表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/99

第2部;五月〜去年の出来事〜-5

 不思議そうな顔つきのサキに、アキラは気付いたようだ。

「そりゃ、毎日色目とか奇異の目とかで見物されてたさかいな、一人違う視線なんて、すぐ判るわ。オレはバカじゃないから」

「バカじゃないって言うわりに、バカな態度続けてたよな、アキラ」

 彼女は間を置いてから、短く「あぁ」と応えた。


「アキラってさあ、どっかで番長でもやってたのヮ?」

「お前、ほんっと、遠慮ねぇな。気ィ遣わんで済むっけ、ええねんけどな」

 そう言ってくつくつと小さく笑ったアキラの顔を、サキは思わずじっと見てしまった。

「何やねん。何か付いとるんか、オレの顔?」

 アキラの顔はすぐに元の冷たい顔に戻ってしまった。

「いや、そうやって笑うんだなと思って。せっかく美人なんだっけ、笑ってればいいのに」

「それができる環境で育ってれば、そうすることが身に付いとったんやろな」

 彼女は照れ隠しのつもりか、顔を背け、草の上に寝転んだ。


「ここは、空がとても青い」

 アキラは空を見上げてつぶやいた。

「そういえば前はどこ?お前、自己紹介しなかったもんな」

 やはりサキの問いに、アキラは答えなかった。その代わり、彼女は少し隙を見せた。

「オレなあ、今までの自分にあきあきして、捨てたくて、忘れたくて転校したっちゅうのにな……。明日、どないな顔して学校に行きゃええんやろ。せっかく普通の学生になれるチャンス、自分からフイにしてしもて……」

 アキラは独り言を言ったのかもしれない。独り言を装って、サキに答を求めたのかもしれない。

 その時サキは、応えてやろうと思ってしまったのだ。理由などない。それこそそういう性分なのだ。


「じゃさ、オレの提案、やってみる気ある?」

 アキラは驚きの表情を見せた。

「何、言っとんの、お前。オレに関わるなって、さっき言うたやろ」

「アキラこそ、どんな顔して学校行きゃいいんだって、今、言ったばかりだっちゃ。せっかく他人が手を貸してやるって言ってるんだ。お人好しのバカの言うこと、ちょっとは聞いてみろヮ」

「ほんっと、変わったヤツやな、サキ」

 アキラは、また少し微笑んで言った。「で、オレはどないしたらええんやろ、サキ」

「偉そうに言ったわりに、全くの思いつきで申し訳ないんだけど、けどな、誰もアキラのこと知らないわけだし、結構通用すると思うんだ。甘い発想だって、笑われるかもしれないけど。

 アキラのこと性格悪い女だと、みんなで思ってたけど、まさかあそこまでやるとは、誰も予想してなかったよヮ。要するに、そこさ。未だ、アキラなら、どんな性格出しても、意外な一面だって受け入れられちゃうんじゃないかってね」

「具体的には?」

「なるたけ、喧嘩は買うなってのは基本。でも、万一売られて、そんでもって買っちゃったら、その後、怒りで我を忘れて記憶なくしたフリをしろヮ。生徒だけじゃない、先生にも勿論な」

 さすがのアキラも、大きな口を開けて笑いだした。


「バカだと思うべ」

 サキは、自分らしくなく現実離れしたことを言ったと、後悔していた。まったくもって、自分らしくない。できることなら忘れてほしいくらいだ。

 サキは鼻を掻き、それから頭を掻いた。

「違う、悪い、悪い。いや、意外と面白いこと言うヤツなんやな、サキって。オレ、お前のこと、もっとクソ真面目でつまらないヤツなんかと思ってたさかい、つい……。

 その提案、やってみるよ。オレが人間らしくなれるんやったら、簡単なことさ」

 大声で笑うことを止めたアキラの顔が、先程の大乱闘の最中に見せた、不気味で妖しい微笑みを浮かべているように、サキには一瞬見えた気がした。

「恩に着るよ、サキ。ま、明日見てな。言われたようにしてみせるさかい」

「クラスのみんなには、上手くフォローしとくっけ、心配すんなよ」

「いつか、この借りは返すよ」

「期待しないで待ってるからヮ」


 翌朝、アキラは遅刻してきた。

 しかし、不思議なことに、朝のホームルームで、担任がアキラについて「彼女は怒ると我を忘れてしまって、今回の件も憶えてないかもしれないけど、ちょっとした病気みたいなものだから、受け入れてやるように」と、言ったのだ。クラスの生徒のほとんどが、腑に落ちないといった顔をしていたが、取り敢えず、先生も言っていることだしと、受け入れていた。しかし、サキだけは、担任がアキラのことを信じ切っている様子そのものが、どうしても腑に落ちなかった。例の話はサキとアキラしか知らないはずで、そのアキラは未だ登校していない。どうしてそれなのに知っていて、しかも信じているのだろう。

 答は結局見つからずじまいだ。


 遅刻してきたアキラは、やっぱりだんまりのままだったが、まずコメチとポンには、その日のうちに謝り、教師の指名に返事をし、しおらしくしてみせていた。そして、例によって気を遣って話しかけてきたコメチと、少しずつ話し始め、一ヵ月をかけて、明るく陽気な、現在のアキラを作り上げていった。

 あまりに違和感のない変貌ぶりに、サキはアキラのことを、恐ろしく頭の良い女だと、彼女のフォローをしながら思っていた。




↓↓↓本編先行連載している作者のブログです。是非おいで下さい。

http://blogs.yahoo.co.jp/alfraia


また、日本ブログ村とアルファポリスに参加しております。

お手数ですがバナーの1クリックをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ