表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/99

第3部;六月〜球技大会〜-4

 正直サキは驚いた。アキラが購買部のたかが数百円の利用券を賭けて、ここまで勝つことに執着しているということが意外だった。きっとこんな球技大会など、アキラにとっては取るに足りないことでしかないはずなのに、と思わないでもない。そしてサキとしては、もう少しコメチの心配をしていてほしかった。

 だがいずれにせよ、アキラと一年ちょっと付き合ってきているが、最近特に、サキはアキラに驚かされてばかりであることに変わりはない。

 と、例の中性的な声が、耳ではなく頭に直接響いてきて、サキははっと顔を上げた。

『サキ、カズヤ、どっちでもええ、決めろ!』

 聞こえてきたその声がテレパシーだったと、認識し、理解している暇はなかった。アキラが操ったボールを高くトスし、それは今、とてもいい高さにあったのだ。

 そして何でアキラが、一体何の為になどと、考えている暇などなかった。


「試合終了ーっ!」

 サキが最後にきっちりと決め、Bチームは全校優勝と、購買利用券を手にした。

 チームで優勝を喜ぶよりも先に、コメチは顔の心配をしてくれるクラスの面々に囲まれてしまい、かえってBチームの仲間は、その輪から外されてしまって喜びのガッツポーズを何処どこで引っ込めたらいいのか解らない状態だった。

「カズヤ」

「ん?」

 サキはカズヤに声をかけた。この騒ぎの中、例の会話をする為に。

『さっきのアキラのあれ、聞こえてたか?』

『ああ。お前から聞かされてたっけ、大して驚かなかったよヮ』

『いや、それよか、オレ、アキラがコメチよりも勝つことに執着してたのが、意外でさぁ』

『そんなこと言われたって、オレ、サキじゃないっけ、解んないよヮ』

『あ、んだなあ』

 会話なく見つめあい、くつくつと笑ったり表情だけは変えている姿はおかしいのだが、誰もコメチの顔ばかり気にしているから、サキとカズヤの異常行動に気付くわけがない。


『ったく、他人のこと勝手に言いたい放題で、煩いこと』

 と、突然、サキとカズヤ以外のテレパシーが入り込んでくる声。

 二人は顔を上げ、固まった。

『そんなに知りたいなら、サキ、解説してやるよ。

 ほら、コメチ見てみ。嬉しそうやろ。もしあの時、あのボールを誰も拾わなくって、コメチに駆け寄ってみ、うちら負けて、コメチが責任感じるやんか。コメチはオレと違って行事に燃える女の子やさかい、落ち込んで大変やわ。ま、いつも優しく気ィ遣ってくれるさかい、お返しやな。

 それにしても、オレのことどう思おうと、一向に構わへんつもりやったんだけどな、やっぱ誤解されるのは嫌やねんな、サキ』


 恐る恐るサキとカズヤは、コメチに寄り添っているアキラを見た。この声の主はアキラ以外にいない。でもその彼女は器用にも、口ではコメチを何やら会話をしている。

 でも絶対彼女なのだ。コメチと会話しながら、器用にも二人に同時にテレパシーを送ってきているのだ。

 無造作に結んだポニーテールで隠されて、その表情全ては見えないが、わずかにのぞく口元には、例の不気味な笑みが浮かんでいる。


『っていうか、超能力者のお二人さん、楽しいのは解るんやけど、使い方、むっちゃ下手クソやなぁ。オレ以外にもテレパシー感じるヤツがおったら、大事な話、全部聞かれてしまうで。頼むからちゃんと防御かけろや、まったく。こっちは聞きたなくとも、オレの方には勝手に聞こえてくるんだよ。ほんと迷惑な話やわ』

 サキとカズヤは、ゆっくりとアキラに背を向けた。少なくとも彼女はこっちを向いていないのだから、明らかに動揺しているであろう自分の表情を見られたくないし、できれば本当は関わりたくない。


 ところがそうは問屋が下ろしてくれないようだ。

『聞こえないふりしても無駄やで、サキ。

 お前がカズヤにオレのこと話したの、とっくの昔に知ってたから今、こうしとるんやけどな』

 サキとしては、アキラのことをきちんと知りたい。でも怖い。

 運動した後の汗とは違う汗が、冷たく背中を流れ落ちる。


 アキラは顔を上げ、真直ぐサキを見据えた。

『知りたきゃ、後でオレん家に来いよ。別に取って喰いやしない。知りたいんやろ、オレのこと。ちゃんと教えてやるよ、聞かれたことは全部』

 それっきり、アキラからの交信は途絶えた。


 表彰式を終え、サキとカズヤは二人で帰宅の途に着いた。他の五人は、未だクラスの輪の中にいた。

「サキやぁ、アキラん家サ行くのヮ?お前は休めって言われてっけど、オレはさぼるなって言われてっけ、これから道場に顔出すつもりだけど……」

「オレも行くつもり。未だ余裕あるっけ」

「休めよな。今日一日運動したんだから」

「オレのことはオレが一番解ってる。何度も言わせるなよ。未だ平気だし、どうせアキラは一人暮らしだっけ、多少遅く行っても問題ないし」

「そういう問題じゃないべ。ガキの頃みたいに、限度忘れて倒れられっと困るしなャ。

 それにしても、ほんと、もったいないよな。身長あって、運動神経もあるのに、心臓悪いなんてな」

「はいはい、大丈夫ですよ」

 サキは苦笑しながら聞き流した。「もったいない」話は、もう飽きるほど言われていて、耳にタコができすぎて困っているくらいだ。


 結局アキラの家に着いたのは、夜の七時くらいだった。




↓↓↓本編先行連載している作者のブログです。是非おいで下さい。

http://blogs.yahoo.co.jp/alfraia


また、日本ブログ村とアルファポリスに参加しております。

お手数ですがバナーの1クリックをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ