、きちんとベストを着ている。その格好が始業式の二年五組に衝撃を与えたのは、言うまでもない。


「せーんせ」

 始業式も終わり、部活のメニューを聞きに来たアキラが、こんなに可愛い声を出すのは初めてのことだった。

「何?」

 葵は身構えた。

「そんな身構えんといてよ、葵ちゃん。前に言ったろ。今日、オレの保護者が来るって。それで、ちょっと頼みがあるんや」

 アキラは彼女らしくなく、ちょっと困ったような顔をしていた。

「お願いっ、変な人なんやけど、気にせんといてわ。作法室空けてもろて、そこで会ってくれないかな。正午に来るんやけどな」

「何だ、そんなこと」

 手を合わせたアキラに、葵は思わず笑った。アキラがそこまで困るとは、相当な人なのだろう。

「変な人って、どのくらい変なの?」

「何て説明したらええんだか……。純和風の究極のマイペース人間、加えて超美人。そんでもって、どっかしら感覚がずれてるんやわ。冗談を言うような人じゃないんやけど、とにかく変なんやわ」

「……解ったようで解らないわ」

「上品なんやけど、世界が違う人んだよね」

「どうして世界の違う人が、あなたの保護者なの?」

「そこでつっこまんといてな。オレ、すごく真剣なんやさかい」

「はいはい」

「あー、冷たいの」

「冷たくないわよ。じゃ、練習メニューは、午前中は個人練習。午後は一時からパート練習、セクション練習、三時から合わせで、五時上がり。これでどう?」

 葵は、ちゃんと時間取ってあげたでしょ、と言いたそうな、得意げな顔をした。

「何や、いつもと同じやんか。何が冷たくないだ、充分冷たいやん」

 アキラはげんなりした顔をしてみせた。

「そんなこと言わないの。ほら、基礎練習は部長がいないと始まらないんだから」

「はーい」

 アキラは、肩を落としたまま音楽室に向かった。


 鬼部長と名高いアキラの基礎練習だったが、今日は殆ど身が入らない。水鏡のことが気になって、さっぱり上の空になってしまっていた。

 水鏡の腹の底が知りたかった。どうして葵に会いに来るのか、皆目検討が付かなかった。巫女をやらせる話と葵に会う話。どこがどう繋がるのだろう。第一、何処の神社の巫女を自分にやらせるのか、アキラは全然聞かされていないのだ。


 正午になる少し前に、アキラは午前中の練習を切り上げた。副部長のコメチに、自分が午後の練習に間に合わない場合、フルートパートを見てくれるように頼み、心重たくなる現実に向かうべく、校門前で水鏡を待った。

「アキラ、お待たせしました」

 アキラは目を疑った。亜里の店の柔らかい色のスーツを着た、現代風の水鏡がいるではないか。しかも例の角隠しもない。

 正直驚きはしたが、アキラは安堵の気持ちを禁じ得なかった。

「どうかしましたか?」

「いえ、あの、水鏡さまも、洋服をお召しになられるのだなと、正直驚きまして……」

「わたくしだって、まさかいつもの格好で来るわけにはいかないことくらい、常識で解りますよ」

「済みません……」

 心配を見透かされ、アキラは小さくなった。


「よお、アキラ。せたよな、お前」

「夏ばてでもしたんだべや」

―――最悪…… 

 アキラは背後からの声に、振り返りたくもなかった。

「昼休みだろ。弁当食わないのヮ?」

 うるせーよ、と言いたいところだが、水鏡の手前、それだけは言えなかった。口を開けば汚い言葉のアキラとしては、サキとカズヤを前にしながら、沈黙を守らねばならなかった。そしてこれはとても辛いことだ。

「葵ちゃんにお客さまなんだ。放っといてくれないか」

 アキラは、精一杯の返事をした。

「ああ、んだからか。その真面目な制服。驚いたよな、サキ」

「んだ」

 アキラは、完璧無視を決め込んだ。

「今、担任を呼んで参ります。少々お待ち下さい」

 アキラは葵を呼びに、職員室に向かった。

「何だ、あいつ?」

「さあ……。制服は真面目だし、変なモン喰ったんじゃないのヮ?」

 あまりのあっけなさに、サキとカズヤは拍子抜けし、顔を見合わせた。




↓↓↓本編先行連載している作者のブログです。是非おいで下さい。

http://blogs.yahoo.co.jp/alfraia


また、日本ブログ村とアルファポリスに参加しております。

お手数ですがバナーの1クリックをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ