第4部;六月〜時空の旅人〜-3
言葉を失ったままのアキラなどお構いなしに、話は進む。
「取り敢えず、ギターがサキで、ベースはシキ。コメチはサックスで決まり。欲しい楽器はドラムセットとキーボード。ポジション決まってないのがポンとアキラとオレで、楽器さえあれば、ナミは決定と……」
カズヤは言い出しっぺの責任を感じたのか、手元のメモに必要と思ったことを書いている。
「こんな時だけ責任感出すなよ」と言いたいのを、アキラはようやく呑み込んだ。
「お前らなあ、ドラムとキーボードで何ぼすると思うてんのや?農作業の手伝いだけで、買える額か?コメチなら判るやろ」
「アキラ、あんまり目立つの嫌かもしれないけどね、あなた、何もしないでも目立ってるのよ。悪足掻きは止めなさいね」
コメチはお姉さん口調でふざけた。アキラの悪足掻きなど、コメチには見え見えだった。
「それに、誰が新品買うなんて言ったのよ」
「クラス全員で、文化祭で何かやるって言うたら、どないすんのや?」
らしくないアキラの台詞に、一同はまた笑った。
「誰が、何やりたいって言い出すのヮ。うちのクラスに限って、絶対ないっちゃ、それは」
サキは腹を掻き毟っている。
悪足掻きにも程がある。
「わたし、賭けてもいいよヮ。明日のホームルームで、文化祭どうするって議題出したら、めんどーいって、例によって誰か言うよヮ」
「コメチ、それ、賭けにならないっちゃ」
「あ、それもそうねえ。じゃ、誰が言うか、当ててみようか」
「はいはいっ、オレが言う」
「だからポン、それじゃ賭けにならないってば……」
「あ、んだなャ」
アキラ抜きで盛り上がる六人に、わざと大きなため息をついてみせたアキラだったが、誰も彼女など相手にはせず、どういうわけか、一人テンションが低いのはアキラになってしまっていた。
翌日のホームルーム。球技大会の感動冷めやらぬ様子の二年五組に、担任の中野 葵は手を焼いていた。いつものホームルームも手を焼くことは焼いているのだが、今日は余計に性質が悪い。
しかしここは担任。逃げるだけでは能がないし、要領は心得ている。去年一年間で、だいぶ鍛えられた。
葵は騒ぎにめげることなく、手短に必要事項を言い終え、司会を学級委員二人と交替し、戦場から身を退いた。
「はい、優勝チームのキャプテン、桂小路です。先日はお疲れ様。それと、応援有難う」
「いつからキャプテンになったのヮ?アキラ」
間髪入れないサキの突っ込みに、クラスは笑った。
作り上げられたアキラは、司会業が巧い。
「本日のお題はこちら。文化祭、何するか」
サキが黒板に書いたことを、アキラは読み上げた。
「と、いうことで……」と、アキラが言っているそばから、野次が飛んだ。
「めんどーい!」
ポンが第一声を上げ、思わずコメチは遠慮なく吹き出し、ナミがポンを小突いていた。
別にポンが言っても言わなくても、その場の展開は同じだった。
「んだ、めんどーい」
「クラス全員まとめるなんて、絶対ムリ!」
「多数のやりたいことが、全員のやりたいことじゃないしやぁ」
「んだ。やる気ないヤツに強制させる労力、自分のやりたいことに使いたいし」
アキラとサキは黙って、一通り言わせておいた。いつものことだから慣れたもので、一段落したところで意見をまとめ、妥協案を提供すると、大概上手くいく。それこそ、このクラスを黙らせることは難しいのだ。
「何や、全員まとめるのが無理やって意見で、全員まとまってるようやけど、おかしいよな」
黙っていたアキラの指摘に、クラス中は笑った。たしかにアキラの言う通り、妙にまとまっている。
「ま、それは置いといて、さっきから聞いとると、少数で何かやりたいヤツと、何もやりたないヤツとがおるみたいやな。そんでもって、クラス全体で何かやりたいってのは、誰もおらんと。ここまでは問題あらへんな」
「う〜い」とクラスが一致して返事をする。
「じゃ、これで第一段階クリアや。何かやりたいってヤツは、後でオレかサキの所に来てな。注意事項説明して、個人計画表を渡すさかい。
問題は、何もやりたないってヤツやなあ。オレは学級委員やさかい、そういうの許すわけにはいかへんのや」
クラス中からブーイングが起こった。
「しゃあないやんか、学校行事は授業と同じで全員参加が義務なんやさかい。
そこでオレの提案なんやけど、何かやりたいってグループの何処かに、必ず手伝いでも何でもええから、何らかの形で参加してほしいねん。
クラス参加やったら、何も名前いらんのやけど、個人計画表は名前がないとダメなんやわ。どこのクラスも、クラス参加が当たり前で、その外に個人参加したいヤツが計画表出すんやけど、うちらはクラス参加せえへんやろ。したらオレらも、学校から追求されるねん。名前のない生徒は何なんだって。そんなん、オレかて説明できへんし。
だから、うちのクラス全員の名前が揃ってる、たくさんの個人計画表を出したら、誰も文句言えへんやんか。どやろか。
でもな、本当に参加するんやで。サボるヤツは、オレが許さへんからな」
「アキラ怒らすと、むっちゃ怖いもんな」
誰かが野次を飛ばした。これが笑える冗談になるのは、アキラが暴れたことを憶えていない、ということになっているからだ。
「じゃ、オレの提案に反対意見あるヤツ、おるか。なかったら、今日のホームルーム終わり。来週、もう一度この議題で話して、最終確認な。ということで、終わり。葵ちゃん、このまま全部終わりにしちゃってええ?」
担任の葵は頷いた。
「アキラぁ、アキラたちは何かやるつもりなのヮ?」
自分の席に戻ろうとするアキラに、誰かが訊ねた。
「ヒ・ミ・ツ。責任者はカズヤやさかい、オレの口から言えんのや。じゃ、帰ってええって」
アキラはふざけながら、帰り支度を始めた。
↓↓↓本編先行連載している作者のブログです。是非おいで下さい。
http://blogs.yahoo.co.jp/alfraia
また、日本ブログ村とアルファポリスに参加しております。
お手数ですがバナーの1クリックをお願いします。