第3部;六月〜球技大会〜-1
3;六月〜球技大会〜
「あ、ほんと、いた、いたよヮ!」
サキとカズヤのシリアスなムードを壊したのは、甲高い声のコメチだった。彼女は、幼馴染みの間でどのような会話がなされていたか知るわけがないし、知ろうとも思っていなかった。
「まったく、仮にもあなたたちハンド部の部長と副部長でしょ。その部長と副部長が部活さぼって、まったくどうすんのヮ。アキラがここじゃないかって言うから来てみたんだけど、案の定ね」
「いや、ちゃんと部員には指示出してここに来てるけど……」
小さく呟いたサキの言葉は、「そんなことはどうでもいいわよ」とコメチに一蹴された。
「それよりアキラはね、球技大会の練習したいっけ、部活休んでって頼もうとしただけなのよ。なのに、何だかカズヤは勝手に怒り出しちゃうし、サキはカズヤの御機嫌取りに行っちゃったしで、可哀相に、彼女、困ってたよヮ。どうせさぼっちゃってんでしょ。練習するわよ」
コメチは、振り向くだけで腰を上げようとしない、背の高い二人の幼馴染みの服を引っ張った。土手の上では、他の四人がジャージ姿で待っていた。
「悪い、悪い!」
サキは立ち上がり、バツの悪そうなカズヤを強引に引っ張り、土手を登った。
「で、そいつの御機嫌は、直ったんか?」
アキラは笑顔を作りながら、サキにバレーボールを投げ付けた。サキは咄嗟に、その超スピードのボールを受け止めた。
「痛ぇなャ。少しは手加減しろよ、怪力女なんだから、アキラは」
サキは笑って答えていたが、本当のことを聞いてしまった今、カズヤにはアキラの笑顔が乾いたものにしか見えず、合わせて笑っていられるサキのことも、よく解らない。
『要するに、サキはあの女にも、オレらみたいな力があるって言うんだろ』
サキは驚いた表情で、カズヤの方を振り向いた。彼の声が耳を通さず、直接脳に響いてきたのだ。
『やっぱ聞こえてるね、サキ。聞こえるか試してみたんだけど』
カズヤの声は、尚も直接脳に響いてくる。
『何だ?何なんだ?!』
『今、やってるっちゃ。それでいいんだよ』
動揺してカズヤの方を向けば、彼はにっこりと笑っている。
『へぇ、これなら、そんなに体力使わないでもできるなぁ。面白いこた』
『だろ。これでテストの答、教えてもらえるし』
『バカ。オレはそんなことしない!』
サキとカズヤは、初めて与えられた玩具で遊ぶ子供のように、二人だけの会話を楽しんでいた。当然、他人は二人の間で何が行なわれているか、それこそ全く知る由ない。
「何、黙って見つめ合ってんのヮ?ちょっと、気味悪いけど……」
こんなことあまり口にしないシキに言われてしまう程、二人は見つめ合うことに集中しすぎていて、アキラの視線が冷たく向けられていたことなど、当然全く気付いていなかった。
シキの言葉で我に返った二人は、自分たちの今の姿を想像し、思わず顔を背け、会話を止めた。身長一八〇センチ近い男二人が、無言で動きを止めて、しかも見つめ合っているのだ。確実にあまり美しい絵ではない。
「取り敢えず、円陣パスから練習すっぺし。ボクらの場合、みんな何でもできっから、お見合いしない為の練習だと思ってさ」
男子バレー部、一応部長のシキが音頭を取って、練習は始まった。こんなに大人しくて、よくもまあ、勝負事の部長をやっていられるかと、それは未だもって全員の疑問だったりもする。
「どうせ、うちら二人のどっちかがリベロでしょヮ。どっちがなっても、どっちかはローテーションの中に入って、お邪魔虫。嫌よねえ、ナミ」
「本当よ。あと五センチでいいんだけど、その五センチがないんだよね」
女子二人は、ずっと同じことをぼやいていた。
「楽しみといえば、ローテーションで外に出て、邪魔者にならないことだけね」
「あと、優勝賞品だサ」
「あ、残念。サキは一試合一セットしか出せないから、みんな、殆どコートの中だよ」
「シキ……。あなたって、かわいい顔して、言うこと結構残酷よね……」
「え……、そんなこと言われたって……」
「冗談、冗談よ。そういうとこが、カワイイのよ、シキは」
真面目が取り柄の少年、シキは、コメチにからかわれ、本気で困っていた。
東部中からの伝統の、男女混合バレーボール大会のルールは至って簡単で、二十五点一セットで、一ゲーム三セット。当然二ゲーム先取した方が勝ちだ。サーブ権が移る毎、リベロ以外はローテーションでポジションを替える。各クラスとも一班七人が多いので、こうすることで、コートの外の補欠選手も公平に試合に出られるようにしているのだ。
コメチとナミは、外に出られなくても、別にリベロでも構わなかった。何より前衛になることの方が嫌だった。アタックなどできない身長だけに、その気持ちはよく解る。
「リベロは二人で交替でやったらいいべや。一セット目がコメチで、次がナミってやぁ」
「いいから放っといてヮ。言われないでも、うちら勝手にやるからヮ」
気の強いコメチは、ポンを睨み付けた。
「でも、やっぱ嫌よねぇ」
コメチとナミのぼやきは、球技大会当日まで続いた。
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