11 ―お茶会と女の子― side Ceylon
セイロン視点
side Ceylon
「ルゥ、本当にありがとう。そうだね、一回で諦めたら勿体ないね」
だから、私は諦めないよ?絶対に離さないから――と彼女に心の中で宣言する。
睡魔にあらがえず閉じていく瞳に驚きの顔の彼女が映る。
――あぁ、笑って欲しいなぁと思いながら幸せに満ちた心で目を閉じる。あの笑顔を思い浮かべながら……
~~~~~~
私は、セイロン・プリミアス・ラバーズリープ
ラバーズリープ国のハイレンジ国王とヌワラエリア王妃の息子。第一王子。
あとは5歳上の姉が…第一王女がいるが今は他国に勉強というか遊学に行っている。
私は将来の為に色々なことを学び始めた、学ぶことは楽しいし、剣術も魔術も嫌じゃない。同い年の従兄弟がいてくれるから切磋琢磨していると思う。
一時期彼はやる気がなく不貞腐れていたようだったが、ある時から真面目に、でも楽しそうに毎日を過ごしている。どんどん実力をつける彼に負けないようにとは思うのだが……周囲は私に完璧を求める。
あの時、やる気の失せた従兄弟殿が辛い中にいたのは感じていた。
でも私にはそれに干渉するのをあえて避けていた。――完璧でなければ、冷静でいなければ、弱味は見せてはならないと――毎日、自分に襲い掛かるものに怯えていた。
そんなある日、ふといつからか休憩時間にお菓子を食べている従兄弟に気が付いた。
売り物のようにも手作りにも見える今まで見たことのないようなお菓子。
いつもであれば気にならないはずなのに、その時のその『焼き菓子』はキラキラと見えて思わず頬張っている彼に尋ねていた。
「ねぇ、ディン。最近どうしたの」
「へ?」
「前はそんなに積極的に勉強はしなかったでしょ」
「そうか?ん~でも、目標出来たし」
「『特化級魔術師』だっけ?」
「ほう、ほへ」
「食べながら喋らない。でも、それ美味しそうだね。一つ食べてもいい?」
「んぐ…。ヤダ」
「……なんで?」
「オレがもらったから」
「誰から?」
「………教えない」
「教えないってことはやっぱり貰い物じゃないか」
「あっ!」
ディンが素直なのは良いことだけど、そろそろこういう駆け引きにも慣れたほうが良いとは思うよ?
でも、本当に一体何があったんだろう…。今まで色々とあって、プレゼント特に食べ物類は絶対にもらう
ことはなかったはずだ。僕だってそう。なのに……?
「ディンが物をもらうの、珍しいよ。しかも食べ物。ねぇ誰から?」
「誰でもない」
「嘘だね」
「…買った」
「それこそ嘘だ。そんなお菓子見たことない」
「……友達」
「友達? ディンの知り合いでこういうことする人いたかな?」
大体のディンの交友関係は把握している。記憶をさらうがそんな人物に思い当たらない。考え込みむ私にディンが痺れを切らし始める。
「もう、いいだろ?」
「嫌だね、くれるまで止めない」
「強情」
「お互い様」
「「………」」
こうなると二人とも譲らない。でも、こういう駆け引きは私の方がまだ上だね。
「ねぇ、ディン。その子可愛い?」
「!!!なっ!」
「あ、女の子なんだ。へ~誰かな?」
「ちょ、まっ、違う!」
ここまで動揺するなんて。最近変わった理由ねえ…。時期的に魔術判定の後くらいかな?そうなると考えられるのは……
「そういえば、メルローズ団長には娘がいたんだっけ?」
「な! ち、違う!ルゥじゃない!」
「るぅ?」
「あ……」
「へぇ~ 確か……あぁ、ルフナ・メルローズ侯爵令嬢か」
「しまったーーーー!」
真っ赤になって頭を抱えて蹲るディン。詰めが甘いね。いただきますっと。わっ、美味しい!王宮の味より好きかも。サクサクとしたクッキー生地の中に爽やかなリモン。こっちは、ふわふわした生地の中にこれもリモンだけど甘すぎないクリームでこの季節でもくどくない。
ふふ、会ってみたくなったなぁ~
「ってオレのお菓子!」
「すっごく美味しかったよ」
「てめー セイ!」
「ご馳走様でした」
「ゆるさん!」
「狭い心の持ち主はモテないよ?」
「ぐっ!」
「そろそろ時間だ。また明日ね、ディン。明日はどんなお菓子かな~」
「ぜってー持ってこない!!」
ディンがあんなに嫌がっていた勉強をやる気にさせたというメルローズ侯令嬢。どんな子なんだろう?
会ってみたい。だから母上に頼んでお茶会が開いてもらうことにした。
スッタセン侯爵夫人も呼んだと聞いて――きっとディンも来ると思い――前日にまたからかって剣術の試合をしたけど。
…あんなに強くなってるなんて思わなかった。私もまだ負けてはないがそのうち追い越されてしまいそうで油断ならない。でもなんとか勝ったし、ディンは疲れ切って寝てはずだから明日はこれないだろうし。 楽しみだな~
~~~~~~
―――ディンと話した時に感じたキラキラ。今、思えばあの時にすでにに恋に落ちていたのかもしれない―――
お茶会当日。案の定、ディンは全身筋肉痛で動けず来られないらしい。
きっと後で怒られる覚悟をして支度を進める……が、私もどうやら動けないほどではないが筋肉痛みたいだ。上手く動かない身体を叱咤して母上たちの待つ庭園に足を向ける。
思ったよりも身体が動かないせいか着くまでに時間がかかってしまった。
謝罪の言葉と共に入口から中に進むと、花を摘んでいたらしい女の子が立ち上がり振り向いた―――
時が止まったような気がした。
そこにいたのは、柔らかそうな触りごごちの良さそうな珊瑚色の髪が白いリボンで纏められ、神秘的な紫苑色のパッチリとした瞳。その色と合わせたのか、薄いライラック色の生地が重なったふわふわとしたドレスを着たまるで花の妖精のような女の子。
この子がルフナ嬢だ。いや、呼んだのだからそうなのだけれど、『絶対に』彼女がそうだと不思議な確信をもっていた。
尋ねると心地の良い声で肯定が返ってきて。挨拶をし返されて。それだけなのに嬉しくて。
思わず彼女の手を取り、その手にキスを落としていた。
私の行動に固まってしまった彼女に冷静さを取り戻し、でも冷静になりきれなくて愛称を呼ぶことをお願いしてた。
メルローズ侯爵夫人に声をかけられなかったらどうしていたか、今も分からない。
ルゥをエスコートして――ぎこちないのがバレてしまわないように気をつけていたのだけど――席に座り、お菓子の説明を聞いて彼女が作ったことに驚いたりと、こんなにも話すことが楽しいと思ったことはなくて。
でもあの瞬きするような時間に見せた哀しそうな瞳は――なに?
哀しい表情をさせたくなくて深く聞いたら慌てて口調が変わるルゥ。顔も真っ赤になっちゃうし、その顔、可愛い過ぎる! 素のままの彼女が見たくて調子に乗って口調も砕けたようにお願いして……油断した。
椅子に座っていたから余計に身体の動きが鈍くなっていた。せっかく彼女が取ってくれたものを受け取ることが出来ず、滑り落としカップに当ててしまった。しかも中身は流れルゥの服を濡らしていった。
それで余計に頭の中が真っ白になって――動きづらい身体はやはり言うこと聞かず――バランスを崩して地面に落ちた。
――あぁ、情けない。冷静に対処しなくちゃいけなかったのに。完璧にしなきゃ。失敗は――
苦く苦しいものを飲み込んで笑顔を向けないととルゥを見上げると……
泣く?
なぜ? ルゥが?
怪我させた?
自分の所為だと思ってる?
違う。これじゃあ、自分の行動の結果を誰かのせいにしてるのと同じだ。
僕が悪いのに。
ルゥに泣いて欲しくなくて必死に声をかけるけどダメで…涙が零れてしまう――
母上に叩かれた。ビックリした。
しかも母上に昨日の行動からのことはお見通しだった。
格好悪いな、僕。情けない顔を見せたくなくて、でも嫌われたくなくて。
そうしたらルゥが慰めてくれた。必死に何かを繋ぎ止めるように。
僕のためなんだと思ったら嬉しさがこみ上げてきて――砂糖と塩の事件には――思わず笑ってしまった。
ただ嬉しくて。たとえ嫌われても――考えたくないけど――諦めたら勿体ない!
ホッとしたら急に疲れが全身を襲ってきて眠気に負けて眠ってしまっていた。 もっと話したかったのに。
~~~~~~
起きたときに、当たり前だけれど彼女の姿がないのは寂しくて残念で仕方なかった。けれど彼女からの手紙とお菓子が置いてあって、彼女らしくて好ましい。
内容は友達になれたら嬉しいこと。またお茶会があること。好きなお菓子は何か?など。
嬉しいんだけど、ディンとも手紙のやり取りをしているのにはちょっと嫉妬した。それに友達よりも……と思うのは父上に相談しないとダメかな。
何度も読み返して、彼女のお菓子を食べながら返信の文を考える。
あぁ、美味しい。
目を閉じてあの笑顔を思い出す。
あの日、君に逢って私は変われたよ。
もう、君がいないことは考えられないんだ。
だからルゥ、私を見ていて――――――
おまけ。
〔次の日の陛下と殿下の会話〕
父上にルゥとの事で相談してみた。
「父上、お願いがあります!」
「ん?珍しいな。なにかな?セイロン」
「ルゥと婚約させて下さい!」
「ごめん、無理」
「即答!?何でですか!?」
「いや、個人的には私も良いな~と思ってはいるんだよ?」
「ならどうして…」
「ウヴァとリシーが怖い」
「は?」
「いやー、お前が倒れた後にそういう話が出たんだけど一蹴されちゃって」
「ち、父上……」
「あの二人には勝てないんだよね~」
こればかりは国王様だけどムリ!と言い切る父親に
「こっんの、役立たずー」
と叫んだことには一生謝りません。