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私、乙女ゲームしたことないんですけど?【連載版】  作者: たばさ
彼らとのこれから
34/41

33 ―とまどい― 

大変遅くなりました。


 ふっと意識が浮上し――長い夢を見ていたような――目を覚ますと月が差し込んでいる窓が見え、うす暗い室内を見渡せば自室と言う事が分かりました。


 何で寝ているんだろう…ニールと本を読むって言ってたはずなのに。ううん、読めなかったんだ。皆様と話をしていて倒れて――あの時。意識を失う前にぐるぐると廻る思考の中で一瞬、暖かいものを感じて――思い出したんだ、〔私〕のこと。


 〔私〕の最後。ステラとの会話。


 でも、ほとんど思い出したはずでスッキリするはずなのに残る違和感。ある一定以上前の過去が霞みがかっているみたい。ステラは徐々にと言っていたから今回のでもまだ全てではないのかもしれない。


 この世界はサエちゃんが〔私〕に貸してくれた『魔法』『精霊』『紅茶由来の名前』の“乙女ゲーム”と同じような似た世界。内容を知る事は出来なかった。


 魔法…魔術はある。私が全属性使えるのもステラのおかげなんだよね。ディン様に申し訳ない気がする。


 精霊はキィとか私に加護を与えてくれた精霊の事かな。見られるように練習と言っていたのは〔瞳〕の事でしょうね。


 紅茶由来の名前と言うのは元の世界の紅茶の名前。



 私は“乙女ゲーム”というものを結局しなかったから良く解らないけれど、サエちゃんがたまに話してくれたから恋愛するゲームって言うのは知ってる。攻略対象者って言ってたかな、男性と仲良くなっていく話らしい。


 攻略対象者と仲良くなればいいの?――今までは全然気にならなかったのに……この世界のお茶には“紅茶”という一種類しかなかった――たぶんそれがサエちゃんの言っていた登場人物達のことだよね。そうなると私の周りにいる人たちは、ほとんどそう言った名前。茶葉の名前だったり産地だったり……私の名前もそうだ。

 サエちゃんが言ったのは『カッコ良くて可愛い子』。私が知っている人たちならば彼らしかいない。


 そう考えるけど、何か違うような気もする。そもそも“主人公”と言う存在はいるの?


 それに“ルフナ”はどんな役割なのだろう……。

 主人公?主人公のお友達?ライバルみたいな子もいるって言ってたからそっちなのかな?

 ああいうゲームって主人公の名前はあるんだっけ?もっとちゃんと話を聞いておけばよかった。


 “主人公”となるべき人がいたら彼らは私の前からいなくなってしまうの?

 それよりも私がみんなの未来を変えてしまっていたら?


 誰かに相談したいけど、こんなこと言っても信じてもらえない。



 ――胸が苦しい――



 ステラの言う“同じような似た世界”というのはどこまでが同じ?それとも違うの?あるRPGだと、流れのどこかで道の分かれたパラレルワールドって言うのもあったけど。比較対象が分からないから難しい。



 考え始めると、どんどん嫌なことが浮かんでくる。


 皆様が私に優しい理由は?役割があるから?

 そうじゃないと思う気持ちとそうかもしれないとも思いがぶつかる。


 セイ様が私に会いたいと言ってくれるのも、ディン様が笑いかけてくれるのも、ニールが慕ってくれるのもキィが側にいてくれるのも、全部そうだったらと思うと苦しくなる。


 ……でもそれを嫌だと思うのは私のワガママだ。


 だって彼らには彼らの生き方があるはずで。彼らの自身の想いで誰かを好きになるのなら私は止めてはいけない。私は応援したいと思う。ううん、応援しなきゃ!今まで優しくしてくれたのだもの。 彼らに返さなきゃ。

 彼らが幸せになった後でなら解るのかな。


 サエちゃんの言う“恋”という気持ち。


 なんで今だったんだろう。〔記憶〕があるのは気にしていなかったはずなのに、思い出したいとさえ願っていたはずなのに……今は怖くてしかたがない。

 あの時は楽しみたいと思ったし、頑張りたいと思うのに迷ってばっかり。


 私はこのままここに居ていいのだろうか。もしかしたら私は“ルフナ”の運命を変えてしまった?


 そう考えると恐ろしくなる。お父様とお母様に何て言ったらいいのだろう。



――ステラから受け取ったあの言葉を言うべきなんだろうか――



「どうしよう……」



――カチャリ


 私の部屋のドアが開く音がして、誰だろうとドアの方を見れば――



「ルゥちゃん!」」

 入って来たのはお母様で私を見るなり慌てて――いつもは走る事などないのに――ベッドまで来て私を離さないようにするかのようにぎゅうぎゅうと抱きしめます。その暖かさにホッとして私もお母様を抱き返します。じわりと涙が出そうになるのは耐えられそうにない。


「ルゥちゃん、良かった。目が覚めたのね」

「お母様……あの、私」

 お母様の声が震えてる?でもだんだんと抱きしめる力が強くなってきてこのままではまた気絶すると思い、合図をして緩めてもらいました。ベッド際に座ったお母様を見上げれば――お母様が目に涙を溜めていました。


「ルゥちゃん、本当に良かったわ。三日間も目覚めなくて……」

「三日間も、ですか?」

 そうよ。と言ったお母様の説明によると、キィに抱き上げられると急に気を失ったそうです。慌ててお母様が診てもただ眠っているような状態で何もできなかったそう。何も摂取出来ないので、定期的にお母様が〈癒しの光(アルブス・アージェ)〉をかけて体力が落ちないようにしてくださったという事だそうです。そして先程、夜の検診をしようと部屋の前に着いたら私の声が聞こえ、慌てて入ったら私が起きていたということ。


 お母様の話が終わると同時にドアが開いてお父様が息を切らせて入ってきました。お母様が〈魔術通信(フルム・テリル)〉ですぐに伝えたようです。扉の向こうには心配そうなキィやセラが見えますが、お父様が何か言った後に一礼して去って行きました。


 扉が閉まる寸前にキィがもう一度こちらを振り返った時。泣きそうな顔をしていたのを見て、何か言いたかったのに苦しさに声が出ませんでした。いつもなら一言だけでも言えるのに……どうして。



 私の表情が硬いのに気付いたお父様が苦笑いを浮かべながら優しく頭を撫でてくれて、その暖かさにホッとしてぎこちなくではありますが笑顔を向けることが出来ました。


「身体はどうだい?」

「はい、大丈夫です」

 お母様が私の身体を一通り見たと聞いたお父様はベッドの側の椅子に座って「良かった」と息を吐いて、やっと微笑んでくれました。


「ご心配をおかけしました」

「ルゥは悪くないから気にするな」

「でも……」

「私も油断していたわ……いいえ、考えないようにしていたのかもしれないわね」

 最近は起こっていなかったから。と言うお母様に疑問が浮かびます。


「お母様?」

「ねぇ、ルゥちゃん。もしかして、何か思い出したの?」

「え?」

 お母様は今なんて?私が思い出すことを知っているの?呼吸もできないくらい固まってしまった私にお母様は苦笑いを浮かべて背中を優しくぽんぽんと叩いて落ち着かせてくれます。


「おかあ、さま……わた、し」

「大丈夫よ、ルゥちゃん。貴女は私とリシーの娘よ。誰が何と言おうとね」

「おかあさま?」

「そうだ、たとえ生まれ持って誰かの記憶があろうともその人物を含めて“ルフナ”だ」

「おとうさま? それは……」

 お父様は私を安心させるように微笑んで、お母様は私をそっと抱きしめてくれて。

 胸がキュッとなる。


「そうだな……ルゥが4歳くらいになるまでかな。ルゥはよく話をしてくれたんだ『あのこは大丈夫?』『さえちゃんはどこ?』って言ってたかな。あとは絵本のこと、お菓子のこと。それから……自分は『ニホンジンで亡くなっている』ってね」 

 小さい頃にそんな事を言っていたなんて知らなかった……もしかして、みんな知っているの?

 困惑している表情で察したのかお母様は抱きしめる力を少し強めて大丈夫よと囁きます。


「知っているのは私とリシーだけよ。使用人達は知らないわ。もちろんキームンも。彼が来る前の事だもの。それにルゥちゃんがその話をしたのは寝込んで目覚めた後だけ。私はルゥちゃんのお母様で医療部なのよ?看病は絶対に譲らないわ」

 うふふ~と私へ頬ずりします。お母様、ちょっと恥ずかしいですよ~


「あとはルゥちゃん自身が決めたのでしょう。お菓子の事しか言わなくなったわ。気付いてる?」

 と言われ頷きます。確かに私はお菓子の事は話しても自身の記憶は両親にもキィにもセラにも言っていません。言いたくなかった。中身が30歳を超えているなんて言っても信じてもらえないでしょうし、未熟ってことも分かっています。……ちょっと自滅。


「だから安心していいからな。もし今回思い出したのが“ニホンジンの記憶”でもなんでもルゥが娘であることは変わりない。……まあ一番最初は戸惑ったけどな。でも別にイイかなって」

 そんなうなだれる私の頭をぐりぐりと撫でながらお父様はちょっと笑いつつ言います。


「でも、もしかしたら……」


――本当のルフナがいたかもしれないのに―― その言葉を発する前にお母様に止められます。


「ルゥちゃんに本物も偽物もないわ。ここにいるのが私達の娘。ルフナ・メルローズなの」

(ルフナ)を受け入れない親とでも思ったか?」

「そんなことっ!」

「そうだろ。だからルゥも自分を受け入れてやれ。過去も今も未来も誰のでもない。全部お前のだ」

 私の頭をくしゃっと撫でてニカっと笑うお父様。嬉しいのに何も言えなくて涙が溢れて来て止まらなくて。お母様に抱き付き直せばまたギュッと抱きしめてくれて。


「お父様、お母様。ごめんなさい、ありがとう。大好きです!」


―――泣きながらだったからうまく伝わったか分からないけれど。




 ひとしきり泣いた後にお母様が今日は特別よと〈癒しの光〉で腫れた目を治してくれて。いつの間にかお父様が用意してくれたあったかい蜂蜜ミルクを飲んで少し心が落ち着いた気がします。



 それから、私が今回思い出した〔私〕のこと、〔サエちゃん〕とのこと。話しながら言いよどむ私にお母様は「言える時に言ってくれれば嬉しいわ」と猶予をくれたので、私自身がまだ消化できていないゲームの話とステラの事と……恋愛感情について?は言えませんでした。いつかちゃんと言えるようにしたいです。


 そして、私が気を失う前にあの温室であったことを聞かれて……東国のお花の話とお菓子の話をしたら、セイ様に「隣にいて」、ディン様に「見ていて」と言われたこと。ニールには「一緒にいてね」キィはいつも言われている「お守りします」と4人に囲まれて言われたことを説明しました。


 話す度にだんだんとお父様の表情が固まっていき……私が話しえると無表情?になってしまい、「そうかそうか、じゃあお父様出掛けてくるなー」と言ってそのままどこかへ転移していってしまいました。もう夜中に近いのにどこへ?

 訳がわからずお母様を見上げればにこにことしています。


「あらあら、困ったわねぇ。迷惑をかけていなければいいのだけれど」

「お母様はお父様がどこへ行ったのかご存知ですか?」

「うふふ、そうね。でもルゥちゃんは気にしなくていいのよ、大人の話だから」

「そうなのですか?」

 少々釈然としないものもありますが、この笑顔のお母様には何を言っても答えてくれないでしょう。




「それで、ルゥちゃんはどう思ったの?」

「え?どういう意味ですか、お母様」

「4人から一緒にいて欲しいと言われたでしょう」

「一緒に……」



 ……あの時の私は慌てていて、4人から急に言われてさらに混乱して


――それだけだった?――


 今考えてみると……どうして皆様は私にあんな事を言われたのでしょうか?

 遠くに行こうとする私を心配して? そうかもしれない。わたしは自分一人では何もできない。いつも助けてもらってばかりで、迷惑をかけて……皆様が心配になるのは仕方ないですよね。心配してもらえるのは嬉しいけれど、これじゃあ皆様の負担になってしまう。私は強くなりたいと皆を守りたいと笑顔にしたいと決めたはずなのに……。私に何ができるのだろう。


 それに記憶が戻った私にはあの言葉はお母様の言う意味じゃないとそう思う方が強い。だから――



「……そうなのでしょうか。でも皆様といるのは幸せです。いつも楽しい気持ちにしてくれますし」

「えっと、ルゥちゃん?」


 そうです。やっぱり私は皆様に今まで幸せにしてもらったお返しをしたい。きっと優しい彼らは好きな人が出来ても私とはお友達ではいてくれるでしょう。魔術師団団長の娘という価値はありますし。

 サエちゃんのように皆様の恋のお手伝いをすればきっと私にも“人を好きになること”が解るようになるかもしれません。


 さっきお父様に言われた〔私〕を受け入れる。……不安ばかりで踏み出せなくて留まることを選択していた〔私〕なら無理だったかもしれない。でも“ルフナ”としてこれまで生きてきた私なら時間はかかるかもしれないけど大丈夫だろう。ルフナ(わたし)は踏み出せることを知っているから。今はまだちょっと怖いけど、皆様を守りたい気持ちと皆様の役に立ちたいと思う気持ちに嘘はないから。


 この世界での私の役割はまだ分からないけれど、ルフナ(わたし)ができる事を見つけよう。

 そのために――


「お母様!私、皆様の恋のお手伝いをしたいと思います!」

「どうして!?」

「私、がんばります!」



 自分の考えに浸っていた私は「淑女教育のやり直し……いえ、強化しないとダメね!」と決意するお母様の言葉を聞きのがし、次の日から厳しくなると言う事には気づきませんでした。




いつも読んでくださってありがとうございます。



この後の展開を決めたはずなのに迷いまして、変更したら修正に時間がかかり更新が遅れました。

未熟で申し訳ないです。


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