第3部;六月〜球技大会〜-3
全く危なげなく、アキラたちのチームは決勝トーナメントに駒を進めた。ライバルのDチームも、他に同じクラスからはEチームも、決勝進出をしていた。
「何や、うちら、負ける気せえへんもん」
「アキラのビッグマウスが始まったよヮ。うちらDチームはシード引いたっけ、決勝じゃないと会えないから、絶対負けないでよ」
「当たり前や。そっちこそ、一発目からコケんなよ」
「寝言は寝てから言ってちょうだい。覚悟しなさいよ」
「はいはい。そっちこそ覚悟したれや」
アキラ対女子バレー部員の、コート外の大舌戦は絶好調だった。そこにコメチとポンが参戦していたら、この大舌戦はBチームの勝利だったのだろうが、彼女なりに身長のことをかなり気にしているコメチは、彼女らしくなく余裕がないし、ポンは決勝に備えて、胃袋にエネルギーを補給中で、それどころではなかった。
そしてBチームもDチームも難なく勝ち進み、両チームはお約束通り、決勝戦を迎えた。
同じクラス同士の決勝カードに、当然他のクラスが面白いわけなく、中には帰り支度をしている者もいる。しかし当人たちは燃え上がっていた。何しろ賞品がかかっているのだ。燃えないわけがない。
試合開始のホイッスルが鳴った。
Dチームはすぐにサーブを打ち込んできた。
前衛には、カズヤ、ナミ、ポン。後衛はアキラ、コメチ、シキ。この試合、絶対三セットまでもつれ込むとみて、サキは三セットまで控えさせていた。そのBチームのお家事情を知るDチームとしては、何が何でも二セット先取して、サキをコートに入れさせたくなかった。それほどまでに、サキの身体能力は脅威だった。
そのような思惑のDチームのサーブは、ライン際ぎりぎりの所を狙って落ちてきた。
「アキラ!行けぇっ!」
「うるせえ!行っとる!」
カズヤがつい指示を出してしまうよりも速く、ボールは高く上げられ、ポンがサーブ権を自分のものにしていた。
「ったく、オレに指示出そうなんて、十年早ぇよ」
ローテーションで、ポジションが前衛になったアキラは「ちっ」と一つ舌打ちし、隣になったカズヤに説教をした。可哀そうなカズヤは返す言葉もなく項垂れている。その間にも、ポンはサービスエースを取っていた。
試合が待ってくれるわけないのだ。
両チームの力は五分。お約束のように試合はもつれ込み、三セット目に突入した。
待ちくたびれたかのように、相手チームに手をひらひらさせて、おどけてみせながら、とうとうサキがローテーションに加わった。
こうなると、Dチームは大変だ。クラスの屋根の三人、カズヤ、サキ、ポンの壁がせり上がってくるし、それを突き破ったとしても、コメチという名リベロが控えている。そして絶妙な場所に、シキはボールを上げるし、間髪入れないクイック攻撃で、アキラの鋭いアタックが突き刺さってくる。しかしそれを、陸上部男子の瞬発力で拾って……。
長いラリーが続くゲームに、ミスは当然許されない。バックレシーブで返したコメチ。チャンスボールはすぐに返され、前衛のみならず後衛のアキラまでブロックに跳んだものの、破られ、コメチはまたすぐにレシーブを上げる。前衛が誰も体勢が整ってなく、シキが止むなくアタックし、またそれも拾われて……。
一応、このセットのリベロはコメチ。しかし、ナミがローテーションで前衛の時は、サーブを受けるや否や、ポジションを崩してナミを後衛にしてしまう。そうして前の壁を高く保つことで、Bチームは失点を防いできた。
あと一点取れば勝ち、取られたら負けという、嫌な、ドラマチックな状態。ラリーは長く続き、お互いミスをしないように打ち合って、相手が自爆するのを待っていた。
ふざける余裕がない程、賞品の二百円の差は大きく、コートの面々は真剣だ。
先に痺れを切らしてしまったのは、Dチームの女子バレー部所属の一人だった。
Bチームの一番弱い所、リベロのコメチを真っ正面から狙い撃ちしてきた。それも、一番対処しにくい場所、顔の高さを目掛けてだ。コメチの方も疲れが出たのか、そのボールをまともに顔で受け、小さな悲鳴をあげて、転んでしまった。
「コメチ!」
BチームもDチームも、誰もがコメチに注目し、彼女に駆け寄ろうとする者もいた。
アキラもコメチの名を呼び、振り返っていた。それがサキには意外だった。彼女なら、どんな場面にも動じたりしないだろうし、第一、彼女が行事に積極的に参加していること自体、アキラの本性を知るサキから見たら、本当は不思議なのだ。
たとえ去年のサキの忠告通りに演じているにせよ、ここまで咄嗟に演じ切れるものなのだろうか。本当の姿が今のアキラで、あの大暴れした去年のアキラは、ただきっかけが掴めずにいただけだったのかもしれないのだろうか。
サキは何気なく、アキラの方を見た。
―――?
コメチの顔に当たって空高く上がったボールが、とても不自然な動きをしているではないか。それはゆっくりと、でも真っ直ぐアキラの方を目掛け、落下している。誰もが皆、コメチに気を取られ、ボールの動きには気付いていない。それくらい自然を装った不自然な動きだった。
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