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12 ―魔術修行のはじまり―

日常

 ディン様とは魔術判定で、セイ様とはお茶会でお会いして。お友達になってもう4か月――アイティオ()が深まる今日この頃。

 やっとお父様から魔術修行の許可がでました!


 許可がでるまで長かったです……その間のお母様の淑女教育から逃げるために大量のお菓子を作ったのは良い思い出です。


 そうそう!パイ生地の〔記憶〕が出てきたんです!

 〔記憶〕の中では温度調節が大変そうでしたが、魔術があるので冷やしながら作業が出来て作りやすかったみたいです(キィ談)。私の拙い説明を苦心しながら作り上げてくれたキィには頭が上がりません。

 といっても一生上がる気はしませんが。


 アプル(=リンゴ)を使った丸ごとパイやミルフィーユの甘いものからキッシュやポットパイなど塩味のものまで、色々と料理の世界も広がりました。

 

 定番になってしまったお茶会に作って持っていったら、陛下とウヴァ様のお気に入りに。

 お二人にお願い(!)されて各料理長さんにお伝えしたのですが、何故かセイ様とディン様は我が家のが好みらしく遊びに来る頻度が増えました。

 勉強などに差し障りがないか心配でしたが、


「ちゃんと終わらせてあるし、予習もしてあるから大丈夫」

「父さん達との約束だからな。終わってないと外出禁止になるし」

「外出禁止ですか?」

「そう、毎日テストがあって合格しないと次の休みの外出禁止なんだ」

「なかなか大変なんだけどさ、まぁ気合で?」

「ディンはいつもギリギリだものね(合格しなくても良いのに)」

「ギリギリでも合格ならイイんだ!(抜け駆けなんてさせるか!)」


 と、セイ様もディン様も大丈夫とのことなので安心しました。


 私はお友達が来てくれることが嬉しいのですが、最近のキィの調子が悪いようなのが気になります。

 いつもキィには色々としてもらっているので何かお返しがしたですね…。


 そのことは申し訳ないけれどちょっと横に置かせてもらって…今日は初めての魔術の修行です。

 修行のにはいつもと違った服を着ます。魔術耐性を付加させた生地で作った服なのですが……。

 着替え終わって鏡を見て絶句しました。



「……」

「お嬢様、よくお似合いです~」

「………」

「お嬢様?いかがされました?」


 鏡の右側でぴょんぴょん跳ねているエネと不思議そうな顔のセラ。


「…これじゃなきゃいけないんですか?」

「「はい!」」

「でも、この形じゃなくても……」

「お嬢様、可愛い~です♪」

「今、このデザインが人気で奥様がお決めになったんですよ」


 おかーさまー。7歳は子供の域だとは思います。ですがこれはどうなのでしょうか?


 フリフリです。〔日本の記憶〕でいう某魔女っ子というものに似ています。膝丈のキュロットスカートは動きやすいですがパニエがかなり入っていてボリュームたっぷり。上はハイネックのノースリーブにレースの付いた後ろの部分長くが渡り鳥のしっぽの様に2つに枝分かれしたベスト。二の腕までの手袋としっかりした形の膝下ブーツ。色の濃淡はありますが、全て黒です。

 そして髪形はこれまた黒のリボンでツインテ―ルに。後はちょこんと乗った三角帽子の飾り。 


 ……これが正装じゃないことを心から願います!

 

 コンコン


 あーキィですね……。この格好見せるの……? はぁ。

「……どうぞ」

「失礼いたします、お嬢さ…ま?」

「……!? キィ!」


 意気消沈しつつ答えれば、いつものように部屋に入ってくるキィ。

 入ってきたキィはドアノブに手をかけたまま目を瞠って固まってしまいました。 

 そんな彼を見て私もその格好にビックリして時が止まります。


 キィはいつも見慣れた暗緑色の侍従の服ではなく、私と同じく黒の衣裳を身に纏っていました。

 私の衣裳をシンプルにしたような感じでハイネックにズボン、編み上げブーツ。ベストの代わりにフード付きのローブを着ています。所々に同じく黒の糸で刺繍が施してあるようです。


 いつもと違うキィに不思議な感覚を覚えます。苦しいような切ないような……


「お嬢様」

「は、はい!」


 キィに声をかけられあの感覚は消えて行ってしまいました。なんだったんだろう…。

 軽く頭を振り気持ちを切り替えてキィを見ると、ちょっと朱いような気もしますがいつものふんわり笑顔。

 ……キィのこの笑顔はホッとします。


「お嬢様、良くお似合いですよ」

「キィの方が似合ってます。格好良いです!私のはちょっと……」

「可愛らしいです、本当に。私も褒めていただきありがとうございます」

 それでは参りましょうとにっこり笑ったキィの差しだした手に自分の手を乗せます。まだまだこういう事にはなれませんが多少は落ち着いてきたと思います。

 

 キィに案内された魔術の修行場所は中庭でした。

 この国の貴族は魔術を使えるものが多いため各屋敷にこういった場所があるそうです。貴族によっては領民に教えることもあるそうですが、うちのお父様は魔術師団長なので今のところする予定はないそうです。


 中庭には先生がいらっしゃると言うことで辺りを見回すと黒いローブを羽織ったお母様!?


「お、お母様?もしかして…」

「そうですよ、ルゥちゃん。基礎は私が指導します」

バシバシ行きますからね~と笑うお母様。……淑女教育以上にノリノリなのですが?


「よ、よろしくお願いいたします?……その前にお聞きしたいことが」

「何かしら?」

「この服についてお聞きしたいのですが…」

「可愛いでしょう?」

「えっと、もっとシンプルには……」

「ん?」

「イエ、ナンデモゴザイマセン」


 人差し指を頬につけ顔を傾けるお母様。あ、これダメです。


「あ、あと何故キィも着替えたのですか?」

「キームンにも手伝ってもらうからよ」

「そうなのですか?」

「はい、お嬢様」


 お母様の言葉にキィを振り向けば笑顔で返されます。

 どうやら私とキィの魔力の質が似ているらしく、コントロールの調整がしやすいというとです。

 本来であれば血縁関係の近いほうが似ているのですが、稀にこういう事もあるそうです。


「さて、はじめましょう」

「はい」


 お母様の号令で修行開始です。

 私はお母様と同じく(アズゥ)が扱いやすいだろうと言うことでまずは中庭の奥側にある小さな池の前へ行きます。

 池の水に手をかざし、魔力を干渉させて波紋を発生させることが第一段階。


――この池は魔術干渉でなければ変化しないお父様の特別製。といいますか、この中庭全てがお父様の特別製で何かあったらここへ行くようにと言われている場所でもあります――

 閑話休題。



 池の前に立ち両手を前に出します。目を閉じ波紋をイメージします。そして目を開き魔力を―――って水が浮いてます!?

 慌てて後ろを振り返ると顔を引きつらせているお母様とキィ。え?ちょっと、これってやっぱりダメですよね?


 どうしようと思うと途端に空中に浮いた水が揺れ始める。それに動揺して頭が真っ白に―――と暖かい手に包まれます。右手をキィ、左手をお母様。


「ルゥちゃん、落ち着いて。もう大丈夫よ。ゆっくりと下ろしていくイメージを持って」

「で、でも…」

「大丈夫です、お嬢様。私と奥様がサポートしますから」

「は、はい!」


 温かい笑顔のお母様と優しい笑顔のキィにそう言われ、なんとか落ち着いた私は両手から流れ込んでくる温かい流れを受けて浮かんだ水を元の池に戻すことが出来ました。


「はぁ~疲れました…」

「よく頑張ったわね、ルゥちゃん。でも、ごめんなさい。まさかこんな事になるなんて思って見なかったわ」

「おかあさま…私また中止ですか?」

「そうではないわ。ルゥちゃんは安定したとは言え、まだまだ揺れ幅が大きいのね。大体の人が小さい揺れ幅なものだから考えていなかったの。ごめんなさい、お母様の判断ミスよ」

「じゃあ、練習すればできますか?」

「えぇ、大丈夫。それにこういう時のためのコントロール調整なのよ。と言うわけでキームンと〈共鳴(シンクロ)〉よ」


 そう言うお母様の指示に従いキィと向かい合い私の右手とキィの左手というように手を合わせます――


これって……?とキィを見上げるとそうですと言うように頷きます――そのまま目を閉じて循環させるように力の巡りを感じるようにします。


 そうすると次第に何か粒子のようなものを感じてきました。

 赤色、水色、緑色そして黄色。 4色の粒子が集まって離れて上に行ったり下に行ったり――まるであの時、キィに見せてもらったあの光景の様な――そのうち小さな集まりになった粒子が私の中に溶け込んでいって……


 ふっと目を開けるとキィの柔らかな笑顔。お母様の方に目を向けると驚いている様子です。


「お母様、これで良いのでしょうか?」

「えぇ、それで良いわ。でも、驚きました。初めてでこんなに上手に出来るなんて」


 すごいわ~と喜ぶお母様に苦笑い。見上げるとキィは軽くウィンクして『ダメです』との声なき声。

 あーやっぱり内緒ですよね〔真実の瞳〕のことは。私が幼いためリスクの方が多すぎてまだ隠していたほうが良いと決めたのですよね。


 でも、一応心の中で謝っておきます。



――ごめんなさい、お母様。実は〈共鳴〉、キィとしてます。と――







おまけ


その夜――


いつもの様に寝る前にキィと〔瞳〕のコントロール練習の〈共鳴〉をしていて昼間に疑問をもった事を聞いてみます。


「ねぇ、キィ。昼間にお母様に指示された時は手を合わせるだけでしたよね?」

「はい。如何しました?」

「え~と、〔瞳〕の時は指を組んでするでしょう?なのでどうして違うのかなって思いまして」


 一瞬キョトンとしたキィですが、すぐにいつもの笑顔に戻ります。


「……あぁそのことですか。〔瞳〕のコントロールは昼間の流れを見るのとは違って複雑ですから」

「そうなのですか?じゃあ、もっとよく見たいときはした方が良いですか?」

「いえ、あまり変わらないかと。もっとよく見るためにはルゥ様がレベルアップすれば見られますよ」

「そうですか。頑張ります!」

「はい。私もお手伝いいたします」

「ありがとう!」


 そういう理由だったんですね。納得です。

 私が気合を込めて言うと、ホッとしたような笑顔を浮かべるキィ。

 うん、良かった。



おまけのおまけ。

キィ自室にて


『積極的なのかヘタレなのか分からないねえ』

『ホント』

「ウィッティ、アーテ。なぜいる」

『〔瞳〕のコントロールだって掌で十分じゃないか』

「……」

『独占欲』

「…悪いか!?」

『んにゃ別に~』

『青春』

「もう、帰ってください!」




この絡みはコメディーにしかならないのは何故だ……。



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