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第1部;五月〜出会い〜-4

「ところでさ、この班で球技大会って、マジ?」

 今までなかなか会話に入れず、機会を(うかが)っていたカズヤが、話題を変えた。

 が、切り出し方がどうにも悪い。

「ちょっと、それ、どういう意味?」

 コメチはカズヤを(にら)みつけた。ナミまでもがだ。

「バカだなャ、カズヤは」

 ポンは、口篭(くちご)もるカズヤの肩を叩いた。

「ちゃんと二人に言わなきゃ、かえって嫌味だっちゃ。大丈夫、身長なんて気にすっことねえってなぁ」

 腰に手を当てて笑うポンを、今度はアキラがど突いた。

「お前ら、そろって大バカや!アホたれが!」

 ナミとコメチは、クラスで一番身長が低かった。未だに小学生に間違えられる声変わり前のシキですら、百六十センチはあるし、アキラときたら、百六十七センチのモデル体型。後の三人の男子は、クラスで一番大きい三人だ。

「ったく、バレーはチームワークってどうして言えんかね、バカどもは。

 今更だけどな、オレはすっごく頼りにしてるんやで、運動神経抜群の二人を。

 って、アホ二人の所為で、オレの台詞(せりふ)も台無しやわ」

 アキラのフォローに、ポンなどは調子良く相槌(あいづち)を打って、またど突かれた。

「いいのよ、アキラ以外はバカばっかり」

 コメチは鋭い視線をポンとカズヤに向けると、背中を返し、「帰りましょ。こんなバカども放っといてヮ」と、カバンを掴んだ。


 広い学区の神森中では、自転車通学は当然のことだった。七人は土手沿いの道を、しゃべりながらちんたら進んでいた。

「じゃな」

 一番始めに集団を抜けるのはアキラだ。彼女の家は、学校から見て南西の黒森地域にある。

「おう、またな」

「明日ね」

 口々に思いおもいの挨拶を交わし、六人は土手沿いの道から脇道へ下るアキラに手を振った。

「それにしても、あいつ、オソロシク丸くなったよな、性格。去年の今頃とは大違い」

「んだなャ」

 何気ないポンとサキの会話だったが、それはたった今別れたばかりのアキラのことを指していると、もはや鈍感の烙印らくいんを押されかけているカズヤですら、すぐに気が付く。あまりにも何気ない会話に、カズヤは喰いつけなかったのだが、カズヤはアキラが気になって仕方がなかった。


 つい最近行なわれていた中間テストの、恐怖の総合結果が戻ってきた。

 クラス中が例によって騒々しい中、アキラだけは「かったりぃ……」と、机の上に足を投げ出し、踏ん反り返っていた。「パンツ見えるから、やめなさい」と、コメチはアキラの足をひっぱたいたが、一向にお構いなしだ。

 コメチも心得ているから、二度も注意はしない。すぐカズヤに話しかけた。

「ね、カズヤ、何位?」

「まかせろ!今回は五十二位」

 カズヤはVサインを出したが、その手はすぐ引っ込めるはめになる。

「勝った、わたし、四十七位」

「あたしも。五十位ジャスト」

「カズヤは波があるんだよ。前なんか、三桁だったべ。その前は二桁で、その前は……」

「煩いなぁ、サキ。ごしゃかれる・・・・・・のは、親からだけでいいんだよ。な、シキは?」

「え、ボク。えっと、十九位かな。今までで最高」

 これではカズヤは肩を落とすしかない。

「すげーなャ。オレなんか、机に向かうと口ばっか動くんだよ。だっけ、成績も体重も増えてやんの。初の三桁突入。ちょうど百位」

「ポンよお、あんなにオレとサキで教えてやったのに、去年から下がりっぱなしやんか。マズイで」

「悪いねえ、アキラ」

 ポンはにこにこしながら、頭を掻いた。

「マズイって、未だ学年で半分より上だっちゃ。平気だサ」

 カズヤとしては、厳しいアキラの言葉を慰めるつもりでポンに声をかけたつもりだったが、返り討ちに遭う。アキラは自分に厳しく、そして他人にも厳しいのだ。

「ま、オレのことじゃないっけ、ええねんけどな。お前みたいに自分に甘いと、人生損するで。せっかくサキもオレもおるんやし、利用して、ええ点取ったらええやん。ま、どうでもええけど」

 アキラは相変わらず机の上に足を投げ出したまま、かったるそうにカズヤに言った。はっきりと「自分に甘い」と言われてしまったカズヤは、黙るしかない。他の五人は心得ているようだが、カズヤは、全体の中のアキラと個としてのアキラとの違いにようやく気付き始め、戸惑っていた。


 しかしアキラときたら、戸惑っているカズヤなどまるで無関心で、受け取ったばかりの成績表に見入ることなく、保護者欄に勝手に印鑑を押すと、さっさと担任に返しにいった。

 カズヤは目を丸くした。担任も、何も言わずに受け取ったではないか。


「ところで、サキはどう?下がっちゃった?」

「いや、変わらず」

「コメチ、酷いっちゃ、そんな訊き方。取り敢えず、未だ上がる余地あるのに」

 カズヤの言い分は至極当然なのだが、コメチは全く動じた素振りを見せず、肩で大きく息をした。

「あなたって、本当に周りを知らないのね。いいこと、サキはいっつも学年二位」

「コメチ、いいよヮ。カズヤに言っても……」

「サキはいつもカズヤを庇いすぎよ、ま、いいけど。でも、よく考えたら判ることだサ。絶対四八〇点取ってるのに、いつも二位なのよ。マグレで四九〇点以上取る人が、そう都合良く毎回いるわけないっちゃ。毎回一位取る人間、有名なんだけどね。シキは知ってるっちゃ?」

 七人の中でもう一人、去年違うクラスだったシキにコメチは同意を求め、シキは頷いた。


 コメチの言う通り、見るからに成績優秀なサキは、定期テストで二位以外取ったことがない。

 サキは自分のことが話題にされるのが恥ずかしくて、トイレに逃げ出した。

「コメチ、オレ、先に部活行っとるで」

 アキラも例によって、荷物を早々にまとめて立ち上がった。

「了解」

「サキのヤツ、小姑みたいにうるせーんだよ。な、思うやろ」

「そうね」

 コメチは笑った。

「早く行きなよ。そろそろ戻ってくる頃だし、あなたもこの話、聞いていたくないでしょ」

「そうやな。ほな、お先に」

 アキラは背を向けた。

「今年は、もう、来ないみたいだっちゃ。良かったなャ、アキラ」

「何か期待しとんのか、ポン」

 アキラは後ろ手でドアを閉めた。





(注)ごしゃかれる→怒られる

作中の地方の方言として使用しました。






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