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第4部;六月〜時空の旅人〜-7

「へえ、アキラってベジタリアンだったんだ」

 カズヤとシキは、初めて聞いたことだった。

「そうなのよ、大喰いしそうなキャラクターなんだけどね」

「そ、痩せの大喰いなんだけど、メニューによったら、ほんとに小食なのよ。調理実習、大変だったらありゃしない。

 知らなかった頃、アキラったら格好付けちゃってさ、無理して食べて、吐いちゃうわの大騒ぎ。アキラが保健室サ行ったのよ、ね」

「そ、あの時はビビったっちゃね」

「いや、あれは面目ない。やっぱ食肉となって出された以上、食べなきゃ浮かばれないやろな、牛も、と思てな」

「意外な一面よね」

「そんなんだから、徹底して動物性のもの、ダメだよね。ケーキも気を遣ってるようだし」

「無精卵だったら平気やで」

「バターは平気なんだ」

「あれは、動物が死んでないやろ」

「ベジタリアンだったから、給食残すんだ。偏食だなとは思ってたけど」

「牛乳も平気なのは、それも動物が死んでないから?」

「そや」

「そんなもんなのか」

「そや。そろそろ、練習室でも行くか。こっちやねん」

 アキラは自分の話題が一段落すると、一同を地下室に案内した。


「ち……地下室って……」

 細い階段を下りて開けたスペースに、一同は言葉を失い呆然とした。

「ここなら防音やろ。大音量の練習にええやんか。オレ、ここでフルートの練習しとんねん」

 そこは、教室一つ分の広さの部屋だった。

「普通の家庭に、こんなもん、普通ないよヮ」

「っつーか、お前、何者だ?」

「くせ者」

 ベタなギャグで質問をかわすと、アキラは今度は二階へ案内した。

「寝泊りはここでええやろ。二十畳はあるし、確か、屏風があったさかい、そいつで男女仕切れば、問題ないやろ」

 誰も何も言わなかった。地下室のある家だ、屏風の一つや二つあったところで驚くまい。この家を見れば、アキラの経済感覚がずれている理由が、解ったような気がする。当の本人は、ずれていることすら気付いていないようだが。


「ところで、さっきの女の人だけど、洋服屋さんなのヮ?」

「そ。コメチやナミなら知っとると思うけど、中央通りにあるやろ、『ARI‐Tanimori』ってブランド。結構流行っとるようやけど、その亜里さんや。谷森亜里っちゅうねん」

「えーっ、ウソーっ!」

 女子二人は大声を出した。それだけ有名な店だった。

「なして、そんな店の人と知り合いなのヮ。洋服、いつも適当じゃない」

 普段の制服姿だって流行とは程遠い。そんな人間がちょっとは有名なデザイナーブランドを身につけているとは考えにくい。

「そうやな、あんまりひどいから、個人的に亜里さんと友人のオレの親が、オレのお目付け役を頼んでったんだよ、あの人に。そうでもしないと、オレの格好が酷くなると思ったんやろな。内緒みたいだっけ、オレは気付いてないふりをしてやってるけどな」

「へぇ、親の知り合いなんだ」

「あの人、一般向けの服よりも、ファッションショーとかの変わった服のが、業界じゃ有名だよね。どうしよう、ナミ、わたし、褒められちゃったよヮ」

「良かったっちゃ、コメチ。デザイナーでも目指したら」

「頑張っちゃおっかな」

 ファッションなど全く興味のないアキラや、男子たちなどお構いなしに、二人は盛り上がっていた。合宿の話など、どこかへ消えてしまいそうだった。


「で、合宿するとしたら、勿論夏休みやろ」

「んだなあ」

 アキラは、マイペースに男子たちと話していた。

「もし何だったら、全員が詞なり曲なり、なかったらイメージだけでも持って来たら、オレ、曲作ってみるけど。グループのイメージは、さっき何となく見えたっけ、曲調だけでも決めとかなあかんやろ。イメージあれば、オレ、夏休みまでにメロディ作れるさかいな。どやろ」

「曲が先でもいいっちゃ」

「それはあかん。オレだけのイメージになっちゃうやんか」

「あ、んだなぁ……」

「じゃ、そういうことで決まりな。コメチ、ナミ、聞いとらへんな。各自で作詞しくは作曲、ダメなら何でもええさかい、自分のイメージ伝えるもんを、オレの所に持って来ることな。したら、オレが夏休みまでに曲作るさかい」

「あら、すごい。さっすがアキラ」

「おちょくんなよ、コメチ。アレンジはみんなでするんやから。サックスのソロ、たくさん入れるで。覚悟しいや」

「あら、嬉しい」

「それと、楽器は今日頼んだら、納品は来週になると思うんだ。そしてら、ポンのドラム、特訓せなあかんし、夏休みまでが大変だぜ。部活もあるし」

 アキラは全員にハッパをかけた。何故か一番やる気があるようだ。

「そうよ。衣装負けしないようにしなきゃ。何たって、『ARI-Tanimori』ブランドよ」

 コメチはもう、服のことばかりだ。

 その服は柔道の応援の帰りに、店に寄って発注することにした。小さな人形に合わせて作られたミニチュアは、コメチが宝物にすると言って、持ち帰ってしまった。

 夏休みまで、残り二週間。

 ポンはアキラにみっちりドラムの基礎を仕込まれ、曲作りは着実に進んでいった。

 アキラたち七人の、一番無邪気で楽しく平和だった時間が、流れていった。




次回から第5部;七月〜Junior high school life〜を始めます。




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