第2部;五月〜去年の出来事〜-3
その日は、初めての中間テストの総合結果が返ってきた日。サキはかなり自信があったのに、何故か総合二位だった。合計四八〇点も取ったのに、一体誰が自分よりも高得点を取ったのか、気になって仕方がなかった。
「桂小路 晃、おるか?」
騒がしい中、ぞろぞろと、いわゆる不良と呼ばれる類の生徒十人以上もが、一年五組にやって来たのだ。
収拾がつかないくらい騒々しかった教室が、水を打ったように静まり返り、全員がだんまりを決め込んでいる桂小路 晃に注目した。
しかし、張本人は部外者を決め込んでいるのか、平然と帰り支度を整えて立ち上がった。
「おらぁっ!いるなら返事くらいしろってんだよ、礼儀知らずがっ!」
下っ端とおぼしき男子生徒が、桂小路 晃の胸ぐらを掴んだ。
「何とか言えよ、えぇ!生意気なんだよ。番張りたいなら、挨拶くらいしに来いよ!」
「汚ねぇ手、離せよ」
小さいけれど、低く、はっきりと、だんまりの桂小路 晃は言った。
「てめえら、礼儀って言葉の意味、解って使ってんのかよ。くだらない理由で、インネン吹っかけんなよな、このクズ人間」
これが、だんまり美少女の第一声だった。
誰もが唖然として彼女を見た。もともと態度が悪いから、今更泣いたりするようなことはあるまいとは思っていたが、まさかここまで強烈なことを言うとは、期待以上だった。
「上等じゃねぇか」
「……」
やはり、必要以上はだんまりを貫くつもりらしい。
「度々、総長の所へ挨拶へ来いって言ったはずなのに、お前が無視するから、こうして直々に迎えに来た。解ったら顔貸せや」
無言の桂小路 晃に、総長の取り巻きが、背筋を伸ばして言った。すると、あの無表情な桂小路 晃の顔に、生気が蘇ってきたではないか。あまつさえ、不気味な笑みすら浮かべている。
「フフフ……総長ねえ。ま、所詮ってとこやな。で、何でオレがお前らに挨拶せなあかんのや。用があるなら、最初っから総長一人で来いよ。用があるのはそっちなんやから。大体、こないにたくさん連れて来て、オレのこと怖いんか。弱虫やなぁ、お前らの総長」
「ざけんじゃねぇっ、このアマ!」
「やっちまえ!」
逆上して殴りかかってきた男子の一人の拳を掴み、桂小路 晃は、その腕を捻り上げた。
「イタタタタっ」
細くか弱そうな腕に掴まれてしまった、哀れな男子は呻いた。
「子分がこの程度じゃな、親分も大変やろ」
桂小路 晃は笑った。明らかに彼らを馬鹿にしていた。
「所詮クズの手下やもんな、たかが知れてるさ。こんな辺鄙な中学の番長なんて、猿山のボスってとこやな。大体なぁ、今時番長だなんて流行らないっつーか、ダサいし。大体オレ、番張るなんて一言も言ってないし」
彼女は更に、呻く男子の腕を捩じ上げた。異様な鈍い音がし、彼の腕が折られたことは、誰の目にも明らかだった。しかし、桂小路 晃は、悲鳴を上げて蹲った彼を、まるで道端の空缶を蹴るように、躊躇いなく蹴り捨てた。
桂小路 晃は、一歩詰め寄った。彼らは思わず一歩下がった。それだけの迫力があった。
「一人ずつなんて面倒臭ぇから、いっそ全員でかかって来てくれないかなあ。一人ずつだと手加減できないんやわ、オレ」
大胆な桂小路 晃の言葉に怯まないわけがない。でもここで退いては示しがつかないというものだ。
思わず生唾を一つ呑みこんで、それから口を開く。
「構わねぇ、手加減しねぇで、やっちまえ!」
一人の合図で、十人以上もの男子生徒が、桂小路 晃一人に襲いかかった。
「お約束通りのバカやなあ。こっちも手加減せえへんで」
彼女は一跳びで机の上に乗ると、高い位置からの顔面への蹴を、彼らに見舞った。
「バカはなあ、生きとる価値、ないんやで」
まるで楽しそうに、舞うように、桂小路 晃は彼らを子供扱いした。彼女一人に対し、彼らのうち誰一人として、拳一つ浴びせることができなかった。
ところが、偶然、彼女の腹に誰かの蹴が決まった。まあ、そういうこともある。
「上等じゃねぇか!」
「桂小路さん、もう、やめてよ!」
間に入ったのは、なんと、コメチだった。
さすがの桂小路 晃も、これでは手が出せない。
「古明池さん、こいつはオレの問題で、このアホ連中が……」
意外にもコメチの名前を憶えていた桂小路 晃だったが、彼女は困惑を顕にしていた。
「教室ぐちゃぐちゃにしといて、何が一人の問題よ」
「ぐだぐだうっせーこた!どけよ、チビ!」
総長を名乗る男子は、コメチを思い切り突き飛ばし、彼女は机に額を打ち付けた。その小さな額から血が滲んだ。
「てめえ……、本当に番張る資格もねえ、クズ人間やな!ええか、それなりに番張っとるヤツはなあ、ちゃんと連中なりにスジを通してるもんや。それなりに格好ええもんなんや!それが何だ、てめえは最低や!」
とうとう桂小路 晃は暴発した。
「佐藤さん(ナミのこと)、古明池さん、保健室へ連れてってぇな!」
それだけ言うと、彼女は不良たちに襲いかかった。それはもう、怖ろしい顔だった。
―――桂小路のやつ、コメチをちゃんと受け入れてたのかャ……
サキはそう考え、すぐ行動を起こすことにした。
これ以上混乱させても意味がない。うっかりしたら怪我人が増えるだけだ。
桂小路 晃と、彼女の獲物との間に割って入った。
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