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「え、っと…、上田まいこ、です。あ、性が上田で、名がまいこです」

「ああ…なんと甘美な響きなのだろうか。かの原初の人を誘惑した果実のように甘い異世界の味…マイコ様とお呼びしても?」

「あ、どうぞ…」


 この人、めっちゃくちゃイケメンだけど、なんかやばい人だ。言ってること意味わかんない。でもイケメン。もうしゃべんないでずっといてくんないかな。あーでもほんとイケメン。眉毛は金色なんだーへー不思議ー。まつ毛ながいなぁ、瞳は金色と黒が混じってる感じだし、すげー。

 というか、この人、さっきからずっとわたしのことガン見してくる。人のこと言えないけど。目力強すぎて、目合わせられないから顔見たいのに目が泳ぎっぱなし。


 それにしても異世界…漫画や小説の中の異世界と同じようにわたしも異世界に来てしまったのか…そうかそうか…これは夢だな!21世紀現代社会で玄関開けたら異世界にいました、なんて非現実的非科学的。そんなのは漫画や小説の中で十分。自分が経験するのはノーセンキュー!異世界に行って苦労するのは目に見えてるし、そんな主人公を客観的に読んで楽しむのがいいのであって、自分がその主人公になりたいとかは、まったく別の問題なのですよ。

しかし、こんな夢を見ているということは、わたしには、異世界の行ってしまった主人公願望があったとは…いやはや驚きである。


「ランカレ…?さんは、どうしてわたしが、その、異世界人だと?」

「私のことは、ランとお呼びください。急なことで問いたいこともあるでしょう。しかし、貴方のようなか弱く可憐な姫をこのままというのは、男として名折れ。どうぞ、あちらの椅子に座って頂けないでしょうか」

「はい…じゃあ、お願いします」


 つまり、あの椅子に座ってしゃべろうぜ!てことかな。

 回りくどくて面倒だぞ、この人。


「私のような醜男と二人っきりというのは、大変申し訳なく、心苦しいのですが、暫しの時間、ご我慢を。こちらに来られた異世界人を最初に持て成すのは、魔導士長の役目なのです。さあ、お手を」

「しこお…?」


 何言ってんだこの人は。

 あれか、遠まわしに、おいデブスが俺と一緒いられることに感謝しな!てことかな。まあこれは、夢。普段なら、こんな美男外国人と話す機会もましてや、差し出された意外と角ばってる長い指先に触れる機会もないし、わたしの夢だし、欲望のままにふるまうのもいいよね。


 差し出された白い布から見える褐色の手の上に、肥えた芋虫みたいなふっとい手を乗せると、軽く握られ、部屋の奥、天井まで続くアーチ状の窓の前に鎮座している二脚ある椅子へ導かれる。

 あ、なんかいー匂いする。ふんふん。イケメンは匂いまでイケメンなのか。


 ランさんは、ゆったりとした足取りで窓際までくると、握っていたわたしの手を離し、離す直前に親指で撫でられたエロい。我ながらいい夢を見ている。椅子を引かれたので、腰かける。窓の向こうに目を向けると、ザ・ヨーロッパ。色とりどりの花が咲き誇り、ひとつの乱れなく切り揃えられた木々。庭というよりは、ガーデンとカタカナで表現したほうがいい庭があった。


 リィン…


 かすかな鈴の音が聞こえて、見とれていた外の景色から視線を室内へ戻すと、先ほどまでわたしたちがいた扉が開き、お茶セットをのせたワゴンを引き新たな人物が現れた。

 黒い首が詰まった細身の服に身をつつんだその人物を見て、これまた目が釘付けに。


 10代後半くらいかそのあたりの、まだ若々しさのある顔立ち、程よく焼けた健康的な肌に燃えるような赤い髪。短く切りそろえられていて、スポーツをやっていそうな好青年である。しかも、めちゃくちゃイケメン。ランさんもめちゃくちゃイケメンと思ったけれど、この給仕をしてくれている青年もめちゃくちゃイケメンである。ランさんがエキゾチック大人イケメンだとすれば、この青年はスポーツマン好青年イケメンである。なんだ、ここは夢の国か。いやわたしの夢だ。


「癖のないお茶を用意させましたが、マイコ様の月光鳥の如く、無垢な蕾に合えばよろしいのですが」

「え、あ!ありがとうございます」


 素直に口に合えば、って言って!

 机の上に置かれた乳白色の飲み物ではなく、黙々と給仕をしてくれるイケメンに目を奪われる。ランさんはずっとこっちを見ていて目を合わすのが怖すぎて気軽に見えないから、こっちのイケメンを見るしかないのだ。しかし、あまりにわたしが見すぎたのか、ランさんの前に花の絵が描かれたカップを置いた、瞳と同じくらいに燃えている赤い瞳と目があった。


 宝石みたいな瞳だなあ…

 ここは私の夢だって、分かるのは、わたしのようなデブスと見つめあっても笑ったり嫌な顔をしたりしないで、わたしが美女になったかのように目があったイケメンがうっとりした顔をしてくれるから。例にもれず、この赤髪の長身イケメンくんもとろけんばかりの顔で見つめてくれる。


トン、


 机を指で叩いた男が聞こえると、長身イケメン君がはっ、とした表情になり、すごい勢いで頭を下げられた。


「も、申し訳ございません!失礼致しますっ」


 キレのある動きでしかし、音を立てることなくワゴンを押して足早に部屋を出ていくイケメンくん…。ああああ、名前聞いとけばよかった。


「弟子が失礼を致しました。マイコ様のあまりの美貌に耐えられなかったのでしょう。修練不足ですね。後できつく言い渡しておきます」

「いいえ…ランさんもそうですけど、あのお弟子さんもかっこいいですね」

「ああ…マイコ様は、なんとその心根まで澄んだアレンティツアの原水のように無垢でいらっしゃるのですね。しかし、私共のような醜男などには勿体なき言葉」

「さっきから<しこお>って言ってますけど、意味がちょっとよくわかんなくて」


 感極まってるところ申し訳ないんですけどね、修飾語多すぎて意味わかんないですよね。


「私のような醜い顔の男のことを醜男とそう呼びます。貴女に相応しく肉ぶりのよく背も小さき美男であったらよかったのでしょうが」

「ん…?肉ぶり?!」

「はい、どうやらわたしは肉が付きにくい体質でして」

「え、あ、あの…もしかして、ここでは、肉付がよくて、顔が三回くらい踏まれたようなへもくちゃぴーな顔がイケメンだと!?」

「へもくちゃぴー?でございますか?」


 いやいや、エキゾチック大人イケメンのランさんが小首傾げて聞いてくる姿に萌えている場合じゃなく…いやいや、これはわたしの夢なのだから萌えたって問題ないわけで。

 というか、この世界の美醜観念ってもしかしなくても、わたしのようなデブスが美人で、ランさんみたいな細くて筋肉があって、鼻すじ通って高身長のイケメンがブスってこと!?やべーわたしの夢の設定なにやってんだー。ありがとう最高だ!


「あのーそのぅ。わたしって美人だと思いますか?」


 現実ならお前何言ってんの?頭わいてんの?目の病気か?ていわれるのが当たり前だけど、ここは夢。しかもわたしが作り出した最高の夢。この26歳アラサー処女のデブスが美人だとちやほやされる、夢の国だ。もう迷わない、恥じらいなんか持たない。欲望のままに!!









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