10 ―お茶会と王子様―
やっと王子様登場。
お父様とお母様と連れ立って歩きついた先は王妃様の庭園――通称『四季の庭』。ここは王妃様が個人的に花を育てている場所でプライベートな場所なんだそうです。
黄色と白の蔓バラのアーチを抜けた先の開けた空間には真ん中に大きな樹。その下に白い華奢な猫足のテーブルセットが置いてありその前にジャスミン様ともう御一方。きっとあの方が王妃様なのでしょう。
お二人の前に立ち、挨拶をします。うぅ、緊張します!
「リシーハット・メルローズ、妻キャンディと娘ルフナと共に参上いたしました」
「お久しゅうございます。遅くなりまして申し訳ございません」
お父様とお母様が優雅に礼をします。私も後に続きます。ドキドキして心臓が飛び出そう!
「お初にお目にかかります。リシーハット・メルローズ侯爵が長女、ルフナともうします。いご、お見知りおきください」
「まあ、可愛らしくて賢そうな子。一目見てリシーハットとキャンディの娘と分かるわ。わたくしはヌワラエリア・プリミアス・ラバーズリープ。エリアと呼んで欲しいわ。あ、お義母さまでも良いわよ」
ヌワラエリア様はこの国の王妃様。
美しく聡明で人々に愛されている、ヌワラエリア・プリミアス・ラバーズリープ様はキャラメル色の豊かな髪を柔らかく結いあげ、薔薇色の瞳を優しく細めて蕩けるような笑みを浮かべます。
…でも、言葉の最後になにかデジャヴを感じたのですが……? き、気のせいですよね? 困ったのでお母様を見上げると大丈夫という笑顔。ほっとします。
「エリア様、お招きいただきありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとう。ジャスミンから聞いてお菓子も楽しみにしているの」
「は、はい。ありがとうございます!いま準備いたします」
ふんわりと仄かに頬を染めて言うエリア様は可憐で皆さんが王妃様大好き!というのが理解できました。私もエリア様にお菓子で喜んでもらえると良いな。
あ、そろそろお菓子の支度をしませんと!
お父様に保存魔術で空間に入れてあったお菓子を出してもらって、お母様といっしょにセッティング。
エリア様とジャスミン様がお茶の支度をします。
本来はこういったことは侍女がするものですが、エリア様とジャスミン様はお茶の入れるのがとてもお上手で、この様なお茶会を何度もされているということで今回は特例のお茶会になったそうです。
お父様はお菓子を出した後、呼び出しを受けてしまいました。終わり次第、ウヴァ様(え!)と陛下(えぇ!?)と一緒に戻るそうです。
えぇ~! 子供ってわたしだけ?? 違いますよね!?
せっせと準備し、テーブルの上にお菓子が出揃いました。
マドレーヌはリモンとショコラの2種類。ショコラにはちょっと岩塩をパラリ。クッキーはバニラとナッツを入れたものと柔らかめの生地を絞りだして焼いたものにジャムを挟んだ3種類。
リキュール漬けのドライフルーツのパウンドケーキ(私は食べられません!涙)に一口タルトは色々なフルーツで。もちろん、あのリモンとショコラの2層のムースも持ってきました!
お皿に盛ったのですが、少人数の為に量を少なくしてしまったので空きができてしまいました。お母様に相談したところ、この庭園にある花を摘んで飾っていいとエリア様から許可がでました。
テーブルがあるところより入口に近い方に摘みやすい花があるとエリア様に教えて頂き、花を摘ませていただきます。白、ピンク、黄色それに赤い花。ごめんね、ありがとうと声をかけながら摘んでいきます。
摘んではテーブルに持っていきお母様に飾ってもらって、またと言うことを2回ほど繰り返し、これで最後かなと5本ほど摘んだ時、エリア様とジャスミン様のお茶の方も用意が出来たということで、お母様ら声がかかりました。 席まで移動しようとした時…
「母上、遅くなりました」
入口の方から男の子の声が聞こえました。
「いらっしゃい、セイロン。これから始まるから大丈夫よ」
「それは良かったです」
ディン様とは違う、でも同年代と思われる少年特有の少し高い男の子の声に、あぁ良かった子どもは私一人じゃないんだと安心して後ろを振り向き――そうして見た視線の先には、蔓バラのアーチの下からこちらへ来る男の子。
私は思わず息を止まったように見惚れていました。
キラキラと輝く銀髪を右肩側で一つにくくり、王家に特有の澄んだ翡翠色の瞳を柔らかく細め微笑んで歩いてくる。少年でありながら既に王族としての風格が出始めているように見える―――
彼はわずかに目を瞠った後、私の目の前にくると、少し首を傾げて「貴女がルフナ嬢?」と聞きます。
咄嗟に「は、はい!」と返事をすると彼はエリア様と同じような蕩ける微笑みを浮かべ、右手を自身の胸に当て礼をします。
「お初にお目にかかります。セイロン・プリミアス・ラバーズリープと申します」
優雅な礼にまた時が止まってしまったように感じましたが、何とか姿勢をただし返礼をします。
「リシーハット・メルローズ侯爵が長女、ルフナともうします。以後、お見知りおきください」
少し慌てた形になってしまいましたが、何とか礼を返すことができたかな。と思いホッと息をつこうとした瞬間、彼は私の左手を取り、流れるような動作でキスを落とし、煌めく翡翠の瞳で私を見上げて微笑みます。
「ルゥって呼んでいい?私のことはセイでいいから」
「えっと、セイロン殿下?手を…」
「セイ」
「…セイロン様?」
「セイ。だよ、ルゥ」
「セイ様…?」
「まあ、いいか。なぁに? ルゥ」
拒否権はないそうです。にこにこと笑顔のセイ様にもう何も言えませんでした。あぅ。
固まったまま動けない私に気付いたお母様とエリア様が助け舟を出してくれました。
た、助かりました…。
「そろそろ、こちらへいらっしゃいませんか?殿下、ルゥちゃん」
「そうよ、セイロン。お茶が冷めちゃうわ」
「はい、母上。じゃあ、行こうか。ルゥ?」
「は、はい。あの手を……」
「大丈夫。危ないからこのまま行こうね?」
「平坦な道だと……」
「ん?なぁに?」
「イエ、ナンデモナイデス」
何故かセイ様の笑顔には言葉を止められてしまいます……
セイ様にエスコートされて席へ向かいます。 あれ? セイ様、ちょっと動きずらそう? 私がエスコートしなれていないから上手く歩けないのかも……。
そんな事を考えているうちにお母様達の元へと戻ってきました。
セイ様は私を席に座らせるとエリア様、ジャスミン様、お母様へ礼をして私の右隣に座りました。
私がお菓子の説明をし終えるとお茶会が始まります。
「凄いね、ルゥ。君が作ったの?」
「全てではありません。家の者に手伝っていただいて」
「それでも、ルゥのアイディアなんでしょう?」
「いえ、それは…」
セイ様はキラキラとした瞳で私を見つめます。このことはまだ両親以外には誰にも言えない……。ツキンとした痛みがココロニササル――
「ルゥ?どうしたの?」
セイ様が不思議そうな顔で私を覗きこんできます。あぁ、いけない。慌てて笑顔を作ります。
「いえ、すみません。ちょっと考え事してしまいました」
「そう……。その考え事って何かな?」
えぇ!そこは考えていなかったよ~
「えっと、その…。そう、そうです!クッキーのジャムはもう一種類あったら良かったかな~って」
うっ、ちょっとワザとらしかったかも?ど、どうしよう? 絶対に顔、紅くなってるよ~
「っつ! そ、そう? だ、大丈夫だよ。でも、ルゥがそう言うなら食べてみたいな」
作ってくれる?とはにかむセイ様。まるで絵本に出てくる天使様みたい……。
「はい。私で宜しければ」
「あ、口調」
「え?」
「さっきの方がいい。私はルゥと普通に話したい」
「でも……」
「ルゥは私が嫌い?」
「いえ、そんな事!でも今日お会いしたばかりですし」
「お願い、ルゥ」
「は、はい……」
「るぅ?」
「う、うん」
「ありがと、ルゥ」
セ、セイ様の笑顔は蕩ける様でどうして良いか分からなくなりそうです~ なんでそんなに見つめたままなのですか!? あぅ~
「ルゥのお勧めはある?」
「えっと、あの、リモンショコラです」
「これ? へぇ、層になってて面白い」
崩れてしまったら怖いので、マナー違反かもしれませんが内輪の集まりと言うことで。お皿にケーキを乗せて、それからセイ様に渡します。受け取ろうとしたセイ様の一瞬動きが止まったと思ったら
ガシャン!
セイ様の手からお皿が滑り落ち、そのまま私が使っていたカップに当たり傾き、中身がこぼれてしまいました。
こぼれた中身はテーブルを伝い私の方へ流れ、ドレスを紅茶色に染めていきました。
セイ様は慌てた様子で立ち上がり―――
「わっ、ルゥごめん!怪我は……っつぅ」
「!?」
バランスを崩して地面に転んでしまいました。私はその光景を見ていることしかできず、直ぐには動けませんでした。
セイ様は動きずらそうな身体をなんとか動かし、「いてて」と地面に座り込み、私を見上げ苦笑いを浮かべました。
私はどうして良いかわからず、どんどん視界が歪んでいきます。
「せ、いさ、ま?」
「ルゥ!? ごめん、君の所為じゃない。僕が!」
「せい、さま…だい、じょぶ、なの、です、か?」
「うん、大丈夫!怪我もしてない!だから、泣かないで?」
あぁ、もう涙が零れる――とその瞬間。
ぺしん と白い羽の扇がセイ様の頭に? ビックリして涙が一つ零れましたが後のものは引っ込みました。
「本当にダメダメね、セイロン」
「は、母上!」
「もぅ、格好つけるからこうなるのよ?」
「な!ちょっと母上!?」
「昨日の疲れ取れていないんでしょう?」
ディンくんと相当試合したんですって?とうふふ~と笑うエリア様。え?どういうことです? 混乱している私にジャスミン様が私の涙を拭いつつ話してくれました。
『あること』についてセイ様とディン様が言い争いになってしまい、決着というか剣術で語る?と言う流れになり、1時間以上打ち合いをしたそうです。お父様がそう言えばディン様は『疲労困憊全身筋肉痛』と言っていたような…?
ということはセイ様も?
「ひろうこんぱい、きんにくつう?」
「!ち、ちが!」
「やせ我慢~えい♪」
「っう~~~母上!」
「えっと、おつかれさまです?」
うわ~僕カッコ悪い!とセイ様は地面に倒れこみ顔を覆ってしまいました。
セイ様ちょっと可愛いです! でも、これだけは伝えたいなとセイ様の隣にしゃがみます。
「セイ様?格好悪くないですよ?」
「え?」
「さっき、エスコートしてくれました」
「??」
「セイ様、お疲れなのに私が転ばないようにしてくれました」
「るぅ?」
「色々とお話もしてくれました」
「でも、僕、失敗した。ルゥの服も汚してしまったし。お菓子もお茶も」
「お茶の中身は残念ですが、お菓子は落ちていませんし。お皿も割れていません。服のシミは落ちますよ。色が変わっちゃっても染めちゃえば良いんです!」
ね、お母様?と振り向けば、お母様は笑顔で答えてくれました。
一度の失敗で諦めて欲しくない。きっとセイ様は―――
「私なんてこの前、砂糖と塩を間違えましたけど次はちゃんと名前書いたので大丈夫でした!」
失敗してもやり直すことはできます!と笑顔で言えば、キョトンとしたセイ様は次第にあはは!ルゥすごい!と笑い出しました。
ひとしきり笑った後ちょっとでてしまった涙を拭いて起き上がり、
「ルゥ、本当にありがとう。そうだね、一回で諦めたら勿体ないね」
私に向けてあの天使のような笑顔をむけてそう言って、そのまま目を閉じ――ごめん、ちょっと眠い……。と後ろに――倒れちゃう!?
倒れていくセイ様に手を伸ばしますが、しゃがみこんでいた私には遠く、もう地面にぶつかる!とその時、誰か大人がセイ様を支え、抱き上げました。
セイ様が地面に倒れずに済んだことにホッとし見上げるとそこには、セイ様と同じ輝く銀髪を後ろに流し、煌めく翡翠の瞳――きっとセイ様が大人になったらこういう方になるんだろうと――の男性。
「バカだなぁ」と苦笑いを浮かべる国王陛下がセイ様を抱き上げていました。
「ルゥ!大丈夫か?殿下に何もされなかったか?」
「お父様!」
「ルフナちゃん。こんにちわ」
「ウヴァ様!!」
「はじめましてルフナ嬢。ハイレンジ・プリミアス・ラバーズリープ。国王してるよ」
「はははい!ルフナ・メルローズと申します。以後お見知りおきを」
お父様、ウヴァ様、国王陛下!すごい顔ぶれにがちがちに固まったままなんとか礼を返すと陛下はセイに似た微笑みをうかべます。
「うん。イイ子だね、セイロンが気に入る訳だ」
「そうでしょう、あなた。わたくし、気に入っちゃたわ♪」
「あらだめよ、エリア様。ルゥちゃんは私も気に入ってるの」
「あら大変。でも私も欲しいわ」
「エリア様には女の子いらっしゃるでしょう?」
「いるにはいるれけど、こんなに可愛くて素直な子じゃないもの」
エリア様、ジャスミン様、お母様もこちらに来ました。なにか嫌な予感がするので慌ててお母様に掴まります。
「ねぇ、あなた。ルゥちゃんが娘になったらいいと思わない?」
「セイロンも気に入っているようだし、婚約「「却下!!」」…」
「ダメです。陛下、ルフナちゃんはうちの子です」
「そうそう!ってウヴァ、お前んとこじゃない! うちはメルローズだ!だいたい何だってそういう事になる!?」
「ん?」「あぁ」
「「うちの嫁に?」」
「誰がするか―――!」
何か変な方向に行っているような……。
「ねぇ、ルゥちゃん。うちのディン。前途有望よ?」
「あら、セイロンもお買い得だと思うわよ?」
「家ならお菓子作りたい放題よ?」
「それならうちでも大丈夫よ」
って矛先がこっちに来た!? 私、ものじゃないですよ!慌てて両親に助けを求めるとお父様からは赤のお母様からは青い色が見える……こんな時に〔瞳〕発動しなくてもいいのにー!
「「ねえ、うちに頂戴?」」
「あげるかーーー!」「いい加減になさいませ!」
雷が落ちました。
……色々あったお茶会は微妙に消化不良のまま終了となりました。なのでまた開催するそうです。
今度はディン様も一緒に3家族全員でしましょうとエリア様とお約束しました。我が家のお菓子付きで!?
そうそう!セイ様にお手紙を送ったら、お友達になってくださいました!
でも、友達だから遊びに来たよ。とセイ様が我が家にちょくちょく遊びに来るとはその時の私には想像もつかなかったです。
読んでいただきありがとうございます。
次回はセイロン視点