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第3部;六月〜球技大会〜-7

 カズヤは元よりサキまでもが、口をだらしなく開けて、まるで理解できてない様子丸出しだった。それでも未だサキの方には余裕が少し残っていたようで、アキラに対して取り敢えず、言葉を発することはできた。

「もう、いいよ。オレにはさっぱりだ。どうでもいいんだろうけど、お前の、その知りもしない弟を捜すより、なしてオレとカズヤを捜す方が先だったのかャ?まさか、オレらのどっちかが、実はお前の弟だったなんて話じゃないんだから」

「そりゃ、そうだ。ま、そう不思議そうな顔すんなよ。オレの一族、オレやお前らの能力は現実離れしているんだし、オレとしては、お前らの家系が詳しく伝えられてる方が、よっぽど不思議だと思うんだけどなぁ」

 アキラはぼやいた。自分の話下手の所為せいで、自分の言葉が理解されなかったと思っているのだ。

 本当はそうではなくて、サキもカズヤも現実に従って生きてきた頭で理解しようとしていたから、理解できなかっただけだ。しかしアキラも十三才の少女だから、そこまで彼らを理解できないことも当然ある。


「一番始めの質問、答えてくれよ。誰がお前に超能力者が神森にいるって言ったのャ?本人たちですら気付いていなかったのに」

「オレたちの代わりに、一族の長をしてくれている女性さ」

 サキもカズヤも、神森に生まれ育ったものとして、巫女という存在を決して馬鹿にしたりしない。まして大樹の森の神社の守人もりびとの家に生まれた者たちだ。

「けど、ほんと、なしてオレたちなんだろ。それこそ公表してる人もいるのに」

「知るか。オレが訊きたいくらいだ」

 カズヤの疑問に、アキラは予想外に冷ややかだった。

「一人はガチガチな真面目人間だし、一人はおめでたいまでに軽い人間だし、全くオレの役に立ちゃしない。まあ、取り敢えず見付けたわけだし、次の道は、必ず向こうからやって来るだろうさ。オレはそいつに立ち向かうだけの話だ」

 まるで独り言をつぶやくように言ったアキラの顔は氷の立像のように冷たく、とても十三才の少女には見えなかった。


 少なくともサキには、アキラが哀しく寂しく影に包まれ、強く生きることをいられて揺れる、はかない光のように見えた。

 とても理解できない、これまでの数々のアキラの言動は、その不可解な一族と生い立ちとの所為なのだと、そこまで理解できたとしても、彼女の顔に浮かぶとぼしい表情からは、アキラが今、一体何を思っているのかを理解することはできない。むしろ、かえって解らなくなったかもしれない。

「オレの話は終わり。他のみんなには、出身地とかもバラすなよ。他に知りたいことはないか?」

 アキラは麦茶を飲み干した。彼女としては、いささか話しすぎたようだ。乾いた氷の音だけが、部屋に響く。


『サキにだけ、いいこと教えてやる。お前が一番に不思議に思ったことをな』

 サキは顔を上げた。

『おっと、それ以上反応するなよ。カズヤには聞こえてないんだから』

 アキラにくぎを刺され、サキは麦茶に手を延ばし、自然に振る舞う努力をした。

『去年、サキがオレに助言をくれた後、先生連中がそろってオレのことを、サキの言った通りに信じてたのは、オレの仕業さ。本当は全校生徒に思い込ませて、まるっきり性格の違うオレになっても良かったんだけど、それはリスクが大きいし、オレのやり方じゃないからしなかった。毎朝職員室に教師なら集まるからさ、そこでちょっと記憶をいじったんだよ』

『―――!』

『おーっと、また反応しかかった。気を付けてくれよな。それにしても、サキの読みは良かったぜ。生徒連中は単純だからな、お前と教師の言うことみんな、信じてくれたし。お陰さまで、オレは今、がらにもなく楽しい中学生活を送らせてもらってるよ。本当に感謝してる』

 とうとうこらえきれなくなって、サキは恐怖の表情をあらわにした。しかし、カズヤは気付かない。

『お前がオレを怖いと思ってしまうのは、オレのこういうところを、それこそ自然と感じ取っちゃうからだよ。本当のところ、オレの方がお前のそういう敏感なところが怖いけど、オレは優位に立つことで、怖さを忘れた気になってるだけかな。

 ま、幽霊の姿を見たり、枯れ尾花だ。要は気の持ちようってことさ。オレはそんなに怖くないぞ』

 アキラはにやっと微笑むと、立ち上がった。


「何か、食ってくか?大したもんはないけど」

「いや、いいよヮ。もう、帰らなきゃ」

 カズヤも立ち上がった。まるで自分は部外者で、ただ話の場に付き合っただけ、といった感じだ。一方のサキは、未だ茫然とアキラを見ていた。

「なあ、アキラ、今度、テレパシーのコツ、教えてヮ。さっき言ってたべ、防御かけろって」

「ええで、カズヤ。同類やしな、それくらいはお安い御用さ」

 珍しく、アキラはにっこりと微笑んだ。重要な話が終わると、標準語がエセ関西弁に戻っている。ということは、いつものアキラになった、ということだ。

「サキもやで。お前らの秘密の会話、こっちは勝手に聞かされたくないからな」

 サキには、彼にだけ判る不気味な微笑みを、アキラは向けた。

「カズヤには、瞬間移動の仕方も教えてやるわ。サキは体力が心配だから、何も教えてやれへんけど、ねるなよ」

 アキラは二人を、森の入り口まで見送りに出た。


「また、明日な。覚悟しといた方がええで。コメチ、お祭り騒ぎを計画しとるようだし、そうなったら、オレも盛り上げにかかるさかいな、体力回復しとけよ、特にサキ」

「おう!」

「いい返事だ、カズヤ。サキも返事せえよ」

 しかし、サキは答えず、アキラに背を向けた。カズヤみたいに単純にはなれなかった。アキラも、それは解っている。

『サキ、明日はいつも通りにしろよ。オレは何も変わりゃしない。オレはお前のこと買ってるからこそ、今日、誰にも話さないことを話したんだぜ』

 アキラは、これもまた珍しく、手を振って二人を見送った。




次回から第4部;六月〜時空の旅人〜を始めます。




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