第2部;五月〜去年の出来事〜-6
「と、いうわけ」
サキは話し終えた。
「ふーん。アキラの腕がかなり立つってのは、さっき見て判ったけどや」
「言っとくけど、オレはその腕が怖いんじゃないぞ。持久力があればなんとかなるかもしれない。でも、ぎりぎりかな」
カズヤは、また困った顔をした。サキが言っていることが解らなかったし、サキ自身が本当は何が怖いのかを、言うべきか否かを迷っている顔をしている理由も解らなかった。
しかしサキは言うことに決めたらしい。
暫し考え込むような仕草をしてから、ゆっくり口を開いた。
「なぁ、カズヤ。さっきのアキラの動き見て、何か思い出さなかったか?」
「?」
カズヤは首を傾げた。
「昔、空手のお師匠さんが、オレらに見せてくれたことがあるアレ。お師匠さんのお祖父さんが何処かの巫女さんに伝えられたっていう、『瑞穂』って型。あと大樹の森の神社の巫女舞の、武の型にも似てると思うんだ。両方を見せられた時は、似てるなんて思わなかったけどさ」
カズヤは首を傾げた。そんなのはいつものことだ。
「数え年で十二才になったら、お師匠さんが見せてくれたっちゃ。大樹の森の守人の家なら、知ってなきゃならないってさ」
未だカズヤの目玉は斜め上を向いて探している。
「ほら、こんな時代だから、巫女さんはもう闘う必要がないっけ、失われちゃってて、お師匠さんしか知らないって言ってたアレだよ。
オレら、どっちも真似しても、さっぱりできなかったアレだよ」
ようやくカズヤはくるっと目玉を回すと、サキの言っている記憶を探し出した。
「ウソだぁ。だって、お師匠さん、言ったっちゃ。空気と一体になって、気配無くして舞うように攻めるって。その為には自分を捨てろって、わけ解らない禅問答したっけ……」
「だから怖いんださ。あいつは舞ってた。楽しそうに、すっごく自然体に、それこそ自然と空気と同じリズムで舞いながら攻めてた。それだけの能力を持っているから、アキラはアキラを演じてられるんだよ」
本当にサキは怖がっていた。全く歯が立たない、比べものにならない力を持った、鷲を目前にしてしまった兎のように。
「そんなこと、あるかよ……」
そう呟いたカズヤの言葉も、何故か力がない。
それもそのはずだ。サキの自信が、カズヤの自信なのだから。例え間違ったことでも、サキが正しいと言えば正しくなるし、例え正しいことだとしても、サキが違うと言えば違うと信じ、自分は何もできなくても、サキが優秀であれば、自分が褒められた気になる、それだけカズヤはサキに依存していた。
「そう、重くなるなよ」
サキはカズヤのそうしたところを知っていたし、本音を言えばそれが重荷だった。解放されたくもあり、幼稚なままの彼をそのまま受け入れてやろうとも思い、気持ちは複雑だ。
サキは、自分に依存するカズヤが、ある現実から逃げているのを知っていた。昔、その現実を受け入れるべきか否かを苦しんでいた彼に気付かずに、サキはカズヤを鼻であしらってしまった。その罪悪感は今も消えず、だからこそ、カズヤを受け入れることで、赦されるような気になっていたのだが、今、サキも、同じ現実を突き付けられていた。今なら、カズヤに打ち明けることで、彼も自分も成長する機会かもしれない。
カズヤに、アキラの真実を打ち明けたのも、そんな思惑があったからだ。
「ところでさぁ、カズヤは、超能力とかって信じる?」
「はぁ?」
全幅の信頼を置くサキの質問が、あまりに唐突で、あまりに不釣り合いで、カズヤは思わず吹き出した。
「サキさぁ、昨日のテレビの特番でも見たのヮ?らしくねーっ!昔、低学年だったかャ、オレ、お前に同じこと訊いたっちゃ。したら、お前、鼻で笑ったくせに。あー、おかしいの」
腹を抱えて笑い続けるカズヤを、サキは無視した。
「あれはオレが悪かった。謝るよ、ごめん」
サキが意外と真剣そうで、カズヤは笑うのを止めた。
「別に、そんな昔のこと謝られたってなぁ……。それより、冗談をマジ顔で言うなよな」
「本当に、マジ顔でこんなこと言って、オレもどうかしちゃったよな。第一、カズヤ相手に、遠回し表現が通じるわけないのに」
「どうせオレは鈍いですよ。何、アキラが超能力者だったってか」
「近いな。確かにあいつ、オレと二人だけになったりすると、姿消したり、物浮かせたり、わざとして見せてたようだけど」
さすがに、カズヤは頭が痛くなった。まさか、サキが、ここまで非科学的なことを信じているとは。
「あのなあ……」
「笑いたきゃ、笑えよ」
サキは責めるような眼差しを向けた。その目を見て、カズヤは、サキは何か言いたいことが別にあるのではないかと思い、立ち止まって考えた。
「サキ、一体、何が言いたいのヮ?」
この時、カズヤは、サキが「アキラのことは嘘じゃない」とでも言うだろうと思っていた。しかし、サキは、全く予想外の言葉を言った。
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