天才
天才
諸葛亮孔明は思案していた。馬超猛優からいかにして劉備玄徳への忠誠を引き出したものか。周瑜が孫権の元で赤壁の戦の折、孔明をして船を連結させ孔明の力を封じようとした時に、孔明は常々劉備率いる蜀の国には華がないと思案した。曹操のカリスマ性が魏の国を三国最大にしたのに較べ玄徳の優しさ、家臣を想う天性の徳が天下を治めるチャンスを逃してきたのは否定できない事実だった。
孔明は馬騰配下の馬超こそは三国一の天才であると信じた。
馬騰が山国で国を治めてこれたのも配下の馬超猛優のず抜けた天才の格と美意識あってのこそと信じるのであった。
孔明は馬超に使いの者を派遣した。
馬謖の二の舞にはなるまいと孔明は確信せずにはおかなかった。天才を二度殺せば次は死ぬのは自分というのは占星術を極めた孔明にとっては当たり前だった。
使いの者はしかし馬超に度肝を抜かれて帰ってきた。周瑜が昔孫策と喬美人を姉と妹で別けて夫婦とした時に封建的な中国にあって一世を風靡したが、馬超は未だ妻も娶らずに一匹狼のまま山国の一輪華となっていたので孔明は必ずや本土に出るチャンスは馬超は逃すまいと考えていた。しかし馬超は青い武者鎧に錦鯉を思わせる朱色と黄の衣を付け白馬の鐙に黒い中国靴を従わせ、なぎなたを左手に隆々と光らせ場内から一気に使者の元へと駆け出ると、鈴のような声でこうのたまった。
「拙者が馬超。拙者を引き抜きたくば孔明にこう伝えよ。馬騰殿は拙者を必要とする。孔明はすでに多くの優将を抱えている。何故私もまた、玄徳の足となる必要があるのか。私が欲しくば馬の一頭も馬騰殿にお送りし礼儀を尽くすが良い。馬騰殿がうむと言えば蜀の三国統一のために神の力をお借りして命懸けで尽くそう。よいか、そう諸葛亮殿にはっきり申せ。さもないとこの場でお前を斬り殺す。はっきりとそう伝えよ。では、ハイッ。どう!ヤッ!とう!行くぞ。白蝶。ハイヤ。フン。タッ。と馬を切り返していななかせ、まるで白い一本の矢の様に土煙をもうもうと立てて駆け戻り「馬超である。」と一喝して城兵を忙てて門を開けさせツカツカと馬騰のいる城の中へと馬を消させた。