27 ―騎士たちと姫と魔女?―(後編)
お待たせしました!
またもや視点変更多数あります。
―― side Nilgiri
セイロン様達の方も馬車を妨害する人たちの無力化、排除は終わったみたい。次は植物園の方へ向かうと連絡があった。キームンはセイロン様とあまり連絡を取りたがらない。苦手らしい。僕は結構似てるから仲良くなれると思うのだけれど……出会った時に何かあったのかな?
それにしても結構な人数がいた。僕たちのほうで28人。セイロン様たちの方は37人。向こうのは数が多かったみたいだけど魔術師はいなかったみたい。こっちには2人いたけどキームンが瞬殺状態。
僕も何人か眠らせたりしたけれど、彼との実力の差を思い知った。とても速くて正確で……彼が今まで僕に対してかなり手加減してくれていたのが分かって、ちょっと気分が沈む。
「ニルギリ様」
「なに?」
キームンに話しかけられてちょっと悔しかったから固い声になった。気付かれたよね、今は落ち込んでいる時間はないのに……。
「魔術は流れを見て覚えるのも一つの勉強ですよ」
「え?」
「発動までの流れを意識して反復するのも上達の一歩です」
「キームン?」
「お嬢様も最初は苦労なさっていましたよ。コントロールが苦手で…ニルギリの方がお上手ですよ」
お嬢様には秘密にしてくださいね、と笑うキームン。そんな事言われたら頑張るしかないよ。
ずるい、カッコイイな。僕もああなりたい。ううん、超えてみせる。
姉様のために頑張るって決めたから!
「次は何処へ行けばいいの?」
「もうすぐ目的の通りのようですので、私達は店をまわって確認ですね」
また屋根の上を移動する。その時、姉様の乗った馬車が見えた。
〈遠見〉を使用してちょっと様子を見てみると、揺れるカーテンの隙間から笑顔の姉様が見えた。ちらりとアル様の視線がこっちに向いたような気がするけれど、かなり距離は離れているから大丈夫だと思う。
今のところは順調だけどこの後の方が大変。気を引き締め直してさっきより速度を上げて目的地へ向かう。
姉様が行く予定の小物屋さんもお菓子屋さんも姉様が好きそうなお店で、アル様の趣味の良さが分かって複雑な気分。あ、このリボン姉様に似合いそう……。キームンに買って良いか聞いたら「大丈夫ですよ」と許可がでて、実は生まれて初めての買い物。
お店の人に「お兄さんとお買い物?」って言われてキームンと二人で苦笑い。色は違うけれど同じようなベストにズボンで帽子も被ってるし、髪色も僕が濃紺で彼は黒髪だから店内では同じに見えたのかも。悪戯心で「兄さまー」って言った時のキームンは複雑な顔だった。そう言えば彼の家族の話は聞いたことがなかったことを思い出した。気まずい雰囲気になりかけたけどキームンが帽子ごしだったけど、頭を撫でてくれてちょっと泣きたくなったのは内緒。
それからはまた気持ちを切り替えて行動を開始する。
予想通りと言うか何と言うか……どちらのお店の裏道にも所謂ゴロツキさんと呼ばれる人がいた。僕はまだ貴族の事とか全ては習ってないけれど……ただの逆恨みでこんなのはヒドイ。姉様が何をしたっていうの?自分でしたことを姉様のせいにするのは許せない!
キームンのアドバイスでさっきより効率よく魔術が使えるようになった気がする。
相手は10人前後。気付かれないように相手の足元に水を這わせる。そこへキームンが土に干渉して底なし沼のようにする。もう一店の裏道のゴロツキさんたちにも同じことをして、まとめてディン様から預かった捕獲用の魔術具を発動させて檻の中へ。
ふぅ、これでここは終わりかな?キームンに確認を取れば肯定の返事。セイロン様と連絡をとればあちらは植物園での掃除が終わって公園に向かうとのこと。……掃除。これはきっとディン様が言ったんだろうな~。
そうなると僕たちは最後の仕上げ。あの貴族の屋敷に向かってカフェを襲うであろう人たちのお掃除。キームンに連絡の内容を伝えて移動開始。
今頃は髪飾りを見ているかな~と姉様に買ったプレゼントの包みを落とさないように手を当てて、キームンと共にまたまた屋根の上を飛ぶ。
―――通りにある木にとまっていた榛色の小鳥が碧緑の瞳で僕たちをジッと見つめていたのには僕もキームンも気づいていなかった。
―― side Ceylon
ニルギリからの向こうに魔術師がいたと連絡を受けた。あの貴族の私兵のなかにいる魔術師で、警備を除いて動かせるのは精々10人前後だろう。となると、ここから相手をするのは多くて8人は見積もっていないといけない。
……女の子一人に対しては多いが“エディアール”に対しては少ないくらいだろう。あの人物は、本当に分かっているんだろうか?あの時、どんな人達を敵にまわしたかを。
それに今回、悔しいけれど彼女の側にいるのは“アールグレイ・ディルマ”だ。魔術師10人程度でどうにかなると思っているのなら本当に人を見る目がないとしか言えないね。
「おーい、セイ。早く入ろうぜ」
「あ、ああ。ごめん、行こうって植物園に入るつもり?」
植物園の入場チケットをひらひらと揺らしながら私を見る従兄弟殿は、たまに考えが読めない。
「そうだけど?」
「ディン……理由は?」
「外の奴らは退場してもらったけど、中はまだだろ?」
「中? 他の貴族や平民もいるのに?」
人目があるところで行動を起こすとは思わないのだが……。
「ずっと裏でコソコソしてたから、そろそろ表立って行動してくるハズなんだ」
悔しいけどアル兄から教わったことって結構当たってるんだと苦虫を噛み潰したようなディンに驚く。なんだ、毛嫌いしてる割にはちゃんと尊敬してるんだ。思わず笑うと「なんだよー」を怒っているか照れているのか顔の赤いディン。
「ま、まあとにかく行って何にもなければ次に行くってことで!」
「そうだね……今回はディンで我慢するよ」
「オレだって!」
ひとしきり笑った後に一人ずつ植物園に入る。「彼女と待ち合わせかい?」と聞かれて「偵察なんです」と答えたら割引券を貰ってしまった。これなら次回は誘いやすいかもと思いながらディンと合流して辺りを探る。
やはりアールグレイと言うか、ディンの言った通りに中には例の私兵が20人ほどそのうち魔術師は5人。よくもまあこれだけのことをする。と怒りよりも関心を覚えるよ。
ディンの〈認識阻害〉で気付かれないように数人ずつ確実に無力化していく。鮮やかに舞うディンに、もしかしたら今戦ったら負けるかもしれないと危機感が募る。
幸い、実力を確かめる機会はすぐにある。焦る気持ちに蓋をして目の前のことを片付けよう。
「は~“掃除”、完了だな!」
「掃除って……はは、確かにそうかもね」
「だろ~ルゥには綺麗な花を見て欲しいからな♪」
「そうだね……」
次は一緒に来たいなと思いながら、彼女が来る前に植物園から出て次に向かう予定の公園へディンと共に風に乗る。
ニルギリから連絡が来て立ち止まった時、眼下に彼女たちが乗った馬車が反対方向へ向かうのが見えた。ちゃんと見ていればその馬車に榛色の小鳥が止まったのを確認できていたのに――。
―― side Dimbula
セイ受けたニルギリから連絡であっちは最後の仕上げだそうだ。ホントは向こうで暴れたかったけど、公爵子息と王子様じゃ万が一バレたら拙いからな。まあ、今回はキームンに譲っとかないとな~。
公園に着く前にセイとちょっと早めの昼ご飯。適当な露店で買った具を挟んだパンは結構旨かった。セイは初めての味に感動してたっぽい。でも食べ終わった後にボーっとしてから『ルゥと食べたかったな』とか思ってるんだろう。オレもそう思ってるし。
口には出さないけどな。
食べ終わってちょっと休憩したら、行動開始!
付加で聴覚・視覚・魔力感知の精度を上げて公園内をぐるりと視る。おー、いるいる雇われたっぽい人相悪いのに私兵もちらほら。
……全部で26ってとこだな。今のところ魔術師の気配はないが、向こうに〈認識阻害〉を使うレベルがいたら分からない。とりあえずセイにも注意しておいて動き始める。
セイの風《ウィリ》で動きを止めてオレの〈雷電の幕〉で数人まとめて意識を刈り取る。10人くらいまとめて魔術具の檻にご案内。
あっけなく終わることに何か引っかかる。セイに相談しようと視線を向ければ同じことを思っていたようで全体が見通せる位置に移動する。
二人とも帽子を目深に被り直してベンチに座る。セイもオレもちょっと良い家の町の子供の格好をしているから大丈夫だろう。髪の色は目立つから帽子に入れた。ちょっと暑い。
「これで終わりだと思う?」
「うんにゃ、魔術師がいないのが変だ。絶対に隠れてる」
「もういないとか、残りは全員向こうにいるってことは?」
「ないね。さっきココにいた奴ら全員捕らえただろ?だからタイミングを待ってると思う」
「タイミング?」
「たぶんだけど、さっきのでこっちの油断を誘ってるんだと思う」
だから我慢勝負だと言うと納得したのか頷いたセイ。やっぱ飲み込み早いなー。負けてらんないな!
セイと分かれてルゥの気配が近くなるまでお互いが常に把握できることを条件に公園の周りや近くの屋台を調べていく。あ、向こう側でセイがなんか買ってるのかなー。なんだろ。こんな時だけどせっかくの城下だもんな、オレもなんか買おうか……。
色々と警戒は怠らないようにしながら店を見てまわるとルゥが好きそうな可愛い小瓶が売っていた。話を聞くとここに好きな香りを入れて楽しむらしい。買おうかと思ったけど、また立ち回りするかもしれないから諦めた。というより彼女と一緒に来て選んだ方がきっと楽しいと思うから。
時間があるか分からなかったけど、後で食べてもイイやと思ってオレンジを買ってセイと合流した。
「セイ、何買ったんだ?」
「買ってないよ。買おうとは思ったのだけれど、壊れても嫌だし……」
「「ルゥと一緒に見てまわりたい!」」
だろ?と言うと驚いた顔のセイ。たまには考えが読めるんだぜ!はっはっはー
「オレもさー。イイなって思ったのがあったけど買わなかった」
「でも、何か持ってるけど?」
ほいっと渡すと「たべもの……」と呆れ顔のセイ。オイこらどういうことだとジト目で睨めば、ごめんと苦笑いを返してくる。
「旨かったから。セイにも食べさせようと思ったになー」
残念だと取り上げようとすれば躱された。「返せ!」「え?くれたんでしょう」「あげてない」「いただきます。あ、本当に美味しい」「だろーって返せっ!」
やっとのことで紙袋を取り返せば3個あった残りは1個。あれ?1個おかしくないか?とセイを見ればその手にオレンジ。お前なー
そんな事をしていたらルゥが近くに来たことを知らせる反応がイヤーカフスから響く。慌てて、でも変にならないようにセイと共にベンチの近くで目立たない、でもすぐに動ける場所に移動する。
公園にルゥとアル兄が入って来て、ベンチに座ったと思ったらルゥを一人にしてアル兄が離れた。ちょっと待てと飛び出そうとするオレをセイの手が止める。なんでと思った瞬間、魔術師特有に気配が引っかかった。辺りを見回せば何時の間にかルゥに近づいて話す男性……アレだ!
聴覚を最大限に上げて聞けば道案内を頼む男性に答えるルゥ。なんでそんな奴に親切にするんだ!と勝手な怒りを押しと止め、セイに合図をしたら風を起こして欲しいと頼む。
ルゥが下を向いて何か書き始めたと同時に敵に向かって走り出し、セイに合図を送る。セイが殺傷能力のない、でも強風をルゥの周りに起こしたタイミングで奴を蹴り上げて風に乗る。そのまま最後の魔術具で拘束して下に戻る。セイに少しの間弱めの風を起こしたままにしておいてもらって、急いでオレンジのはいった紙袋に手を伸ばす。セイ訝しげに見ていたがオレの意図が分かったらしく笑ってた。しょうがないだろ、こうでもしなきゃルゥは探しに動いていまうと思うから。
紙袋を破いてオレンジの皮で文字を書く。その後は〈点火〉で炙り……。
セイに風を弱めてもらってメッセージを書いた紙を落とす。
アル兄が戻ってきたのを茂みの間から確認してセイとキームンとニルギリのいる方へ向かう。聴覚を上げたままだったから聞こえてきたルゥの不思議な出来事の説明にホッとして、アル兄の笑い声にムカついた。隣のセイも聞いていたらしく、堪えてたみたいだけど……笑ってるのバレバレだからな!!
あーもう!!
―― side Keemun
眼下に見えるのはあの貴族の屋敷。さすがに中に踏み込んで――と事を大きくするのは不味いでしょうね。
そろそろ自身の私兵や雇った者達が何も手出し出来なかった事が伝わることでしょう……。あぁ、ヒトは変わらないのか。と暗い笑みを浮かべる私を不思議そうに見上げるニルギリ様には苦笑いを返しておきます。
殿下達は公園にいた者たちを“掃除”したそうですが、どうやら隠れているネズミがいるようでそのまま様子を見るとのこと。こちらを譲っていただいたのですから、ルゥを守るのをお願いしましょう。
さて、どうしましょうか……。
「ニルギリ様、申し訳ありません。この場は私一人に任せていただけませんか」
「キームン?それは……」
「貴方様が足手まといと言う事ではありません。ただ、個人的に仕返ししたいのです」
そう言えば複雑そうな顔をしながらも頷き返してくれました。
続々とでてくる者たちを見おろし、全員が出終わったところでニルギリ様に動かないようにお願いして、彼らの向かう先の少し開けた場所に降ります。先の道へ進むには邪魔に位置に立って“掃除”するべき者が全員視界に入った段階で紡いでいた魔力を解放し無力化します。
この魔術は“ヒト”が対象のためあまり使いたくはないのですが、人数も多く時間も惜しかったので仕方ありません。例の魔術具で全員を檻に入れると、ニルギリ様からあちらもどうやら終わったとのことなので合流地点へ向かいます。
落ち合った場所はルゥ達が最後に来るはずのカフェの近くの路地。御二方とも無傷の様で、流石は見習いの中でのトップと言ったところでしょうか。
どっと疲れが襲ってきたようで私も含め4人とも疲れた顔。
穏やかな天気に小鳥の声も聞こえて、先程とは違う世界にいるよな気がするようです。
ふと上を見上げたディンブラ様が「みんなそのまま表情変えずに聞いてくれ」と真剣な声を発します。訝しく思いながらも私達は彼の言う通りにします。
「えーと、セイとニルギリが動くとバレるな。キームン、あそこに…あの青い屋根の店の隣の気に小鳥が見える?」
その声にチラッと見れば榛色の小鳥が碧緑の瞳でこちらを見ているような―――そういう事か!
ディンブラ様に理解したことを告げて、3人に何か話し合っているような体制になってもらます。私は何か買いに行くように彼らから離れ小鳥に死角へ。小鳥に今の光景がそのままになるように幻術をかけて急いで3人に合図して移動します。
移動途中の情報交換の中で分かったのはどうやらこれは、やはり全て“アールグレイ・ディルマ”に仕組まれたという事。しかも課題付きで。殿下が言うには『どう動くか、どう対処するか、どう終わらせる』か。
失敗しても何らかのフォローがあり、それから見習い3人の試験も含まれているのでは。という事。
よく考えれば魔術具で捕らえた者を騎士団か魔術師団が回収にくるなんて出過ぎていた。
たぶんこれは……かなり前から計画された物だ。『花祭り』の事がなくとも実行されていたのだろう。ルゥが動けば私達4人が動くと分かって。
いったい、いつから始まっていたのか……。
あの魔術具もディンブラ様が使えるようにしてあったのだろうし、殿下があの貴族の事を調べるのも。そして私が暴走しないようにニルギリ様をストッパーにし、ルゥは安全だと精霊の気配を認知させた。
全部が全部、彼の手の中だった。
「くそー全部アル兄かよっ!」
「まいったね」
「アル様すごい……」
「してやられましたね」
あぁ、負けた。悔しいけれど完敗だ。しかし1つ気にかかる。どうして最後に私達に小鳥を見せた?
そうなると……まだ終わってはいない!?
そのことを告げれば動くのはディンブラ様。
「こーなったら完璧に終わってやる!」
「ディン様?」
「ニルギリ、たぶんアールグレイは先に着くことで正解にするつもりだ」
「最後まで気を抜くなってことだろ」
あームカつく!!というディンブラ様に同感。
では今回は最後まで貴方の手の上で踊りましょうか。……次はないですよ“アールグレイ・ディルマ”殿。
カフェに着けば案の定、席が用意されていて。
入ってきたアールグレイ様が驚いた顔をしたのにはしてやったかと思いましたが、いつものあのニヤリとした微笑みを浮かべ「ミッションクリア~」と一言。
「「「「やっぱりかーーー―!」」」」の言葉は今日一日を表現していると思います。
ルゥを3人がどこかへ遊びに行きたいという話しているのを横目に彼に問う。
「なにが目的ですか」
「あら、分かったから此処にいるんじゃないの?」
「“今回の目的”は分かりました。が、お嬢様への……いえ、私達への目的です」
「う~ん、今言っても良いけれど……そうね、試合に勝ったら教えてあげる」
「そうですか」
「反応薄いわね」
「もう踊らされるのは嫌ですから」
「そ、試合。楽しみしてるわ」
「えぇ、こちらこそ」
いつも読んでいただきありがとうございます!
炙り出し。
柑橘類の皮でしたことないので間違っているかも……?
今回は出来たという事で、ご了承ください。
次回更新は16日予定
(予定は変更になる場合がありますのでご了承ください)