表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/99

第4部;六月〜時空の旅人〜-3

 言葉を失ったままのアキラなどお構いなしに、話は進む。


「取り敢えず、ギターがサキで、ベースはシキ。コメチはサックスで決まり。欲しい楽器はドラムセットとキーボード。ポジション決まってないのがポンとアキラとオレで、楽器さえあれば、ナミは決定と……」

 カズヤは言い出しっぺの責任を感じたのか、手元のメモに必要と思ったことを書いている。

 「こんな時だけ責任感出すなよ」と言いたいのを、アキラはようやく呑み込んだ。


「お前らなあ、ドラムとキーボードで何ぼすると思うてんのや?農作業の手伝いだけで、買える額か?コメチなら判るやろ」

「アキラ、あんまり目立つの嫌かもしれないけどね、あなた、何もしないでも目立ってるのよ。悪足掻わるあがきは止めなさいね」

 コメチはお姉さん口調でふざけた。アキラの悪足掻きなど、コメチには見え見えだった。

「それに、誰が新品買うなんて言ったのよ」

「クラス全員で、文化祭で何かやるって言うたら、どないすんのや?」

 らしくないアキラの台詞せりふに、一同はまた笑った。

「誰が、何やりたいって言い出すのヮ。うちのクラスに限って、絶対ないっちゃ、それは」

 サキは腹を掻きむしっている。

 悪足掻きにも程がある。

「わたし、賭けてもいいよヮ。明日のホームルームで、文化祭どうするって議題出したら、めんどーいって、例によって誰か言うよヮ」

「コメチ、それ、賭けにならないっちゃ」

「あ、それもそうねえ。じゃ、誰が言うか、当ててみようか」

「はいはいっ、オレが言う」

「だからポン、それじゃ賭けにならないってば……」

「あ、んだなャ」

 アキラ抜きで盛り上がる六人に、わざと大きなため息をついてみせたアキラだったが、誰も彼女など相手にはせず、どういうわけか、一人テンションが低いのはアキラになってしまっていた。


 翌日のホームルーム。球技大会の感動冷めやらぬ様子の二年五組に、担任の中野 葵は手を焼いていた。いつものホームルームも手を焼くことは焼いているのだが、今日は余計に性質が悪い。

 しかしここは担任。逃げるだけでは能がないし、要領は心得ている。去年一年間で、だいぶきたえられた。

 葵は騒ぎにめげることなく、手短に必要事項を言い終え、司会を学級委員二人と交替し、戦場から身を退いた。


「はい、優勝チームのキャプテン、桂小路です。先日はお疲れ様。それと、応援有難う」

「いつからキャプテンになったのヮ?アキラ」

 間髪入れないサキの突っ込みに、クラスは笑った。

 作り上げられたアキラは、司会業がうまい。

「本日のお題はこちら。文化祭、何するか」

 サキが黒板に書いたことを、アキラは読み上げた。

 「と、いうことで……」と、アキラが言っているそばから、野次が飛んだ。

「めんどーい!」

 ポンが第一声を上げ、思わずコメチは遠慮なく吹き出し、ナミがポンを小突いていた。

 別にポンが言っても言わなくても、その場の展開は同じだった。


「んだ、めんどーい」

「クラス全員まとめるなんて、絶対ムリ!」

「多数のやりたいことが、全員のやりたいことじゃないしやぁ」

「んだ。やる気ないヤツに強制させる労力、自分のやりたいことに使いたいし」

 アキラとサキは黙って、一通り言わせておいた。いつものことだから慣れたもので、一段落したところで意見をまとめ、妥協案を提供すると、大概上手くいく。それこそ、このクラスを黙らせることは難しいのだ。


「何や、全員まとめるのが無理やって意見で、全員まとまってるようやけど、おかしいよな」

 黙っていたアキラの指摘に、クラス中は笑った。たしかにアキラの言う通り、妙にまとまっている。

「ま、それは置いといて、さっきから聞いとると、少数で何かやりたいヤツと、何もやりたないヤツとがおるみたいやな。そんでもって、クラス全体で何かやりたいってのは、誰もおらんと。ここまでは問題あらへんな」

 「う〜い」とクラスが一致して返事をする。

「じゃ、これで第一段階クリアや。何かやりたいってヤツは、後でオレかサキの所に来てな。注意事項説明して、個人計画表を渡すさかい。

 問題は、何もやりたないってヤツやなあ。オレは学級委員やさかい、そういうの許すわけにはいかへんのや」

 クラス中からブーイングが起こった。


「しゃあないやんか、学校行事は授業と同じで全員参加が義務なんやさかい。

 そこでオレの提案なんやけど、何かやりたいってグループの何処かに、必ず手伝いでも何でもええから、何らかの形で参加してほしいねん。

 クラス参加やったら、何も名前いらんのやけど、個人計画表は名前がないとダメなんやわ。どこのクラスも、クラス参加が当たり前で、その外に個人参加したいヤツが計画表出すんやけど、うちらはクラス参加せえへんやろ。したらオレらも、学校から追求されるねん。名前のない生徒は何なんだって。そんなん、オレかて説明できへんし。

 だから、うちのクラス全員の名前がそろってる、たくさんの個人計画表を出したら、誰も文句言えへんやんか。どやろか。

 でもな、本当に参加するんやで。サボるヤツは、オレが許さへんからな」

「アキラ怒らすと、むっちゃ怖いもんな」

 誰かが野次を飛ばした。これが笑える冗談になるのは、アキラが暴れたことを憶えていない、ということになっているからだ。

「じゃ、オレの提案に反対意見あるヤツ、おるか。なかったら、今日のホームルーム終わり。来週、もう一度この議題で話して、最終確認な。ということで、終わり。葵ちゃん、このまま全部終わりにしちゃってええ?」

 担任の葵はうなづいた。


「アキラぁ、アキラたちは何かやるつもりなのヮ?」

 自分の席に戻ろうとするアキラに、誰かが訊ねた。

「ヒ・ミ・ツ。責任者はカズヤやさかい、オレの口から言えんのや。じゃ、帰ってええって」

 アキラはふざけながら、帰り支度を始めた。




↓↓↓本編先行連載している作者のブログです。是非おいで下さい。

http://blogs.yahoo.co.jp/alfraia


また、日本ブログ村とアルファポリスに参加しております。

お手数ですがバナーの1クリックをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ