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 例えば、

 痩せていればこんなはずじゃなかった、とか

 顔が美しければもっと違う人生だった、とか


 そんなことを考えてしまう程度には、わたしは、外見上の劣等感を持っている。かと言って、地道な努力をして体重を減らしたり、少しでも美しく見えるように、話し方や笑い方に注意を払ったりなど、この劣等感に満ち溢れた、わたしという存在を変えようとはしなかった。


 つまり、単刀直入に言ってしまえば、わたしは、デブでブスな二十六歳の口だけ達者な処女なのだ。行動を起こすこともないのに、あの子は可愛いからモテる、あの子は痩せているから彼氏がいるんだ、と自分が生まれてこの方、彼氏がいないことを正当化しようとする。すべては、太っていて美しくないこの顔がいけないのだと、痩せれば、美しくなれば、自分は愛されるはずだと言い訳をする。


 そんな、外見だけでなく中身もちっぽけな女、上田まいこは、地球を離れ、どこの星とも知れない世界にやってきた。





 ************





 大学時代の友人から久しぶりに連絡が来る。

 二十六歳となれば、多くの女子が本文を開く前に脳裏によぎる、「結婚」の文字。案の定、結婚することになったため披露宴に参加してほしい云々の内容。ご祝儀貧乏、という言葉が世間にはあるが、生憎と交友関係が狭いため、貧乏に成る程の回数を呼ばれることもない。

 すぐに返信することなく、手垢で汚れたスマートフォンのホームボタンを押す。


 確かあの子は、わたしと同じくらいの顔面レベルなのに、いつも彼氏がいた。同じ顔面レベルでも彼女は、細くそして、優しかった。面倒くさがりのわたしに代わって旅行の手配から始まり、誕生日のプレゼント。旅行に出かければ、わたしが好きそうな食べ物のお土産等々…彼女はいつも笑って、わたしと友達という関係を続けていてくれた。大学を卒業して、頻繁にではないが連絡をしてくれるのも、彼女だった。そのおかげで、わたしは友達がいない、という状態を避けられたのだけれど。


 彼女の報告を喜ぶ前に、ぐだぐだと自分との差を比較している自分に更に憂鬱になり、万年床になっている布団の中へ潜り込む。仕事のない日は、たまった洗濯をした後は、ひたすら布団の中で過ごす。ネットや買った漫画を見て過ごす。なにかに意識を集中させている時は、現実の自分と向き合わなくてすむ。目を瞑り、何も考えないように意識を白紙にして、眠りの世界へと旅立つ。


 目を開ければ、部屋は闇に包まれていた。電気をつけるために布団から這い出れば、玄関というには小さすぎるスペースに一枚の白い紙のようなものを見つけた。

 一人暮らしの安いアパートにはポストというものはなく、玄関扉と一体化したポスト口に郵便物を直接入れ込むのだ。ポスト口を開けば、そのまま家の中が見えてしまうのが防犯上どうなのかと思う。目隠しをすれば問題ないのだけれど。

 十歩程度でキッチンを通りすぎれば、すぐに玄関口で、近づけばそれは一枚の葉書であった。拾い上げ、間近で目を通すと、







〈上田まいこ様


  地球を捨てて、異世界に引っ越しませんか。

  そうすれば、あなたの夢が叶うでしょう。 〉





 たったの三行。

 宛名もない、悪戯にしては奇妙な内容の葉書だ。


 むしろ、名指しで自宅に投函されたことに背筋に冷たいものが走る。でも、それと同時に、ネットや漫画で読んだ主人公のような、奇妙で不気味な文面に興奮している自分もいた。

 玄関扉にかけてある宅配便のサイン用ボールペンを引っ掴んで、パソコンで印字された三行の文字の下に書き殴る。











〈 異世界に引っ越します 〉









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