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CODE:Ultimate  作者: 天宮 悠
1章
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Chapter9「初動Ⅱ」

 悠奈達と別れ、ユーとアセリアは二人教員室へと向かっていた。

 学生がちらほら見えはするが教室へと続く道ではないので、必然的にここを通る生徒は限られすれ違う人の数は比較的少ない。

「なぜ、私までついていく必要がある」

 ユーの後ろで不満げに呟くアセリアの顔は、朝からずっと怖いままだ。

 彼女が歩くたびに後ろで結った長い銀色の髪が左右に揺れ、少し灰色がかった薄い黒色の瞳がユーを見据える。 

 ユーは背後からそんなアセリアの視線を感じながらも、気にせず歩を進めた。

 そのまま足は止めずユーはため息交じりに、

「これでも気を使ってあげたんだけどな。ハンヴィーに残ったら、あの二人と一緒だよ? アリスはいいとして、ボブは知らない人が相手でもうるさいし。悠奈ちゃんだって君からすれば苦手な部類の人だろう? だから俺と一緒に――」

「もういい、分かった」

 吐き捨てるように言うと、アセリアはユーの話を最後まで聞かず前髪をかきあげながらまるで何かを探すように窓からじっとどこか遠くを見つめる。

「お前が護衛対象を一人にするはずもない。やはり今回の任務、あの女も連れてきているな?」

「まあね。『彼女』は俺達の目になってくれるし、おまけに邪魔者を排除するって意味でも彼女ほど適任は……」

 ユーが背後を見やると、僅かだがアセリアが口を尖らせ不満そうに半目でこちらを見ていた。

 そういえば、アセリアは彼女の事が嫌いだったか。と、今更ながらにそれを思い出して一人ユーは顎に手を当てる。

 アセリアと組むのは久しぶりなので、そこまで気が回らなかった。

 そもそもユーは現場に出ること自体が稀なのだ。普段から行動を共にするのは、アセリアが嫌っている彼女くらいなものだ。

「私一人で十分だ。何であいつを……」

 文句を言いながら一人で呟くアセリアに笑みを浮かべつつ、ユー達は教員室に到着。

 ドアに手をかけたところで、ユーは一度動きを止めた。

 それを見て、アセリアがユーに怪訝な顔を向ける。

「ユー?」

「はぁ……まいったね」

 ユーは一度ドアから手を離すと、制服の内ポケットに手を入れ一見スマートフォンのようにも見える携帯型端末を取り出す。

 この端末はスマートフォンとしての機能も使用できるがそれはあくまで偽装であり、本来は中央情報室の局員がエデン内で活動をする時の補助をする物だ。

 これは周囲のナノマシンや電子機器へアクセスし、特定の個人の情報を閲覧することや電話やメールの盗聴、またあらゆるセキュリティを操作、無力化することができる。 

 とはいえこれほどの物をそう簡単に持つことはできず、この端末を所持しているのは中央情報室の者、その中でも幹部や一部の局員のみに限られる。

「さて、と……できればカメラでもあると助かるんだけど」

 ユーは端末の画面に何度も指を滑らせる。と、

「ああ、あった。ちょうどこの中の監視カメラみたいだね」

 ユーがアセリアにも見えるように端末を持ち上げる。

 今この端末の画面が映し出しているのは、教員室内に設置された監視カメラの映像だ。

 それを見ただけでアセリアも状況を察したようで、彼女の顔から困惑した色が消える。

「対応が早いな。いや、まだ護衛の配備も碌にできていない今だからこそ好機と踏んだか。どちらにせよ、今日の授業は中止だな」

 次の瞬間には、アセリアは嬉々とした表情で背中に右腕を回しジャケットの内側に仕込んだマチェットを取り出していた。

 ユーが指示をする前からもうやる気らしい。

 それならそれで手間が省けるので、ユーは何も言わずに端末をジャケットにしまう。

「数はそれなり、人質もいる。俺も手伝おうかい?」

 一応聞いてみるがアセリアは鼻で笑い、ドアの前に立つ。

「不要だ。敵の配置は覚えた、あとは私一人でやれる。お前はあの女のところにでも行っていればいい」

「はいはい。じゃあ、ここは任せたから」

 ユーはやれやれと両手を上げ、アセリアに背を向ける。

 カメラで見る限りは誰もまともな装備もつけていないように見えたので、それほど練度の高い相手でもなさそうだ。なら、アセリアがしくじることはないだろう。

 むしろ敵が標的を今回の件の関係者に定めているというのなら、危険なのは悠奈の方だ。

 たしか悠奈のクラスにはもう一人、護衛対象者となっている者の家族がいたはずだ。

 それと悠奈を合わせて二人も同じ場所にいるとなれば、狙われる確率は十分に高い。

 もうここには用は無い、とでもいうようにユーは静かに来た道を戻ることにした。



 ユーが立ち去ったのを見てアセリアはジャケットの下、右腋の辺りに手を入れる。と、ショルダーホルスターからP226拳銃を引き抜いた。

 P226拳銃は中央情報室の支給品で、あそこに所属している者なら使う使わないに関わらず最低限誰もがこの銃を持っている。

 管理局の支給品の中ではこの拳銃(P226)はそれなりに高性能な方だ。

 多少乱暴に扱っても壊れないし、命中精度も悪くない。その分高価だが、そんなものを所属している者全員に配れるのは、多少他より融通の利くこの部署(中央情報室)だからこそともいえる。

「あまりやり過ぎるとあいつに何か言われるか……いや、まあいいか」

 ふと、これが終わった後でユーの小言が飛んでくる光景が脳裏に浮かんだ。

 が、元々向こうもこういった時の為に自分を呼んだのだろうし、別に構わないだろう。

 護衛だけなら他の者でもやれる。だが、敵を制圧するという意味でならアセリアのように戦闘を主とするものに任せた方が都合がいいはずだ。

 だからこそ、そういう事態を考慮したユーの人選。彼の事だ、暴れても大して問題にはならないと踏んだからこそ、アセリアは今ここに連れてこられている。

 少しでも障害になると感じたのなら、絶対にユーはその要因を排除する。アレ(ユー)は、そういう奴だ。

「さて……行くか」

 ユーの端末の画面に映っていたのは、教員を人質に取り立てこもるいわゆるテロリストという奴ら。

 碌に教員を拘束せずに銃で脅し身動きを封じてるだけのところを見ても、そう練度の高い者達ではないのだろう。

 アセリアはドアの前で一歩下がると、P226とマチェットを握る手に力を込め――勢いを付けてドアを蹴った。

「ぎゃああああ!?」

 開けるどころか吹き飛んだドアは、そのまま吹き飛び窓際にいたテロリストと思われる一人の男に直撃。

 さっそく一人倒したところで、アセリアは素早く教員室の中に突入。

 不意の事もあって、教室内にいる者の意識は突入したアセリアよりも吹き飛んだドアの方へ集中していた。

 そこから生まれた数秒の隙をアセリアは逃さない。

 教員に銃を向けている者、その中でも自分により近い者を瞬時に選択するとアセリアはP226のトリガーを引く。

 と同時に、部屋に響く乾いた銃声。片手で撃ったにも関わらず、アセリアの放ったP226の9mmパラベラム弾は正確にテロリスト達の頭部に吸い込まれるように着弾。テロリストが地に朱い花を咲かせるかのように血を撒き散らして倒れる。

 机の上に置いてあったプリントまで真っ赤に染まってしまったので、今日と言わずこれは明日以降の授業も進めるのは難しそうだ。

 まあ、そんなものはアセリアには関係ないことなのだが。

「なんだこいつ――うおお!?」

 状況を理解し始めたテロリストの一人が持っていたライフルを構えるが、それのトリガーに指をかけるよりも早くアセリアが身を屈め地を蹴って肉薄。

 テロリストの足元まで詰め寄ると、右手に持っていたマチェットを斬り上げて腕の肉を引き裂く。

 保持しきれなくなったライフルを取り落すと、腕の痛みに膝を床に付けテロリストは無事な方の手で傷口を必死に圧迫していた。

「こいつ!」

 すぐ傍にいたもう一人も反応するが、アセリアは身体を捩り半回転させながら勢いをつけるとテロリストの腹部目がけマチェットを振るう。

「まさか、管理局の――ぁ」

 テロリストは何か言いかけていたが、それを言い切る前にアセリアのマチェットが体を半分から二つに切断すると、上は床にどちゃりと落ちて身動き一つしなくなり、下半分はまだ意識でもあるかのように数歩歩いた後ぱたりと倒れ内臓を床一杯にぶちまける。

「痛ぇ……痛ぇよ……俺はまだ死に――」

 腕を斬られたテロリストは膝をついたまま血を吐き出し続ける傷口を必死に押さえ、うずくまっている。アセリアはテロリストの頭にP226の銃口を押しあてると、そのままトリガーを引いた。

 言葉にもならない呻き声を残して、テロリストはうなだれるように力なく上体を前に倒す。 

 まだ、アセリアがこの部屋に入ってきて一分も経っていないというのに、既にテロリストの数はあと数人というところ。

 その場の誰もが疑う余地もなく、圧倒的な力の前に恐怖していた。 

 ただ一つの、アセリアという恐怖が数秒でこの場を飲み込んだのだ。

 まともに思考が働くのならば、今すぐ銃のセーフティ(安全装置)をかけ床に置いただろう。

 そうしなければ、次に殺されるのは自分。誰も口は開かずとも、それだけは本能的なもので理解できる。

 が、誰もがそうであるというわけではない。

 必ずしも皆が皆同じ考えを抱くということはないのだから。

 そう、だから――

 ここで錯乱し、アセリアに刃を向けるものがいても不思議ではない。

 結果など、考えずとも見えているような状況だったとしても。

「う、うわああああああ!」

 アクリル製の防弾盾を構えながら、テロリストの男がアセリア目がけ走り出した。

 一般的な警備部隊でも採用している人一人くらいは身を隠せそうな透明な板。それでも拳銃弾程度なら貫通力の高い弾でも弾くことができるくらいの性能はある。

 むろん銃弾を弾けるのだから、生半可な刃物では貫くことなど不可能。

 それを使ったこと自体は評価できる。アセリアが持っていた物がただのマチェットであったのなら、多少なりとも苦戦を強いられたであろう。

「くそ! くそ! 当たれ当たれよぉ!」

 身体を構えた盾で守りながら、男は片手で拳銃を乱射。

 片手しか使えないとはいえ数メートルしか離れていないこの距離ではある程度弾もまとまり、いくつかはアセリアの直撃コースに入る。

 それを最小限の動きだけでかわすと、突進してくる男を避け、通り過ぎざまにマチェットで一閃。 

 マチェットの刃は抵抗なくアクリル盾と男の身体を両断、勢いをそのままに男は崩れ落ち、切り裂かれた上半身がごろごろと床を転がった。

「ふん、揃いも揃って雑魚だけか……くだらない。茶番だったな」

 吐き捨てるように言うと、アセリアは手近な机の上にあったプリントで赤く染まったマチェットの刃を拭き、背中の鞘にしまう。

 アセリアの周囲では数人の生き残ったテロリスト達が武装解除し、怯えながらせめて命だけはと祈るように手を顔の前で組み膝をついていた。

 それを見て呆れたように深く息を吐くと、アセリアは目にかかった前髪をかきあげながらP226をホルスターに戻した。

 見たところ、教員達に被害が及んだ形跡はない。

 テロリスト達も戦意を喪失しているのでしばらくは放置していてもいいだろう。そもそも、タイラップの手錠はユーしか持っていないのでどの道アセリアでは拘束はできないが。

 とはいえさすがに放置も出来ないので、ユーが戻ってくるまでのしばらくの間はここに留まらざるを得ないだろう。

「……さすがにやりすぎたか」

 そこらに散らばる肉片とそこから漂ってきた臭いに、アセリアは鼻を手で覆いながらめんどくさそうに窓を開け始めた。

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