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26 ―騎士たちと姫と魔女?―(前編)

またの名を「魔女(?)VS頑張る男の子達」

視点変更あります



―― side Keemun


 確かに『花祭り』後とは言っていましたが、このタイミングで来るとは……。

 ニルギリ様からルゥへと渡されたあの手紙。

 ルゥとアールグレイ様の“約束”……あの時、まさかそんな条件を出されると思わなかった。

 その時は平穏だと思ったから。今は利用されたようで悔しさが募る。


 手紙をもらって喜ぶルゥから一時的に預かった手紙(コレ)を握りつぶさないようにするのに、こんなにも疲れる事だとは……そのせいで普段なら冷静に対処できる場面で、ルゥに言葉に「自分は必要ないのか」と勝手な怒りを覚えて八つ当たりしてしまうなんて。

 ニルギリ様の言葉がなければ冷静になれなかったかもしれない……情けないにも程がある!


 “明後日”の事と言われ彼の側へ行くと声を潜めるように話し始めた。

「姉様にキームンに休日をって言ったのは僕なの」

 姉様を責めないでと言うニルギリ様に眉をひそめる。

「キームン、アル様と姉様が一緒に出掛けるの、嫌でしょう?何かあるかもしれないから」

 僕も本当は嫌なんだ。と言うニルギリ様に驚く。この少年は本当に聡い。

「それは……」

「でも、姉様は嬉しそうで止めてって言えない。……キームンは影から守るつもりでしょう?」

 僕も予定を調整できたから一緒に姉様を守れるよ。と笑う彼に人の成長の早さを感じる。

 確かにアールグレイ様の意図はまだ掴めないが、何かある。このタイミングでの手紙にはどうしてもこの前の騒動を思い出す。だから手紙を見た瞬間からどんな手を使っても付いて行こうと思っていた。

 しかし、見抜かれた上に提案とはルゥもたまに突拍子のないこと言って驚かせてくれますが……姉弟ですね。

 彼の成長は早く、すぐにでも追いつかれそうな気分になる。

でも負けられない。彼にも、彼らにも、誰にも。



 ニルギリ様と明後日どうやって警護するかの相談に夢中になって、ルゥとの日課を忘れていたと気づいたのは自室に戻った瞬間。しまったと思った時にはもう真夜中で。月明かりにまで笑われた気がした。


 気持ちを切り替えて警護の準備を始める。

借りを作りたくはないが、時間がないので仕方なくルゥの守護精霊に頼み込み――『お姫ちゃんに会わせろー』「それは嫌だ」『独占禁止』「してない!」『けちー』『横暴』「あのなぁ」『さてここに。小さいけれど、とぉ~ても質の良い魔晶石があるんだけどな~しかも坊が必要な五色♪しかも一つには私の加護付でーす』「ぐっ」『姫、さっき悲しそうだった』「うっ」『『どうする?』』「………オネガイシマス」――魔晶石を受け取り、ニルギリ様と彼らの分も魔力をそれに入れてもらうように頼んだ。


 これで一つ目の問題はクリア。次は行きそうな場所とある貴族の勢力図を叩き込めば二つ目は終わる。後はニルギリ様の帰宅を待ってどうなるか。十中八九、殿下もディンブラ様も明日はこちらへ来るだろう。

 彼女と過ごせなくとも、“ルゥに楽しい一日を”という目的は同じになるはずだから。


 しかし、アールグレイ・ディルマと言う人物は訳が分からない。格好もそうだが……。

 今日のルゥへの手紙に“明日の予定”を事細かに書いて、彼女ならこれを身内に見せることは計算の上でしょうね……遠回しな情報の与え方。私達にこれを使ってどうにかしろと暗に言っている。

 ルゥを囮にしてまで何がしたい?何を知っている?何を企んでいる?何のために?

 

 ルゥに対して危害を加えるのなら排除するまでだが…多分それはないだろう。彼女を気にいっているのは嘘ではないと思う。一瞬だが懐かしい精霊の気配を感じた。もし精霊が関係している人物であればルゥの無事は確実。

 それならば裏で動きやすくなる。


 彼の事を考えるのはあの試合の時で良い。

とりあえずは考えるべきはルゥと明日の事だ。



 ルゥに対しては“いつも通り”を意識して過ごした。

最終的にはルゥにバレてしまって彼女の想いを知る事とキツイ頭突きをもらった。

 でもずるいよ、ルゥ。あの時、あの瞬間に、あの〔瞳〕を発動するなんて。

もう離れられないじゃないか――まぁ、離れようとも思わないけれど。


安心して、ルゥ。休日はちゃんと“有効”に使いますよ。





―― side Dimbula


「アル兄とルゥがデート!?」

 ウソだろ!とニルギリに掴み掛りそうになったのをセイに止められた。

 ……ニルギリが悪いわけじゃなかったから止められて助かったー。ごめん、ニルギリ。アル兄、許すまじ!!


 緊急事態!とセイから連絡があって普段は行くことはないセイロン専用の休憩室に行くと、何故かニルギリがいた。そのニルギリが言った言葉に思わず頭が真っ白になったのがさっきのこと。

 詳細はあの『花祭り』でルゥがみんなに配るために作ったお菓子に使う花を用意したのがアル兄で、ルゥがお礼をしたいと言ったことに対してのアル兄の注文がお菓子を作る事とルゥとのデートとキームンとの試合――あ、最後のはイイや。

 なんだってキームンは阻止しなかったんだ!と怒りを向けたくなるが、きっとアル兄がルゥに押し付けたに違いない!!ルゥは優しいからな……。

 本当に緊急事態だ。どうにかしたいけど……オレは“どう”したいんだ?

 う~ん、オレは二人に比べて考えるのは得意じゃない。聞いてみるか!


「で、どうすんだ?」

「……ある意味、私とディンはその情報だけでは判断できないと思う」

 どう動くべきかをね。と言うセイはオレのことを良く解ってる。流石従兄弟!任せる!

「僕とキームンは姉様が楽しみにしているので、それを壊したくはありません」

「ルゥが?」

「はい、姉様は……アル様を慕ってますから」

 確かにルゥはあんなアル兄を何故か尊敬している。カッコイイとか、ステキとか……あー思い出したらムカムカする!でも……。


「……ルゥ、楽しみにしてるんだ」

「ディン?」

「はい。セラ…姉様の侍女ですが。セラと楽しそうに服のことなど話していました」

「…そっか。なーセイ明日ってなんかあったっけ?」

「特には…ってなんで私に聞くかな」

「いや~、大体今勉強してるとこって同じじゃん。実技は週末だし」

「はぁー、全く君って人は……。明日の分を今日に回せば明日は休みに出来るよ」

 今日のルゥとの魔術練習を諦めればね、と言われ少し迷う。次に会えるのは『剣術大会』かそれとも来週の魔術練習の時か……。逢いたかったなー。でもこの前みたいにルゥが悲しい顔をする方が嫌だ!


「じゃ、決まりだな!」

「何が決まったのかな?」

「やること」

「セイロン様?ディン様?」

「なぁニルギリ、キームンは今何してる?」

 オレの発言にビックリする二人。おーい、もしかして目先の事しか考えてないと思われてる!?

 ジト目で見るオレにセイもニルギリも一瞬気まずそうな顔をするも、直ぐに切り替えてきた。セイ、後で話そうか?


「え?あ、はい。彼は行きそうな場所とあの貴族の勢力図を調べているはずです」

「さっすが!となると後は…明日の見回りルートの確認とー」

「アレが動かせる私兵の数とその中にいる魔術師の把握だね」

「いっちょやりますかー」

「そうだね。ルゥとデート出来ないのはやるせないけれど、彼女が喜ぶならね」

「ほんっと、アル兄ってのは気に食わないケド!」

「僕も頑張ります!」

「おう!頼りにしてるぞー、期待の新人!」

「それじゃあ、今できることを詰めていこう」

「りょーかい!」

「はい!」


 ニルギリがキームンから預かったというルゥに渡すための魔晶石に魔力を込めて――オレは黄色。セイは翠でニルギリが蒼だった。理由は瞳の色だってさ。キームンってこういう事よく考えるよなぁ。セイと同じがそれ以上だわ――オレ達は出来ることをする。


 ルゥの隣には出来れば自分が居たかった。でも今回だけはアル兄に譲ってやるよ!仕方なくな!!


 だからルゥが笑顔で最後まで楽しめるように力を尽くすよ。


……結局は自分のためかもしれない。だって好きだから。





―― side Nilgiri


 いつも姉様は可愛いってしか言ってくれなかったから姉様が僕のこと格好良いって言ってくれた時は嬉しかった。魔術師団での勉強や見習いの仕事、次期侯爵としての勉強は大変だけどやってて良かったと思う。

 姉様と過ごす時間は減ってしまったけれど、これで姉様に相応しくなれると思えば全然大変だとは思わない。


 そんな事を考えながらキームンと一緒に屋根の上を音もなく飛ぶ。僕一人じゃまだ出来ないけれど、彼のサポートで猫のように軽々と飛ぶことが出来る。早く追いつきたい。身体も心も。



 朝早くにセイロン様とディン様は来てくれて、4人で姉様宛のアル様からの手紙の内容から作戦を立てる。大体はキームンが既に計画を立ててくれていたから、それに補完する程度だった。本当にすごい。


 小物屋、お菓子屋を覗いて、植物園から公園お昼。最後に今回の目的地のカフェ。一見普通にみえるけど……。

「あーもー。アル兄、ムカつくーーー!」

 さっそくディン様が怒った。たぶん全員同じ意見だと思う。

「ココ、ルゥと行きたかったのに!」

「私だって」

「……御二方、主旨がずれています」

 うん、いろんな意味一番怒っているのはキームンだね。いつも冷静な彼が一昨日はかなり参っていたようだし。今回の件は一番気にしていると思う。あの時の当事者だったもの。


 朝食時間が迫ったので席を外す。3人が話し合いをしているのに申し訳ないと思いつつも、ちょっと役目もあるし姉様とご飯を食べられるのは今のところ“義弟”としての特権だから。セイロン様とディン様の視線をあえて見ないようにして、キームンから姉様に渡すように頼まれた“お守り”を見る。

 金と銀のチェーンに五色の石を花の形にカットしたものが組み合わさったブレスレット。

 僕たちの瞳の色と同じ色の石に魔力を込めて花の形のものともう一つ、イヤーカフス用に分けたと言っていた。その蒼い石が付けられたイヤーカフスは今僕の耳に着いている。他の3人も同じ。

 これでブレスレットの位置が分かるらしい。姉様の瞳の色の石に姉様の魔力が宿っていないのは魔力を込めてしまうと姉様に分かってしまうから。これには緊急時に姉様を守ってくれると言うけど……そうならないように頑張らないと!

 この魔晶石は質が良いから広範囲で使えるけれど、小さいから一日半――昨日の朝魔力を入れたから今日の夕方まで――しかもたないらしい。ギリギリかな。



 支度を終えて姉様より早く、見つからないように出掛ける。姉様の服装がどんなのか見たくてちょっと屋根から覗いてみた。考えることは一緒の様で3人ともじっと見てた。

 チョコレートブラウンのエプロンドレスに三つ編みで、普段とは違う街に合わせた格好。朝食の後に渡したブレスレットもちゃんと付けてくれたみたいで良かった。

 失くさないようになのか、袖の下に付けるのは姉様らしい。

 普段より無邪気に笑ってて、幼くて見えて可愛かった。


 いつまでも見ていたかったけど、キームンに肩を叩かれて気持ちを引き締める。

 アル様が来る前に移動しないと間に合わないかもしれないから、急いで移動を開始。まずは馬車の妨害を防がないと!セイロン様とディン様が僕たちと平行になるように移動する。流石と言うか、もう相手を見つけたみたいで、もう見えなくなった。

「ニルギリ様、私達の相手は10メートルほど先です。準備は良いですか?」

「はい、頑張ります」

「私も気を付けますが、怪我をしないように。それから無茶はしないこと」

「分かってます。姉様を悲しませることはしないと決めてますから」

「……行きます」


 そうして彼のサポートで屋根の上を音もなく飛ぶ。ふと前に姉様に読んでもらった絵本を思い出した。

 こっそりお姫様を守る騎士の話。お姫様は最後まで全然気付かなくて、でも最後は笑顔で。読んでもらった時はなんでこんな話があるんだろうと思ったけど、これはこれで良いのかも、と思える。


 あの話の騎士は一人だったけど、僕たちはまだ未熟で一人だけじゃまだ姉様を守れないから。今はみんなで守るよ。あの話のように最後まで笑顔でいられるように。


 でも次は堂々と隣で守れるように頑張るね、僕の姉様!





―― side Ceylon


 屈託なく笑うルゥの笑顔を目に焼き付けてディンと共に屋根を飛ぶ。

 まったく、私の――今はまだ私達の――お姫様は振り回してくれるね。でもそれが嫌じゃないのは彼女だからなんだろう。


 昨日の朝早くにニルギリから〈魔術通信(フルム・テリル)〉――空間(フルウム)が使える術者同士でお互いの魔力の登録をすれば可能な連絡方法――を受けたときは驚いた。

 何かの時のためにと、彼が使えるようになってすぐに登録をしたけれど。初めて連絡が来たこと以上に内容に驚いた。「姉様とアル様が一緒に出掛けるそうですが、キームンが何かあると言っているんです」と。


 急いでディンに連絡を取って呼び出せば、案の定怒り出す。私はあまり感情を出すのを良しとされないから彼の表情豊かな感情には救われる。

 どうするか、どうしたいか……。感情の赴くままなら出掛けるのを止めさせたい。でも二人の言う通り彼女が喜ぶなら進んで露払いしよう。

 王族としては、してはいけない事なのは理解してる。けど、負けたくないんだ。ディンにもニルギリにもキームンにも。何より自分自身に。 諦めるものか。

 それにきっとこれは試されているのだと思う。どう動くか、どう対処するか、どう終わらせるか。

 あの“アールグレイ・ディルマ”だ。そう考えないとおかしい。

 全体を把握することは、きっとまだキームンの方が上。だから王子(自分)ができる限りの情報を使うことにする。


 夜にニルギリからアールグレイからルゥへの手紙の内容を聞き、確信した。

 絶対に私達を試している、と。


――そして今。私とディン、ニルギリとキームンとで別れて対処に走る。

「下に目標5、次の路地に7。魔術師なし、武器は短剣のみ」と、付加(フェセク)で感知能力を上げたディンが邪魔者を補足したのでその場所に飛び降りる。さすがに見習いとは言え『特化級魔術師』。精度が高い。

 飛び降りながらディンは(ジョールトゥイ)の捕獲用魔術を唱え……ちょっと!それってこの状態で下に撃ったらこっちまで巻き込まれるでしょう!!慌てて〈氷の壁(ウォル・ルレウム)〉を自分とディンの前に作る。と同時に下に見えた雷光。……間一髪だった。

 下に降りれば気を失っている男性5人。檻を形成する魔術具を使って閉じ込めておく。これを使うと連絡室に魔力波が飛ぶらしいが細かいことは分からない。後で騎士団か魔術師団が回収してくれる。ちなみにアールグレイ作。

「ディン……君ねぇ。間に合わなかったらどうするつもりだったの?」

「え?いや~あはは~助かったよ」

「まったく、助かったじゃないでしょう……」

「ごめんごめん、でもセイなら気付くと思ったし。さ~て、ちゃっちゃと行こうぜ!」

 早く終わらせてアル兄を驚かせてやる!と笑うディンにはもう怒る気も失せた。

 まったく、この従兄弟殿は……。信頼してくれるのは嬉しいけど、こっちの身にもなって欲しいよ。

 でも、さっさと終わらせて彼女の方へ行くのには賛成だ。


 私達のために最後まで笑っていてね、ルゥ。






いつも読んでいただきありがとうございます!


1話にまとめられませんでした、ごめんなさい!

続きます!

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