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第7部;八月〜瑠璃色の瞳〜-6

 揺らめく炎の中に浮かび上がった巫女は、とても美しく、凛としている。この後十三年間、最も美しい年令を、彼女は巫女として最前線に(おもむ)くのだ。

 谷人はその美しさをたたえ、更に大きな声を上げた。谷人の誰もが、彼女の出生を知らずに讃えていた。


 アキラは手を挙げ、その声を制した。あまりにも慣れた手つき、その落ち着きように、谷人は水を打ったように静まり返った。

「この度、巫女決めの儀式により、女長老さま及び女長さまから巫女に任命された。今手懸けている仕事の都合上、父母の名も、本名を明かせぬ。しばし、わたくしの話を聞いてもらいたい」

 アキラの雰囲気に、誰もが圧倒されていた。

「先ずは、今日の儀式において、(はかな)く生命を失ってしまった者の冥福を祈りたい。わたくしはその犠牲者の上に、こうして立っているのだから」

 ここでアキラは大きく息を吸った。

 これからここに立った目的を果たすのだ。

「そして、わたくしは疑問を投げかけたい!」

 アキラは一層大きな声を張り上げた。


「過ちの双生児の誕生より四百年、長一族は行方をくらまし、未だ弟御子一族に追われている。

 何故、弟御子一族は長一族を追うのか。それは、憎しみという感情に囚われているからだ。それは周知の事実。しかし兄御子晃緑妃こうりょくひは、敢えて弟御子創翔王おとみこそうしょうおうをお生かしになられた。それは何故か。憎しみは憎しみしか生まぬという重大な教訓を、我ら子孫に残す為ではなかったか。

 それなのに、今日の巫女決めの儀式なるものに、その教訓は全く生かされていないではないか。今日参加して、わたくしはそう感じた。共に巫女を目指したものは、同じ参加者を憎み、行く手を阻む為の谷人をも憎み、そして先を目指していた。そのような者が巫女になってもよいものだろうか。

 たしかに、わたくしたちは人間をあやめる集団だ。しかし彼らには理由があり、今日の犠牲者には殺されるべき理由がない。今日の儀式に際し、わたくしは殺人を犯していないと誓える。このような血で汚された儀式によって選ばれた巫女などに、選ばれたとしても、わたくしはその地位に座っていたくはないというのが、本音だ」

 アキラによって生まれた沈黙は、白けに変わった。今決まったばかりの、たった十三才の少女は、何やら傲慢ごうまんとも感じることを言っている。


 アキラはこうなることを予想していた。それでも言わねばならなかった。その為に、自分は巫女になったのだ。

「今後、一切の流血を禁ずる。退く女長が、十三才の娘たちの中から次の巫女を、神の御名において指名すること。先代晃緑妃の教訓を生かさねばならない」

 突然命令をした巫女を、女長は慌てて静止したが、アキラは黙ろうとはしなかった。

「昔からのしきたりじゃ。真の長一族の者以外、変えることはできぬ!」

 誰かが言った。

「巫女とは、神の御声を聞く者。それでも変えられぬものか」

 アキラは声に答えた。

「冗談じゃない。声を聞いたなどとは、口先だけで何とでも言えるもの。真の長は、瑠璃色の針の瞳を持ち、神と言葉を交わすものだ」

「まあ、よい。わたくしは巫女になることを辞退しようと思っているのだ。わたくしの代わりに、最後までわたくしと共に進んだ紅龍妃を、巫女とすればいい。彼女なら、もう少し人間と自然界との関わりを理解できれば、巫女の役割を立派に果たせる器の者だ」


「それは、わたくしが許しませぬ!」

 谷人の誰もが驚いた。滅多に声を出すことない女長老が、声を荒げたのだ。

 そして次の瞬間、谷人はもっと驚かされる。

「黙れ、水鏡妃よ!」

 たった今選ばれたばかりの生意気な巫女が、女長老を一喝したのだ。

「そなた、わたくしに命令できる立場ではなかろう。真の長一族の血を引かぬ女長老が。

 わたくしの素性を知っているからこそ、わたくしを縛り付けておきたいだけなのは、充分解っているぞ。自分が解放されたいだけに、このわたくしを縛ろうとしていることもな。

 真の長一族より、谷を守る為に守護の力を与えられたのなら、真っ先に谷のことを考えよ!今、わたくしが巫女に就けば、かえって混乱を招くことくらい、解るはずだ!」


 女長老への巫女の無礼に、無数の非難の声が上がり、その場は収拾のつかない状態になった。それでもアキラは大声を上げた。

「静まれっ!お前たちの望むものを見せてやる!」

 アキラは手にしたさかきの小枝で、顔を隠した。

「止めなさい、止めるのです!」

 水鏡が悲鳴にも似た声を上げたが、アキラはその声を無視した。

「我が名は晃緑。神々と、この瞳の色と、我が名にかけて、巫女決めの儀式における流血の一切を、今後禁ずる!」

 榊の小枝を下ろした後に現れたのは、瑠璃色に輝く漆黒の瞳……


「こうすれば良いのだろう。こうすればそなたたちの気は済むのだろう。わたくしの存在を公にすれば、奴らはわたくしを狙いに来るのは明白。弟御子一族の情報収拾能力があなどれぬことくらい、そなたたちでも知っているだろう。

 それでもわたくしは、そなたたちの為に、女長老が付けて下されたこの呪われた本名を明かした。そなたたちが、このわたくしに軽率な行動を取らせたのだ。この罪は重いぞ!」

 滅多なことでは姿を見せない水鏡が取り乱して(やぐら)の上のアキラに(すが)り、谷人たちは声も出さずに平伏ひれふしていた。




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