第3部;六月〜球技大会〜-6
「そう言えば、前も気になったんだけど、アキラ、標準語だサ。なして?」
「ふん、とうとう本題に首突っ込んできたわ」
「ああ、ごめん」
「何で、ごめんなんだよ。サキ、オレ、前から思ってたんだけどな、ごめんを大安売りすんなよな」
アキラは言葉遣いが悪いから、つい怒られた気分になってしまうのだ。思わず小さくなっているサキなど無視して、アキラは麦茶で喉を潤すと、本題を話し始めた。
「まず、信じようと信じまいと、それはお前らの勝手だけど、オレのことを笑う前に、自分たちの持ってる能力そのものが、世間一般常識の中で、どう思われてるかを考えろよ」
サキもカズヤも、そう前置きしたアキラの雰囲気に圧倒され、思わず息を呑んだ。前置きしなければならないほど、アキラらしくない突拍子もない話をするのだろう。
「サキが気付いた通り、オレは生まれも育ちも東京。仕事でちょっと問題を起こしてきたから、ほとぼりが冷めるまで、エセ関西弁を使って、追っ手をまいているところ。
因みに、仕事のことは詳しく話せないけど、問題ってのはオレの失敗じゃなくって、オレがわざと火種を播いてきたってことだからな。
で、ま、オレも未だ中学生だし、仕事にウンザリしてたから、お前ら捜すついでに普通になろうって思ったわけだ。
それにしても、連中、オレのこんなエセ関西弁に騙されてんだから、相当おめでたいバカだと思わなんか?」
「いや、仕事の相手のことだろ。同意を求められても……」
「あ、そっか。そうだよなあ」
アキラは当たり前のことを言われ、頭を掻いた。本当に話下手だ。しかも自分の失敗じゃないことを強調してしまうところがアキラらしい。
「でも、なして神森に能力がある人間がいるって判ったのャ?」
「そう言われたからさ」
「誰に?」
「オレには弟がいるんだ。双子でね」
サキもカズヤも声を出そうとして、アキラに目で制された。
「取り敢えず、オレは会った記憶がないんだ。何分、出生届を出す前に攫われちゃってね。何で警察に届けないって思うだろ」
それよりも、「誰に」神森に行くよう言われたのか、その質問に答えろよと言いたいのを堪え、二人は頷いた。主導権はアキラにあるのだから。
「オレの家もお前ら表裏鈴木家と似て、とても変わった家系でな、一部の資料では、始祖はちょっと高貴な場所まで昇って、二代目はそこでできた娘とあるけれど、真実はここいらの地域の長との間にできた娘が別の場所で産まれ、それが二代目になったと言われている。本来は、滅びた一族の霊鎮めを司る巫女の家系なんだな。
不思議なことに、どんなことがあっても女子が必ず産まれてきていたから女系相続でも問題なかったんだけど、ちょっと問題が起こって、ぷっつりと女子が産まれなくなっちまったんだ。それから現在まで、巫女は他の者に任せて、我々は男系相続で細々と代を重ね、オレまで至ってる。
……言いたいことは解ってるぞ。オレはちゃんと女だからな。これはオレ抜きの話」
二人の視線が、「お前、女じゃないのか?」と言っているのを見て取ったアキラは、慌てて付け足した。
「女系相続が男系相続になっちまった大本の原因も、やっぱ相続問題だったんだけどな。掻い摘んで話すと、今から約四百年くらい前かな、当時の巫女が男子の双子を産んで、次の巫女となるべき女子を妊娠していたにも関わらずに戦地に赴き、流れ矢に当たって次世代の巫女と共に死亡してしまったんだ。
一族の長である巫女の母は困り果て、当時のしきたりに従って、双子の兄に当たる方に跡を継がせたんだけど、弟の方は不服だったわけだ。そりゃそうだよな、双子だっけ、兄弟に差があるわけでもないし、大体、どっちが兄でどっちが弟かなんて、腹から出てきた順だ。本当のとこは、細胞分裂のレベルまで遡らなければ、厳密なことは判りゃしない。
要するに弟は、一族の長になりたかったわけで、それが叶わなかった。巫女になった兄は女装で生きることを強いられ、男として生きることになった弟は、掟に従い一族の村を出た。悲劇はそうして始まった」
まるでアキラの話すことは、何かの物語の一片のようだった。
「弟は、徹底的に兄の決定に逆らい、邪魔をし、そして最後には、その妻の目前で兄を惨殺した。その時身篭もっていた子どもに、弟は呪いをかけたんだ。
『滅ぼしはしない。ただ、苦しめ続けてやる。兄の一族に女子は一切誕生しない。男子が一人生まれたら、その父を必ず殺してやろう。
私の子孫は、未来永劫、兄の子孫を殺し続け、生かし続け、支配してやろう。そしていつか正統な方法で、一族の相続権を譲り受けてみせる』と。
そんなこんなで、オレはその呪いをくぐり抜けて生まれた女だから、命を狙われている。
でもなあ、オレは殺されるのは嫌だし、それに守らなくちゃならないものを、代々持ってるから、常に身を隠してるんだよ。今となっては、オレの存在は一部では知られてるけど、生後数日間は死産だったと公表されて、だから弟が身代わりに攫われてしまったんだ。
せっかく弟が身代わりになってくれたんだ、オレが成長するまで、オレのことは隠しておきたいって思惑が一族にはあったみたいで、それで誘拐の通報が警察にできずに、もう十三年も経っちまてる。当のオレの意志なんて、当然無視だし、オレが親で、一族を背負う身だったら、同じことをしただろうしな」
アキラはまるで他人事か何かのように、乾いた声で笑っているが、おかしい話だ。何一つ現実味がない話だ。確かにアキラが前置きをしただけのことはある。
でも、でもおかしい…
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