34 ―分からないココロ―
サブタイトルのみ変更しました。6/3
後半別視点有り
お父様とお母様と話をした次の日は念のため様子を見るという事で、また一日中ベッドの上で過ごしました。
セイ様とディン様からはお手紙とガーベラの花束が届き、お二人とも私が目覚めたことに安心したと言う事、また元気になったら会えるかと言う事を書いていただき、嬉しいなと思う反面申し訳なさでいっぱいで、早くご迷惑をかけないようにしなければと心に刻みました。
ニールとキィは同じ家なのでお母様の許可がでて直ぐに来てくれて……ニールは私が眠っていた間、あまり寝られなかったようで私に会いに来た時に私に抱き付いて泣いた後は眠ってしまいお父様に連れられて部屋へ戻っていきました。
キィとはその時に少しだけ話したのですが何か耐えているような泣きそうな表情に私も苦しくなってあまり言葉も出ず、手を伸ばしたいのにそれも出来ず――
「申し訳ありません」
「キィのせいじゃ」
「私が付いていながら……」
「違います」
「……ですが」
「私が……」
――と、そのうちにお母様がいらして呆れ顔で終了させるまでお互いに謝罪していました。他に言いたいことあった気がするのに……。
なんだろう?今までこんな事はなかったのに……。まだ私自身混乱しているのかな。お母様に相談してみたいけれど、なんて相談したらいいのか分からないのでもう少し自分だけで考えてみることにしました。
3日間も寝ていたのにうつらうつらすることが多く――
あぁ、そういえばサエちゃんとの会話を思い出していたような……。
――起きている時間は多くはなかったのですが、その時間の中で『皆様の恋の応援』と『心配をかけないようにしっかりすること』この2つの目標のために何をするかも考えました。
『応援』の方は皆様のお話しを聞いてから考えるとして、もう一つのためにはお母様の様な仕事もできる女性になりたいと思い、魔術師団で適性審査を受けることを相談しようと思います。それから素敵な淑女になることも必須でしょう。
~~~~~~
あれから一週間。
お父様とお母様に魔術師団で適性審査を受けたいことを相談するとそれに関しては考えてくださると言う事で判断待ちです。
私のちょっとした変化はありましたが、特に何事もなく以前よりちょっと忙しくなったくらいに戻りました。忙しくなったのはお母様の淑女教育のレベルアップでしょうか。
この世界では12歳が社交デビュー。そろそろ自覚を持たなければいけませんし、それに違う世界とは言え大人の知識もあります。しっかりして皆様を安心させないと彼らの人生の邪魔になってしまいます。
それは私が私として気をつけなければならないこと。
今までのルフナは彼らの優しさに甘えて近くに居すぎてしまっていた。
ちょっと寂しけれど、一歩離れなければ私のせいで彼らの道を閉ざしてはいけません。
それに……今の私にはそうした方がいいのです。
何故ならば、元気になって朝の支度も普通に始まった時の事。
その日の髪形を整えるのはキィの当番で、彼の手が私の髪を梳かすのを鏡越しに見た瞬間に私の身体が動かなくなってしまったのです。
何故だろうと思いつつも始めてもらい、キィの手が私の肩に触れた時にいつもは肩に触れたくらいで何も感じないのに今日は何故かピクッと肩を竦めてしまいました。
「ルゥ様?」
「ごめんなさい、キィ。ちょっと考え事をしてビックリしてしまったの」
「……そうですか」
「えぇ」
そのおかげで身体は動けるようになったのですが、キィを驚かせてしまったようです。
自分自身に何が起こったのか分からずドキドキしていましたが、意識してにっこりと笑顔を鏡越しのキィに向け「続けてくれる?」と言えました。少しは内心を隠すことが出来るようになったようです。
キィは一瞬眉をひそめましたが、私が笑顔のままでいるので一回目を閉じてからいつもの表情に戻って私の髪を整えてくれました。
その後も食堂に行くためにキィのエスコートをしてもらう時にも何故か手を乗せるのに躊躇してしまってキィも私も何が起こったか分からず不思議な顔でお互いに見つめあってしまいました。
しかし一時的なことではなく、何度もあるので困ってしまうという事がありました。
原因はなんだろうと考えると、あの眠りについた時――〔記憶〕を思い出した時――からどうも私の身体が無意識に反応するようなのです。すべての人に対してではないのですが、身体か勝手に固まってしてしまうようです。 頭と体がリンクしていないような不可解な感覚。意識をちゃんと向けて気を抜かないようにすれば回避できるのですが、以前の行動を無意識にするとダメだったりします。
これは〔私〕のせいなのかそれともルフナなのか……これについては一人で考えてもどうしようもなく、お父様とお母様に相談するとお父様はすぐさま転移でどこかへ飛んで行ってしまいました。
お母様は「そんな時期なのねぇ」と言って、淑女教育の量をさらに増やしました。
何か違うような気がすると思いつつも、あの笑顔のお母様には逆らう事などできません。
何か違うような気がすると思いつつもあの笑顔のお母様には逆らう事などできません。
立ち居振る舞いから手紙の書き方に花言葉を覚えてお茶会の采配や贈り物の仕方……お、覚えきれる気がしません。弱音を吐きそうになりますが、「これも“恋のお手伝い”とルゥちゃんの今の状態に必要なのよ」とお母様に言われてしまえば頑張って覚えざるを得ません。皆様のために出来る事をすると決めたのですから!
新しく覚える中での難関はダンス。今の状態ではパートナーを決めること出来そうにないので保留にしてお母様とパートだけを練習しています。どうにか対策を!とは思うのですが焦ると余計にダメになりそうで、お母様からストップがかかってます。まずは適切な相手との距離を知る事だそうです。
キィとニールと今までのように接することが出来ないのは複雑な感情です。お母様は時間が解決してくれるとは言いますが、私が自分をしっかりとコントロールできないせいで彼らに悲しい顔をさせてしまっているようで苦しくなります。早く何とかしたい。
キィには一番苦労をかけてしまっているのに彼はいつも微笑んでくれて……私は心苦しいのと同じように接してくれて嬉しいという複雑な感情です。早く落ち着いて話が出来るようになってキィを幸せにする方法を見つけたいです。
そんな事がありまして。外に出ることも考えないくらいの毎日ですので良かったのかもしれません。それに勉強に忙しければ彼らに会えないので、悲しい顔をさせなくて済むかもという思いもあります。
それでもやはり出来れば会いたいという思いもあり、今日はニールと一緒にお勉強。キィはお父様に呼ばれているので部屋には私とニールとセラとカイルベッタ。お母様は終わりごろに採点しに来てくれるそうです。
「姉様……あの、大丈夫?」
「大丈夫よ、どうしたの?ニール」
勉強が始まって直ぐにニールに心配されてしまいました。今日はだいぶ落ち着いてきていて顔色も悪くないし普通にニールと接していると思うのですが……セラとカイルベッタの方を見て何か変かしら?と問えば二人とも顔を横に振って否定します。
ニールの方へ視線を戻せばニールは困ったような泣きそうな顔。この表情は珍しいと思えば浮かぶのは会ってから暫くしてからの時の事。段々とメルローズ家に慣れていく途中で彼自身が迷っている時の顔だと思い当たりました。
「ニールは何か迷っているの?」
「姉様?」
「その顔は何か言いたいのを我慢している時だもの」
「……姉様は僕の事分かるんだね」
「そうかしら?きっとお父様もお母様の分かっていらっしゃると思うわ」
「………僕は」
そう言ったきり黙り込んで下を向いてしまうニール。あの時は聞けばすぐに言葉に出していたのに……こんなニールは初めてで、私はどうしていいか分からず今までのように頭を撫でようと手を出そうとしますが……手が上がってくれない。
頭ではニールを抱きしめてあげたいのに身体は動かず、なんと声を出せばいいのかも分からない。
私は本当にニールのことを理解してあげているの?私はニールを守れているの?そんな負の思考に囚われそうになった時、ニールが顔を上げてキュッと口元を引き締めて真剣な表情で私を見ます。
そんなニールの表情は初めてで、ビックリして心臓がドキドキといつもより早い。
「ニール?どう……」
「姉様は僕と一緒にいるのが嫌になったの?」
「そんな事はないわ……どうして?」
「……姉様が倒れてからあまり一緒にいられなくなったから……だから僕のこと」
「ニールを嫌うなんて、そんなことないわ」
「でも……」
「それに、ニールは大切な義弟よ」
「おとうと……」
ニールは優しいからきっと私が心配で……あの時、もしかしたら私はニールの考え方を閉じ込めてしまったの?家族だから一緒の時間をと思ったのはニールを縛り付けただけだった?そうだとしたらニールを私から解放してあげたい。
「お母様に勉強を前より増やしてもらっていたの。ごめんなさい、ちゃんと言えばよかったわ」
「勉強を?なんで?姉様、頑張っていたのに増やすなんて……」
「このままじゃダメだと分かったの。私は皆様に……ニールにも心配かけてばかりで」
「姉様?それは……」
「ニールが私の事を気にかけてくれて嬉しい。でも、ニールはニールの好きなことをしても良いのよ」
「……ねえ、さま?」
「無理に私に合わせなくても良いの」
「……無理じゃない。僕は姉様とずっと一緒にいたいだけなのに……」
「ニール?……あの、」
泣きそうにに胸を押さえてまた俯いてしまったニールに更に私の頭は混乱します。
なんと声をかけて良いのか分からず、助けを求めるようにセラとカイルベッタの方を見ますが二人は何故か苦笑い。
どういう事か彼らに聞こうと声を出す前にニールがパッと顔を上げて私を見ます。その顔は何か決意した表情。
「分かった。姉様が頑張るのなら僕も頑張る」
「えっと、ニール?貴方は十分頑張っていると思うわ」
「ううん、姉様。僕は姉様が大好きだから一緒にいられるようにする」
「ニールは私と一緒が良いの?」
「うん、でも今は一緒じゃダメだってわかった。だから僕は今できる事をするね」
「ニールのできる事?」
「そうだよ姉様。だから少しの間一緒に居られないと思うけど待っててくださいね」
「えぇ、それは構わないわ。ニールの好きなことをしてね。でもどういう……」
「父様に聞いてからだけど、ちょっと思いついた事があるから」
「……そうなの?でも、ニール自身が考えたことなら応援するわ」
「ありがとう、姉様。僕、頑張ります」
「私も頑張るわ。でもニール、私の事を大好きって言ってくれるのは嬉しいけれどそれはあまり言ってはダメよ」
「なんでですか?」
「だってニールに好きな人が出来たら、私は怒られてしまうわ」
「???そんな事ありませんよ」
「そうかしら?」
「はい!」
今日初めての満面の笑みのニール。やっぱりニールには笑っていて欲しい。そうね、政略結婚以外でニールの選ぶ女性ならきっと穏やかそうな人でしょう。ニールはどんな女性を選ぶのかしら。そうしたら妹が出来るのね!楽しみ。
そう考えると私にも自然と笑顔が出てニールにも「姉様が笑ってくれた」と言われてしまいました。私の淑女への道はまだまだみたいです。
「僕、父様にさっそく相談してきます!」
とニールはカイルベッタと共に部屋から飛び出していきました。ニールはディン様とよく一緒に行動しているとも聞いていますからちょっと行動力が似てきたかもしれませんね。そう思ってふふっと笑うとセラも微笑んでくれます。
「ニルギリ様も大変ですね」
「そうですね、私も負けないようにしないと」
「……」
「セラ?」
「いえ、私もお手伝い致します」
「ありがとう!」
ニールがしたい事……その内容は分かりませんでしたが、彼は次の日から二週間ほど彼の本当の両親の父、前テトレー公のところへ行きました。お父様はニールのやる気に嬉しいような複雑な気分だそうです。お母様は笑顔で何も語ってはくれませんでした。
私は彼の応援は出来たのでしょうか。そうだと良いなと思う反面、この事が影響を及ぼしてしまったのではないかとの不安がどうしても拭えなくてチクリと胸に刺さりました。
―― side Nilgiri ――
――大好きなんだ とっても
キームンに抱きかかえられた姉様が気を失って眠ったままになった。
お父さまとお母さまがいなくなった時と同じ……それ以上の恐怖を感じた。
あの時みたいに眠れなくて、姉様が起きたと聞いた時は嬉しくてすぐ会いに行った。
姉様はいつもみたいに微笑んでくれていて思わず抱き付いてわんわん泣いた。
泣きながらそのまま寝てしまったみたいだけど……姉様に抱き付いた時、いつもなら直ぐに抱き返してくれるのに一瞬姉様はビクッと固まった気がした。その時はちょっとした違和感だった。
次の日から姉様は男性……特に僕とキームンが触れた時にたまに一瞬硬直するようになった。姉様自身が不思議がっているようで僕らにはどうすることもできない。
父様から僕らには姉様に急に近づかないように言われた。母様が姉さまは淑女教育の一環でそういう状態だと言われたけど違うと思った。
姉様にあの時何かが起こったんだ。それを姉様も父様も母様も隠してる。
姉様に相談してもらえないのは僕が頼りないからで……もしかしたら嫌われてしまったのかもと落ち込んで苦しくて……
聞きたくても聞けない。聞いたら姉さまは困ってしまう。
そんな僕の様子を姉様はすぐに分かってくれて……姉様の心の中の事はまだ聞けなかったけれど、姉様に嫌われていないとわかって安心した。
でも“おとうと”と言われて……家族なのだから嬉しいはずなのに嫌だと思った。
僕の事を考えてくれて、僕を守りたいと思ってくれる人。
だから僕は僕自身を見て欲しいと思ってしまった。
姉様は……ううん、ルフナちゃんは僕に色をくれた守りたい大切な人
ずっと一緒にいたい大好きな女性
彼女の隣に立ちたい。誰にも負けたくないと。
そのためにどうしたら良いのか考えて……前に父様に言われたことを思い出した。
うん、この方法ならきっと僕は彼女の傍にいられる方法が出来る。
そうと決まったら父様に相談してお祖父様の所へ行かなくちゃ!
姉様と少しの間会えないのは寂しいけれど負けたくないから我慢する。
姉様、姉様。大好きなんだ。
君が何に悩んで怖がってるのかは分からない。
支えられるような人になるから。
だから、待っててね。
――そう言えば、僕が大好きって言うのは姉様しかいないの気付いていないのかな?
いつも読んでくださってありがとうございます。
オマケ
夜休憩のセラとカイルベッタとエネ
「お嬢様、これから大変だわ」
「なー」
「どうしたの?セラさん、カイルベッタ」
「エネはいなかったもんな。昼間さ、ニルギリ様がある意味お嬢に告白」
「えぇ~~~!」
「静かに!でもあの分だとお嬢様は全然気が付いていないわね」
「ホント。でもまあ、お嬢だし」
「お嬢様ですし」
「ちょぉっと!二人だけでズルい!」
「あはは。オレとしてはニルギリ様に頑張って欲しいケド」
「カイルベッタはそうでしょうね。私はキームンに頑張って欲しいけど」
「同僚のよしみってヤツ?」
「そういう訳じゃないけど……う~ん、空気感がね」
「「空気感?」」
「お嬢様とキームンがいる時の空気感って好きなのよ」
「確かになんか癒される気がする」
「そんなもんか? ま、究極はどっちでも良いかな」
「そうね、お嬢様が家にいてくれれば」
「ね~お嬢様のお菓子♪」
「こら!」
ルフナは胃袋掌握済み(笑)




