06 ―魔力判定と男の子― (前編)
長くなったので分割。それでも珍しく長めかも。
誕生日から3か月…季節はラランになりました――からっとしてますが暑いです――あれから毎日のように私専用台でお菓子を作ってます!
うふふ~きっとお母様に喜んでもらえるはずです♪
まだ、火や包丁を使わせてもらえないので自分で作った感はあまりないのですが、今日は考えましたよ! 色々な果実で作ったゼリーを型抜きして透明なゼリーで閉じ込めました。キラキラ~
息抜きは必要なんです……。
あの誕生日の次の日からお母様の地獄の淑女教育が始まりました。
貴族って大変なんですね。あの世界の私はどうだったのでしょうか?
あまり彼女自身のことは出てこないんですよね。〔サエちゃん〕のことは良く出てくるのですが…。
そういえば、また最近あの〔記憶〕の夢をみるようになりました。
今朝は………。
―――――
「ねぇ、サエちゃん。そのゲーム面白いの?」
ここのところ毎日してない?と聞けばアイス片手に、面白いよ~の声。
「乙女ゲームって言ったけ?」
「そうそうー。やってみない?」
「ムリムリ。シュミレーション系でしょ?」
「物は試しで」
「RPGとかパズルは出来るけど、ああいうの全滅なの」
知っているでしょと問えば帰ってきたのは苦笑い。
「恋しなよ、恋!コレみたいにキラキラよ~」
「あはは、考えとくよ」
「うわっ、嘘っぽい」
―――――
そんな夢でした。
しかし、おとめゲームとは何でしょうか?確か、ゲームは遊ぶものだったはずです。
おとめ…はこちらと同じであれば女性のはずです。あとはキラキラって言っていたような……。
女性がキラキラなゲーム……そういえば、お母様は夜会に行くときはキラキラしてました!そうですか!謎が解けましたよ!!
一人でうんうんと納得しているとセラとエネの会話が聞こえます。
「お嬢様、お菓子の前で頷いてらっしゃるけど…」
「お話しされてるんですね!」
「エネ、それはないと思うわ」
「じゃあ、私にくれる分を考えて下さっているに違いありません!」
「……貴女、さっき味見していたじゃない」
「お嬢様のお菓子は美味しいのでたくさん食べても平気です」
「あんなに食べて太らないのが信じられない……」
「えへ☆」
エネのいくら食べても太らないのは、我が家の七不思議でしょう! 他にありませんが。
そして、今日のエネの分はありません。味見しすぎです。
「お嬢様、奥様がお呼びですよ」
「はい、行きます」
セラにお菓子を後で持ってくるように頼み、呼びに来てくれたキィと共にお母様の元へ向かいます。
「今朝作られていたお菓子は、また綺麗ですね」
「ふふ、実はキィのおかげなんですよ?」
「私、ですか?」
思わず足を止めてきょとんと私を見るキィ。ふふふ、最近は頑張って表情を出さないようにしてるのは知っていたので、この表情に満足です♪
「はい。あの、誕生日に見せてもらったキラキラをイメージしたんです」
「あぁ、あれですか」
「とってもキレイでしたから。あれみたいに作りたかったんです」
とは言ってもまだまだです。
「そうですか、では次はもっと長くお見せ出来る様にしないといけませんね」
「楽しみにしてます!」
「あの人たちに邪魔されないようにお願いするためにも練習致しましょう」
「あ、………はい。ガンバリマス」
お互いにと顔を見合わせて苦笑い。
どうやら私には『真実の瞳』というものがあるそうです。キィと出会ったときに発動していたそうですが、その時の記憶は曖昧で…私に加護を与えてくれた精霊さんにも会ったそうなのですが朧げで残念。
『真実の瞳』を自分の意志でコントロール出来る様になれば、姿を見ることが可能らしいので頑張ってます。でも、なかなかうまく出来なくて……。
キィはその精霊さん達と面識があるようでもっと強くなるために稽古?をつけてもらっているそうです。たまに朝からグッタリしているときがあるので心配です。
そんな話をしているとお母様が待っているサロンの前に着きました。扉を開けてもらって一礼。
まだあまり深いカーテシーは出来ないので左足を引き、ドレスの端をもってちょこっと腰を落とします。うぅ、これだけでもぷるぷるします。
「失礼いたします」
「どうぞ、ルゥ」
「はい、お母さま。…っと、お父さま?」
「やあ、ルゥ」
「今日はお休みになったのですか?」
「いや、お仕事中だよ。ルゥとディーを迎えに」
「?」
キョトンとする私に笑顔のお父様と苦笑いのお母様。
「リシー?それじゃあ分かりませんよ」
「ごめんごめん、ルゥのその顔が可愛くて、つい」
「おとーさま。キライ」
「!!ごご、ごめん!るぅ~」
がーん!と固まるお父様。お母様と顔を見合わせ笑います。
あ、向こうでキィが笑いを堪えてる。家令のアーマッドは流石ですね、表情が変わりません。
「じょーだんです」
「どこでそんなの覚えたの…」
「え~と、ヒミツ?」
「……可愛いなぁ、ルゥ」
「~~~!」
がばっとお父様に抱きしめられました。く、くるし……パターン化してる!?
ぱこん! とイイ音が響いた後、体が浮きました。あ、キィだ。助かりますー
お母様、そのトレーって金属製ですよね?
「リシー、いい加減になさいませ。叩きますわよ」
「ってもう叩いたじゃないか?」
「気のせいです。早く用件をおっしゃいまし」
「あー痛かった。用件は午後に魔術院でルゥの魔力判定だ」
「急ですわね」
「あー、すまんな。ちょっと明日から当分の間メンテナンスなんだ。簡易は使用可能だけど、ルゥはちゃんと調べないといけないだろ?」
忘れててさー、あははと笑うお父様にお母様は呆れ顔。
「それで、私も一緒に行く理由は?」
「宰相の息子も一緒なんだ」
「では、ジャスミン姉様も来るのね?」
「そ、向こうからのお誘い」
「じゃすみんねえさま?」
「お母様の従姉妹なのよ、素敵な女性で」
最近会えていないから嬉しいわとほほ笑むお母様の顔だからきっと素晴らしい女性なのでしょう。私もお会いするのワクワクします。
あ、でもお菓子どうしましょう。ゼリーだけどなるべく今日中に食べたほうが美味しいのに……。
「お嬢様、お持ちになったらいかかでしょう?」
「キームン?どういう事?」
「はい、奥様。お嬢様が本日お作りなったお菓子を持参してはいかがでしょう」
私の表情が曇ったのを見逃さないキィがそんな提案をしてくれました。さすがです!
「まあ、それはいい考えね。ルゥちゃん、今日はどんなのを作ったの?」
「きらきらのゼリーです。中にフルーツのジュースで作ったゼリーを入れてあってー」
「素敵。ぜひ、持っていってジャスミン姉様に自慢しましょう」
「おおおお母さま!?」
「うふふ~楽しみね~」
自慢とかは止めてください!おかーさまー
あ、キィ笑ってる!? こうなる事分かってましたね! もー
「軽めの昼食を食べたら出発だな」
「えぇ。じゃあ、ルゥちゃんのドレス選びましょう!」
「え?」
「折角だからおめかししなくちゃ♪」
「いえ、お母様。それは、えっと」
「さあ行くわよ、キームン」
お母様?拒否権なしですか!?
「はい、奥様」
キィ?さっきからいつもよりしっかり捕まえてるな~と思ったらコレですか!
「じゃあ、俺も選ぶの手伝うな」
なんでお父様もノリノリなんですかー
お父様が後の手配よろしくとアーマッドに言付けると皆で移動です。
あぁ、これが噂のドナドナですか……。味方は何処…
あれこれと衣装をとっかえひっかえして決めたら時間が無くなりました。
慌てて昼食を食べ急いで魔術院へ。お父様の《転移》があるのでギリギリセーフです。
あ、ちなみにキィはお留守番です。転移する人数を3人ではなく、合計3人とお父様が間違えたためです。なので、荷物持ちはお父様になりました。
「さあ着いたよ、ルゥ。此処が俺の仕事場、魔術院の館だ」
そう言って魔術院の職員を証明するボルドー色のケープを羽織ったお父様が開けた扉の先は、広いエントランスホールに沢山の人々が働いていました。人間族だけではなくエルフもドワーフもいて、とても賑わっています。
お父様は受付のような所で紐の付いた札を受け取り私とお母様にかけました。職員以外の人の入館証明だそうで失くすと強制的に外に出されてしまうので注意が必要だそうです。ドキドキ。
あ、紐の色が水色でドレスとお揃いみたい……あのとっかえひっかえした衣装選びの結果、私はお母様が選んだアリスブルーの軽やかな生地でできたサマードレス。所々にお花のような飾りがついていて可愛いです。お揃いの靴にも真ん中に花飾りが付いています。
髪は緩めに編み込んでもらってラベンダー色のリボンでまとめてもらいました。キィの力作♪
お母様はアクアグリーンの薄い生地が重なっているまるで水のような感じのドレスでお父様が選びました。らぶらぶです。
来客用のサロンでお母様(とお菓子)と別れたあと、魔力判定の部屋へ向かいます。右へ左へくねくねと廊下を進みます。間違いなく戻れません……絶対にお父様から離れません!
何回曲がったか数え切れず、階段もいくつ過ぎたか――お父様に抱っこされているので睡魔が――眠さのピークになった頃に辿り着いたのは魔術院最奥の部屋でした。
「……めいろ」
「あはは、ルゥにはそう見えたのか」
「ちがうのですか?」
「まあ、迷うように術をかけてあるからな」
実は曲がったのは5回で階段は3階分降りたそうです。これは侵入者対策で常に場所が変化する術がかけてあるそう。職員の階級によって行けるところと行けないところがある。術を構築したお父様には普通の廊下だったそうです。
栗色の古めかしい扉をトントンとノックすると「どうぞ」と声がかかったので中に入ります。
縦に長い部屋の半分から奥側の床一面に中心からびっしりと陣が書いてあります。今まで使っていたのでしょう、薄らと紅く光っています。
お父様と色違いでインディゴのケープを羽織った男性が、それを見て何か書いているようです。
手前を見ると、物書き用の机が2セットと入口近くにはソファーセットが置いてあります。
そのソファーにはお父様より少し年上の、肩くらいの長さのアッシュグレイの髪と琥珀色の瞳にシルバーフレームの眼鏡をかけ、ちょっと気難しそうな男性と、私と同い年くらいのツンツンした金髪でパッチリとした猫のような父親譲りの琥珀色の瞳で意志の強そうな男の子が座っていました。
男の子は私を見るとビックリした顔をした瞬間、素早い動きで横を向いてしまいました。なぜでしょう?
もしかして初対面で嫌われてしまったのでしょうか……悲しいです。
「やあ、リシーハット。その子が噂のルフナちゃんかい?お母さん似で良かったね」
「お前は普通に挨拶ができないのか、ウヴァ」
「心外だな、普通だろ?」
「お前に気遣いを期待した俺が馬鹿だった」
「おや、馬鹿と認めるのかい?」
「おまっ!」
「君の愛しの娘がビックリしてるよ」
「あ…」
私とあの男の子はポカンと男性二人の言葉の応酬を見ていました。ビックリです。私を見たお父様も向こうで記録を取っている男性も固まっています。クスッと一人笑っているのはソファーの男性のみ。
これはどうしたら良いのでしょうか?………とりあえず、初めての方にはご挨拶。基本です。
くいくいとお父様の服を引っ張り、下に降ろしてもらいます。お父様の横に立ち、お母様に教えて頂いた通りにゆっくりと丁寧に一礼します。
「お初にお目にかかります。リシーハット・メルローズ侯爵が長女、ルフナともうします。以後、お見知りおきください」
「ご丁寧にありがとうございます。私はウヴァ・スタッセン。公爵の位を賜っております」
私の挨拶にソファーの男性が立ち上がり胸に手を当て優雅な礼を返してくれました。
「流石、キャンディ嬢の娘だな」
「これじゃ、俺は何も言えないな。ルゥ、上手に出来たな」
「えへへ。ありがとう、お父さま!お母さまもほめてくれるかな?」
「あぁ、絶対に褒めてくれるぞ~」
わわっ!お父様、急に抱き上げるのは止めてください! やめて~といつも様に助けを求めるように周りを見渡すとパチッと男の子と目が合いました。
猫のような琥珀色の瞳を細め、ウヴァ様似の端整な顔を歪めて私を睨む様に見上げています。うぅ、ちょっと怖い。
私がピクッとしたのが分かったお父様が訝しげな顔を向けました。ウヴァ様も何が気づいたようで……ぱしっと男の子の頭を叩いた!?
驚く私達親子と職員さん。あ、お兄さんお疲れ様です。
「って!何すんだ!」
「この愚息。お前は挨拶も出来ないのか」
「今、しようとしてたんだ!!」
「見惚れてたくせに」
「ちがう!」
「リシーハットのファンだものな」
「うっさい!このメガネ!」
「じゃあ、ルフナちゃんかい?」
「それこそないっ!」
「まともな事が言えんのか」
「うがー!」
え~と、私たちはどうしたら良いのでしょう?お父様。え?魔力判定しちゃうのですか?この状況で?そうですか。わかりました。職員のお兄さ~ん!あ、リッジウェイさんですね。はじめまして、よろしくお願いします。いつもお父様がお世話になっております。はい。ここに立っていれば良いんですね。
わぁ~あったかいです~。おぉ!色々な光ですね~。もう終わりですか?はい、結果は後でサロンに持ってきてくれるのですね。楽しみ待ってます♪
「これだからもう少し言葉の勉強をしろと」
「あんたみたいに口先だけにはなりたくない!」
「おや、君は私に勝ったことあったかな?」
「ぜってー勝つ!」
「それこそ口先じゃないと良いがね」
「こっっの!腹黒さいしょー!」
私の判定が終わってもウヴァ様親子の口げんかは終わっていないのですが……お父様、どうしましょう?
リッジウェイ:オリーブ色の髪と瞳の魔術師団副団長。苦労人。