第3部;六月〜球技大会〜-4
正直サキは驚いた。アキラが購買部のたかが数百円の利用券を賭けて、ここまで勝つことに執着しているということが意外だった。きっとこんな球技大会など、アキラにとっては取るに足りないことでしかないはずなのに、と思わないでもない。そしてサキとしては、もう少しコメチの心配をしていてほしかった。
だが何れにせよ、アキラと一年ちょっと付き合ってきているが、最近特に、サキはアキラに驚かされてばかりであることに変わりはない。
と、例の中性的な声が、耳ではなく頭に直接響いてきて、サキははっと顔を上げた。
『サキ、カズヤ、どっちでもええ、決めろ!』
聞こえてきたその声がテレパシーだったと、認識し、理解している暇はなかった。アキラが操ったボールを高くトスし、それは今、とてもいい高さにあったのだ。
そして何でアキラが、一体何の為になどと、考えている暇などなかった。
「試合終了ーっ!」
サキが最後にきっちりと決め、Bチームは全校優勝と、購買利用券を手にした。
チームで優勝を喜ぶよりも先に、コメチは顔の心配をしてくれるクラスの面々に囲まれてしまい、かえってBチームの仲間は、その輪から外されてしまって喜びのガッツポーズを何処で引っ込めたらいいのか解らない状態だった。
「カズヤ」
「ん?」
サキはカズヤに声をかけた。この騒ぎの中、例の会話をする為に。
『さっきのアキラのあれ、聞こえてたか?』
『ああ。お前から聞かされてたっけ、大して驚かなかったよヮ』
『いや、それよか、オレ、アキラがコメチよりも勝つことに執着してたのが、意外でさぁ』
『そんなこと言われたって、オレ、サキじゃないっけ、解んないよヮ』
『あ、んだなあ』
会話なく見つめあい、くつくつと笑ったり表情だけは変えている姿はおかしいのだが、誰もコメチの顔ばかり気にしているから、サキとカズヤの異常行動に気付くわけがない。
『ったく、他人のこと勝手に言いたい放題で、煩いこと』
と、突然、サキとカズヤ以外のテレパシーが入り込んでくる声。
二人は顔を上げ、固まった。
『そんなに知りたいなら、サキ、解説してやるよ。
ほら、コメチ見てみ。嬉しそうやろ。もしあの時、あのボールを誰も拾わなくって、コメチに駆け寄ってみ、うちら負けて、コメチが責任感じるやんか。コメチはオレと違って行事に燃える女の子やさかい、落ち込んで大変やわ。ま、いつも優しく気ィ遣ってくれるさかい、お返しやな。
それにしても、オレのことどう思おうと、一向に構わへんつもりやったんだけどな、やっぱ誤解されるのは嫌やねんな、サキ』
恐る恐るサキとカズヤは、コメチに寄り添っているアキラを見た。この声の主はアキラ以外にいない。でもその彼女は器用にも、口ではコメチを何やら会話をしている。
でも絶対彼女なのだ。コメチと会話しながら、器用にも二人に同時にテレパシーを送ってきているのだ。
無造作に結んだポニーテールで隠されて、その表情全ては見えないが、僅かに覗く口元には、例の不気味な笑みが浮かんでいる。
『っていうか、超能力者のお二人さん、楽しいのは解るんやけど、使い方、むっちゃ下手クソやなぁ。オレ以外にもテレパシー感じるヤツがおったら、大事な話、全部聞かれてしまうで。頼むからちゃんと防御かけろや、まったく。こっちは聞きたなくとも、オレの方には勝手に聞こえてくるんだよ。ほんと迷惑な話やわ』
サキとカズヤは、ゆっくりとアキラに背を向けた。少なくとも彼女はこっちを向いていないのだから、明らかに動揺しているであろう自分の表情を見られたくないし、できれば本当は関わりたくない。
ところがそうは問屋が下ろしてくれないようだ。
『聞こえないふりしても無駄やで、サキ。
お前がカズヤにオレのこと話したの、とっくの昔に知ってたから今、こうしとるんやけどな』
サキとしては、アキラのことをきちんと知りたい。でも怖い。
運動した後の汗とは違う汗が、冷たく背中を流れ落ちる。
アキラは顔を上げ、真直ぐサキを見据えた。
『知りたきゃ、後でオレん家に来いよ。別に取って喰いやしない。知りたいんやろ、オレのこと。ちゃんと教えてやるよ、聞かれたことは全部』
それっきり、アキラからの交信は途絶えた。
表彰式を終え、サキとカズヤは二人で帰宅の途に着いた。他の五人は、未だクラスの輪の中にいた。
「サキやぁ、アキラん家サ行くのヮ?お前は休めって言われてっけど、オレはさぼるなって言われてっけ、これから道場に顔出すつもりだけど……」
「オレも行くつもり。未だ余裕あるっけ」
「休めよな。今日一日運動したんだから」
「オレのことはオレが一番解ってる。何度も言わせるなよ。未だ平気だし、どうせアキラは一人暮らしだっけ、多少遅く行っても問題ないし」
「そういう問題じゃないべ。ガキの頃みたいに、限度忘れて倒れられっと困るしなャ。
それにしても、ほんと、もったいないよな。身長あって、運動神経もあるのに、心臓悪いなんてな」
「はいはい、大丈夫ですよ」
サキは苦笑しながら聞き流した。「もったいない」話は、もう飽きるほど言われていて、耳にタコができすぎて困っているくらいだ。
結局アキラの家に着いたのは、夜の七時くらいだった。
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