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CODE:Ultimate  作者: 天宮 悠
1章
46/53

Chapter46「真実を見ることはなく」

 エリアU。エデンの中でも最大の広さを持つ広大なエリアは、エリアJ同様に殺風景なビル群が大半を占めている。

 大半というだけで、一部は変わった建物もある分ビルのジャングルと化したエリアJよりもましだろうか。

 クリスが言っていた予定の日よりも一日早く、悠奈達はエリアUにやってきた。呼ばれたということもあり、無警戒に突っ込むわけにもいかず下調べをしておきたいらしい。

 それでなくてもメンバー総動員で来ている辺り、今回はユーもかなり慎重だ。

「ここでいいのか?」

 ハンヴィーを道路脇に止めて、運転していたボブが助手席に座るユーに聞く。

 ユーは携帯端末を操作しながら、ボブの顔も見ずに答えた。

「うん、このホテルを拠点にしよう」

 調べ物が終わったのかユーは端末をポケットにしまうと、皆に降りるように促す。

 ボブだけはハンヴィーの移動があるので、運転席に残ったままだ。

「できるだけ駐車場から出しやすい位置に止めておいてね」

 それだけユーは言って、ハンヴィーのボンネットを手の平で叩くとボブが親指を立ててハンヴィーを動かし始める。

 それを悠奈は見送ると、ユーが先導しながらホテルの中へ。

 エリアRのホテルほどではないが、内装はかなり綺麗な方だ。これでもエリアUではかなりランクの低い場所なのだから、このエリアの特異性が伺える。

 手早くチェックインを済ませ、それぞれ割り当てられた部屋に入ると三十分後にロビーに集まる事になり、それまでは部屋で準備するなり待機するなり好きにしていいらしい。

 部屋は悠奈とユー、アリスとアセリア、ユーリとボブでそれぞれ二組になるように用意した。

 なんとなくだが、ユーリと一緒だとボブが心配である。主にボブがからかわれそうで。

 そんなこんなでユーと一緒に部屋に入った悠奈は、さほど荷物もないのでベッドの角に座ると足を宙で遊ばせながら何かよくわからない機材を広げるユーを眺める。

 と、視線に気づいたのかユーが首を傾げた。

「どうかした?」

「んにゃ、することないからさ」

「ああ、そっか。三十分は長かったかな。……そういえば、悠奈ちゃんはあんまり携帯とか触らないね。今時の子にしては珍しいよ」

「んー、なんだかあんまり好きじゃなくてねー」

 言いながら悠奈はベッドに後ろから倒れ込み天井を見つめる。

 シミ一つない真っ白な天井は清潔感に溢れ、同時に無機質過ぎて病院か何かの一室かと思ってしまうほどだ。

 あまりにもすることがないと、頭の中で色々と考えこんでしまうのが悪い癖。それで勝手に自分で気落ちするのだからやってられない。

 悠奈に会いたいと言っている人物のことも気になるし、そして何よりも悠奈自身のことについてだ。色々あって考える暇もなかったが、きっと悠奈は自分が考えているよりも普通の人間ではない。

 結局、マザーの鍵が悠奈だということ以外何も知らされていないし、あの日管理局で出会ったラトリアが言っていた、CODE:Ultimateという単語。あれが何を意味するのかもわからない。

「ねぇ、ユーちゃん」

「ん?」

「……おなかへったね」

「え? あ、あー……なにかルームサービス頼む?」

「おぅ……違うんだユーちゃん」

 そういえばラトリアのことを話そうとすると勝手に別の言葉に変換されてしまうまるで呪いのようなものをかけられていたのだった。

 きょとんと目を丸くして、頭を抱える悠奈を怪訝そうに見つめるユーはしばらく考えた後でなにか気づいたのか真面目な顔を作る。

「彼女の……マザーの話かい?」

「んー、そうそう。んや、ちょっと違う?」

 顎に人差し指を当てながら悠奈は考え、首を傾げながら答える。

「今何時? ……ぐぬぬ……も関係あるっぽいけどそっちじゃなくてね、ええっと、なんて言ったかな。CODE……CODE、あ、こっちは言えるんだ」

「……もしかして、U計画のことかな。とうじょ……あなたのお父さんの」

 悠奈は静かに頷く。こういう時にユーは察しが良いので助かる。だが彼女はその話題については触れたくないのか、少しだけ顔をしかめた。

 CODE:Ultimate。ラトリアは自分と悠奈にはその繋がりがあると言っていた。こっちは自分で調べてみればいいと本人から直接言われてるので、おそらく規制的なものがかけられていないのだろう。

「あれは……たしかに君に関係がないわけじゃない」

「どういうものなの?」

「それは……」

 この反応からすると、知らないのではなく、知っているからこそ言いたくないといったところだろうか。それはつまり、あまり悠奈にとってよくない内容の話だということ。

「怖いから私も考えないようにしてた。でも、もうそうも言ってられないんだと思うの。今回の件もあるしさ……」

「……うん」

 目を逸らすユー。その瞳には困惑の色が見える。

「フィオナちゃん達が学校に攻めてきた時があったでしょ? あの時ね、今考えれば馬鹿なことしたって思っちゃうんだけど、私銃で死のうとしちゃって……」

「え、あ……じゃああの時気絶してたのって……そんな、ごめんそんな大事なことにも気づけないなんて私は……やっぱり」

 ユーが悲しそうに顔を伏せると、悠奈は慌てて両手を胸の前で左右に振って心配ないと訴える。

「え、あ、いやそうじゃなくて大丈夫だよ。あの時はみんないろいろ大変だったし。気にしてないから。むしろごめんね、ユーちゃんが守ってくれてるのに私勝手に……」

「そんなことないわ。私がもっとしっかりしていれば、悠奈ちゃんにこんな負担を……」

 心の底から心配してくれているのだろう。最初にあった時の事務的な態度からここまで変わってくれたのは悠奈もすごく嬉しいが、話が進まない。

 ので、悠奈は軽く手刀でユーの額を叩いた。

「てりゃ!」

「ふわぁ!?」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど話を聞きなさい!」

 人差し指をぴんと立てて悠奈が言うと、額を擦るユーが軽く頷いた。加減はしたはずだが若干涙目になっている。

「とにかく、その時に私絶対頭に銃弾当たってたはずなの。掠っただけかもしれないけど銃弾だよ? それに、エリアRの時は間違いなく私お腹を銃で撃たれてた。でもほとんど無傷だったし、あの時はそれが当然、みたいなふうに勝手に思ってた。疑問に思い始めたのは、Rでシグ君と支部の中で戦った時から。Fでユーちゃんとあの化物から逃げてた時も、あのあとから色々これまでに起こったことにちょっとずつ疑問が生じ始めてる」

 悠奈の真剣な眼差しに、ユーは作業する手を止めてその話に聞き入る。

「父さんは私にどうやったかは知らないけど鍵を仕込んだ。でも、たぶん仕込んだのは鍵だけじゃない。違う?」

 考えてみれば、鍵という重要なものをただの人間に入れるのにはかなりのリスクがあるのだ。だから、そのリスクを減らすには普通の人間ではない者に仕込めばいい。単純な話だ。

「あなたは……やっぱりすごいね悠奈ちゃんは。でも、私に聞かなくてももう自分の中で答えは出ているんじゃないの?」

「うんまあ。ただ確証がほしかったのよ。やっぱり、そう……なんだね。きっと父さんは普通に暮らしてる時にこれで私が悩むのを心配して、暗示か何かわかんないけど私の力に疑問を抱かないように細工してくれたんだね」

「ええ、おそらくは。あなたのお父さんは悠奈ちゃんに普通に暮らしてほしいと思っていたはずだから。ただ、危険な状況が続いたから何かの拍子にその細工が機能しなくなってるんだと思うわ。いえ、もしかしたらこうなった時に自然と解除されるように仕向けてあった可能性も……」

 悠奈は顔を伏せると、左右の手の指を絡ませて弄りながら思案する。

 問題は、『いつ』仕込まれたのか、だ。ある段階で、ということならそこまで気にすることはない。ただ――最初から、つまり生まれた時からというのならもう一つユーに質問が増えてしまうことになる。

「私は最初からこんな体だったのかな?」

 ユーは答えない。だがそれこそが答えのようなものだ。

 そもそも学校で男子よりも身体能力が高いという時点で疑問を抱くべきだったのだが、これもまた細工のせいで考えることすら出来なかった。

「ねぇユーちゃん、私も……私もユーちゃんと同じ強化人間なの?」

「あなたは……その……」

 やはりユーは言い淀むだけで答えてはくれない。

 悠奈が傷つくことを心配してくれているのだろうか。確かに面と向かってそうだといわれるのはちょっときついものがあるな、と悠奈は頬を掻きながら目を宙に泳がす。

「それは、その……ごめんなさい。私からはまだ言えない」

「……そっか、ごめん」

 だが、ユーが頑なに言おうとしないのに少し違和感を感じた。これではまるで強化人間ですらないようにも聞こえてしまう。

 普通の人間ではない。だが強化人間でもない。だとすれば悠奈は――

 一瞬、そこでほんの一瞬だが、悠奈は酷く非現実的な別の答えを考えた。それはあまりにも非情で、ありえないからとすぐにでも頭の中から払拭したい最悪の可能性。

 きっとテレビや漫画の見すぎだ。絶対に違う。そう思いたい。実際そうである可能性なんて無いに等しいはずだ。

 しかし考えれば考えるほど、記憶に全く無い母のことが、明が妙に優しいのが、悠奈を過剰なほどに大切にするのが、それに理由あってのことだと思えてきて。

 だって、もしそうなら――それが真実であって、それを認めてしまったら、きっと悠奈はもう悠奈でいられなくなる。

「あー、なんか暗くなっちゃったねごめん。あ、そうそう、そういえば結局私にお話ってなんだろうね」

 やや強引にだが悠奈は話を変える。今は、そうしなければならない。

「きっと、CODE:Ultimateのことについてだと思う。Aのコード……つまり最初のUからのお誘いだから」

「私にも関係あるんだよね。……そっか」

「悠奈ちゃん」

「ん?」

「たとえ何があろうと、君は東條悠奈であり、それが変わることはない。絶対にだ」

 ユーの言葉に一瞬悠奈は顔を歪めるが、すぐに笑顔を無理やり作って笑ってみせた。

 まるで悠奈の嫌な方の考えを裏付けるような言葉に、胸が痛む。

「何言ってんのさ、そんなのあったりまえじゃん。悠奈ちゃんは悠奈ちゃんだよ」

「悠奈ちゃん……」

 思考を停止させ、ただその言葉だけを引き出した。

 すると悠奈は立ち上がって、洗面所の方へ足を向ける。

「ごめんねユーちゃん、ちょっと顔洗ってくるよ」

「ごめん、悠奈ちゃん……私は」

 ユーの言葉を最後まで聞かずに、悠奈は立ち上がり逃げるようにその場を後にした。

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