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第7部;八月〜瑠璃色の瞳〜-7

紅龍妃こうりゅうひよ、そなた、巫女になれ」

「そのような勝手なことを!」

 水鏡と紅龍は、同じことを言った。

「本名を明かしたあなたは、巫女ではなく、正式な長にならねばならないのですよ」

「何を今更。谷には立派な女長聖流妃(せいりゅうひ)がいるではないか」

晃緑妃こうりょくひ、呪いを跳ね返して生まれし姫君よ、あなたは責任重きその座を前にして、逃げ出そうというのか?決められた運命から逃げようとするのか?」

 紅龍は自分で言いながら、自分に驚いた。儀式の前であれば、どのような手段を使ってでも巫女になりたかったはずだったのに、今は逆のことを言っている。

「……今更、長だの何だのと、四百年もの永きに渡って、守るべき谷人からも行方をくらませていた者が、長など勤まるわけがないし、いなくても谷は動く。偉そうなことを言えるわけがないよな」

 アキラは自嘲気味に言った。


「十三年前の雪の日、身分を偽った長夫婦が密かに谷に戻り、双生児を産んだのを、長老方はご存じであろう。

 一人は泣きわめく男子、一人は産声を上げぬ女子。

 過ちの双生児の一人、兄御子晃緑妃は今際の際(いまわのきわ)に預言をした。再び双生児が産まれたならば、それは修正の双生児。運命に翻弄される者たちであると。修正の双生児の一人でも欠けてしまえば、瑞穂の谷は滅びてしまうと預言はなされているはずだ。

 わたくしは谷を滅ぼす最後の長にはなりたくない。紅龍妃は我が母から聞かされて知っているはずだ。このわたくしには双子の弟がいたけれど、今は行方不明で捜していると」

 紅龍はうなづいた。確かに聞かされていた。だが、あの女性が長の妻だったとは知っているわけがない。

「あの姫は死産だったはずじゃが……」

「そう、それは正しい情報だ。しかし真実ではない。

 真実は、青風月王(せいふうげつおう)は生後間もなく弟御子一族の長、氷河王(ひょうがおう)の手の者に連れ去られ、現在は氷河王からも連れ去られ、行方不明だ。

 弟御子一族も女子死産の情報を信じ、守るべき身体の彫り物が弟にあると思い込み、そして連れ去ったようだが、誤りに気付いた時には時、既に遅しだ」

 アキラは静かに語った。先ほどの激高した姿は消えている。


「水鏡さま、紅龍、オレはこの谷を守る為にも、弟を捜し出さねばならない。それが長の義務だと思う。

 我々の誕生は神々の運命(さだめ)たものかもしれないけど、我々の未来はこれから作らなきゃならない。オレらはその為の修正の双生児なのだから。

 逃げるんじゃない、運命から逃げられるものなら逃げてみたい。でも逃げられないから、このオレは」

 アキラは自分の言葉に戻した。本音を語るのに、堅苦しい言葉は不似合いだ。


「ならば何故、無益だとお感じになっていた儀式に、敢えて参加なされたのでしょう。身分をお明かしになられれば、それこそ無益な殺生は避けられたでしょうに」

「ここに連れて来てくれた女長老さまに、身分を明かすなと言われていたし、そもそもどんな儀式をするのかも教えられていなかった。それに自分自身、巫女になりたくなかったから、できることなら参加したくなかった。

 でも女長老さまは参加は義務だと仰る。そう言われたら逆らえない。

 そして参加してみて知った儀式の内容に驚いて、逆に巫女に選ばれようと思ったわけだ。そうしなければ儀式を廃止できるだけの権限を持つことができないから。

 ただ、知らなかったとはいえ、谷の娘を無駄に死なせてしまったことは、赦されるものではないな。それでも謝らせてもらう」

 アキラは頭を下げた。他人を納得させる為には、これくらいしなくてはならない。


「オレは行方を晦ませてきた。しかし、もう存在は隠さぬ。氷河王を狩り、過ちを修正せねばならない。隠れ続ければ、氷河王からは逃れ、オレ自身の生命は守れるだろうが、結末はオレを見つけてくれない。

 ならば、オレは先を目指す。谷人から行方を晦ませはしない。それは約束する」

 女長老水鏡妃は、あれ以来声を出していない。

「だから、この四百年もの我が一族の争いを終わらす為に、どうかオレを谷に縛り付けないでくれ。紅龍、巫女になってくれ。水鏡さま、紅龍を認めて下さい」

「私ごとき小者でよろしいのであれば、微力ながら、真の長に従います」

 紅龍は答えた。

「晃緑妃よ、わたくしもあなたの決定には逆らいませぬ。確かにあなたは谷のことを考え、そして結論を出したのだから」

 水鏡も言った。

「有難うございます、水鏡さま」

 アキラは頭を、深々と下げた。


「ところで、晃緑妃のご両親は?ご健在のはずであろう。未だお若いのだから」

「……」

 誰かの言葉に、アキラの顔が凍った。

「我が父母、風螢王(ふうけいおう)銀星妃(ぎんせいひ)は、共に五年前、彼の地で氷河王の手の者に殺された。

 呪いの言霊は生きているが、しかし安心しろ。見ての通りオレは女で、しかも丈夫だ。何も怖いものはない」

 「なんと頼もしい一言だ」と、あちこちから聞こえたが、アキラにはそれが悲しかった。怖いものはないかもしれないが、自由も何もないのだ。


「水鏡さま、先程のご無礼をお赦し下さい。ご自身よりもこの私のことをいつくしんでくれたことを、知らないわけではありません」

 アキラは水鏡に土下座をした。そして(やぐら)から身を乗り出し、宙を歩いて紅龍の頭上に立った。長一族であることの演出だ。

「紅龍妃よ、先程の私の言葉を胸に刻み、女長老、女長の善き相談者になれ。始祖杜若妃の意志を継ぐ者となれ。あの儀式を生き延びたのだから」

 紅龍は宙に立つアキラの、輝く瑠璃色の瞳を見据えて言った。

かしこまりました。必要とあれば、最前線のわたくしをお呼び下さい」

「有難う。そして女長聖流妃よ、我儘をお赦し下さい。巫女紅龍妃をお導き下さい」

「畏まりました。わたくしどもは、あなたさまが青風月王を連れて、この瑞穂の谷にお戻りになられる日を、心よりお待ち申し上げております」

 優しく微笑んだ女長聖流妃に一礼すると、アキラは瞬間移動をし、瑞穂の谷を後にした。




次回から第8部;九月〜定められている七人の運命〜を始めます。




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