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第1部;五月〜出会い〜-2

 黒板の前の人集ひとだかりが、各々の場所にようやく落ち着いた中で、男女一組だけが黒板の前に残っていた。


「あ、ナミがオレと同じ班か。げっ、何や、お前がアリーナ席か。先生、大変そうやな」

 大胆にも教卓に座り、スリッパと化した上靴を突っかけた、ポニーテールの美少女。

 彼女が、先程の中性的な声の主「アキラ」だった。

 見たところ彼女はただの美少女ではない。髪型によっては美少年にもなれる、魅力的な顔立ちなのだが、非常に残念なことに、目の前の彼女からは、品行方正というものは欠片かけらも見受けられない。


 彼女は一通り教室を見回して好き勝手喋ると、後ろに立っていた、痩せて背の高い少年に声をかけた。

「ところで、お前、何処や、サキ?」

「お前の隣」

「最悪やんか」

「その台詞、そのまんまお前に返す」

「はいはい」

 中性的な美少女「アキラ」は、教卓から飛び降りた。


 かかとまであるスカート。第一ボタンを外したブラウス。首にぶら下げているだけのスカーフ。羽織っているだけのブレザー。今どきありえない、まるで化石のような不良スタイルだ。

「じゃ、次の議題、いくで」

 おまけにこの不良少女ときたら、珍妙な方言を使う。

 「サキ、書いてぇな」と、後ろの少年に声をかけ、彼女は一段と大きな声を張り上げた。


「次は、十月の野外活動の班決め。どうやって六つに分けるか、意見出してぇな」

 どうせ誰も挙手するわけがない。このクラスの生徒ときたら、雑談の中でしか意見を言わないのだということを、アキラは理解している。

「委員長一任っちゅうのはナシやで。オレもサキも暇人ちゃうさかい」

 だから一呼吸分の間を置いて、アキラは付け足した。

 クラス中が笑い出す。

「んじゃ、今決まった班にすっぺし。面倒だしやぁ」

 誰かがズボラな意見を出し、拍手が起きた。

「一応、反対意見ないか?……いないなら決まりや。後になって嫌や言うても、聞く耳持たへんで。じゃ、プリントに書いてある係、明後日までに決めて、オレらの所に提出な。

 次、球技大会のチーム。東部中の時と同じで、男女混合バレーボールなんやけどな」

「それも今の班でいいっちゃ」

「はい、反対は?ないね。ほな、こいつも決定。球技大会は六月の第三土曜日やさかい、それまでに、各班で仲良くなっとくこと。以上、葵ちゃん、ホームルーム終わり」

 アキラはホームルームを終えると、ずっと教室の後ろで成り行きを見守っていた、担任の音楽教師、中野 葵と司会を交替した。


 ところが、アキラは自分の席に着くなり、周りの生徒と喋りだした。彼女の前の席のくせっ毛の少年などは、困った顔をしている。

「なあ、コメチ。このコの下の名前、何やったっけ?」

 さすがのアキラも、自分の前の席の少年に、直接声をかけにくかったのか、身体を真横に向けて喋っている、大きな垂れ目ときっかり弧を描く眉、それに甲高い声が特徴的な少女「コメチ」こと古明池こめいち初音はつねにこっそり訊ねた。彼女とは去年も同じクラスで部活も同じ、ということもあって、二人は馬が合っていた。

「あぁ、天然パーマの天然パーのカズヤよ。鈴木和哉かずや

「天然パー……。あ、あの、ハンド部の部長やっとるくせに、男子バレーと掛け持ちしとるっての。…ってどしたの、コメチ。顔、ごっつ怖いで」

「気にしないでヮ。わたし、こいつらに付きまとわれてんの」

 コメチはわざとらしく、大きなため息をついた。

「こいつらって、オレもか?」

 今まで無関係・無関心を決め込んでいた、アキラの隣の席の学級委員「サキ」こと鈴木賢木さかきが、とうとう小声で口を開いた。彼もまた、アキラやコメチと去年も同じクラスだった友人の一人だ。

「あーら、聞こえてたのヮ」

「白々しい。で、どういう意味なのヮ」

 サキは、担任の話の邪魔にならぬよう、極力押し殺した声で訊いた。

「あなたこそ白々しいわね。あなたたちW鈴木に囲まれること十三年。付きまとわれてる以外、言いようがないっちゃ」

「お互い様だろ」

 コメチとサキの険悪な雰囲気を知って知らずか、アキラは全くお構いなしだ。

「そっか、コメチ、神森小やもんな。あそこ、学年一クラスで、そんでもって、一クラス十人くらいしかおらへんのやろ。それじゃ、サキとずっと同じで、カズヤ君とは去年以外はずっと同じなんや。ま、ええやんか、幼馴染みがおるってことは。仲良うしようや」

 しかしコメチもサキも、そして困り顔のカズヤまでもが、アキラを無視した。


 「アキラ」。桂小路かつらこうじ あきら


 関西の方の小学校を卒業し、市立東部中に入学。その後神森中の新設に伴って移動してきた、表向きは気が強く、格好の割には頼れるしっかり者で人気者。吹奏楽部の部長もしている。言葉遣いや態度は悪いが、学級委員として責任は果たしている、というのが周囲の評価だ。しかしアキラの本当の性格や家庭の事情などを知る者はいない。案外彼女は自分のことは何一つ、誰にも語ろうとはしなかった。

 教室で級友たちを笑わせることもあるし、楽しそうな表情も見せるのだが、付き合い二年目で、尚且つ彼女をよく観察している者から見れば、意外とアキラは表情が乏しい。基本の顔が崩れることが、決してないのだ。


 その美しい顔で一番目を引くのが、大きく魅力的な漆黒の瞳だ。少し吊り上がっているせいか、厳しくも見える。健康的な白い肌で、造り物のように、各パーツが均整のとれた場所に付いている。身長はとても高く、中学二年生の男子の平均身長よりも高い。華奢な身体つきに見えるが、そうではなく、筋肉質で、贅肉が全く無い、引き締まった身体をしている。外見は文句の付けどころが全くない。それがアキラだ。




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