07 ―魔力判定と男の子―(後編)
お待たせしました。後編です。
結局、あの後全くウヴァ様親子の口げんかは終わりが見えず―――先にお父様とお母様の待っているサロンへ向かいました。
また不思議な廊下を通るのかと思ったら今度は一瞬でした。何故と聞けば侵入者対策だけなので帰るときには作用せず転移が使えるんだそう。詳しいことは秘密だそうです。
魔術院の館のサロンは幾つかあるそうですが、団長のお父様は専用の部屋があります。ローブの色と同じマホガニー色の扉を抜けると室内なのにまるで外のような光景が広がっていました。
ラランに咲く花たちが主張しすぎないように品良く配置され爽やかな空気に包まれています。
あまりに素晴らしい光景に声も出ず魅入っていました。
「ルゥちゃん、リシーお帰りなさい」
「あらあら、そんな入口ではなくこちらにいらっしゃいな」
クスクス笑いながらアーチの向こう側から表れたのはお母様と、お母様と同じアザレアの瞳で輝く金の髪を結い上げた女性。背が高くまるで女性騎士のような凛々しいこの方がきっとジャスミン様なのでしょう。少しお母様と似ています。
と言うことはウヴァ様の奥様ですね!……あの男の子とはお話できなかったなぁ。同い年くらいなのに。嫌われちゃったのかな。
あ、今はご挨拶!
「お初にお目にかかります。リシーハット・メルローズ侯爵が長女、ルフナともうします。以後、お見知りおきください」
先程のようにゆっくりと丁寧に一礼をします。お母様の前でうまく出来たでしょうか?
「まあ、ご丁寧にありがとう。ジャスミン・スタッセンと申します。貴女のお母様の従姉妹なのよ、よろしくね」
優雅なカーテシーにふわ~と見惚れます。思わずきれーと声が出てしまいました。た、大変!と思わず口元を抑えお母様を恐る恐る仰ぎ見ます。お母様は笑顔でした。
「大丈夫ですよ、ルゥちゃん。ひとまず合格です」
「良かったですー」
とお母様の一言で緊張が解け、お腹が「くぅ~」と鳴ってしまいました!真っ赤になった私にお母様とジャスミン様は顔を見合わせてあらまあと笑い、お父様は俺も腹減ったと一言。うぅ、恥ずかしいです~
「本当に可愛いわ~。わたくしもルゥちゃんと呼んで良いかしら?わたくしのことはジャスミンでもお義母様でも良くってよ?」
とウィンクしながら言うジャスミン様。格好良いという言葉が良く似合う女性です。素敵です~
「ジャスミン様は甘いものお好きですか?」
「えぇ!そう。先程ディーからあなたが作ったお菓子の話を聞いたのよ」
「おおお母さま~」
「うふふ、自信を持っていいのよ、ルゥちゃん」
「そうだぞ、ルゥ。ウヴァ達が戻ってこないうちに食べよう」
「それは無理ですね、リシーハット」
「うげっ」
「あら遅かったのね、ウヴァ。何かあったの?」
「いえ、ただディンブラと会話をしていたらいつの間にか置いて行かれたようで、来るのに時間がかかりました」
転移できなかったものでとお父様をみるウヴァ様。あえて違う方向を見てますね、お父様……。
「それは、まあ良いでしょう。判定結果、持ってきましたよ」
「悪かったな」
「私達も話をしていて気付かなかったのもありますから、気にしていませんよ」
「………見たか?」
「まあ、宰相ですからね」
「そうか。あとは?」
「陛下だけに」
「すまん、助かった」
大人の会話?が終わったようで、ほらとお父様に紙を渡されました。
〔魔術適正〕
基本魔術:火・水・風・土
上位魔術:///・///・///・樹
特殊魔術:空間・付加
限定魔術:///・///
おおー色々書いてあります! お母様にも見てもらおうと一歩足を進めた瞬間、パッと紙が手から消えました。あれ?と横を向くとあの男の子の手に私の紙が。
それを見た男の子は自身のものと見比べると両方をぐしゃぐしゃにして「お前なんか認めない!」と言って奥に走って行ってしまいました。
私たちはその一連の行動を唖然と見ているしかありませんでした。
一番早く動いたのはジャスミン様で「仕方のない子ね」と言いつつ、ぐしゃぐしゃになってしまった紙を延ばしていきます。
「あら、これで拗ねちゃったのね。ルゥちゃん、見てみて」
「でも…」
「あの子も見たんだし、お相子よ」
どうしましょう?お母様を見ると大丈夫と云うかの様に微笑んでいて隣のお父様もウヴァ様も笑顔です。
恐る恐る覗くと――
〔魔術適正〕
基本魔術:火・//・風・土
上位魔術:炎・ ・雷・
特殊魔術: ・付加
ん~と、どうしよう。彼が怒った理由が分からない。ジャスミン様を見上げると苦笑いで教えてくれました。
彼、ディンブラ様は本当はリシーハットお父様みたいな魔術師になりたいのだそうです。でも、父親が宰相という事。その為か、勉強が苦手で身体を動かす方が得意なことに嫌味を言われたり、従兄弟の王太子様とは仲が良いのに比べられたり。しかも今日の結果で全属性がなかったことで、とうとう燻っていた憤りが爆発してしまったのだろうと。
ウヴァ様とジャスミン様は自分の好きな道を進んでほしいと願ってるのですが話を聞いてもらえず…とのこと。
実は今日に予定を合わせたのは、リシーハットお父様と会わせて相談に乗ってもらおうしていたのですが、どうやら私にそのお役目をが移動したみたい。あれ?
ウヴァ様が判定部屋で見た息子の様子から私なら大丈夫と感じたそうです。え? 接点、一度も無かったですよ? むしろ嫌われたようなのですが………。
「ルフナちゃんならきっと大丈夫。私だとどうしても先程みたいになってしまうからね」
ウヴァ様。悲しそう。
「お願い、ルゥちゃん」
うぅ、素敵なジャスミン様にお願いされては……断りにくいです。
「ルゥちゃん、笑顔でね」
お母様嫌われてるかもなので、難しいですよぅ。
「ルゥ、危なくなったら直ぐに逃げる大声を上げるんだぞ!」
なんで申請間違ったかなー!キームン今いなくてどうすんだー!って。お、お父様だいじょうぶ?なんでキィが出てくるの?
そんなこんなで励まされ(?)、ディンブラ様の元へ向かいます。とりあえずお話してみようと思います。
~~~~~~
アーチを抜け、テーブルセットの向こうへ。花々の茂みに隠れたようにある小路を抜ると噴水があり、その近くにディンブラ様は蹲っていました。
「あの、ディンブラ様?」
「………」
「えっと、お話しませんか」
「………さい」
「なんですか?」
「……ち……いけっ!」
「あの…」
「うるさい、うるさいっ!あっちいけ!!」
がばっと立ち上がったディンブラ様は顔を真っ赤にして怒っています。
わ、わたしそんなに嫌われてるの?
「お前はずるい!メルローズ団長の娘だし、魔術の種類もオレよりあるし、ちゃんと挨拶したし!」
「えっと、それは…」
「それに比べて俺は宰相の息子なのに勉強より剣の方が好きだし、種類も少ないし、挨拶できなかったし!父さんも母さんもオレのことなんてどうでもいいんだ!……うわーーーん!」
え! 泣いちゃった!? ど、どうしましょう? ま、まずは落ち着いて。泣いたときはどうすればいいの?えっーと、私が泣いたときは……これだ!
なでなで
「!?」
私がなでるとディンブラ様はピクッと固まって泣き声も止まりました。作戦せいこう!
固まったまま動かないディンブラ様。すこし落ち着いてくれたかな?と期待を込めて話しかけてみます。
「ディンブラ様?あのね」
「………ん」
「私のうちにね、ナイショなんだどね、エディアールの人がいるの。」
エディアール知ってる?と聞くと俯いたままコクンと頷いてくれました。
「それでね、教えてもらったの。属性が少ない人は加護を受けているんだって」
「っ!それって!!」
「うん、すごいことなの!」
「でもそんな事聞いたことないぞ?」
「お父様がこんど発表するって。だからまだナイショなの」
「……そっか。でもオレは……宰相の息子なのに……」
そんなことないのに…どうやったら伝わるのかな?
「私はすごいと思います」
「え?」
「だってお勉強も剣もしてるんでしょ?両方してるなんてエライです!」
「そ、そうか?」
「はい!それに」
「それに?」
「ウヴァ様もジャスミン様もディンブラ様に好きなことして欲しいって言ってました」
「好きなこと……?」
「剣でも魔術でもなーんでも!」
「父さんと母さんが?」
「はい」
何か腑に落ちた様で悲しげな表情がだんだんと緩んでいきました。最後には口元をきゅっと上げて笑顔に。
「そっか、嫌われてたわけじゃないんだ。オレ」
「大好きですよ」
「っ!!!」
「ウヴァ様もジャスミン様もディンブラ様のこと大好き~って言ってました」
うふふ、やっぱり気づいていなかったのですね~顔が真っ赤です。誤解が解けて良かった~♪ 両親に好きって言ってもらえたら嬉しいですよね!
「あ、うん。そうだな…うん、オレ頑張ってみるよ」
「応援してますね、ディンブラ様!」
「……ディン。オレのことディンって呼んでいいぞ」
「! はい!私はルゥって呼んでください!」
一瞬呆然としましたが、直ぐににかっと笑うディン様。ひまわりが咲いたみたいな笑顔。キラキラしてる。
そんな彼を見て私も笑顔になります。と何か思いついたのか笑顔を真面目な表情に変えてディン様が私の前に立ちました。
「ルゥ……。オレさ頑張るからずっと見ててくれるか?」
「う~ん、ずっとはムリです」
「だ、ダメか?」
がーんと頬を引きつらせるディン様。何か変なこと言いましたっけ?私。
「お家に帰らないといけませんし」
「ま、まあそうだな。うん」
あれ?ディン様落ち込んじゃった? せっかく仲良くなれたのに……。
「あ、そうだ!お菓子!」
「お菓子?」
「私もってきたのです!ディン様、あまいものはお好きですか?」
「まあ、嫌いじゃないけど……」
「じゃあ、戻って食べましょう!」
「あ、あぁ」
ディン様もお菓子好きなのですね、ほっぺが紅いです。
甘いのは元気になれますし! 良いアイディアです~
「私、はじめて外でお友達と一緒に食べるんです! 嬉しい! ありがとうございます、ディン様」
「オトモダチ……う、うん。そうだよな……オレもうれしいよ………」
あれ、なぜか遠くを見てる? あれ?
―――それから二人で手をつないで両親たちの元へ戻り、なぜかお父様が着いた早々私を抱き上げてお母様にパス。ビックリ。ディン様と見つめあってた?どういうこと?などありましたが、仲良くみんなで一緒にゼリーを食べることが出来ました!
う~ん、ちょっとフルーツの味が薄かったですかね。またチャレンジです!
夜。お留守番のキィにお友だちが出来たことを報告しました!
「良かったですね」と笑顔なのにちょっと冷たい風が……?
窓は閉まっていたのに……。
これも侯爵家の七不思議に追加ですね!(2個め)
読んでくださってありがとうございます。
次回はディンブラ視点の予定