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第3部;六月〜球技大会〜-2

 他のチームと同じように部活後の自主練習を毎日やっているうち、球技大会当日は、あっという間にやってきた。


 アキラたちの班は、一応優勝候補ともくされていた。そして当人たちも優勝する気でいた。

「五組、集まれぇっ!」

 当日の朝のホームルームは、校庭で行なわれた。どうせ出席を取って、簡単な注意をするだけだ。アキラは大きな声を出して、校庭の一角にクラスを集めた。

「ええか、目標はうちらで上位占めて、賞品独占や。それぞれリーグ優勝して、決勝トーナメントで会おうな。ちなみに、オレらは優勝すっから、応援よろしく。

 ってことで、配ったプリントのコート割りの通りの動いてくれな。判らなくなったら体育委員かオレらに訊いてくれればいいから。じゃ、解散……。

 おっと、賞品教えとかなあかんな。えっと、優勝は、購買利用券一人につき六百円分。二位は一人四百円分で、三位が一人二百円分やて。ってことで、頑張ろうな!」

 「おう!」と、クラス全員が、時の声を上げた。


 それにしても、アキラは例によって一方的に話しているだけだというのに、何故か彼女が一言気合いを入れると、クラス中が盛り上がる。彼女自体は、熱く燃える性格ではないはずなのに、彼女の性格を知るサキには、それがとても不思議だった。

 彼女の不思議な力の一つかと考えたこともあったが、その場になると、どういうわけかサキ自身までもが熱い空気に呑み込まれて盛り上がってしまい、疑問に思っていたことを忘れてしまう。

 今もそうだった。例のカズヤと話した日から今日まで、自分たちの能力のことすら忘れ、ひたすら球技大会へ向けて燃えていたのだ。

 サキは同じ学級委員長として隣に立っているアキラを見やった。そして目が合う。


 サキは頭を掻いた。一体、今、何を不思議に思っていたのだろうと。取り敢えず思い出せないから、手元のプリントを見て、優勝までの道程みちのりを想像してみた。


 午前中はリーグ予選。神森中は各学年五クラスで、それぞれAからFまで六つのチームに分けている。

 第一予選は学年予選。同じ学年で同じ名前の班でリーグを組んで対戦し、上位二チームを決める。

 次の第二予選は班予選。第一予選で上位二位のチームが、全学年で同じ名前の班でリーグ戦をする。

 午後は決勝トーナメント。第二予選で決まった上位二チームが、計十二チームでトーナメントを組んで、優勝を争う。確かに、二年五組で上位独占も不可能ではない。


 アキラたちの班はBチーム。ライバルは同じクラスのDチーム。男子陸上部と、女子バレー部ばかりの班だった。

「アキラーっ、決勝トーナメントで待ってっからヮ、予選でコケんなよ」

「そっちこそ。首洗って待ってろや」

 アキラが向こうでライバルDチームの女子とふざけている。軽い予選の舌戦というところだろう。


 その時サキは、何を不思議に思っていたのか思い出した。まるで何らかの力が働いて、霧が晴れたかのようだった。

 あれだけ不可解な人間なくせに、何故アキラは誰からも嫌われていないのだろうか。いや、あれだけの騒ぎを起こしておいて、どうして誰も彼女を避けないのだろうか。普通に考えたら怖くて近付けるわけがない。彼女が望まなくても、一部の不良生徒の類は彼女を勝手に慕っている。そんな学級委員長など聞いたことがない。

 何なんだと思ってしまうのは、サキだけがアキラの影の一面を知ってしまっているからだろう。

 それにしても、いくらサキの忠告を受け入れているとはいえ、普段のアキラはあまりに陽気すぎて、サキですらよく解らなくなる。一体どれが本当のアキラなのだろうと。

 だからこそ、サキはアキラを買っているのだ。矛盾しているようだが、真実だ。得体が知れないアキラだから、彼女がその気になりさえすれば何だってできて、何にだってなれる能力がある気がするのだ。

 普通あれだけ表裏の違いがある人間だと知ってしまったら、他人なら絶対信用できないはずなのに、アキラだけは信用を通り越して、おそれや尊敬に近い念を抱いてしまう。

 同い年の少女に対して、こう思ってしまうこと自体、とても変なことだと、サキ自身、解ってはいる。


 いつも一番前を歩いてクラスを引っ張るアキラは、いつも一番後を歩いてクラスを見ている静かなサキの方を、たまに振り返っては、妖しくも恐ろしくも見える、意味深な微笑みを見せる。

―――オレのこと観察したって、お前はオレを理解できやしない。知るのを怖がってるじゃないか……

 サキには、アキラがそう言っているように見える。

 どういうわけか、最近振り返る回数が増えた気がする。

 今、頭の中の霧が晴れたのも、そういえば、アキラが振り向いてからだ。サキはそう気が付いた。


「早く来いよ。置いてくで」

 また不気味な微笑みを浮かべて、アキラはサキを呼んだ。

「お、おう」

 サキもまた、何も考えていない素振りをした。気付かれているのも知っているが、そうすることが習慣になってしまっている。たしかに、やはり怖いのだ。




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