Chapter40「ナノハザード:ホラーハウス」
久しぶりの我が家への帰還に、悠奈は少なからず気分が高揚していた。
ボブ達のことも気がかりなので、悠奈は居住用タワーにつくと受付の雪風に軽く挨拶を済ませ自分の部屋に急ぐ。
ドアを開ければ、そこにはもう見慣れた顔が三人分。
「あ、ユーナだ! ユーナ! おかえりー!」
悠奈の姿を発見するやいなや、アリスがばたばたとリビングから階段を上がって玄関まで走ってくる。
そのまま悠奈の腰にタックルする勢いで抱きつくと、顔を埋めて感触を堪能するかのように沈黙。
「おっと、あはは……ただいまアリスちゃん」
「……うん、おかえり。ユーナ」
腹のあたりで顔を左右にぐりぐりしながらアリスが言うものだから、くすぐったくて彼女の頭を両手でわしゃわしゃとかいてやる。
「ふぇあ!?」
「そんなに悠奈ちゃんに会えなくて寂しかったかなー? このこのー」
「相変わらずだな、お前も」
アリスと戯れていると、いつの間にかアセリアが壁にもたれて立っていた。
なんだかんだで出迎えてくれる辺り、彼女もそこそこ悠奈を心待ちにしていたのではないだろうか。暇そうだし。
「はは、アセリアが出迎えてくれるとはな。これは明日にでも壁が壊れるんじゃないか?」
「そりゃ洒落になってねぇぜユーリ。ったく、変わらねぇなお前らは」
最後にその巨体を揺らしてゆっくりとボブが階段を登ってきたところで、ようやくメンバー全員が揃い踏みだ。
そこで、アセリアが一度ユーや悠奈達の姿を確認した後で、腕を組みながら顎に手を当てた。
「手ぶらか……ここに居座るために帰ってきたわけではなさそうだな」
自信満々に言い放つと、待ってましたと言わんばかりに含みのある笑いを浮かべる。
必要な物はあらかた持って行ったので、ここへ他に帰ってくる理由となればメンバーの入れ替えくらいだ。
能力的に考えれば、この場で戦力の入れ替えをするなら待機メンバーからはアセリアが出るのは間違いない。彼女もそれがわかっているからこそ、あんなふうに言うのだろう。
「おや? 何だアセリアそんなに暴れたいのかね?」
「当たり前だ、お前ばかり……いや、そもそも私がこんなところで待っているだけは性に合わん」
「もしかしたら、君が強いからこそ君だけ残してボブ君とアリス君だけもらって行くかもしれんぞぉ?」
「なっ!? 馬鹿な! ありえん。非合理的だ。違うだろ? なあ、ユー?」
ユーリの言葉に途端に不安になったのかアセリアが慌てた様子で両手をぱたぱたと横に振る。普段凛としている彼女だが、意外にこういった面白い一面を見せてくれるので悠奈はアセリアが好きだ。
「あはは、大丈夫大丈夫。今回はアセリアにも来てもらうよ。それとアリスも、いいかな?」
「私? うん! いいよ!」
元気に返事をするアリスの横で、ぽかんと口を開け放心する巨漢が一人。
そう、今回はボブだけ留守番だ。
「え? あ、おい……まさか俺だけ居残り?」
「そうだよ。でもボブは受付の人がいるでしょ?」
「綾音はタバコくせーんだよ。大体、さすがに一人は……」
そこまで言って、ボブは真剣な眼差しでユーを見つめた。
「強化人間が出っ張らなきゃいけないような事件に首突っ込むつもりじゃねぇだろうな? だとしたら無理矢理にでもついてくぞ」
凄んでユーに突っかかるボブに、ユーは片目を瞑りながら言う。
「大丈夫、念の為ってだけだし今回の件よりはよっぽど簡単なものだよ。一人にさせちゃうのは申し訳ないけど、我慢してくれるかな?」
腰を少しだけ折って微笑みながら胸の前で両手を合わせお願い、とユーはポーズを決める。
エリアRで悠奈とユーリの三人きりの時は女性として振舞っていたせいか、それまでわりとできていた男のふりに少しだけ歪が生じ始めている気がする。ボブはその手のことに鈍感そうだからいいが、アリスとアセリアは下手をすれば感づいてしまうかもしれない。
「ボブはきっと日頃の行いのせいだね。うん」
「はは、まあせっかくのハーレム状態なんだ、ユーにも気を使ってくれたまえ」
ボロを出さない内に悠奈が援護をすると、ユーリが後に続いてくれる。あまり感情を出さないが、きちんと気を使ってくれる辺りがユーリのいいところだ。
「日頃のって……まあいい、でもなるべく早く帰ってきてくれよ。さすがに一人は寂しいぜ」
「善処するよ。ああ、それとボブ」
「なんだよ」
「一人だからって、悠奈ちゃんの部屋勝手に弄らないこと。いいね?」
「やらねーよ、俺をなんだと思ってる」
「さあ? 変態じゃないの?」
最後にアリスがしれっと言うと、ボブはすぐ側にいたアセリアの肩を掴み揺さぶる。
「違うよな!? 俺変態じゃないよな!?」
「知らん、私に触れるな変態!」
アセリアの膝蹴りを思い切り腹に食らったボブは、そのまま崩れて床に倒れる。
割と本気で打ったのかボブがうめき声を上げ、アセリアはというとボブが触れた部分を手で払っていた。
「これ、どうするのユーちゃん」
「ほっとこう。アセリア、アリス、というわけだから準備してくれないかな。できれば今日の内に現場につきたい」
「うん!」
「了解した」
こうして、悠奈達は一名を残しエリアFへ旅立つことになる。
世界が崩壊する前はフランスと呼ばれていた国をモチーフとしたエリア。
エリアJにかつて日本人と呼ばれていた者達が住むように、エリアFは同様にフランス人達が暮らす。
エリア一つ移動するだけで性質が全くと言っていいほど変わるエデンだからこそ、これから先待ち受ける見知らぬ世界に悠奈は少なからず気体を抱いていた。
むろん、それ以上に苦難が待ち構えていることも覚悟しながら。
前と同じだ。そう、エリアRの時と同じ――
エリアJとは違って一風変わったメルヘンチックな建物が並ぶエリアF。
ファンタジー映画に出てきそうな一見古そうな建物が立ち並ぶ街中を抜け、悠奈達は中心部から離れたエリアの境目ぎりぎりといったところの場所までハンヴィーを走らせた。
「おー、エリアの境界が見える。ねぇアセリアさん、あっちはどこだっけ?」
ユーは助手席でずっとパソコンをいじっているので、話す相手は同じ後部座席に座るアセリアかアリス。
なのだが、アリスは悠奈の方に頭を置いて健やかに寝息を立てているので実質会話できる相手は運転するユーリかぼーっと外を眺めるアセリアくらいだ。
「エリアCだ。Jと同じ東洋人が住んでいるところだな。まあ……あそこはよくない場所もあるし好奇心で迂闊に近づかんことだ」
「は、はえぇ……」
一部区域にエリアDのような場所がありあまり評判はよくないとは聞いたが、どうやら本当らしい。
珍しくちゃんと忠告してくれるアセリアに笑顔を見せながらお礼を言うと、鼻で笑われてまた彼女は外を眺める作業へと戻ってしまった。
そうこうしている内に、悠奈達は目的地へ到着。
周りに目立った大きな建物もなく、この廃病院もそこに紛れ込む形で建っており誰も気に留めることはない。
外観だけならまだ開いていそうなほどでそう汚れてもいないが、誰か間違って入ったりしないのだろうか。
まあ、エデンの市民はナノマシンのおかげで大きな病気にかかることもそうないし、そうなった場合は大きな病院に行くのでこんな小さな場所に用はないのかもしれないが。
「本当にエデンに廃棄された建物なんてあるんだねー」
「民間のはそうないけど、管理局の表側が使ってた建物の中には他の人には言えないようなことをやってたものとかも多くてさ。裏の人達や民間人にバレないように、データ上では存在しなかったり名目上はまともそうな建物ってのが結構あるんだ。それが壊されずに遺棄されたりすることも多くてさ、全部処理し切るのも面倒なくらいにね」
「ここもそのうちの一つってことかぁ……迷惑だねぇ」
ユー達のリーダーが言うには、ここ周辺を巡回する警備部隊の一人がこの廃病院に入ったまま行方不明になっているらしい。
表の連中が隠した建物であるためあまり大事にはしたくないらしく、こうして秘密裏に動けるユー達にその確認を任された。というか押し付けられたようだ。
「ふむ……前よりだいぶ寂びれたな。ユー、おそらく中は暗いと思うが……その、大丈夫か?」
「え?」
突然ユーリに振られた話に、ユーの顔が硬直したまま動かなくなる。
悠奈が彼女の顔の前で手をひらひらさせてやっても無反応だ。
「え!? え? 電気くらいつくよね?」
「どうだろうなぁ、なんせ機能してたのは五、六年くらい前だしな」
ユーがどんどん縮こまっていく。これはひょっとしてあれなのだろうか。
「ユーちゃん……もしかして、暗いところ苦手」
「あー少し違うな、幽霊が出そうなところが苦手なんだこいつは」
しれっとユーリが言い放つと、なんで言うんだと言わんばかりにユーが涙目でユーリの袖を掴んだ。
その光景を見て、アセリアが悠奈に耳打ちする。
「なぁ、時々思うんだがユーはなんだかちょっと女っぽくないか? あれか? 身体と中身が……みたいな」
「え!? あー……ど、どうだろうねぇ?」
突然だったのと相手がアセリアというので悠奈は驚きつつ頭を掻いて苦し紛れに視線を宙に泳がせながら声を上げる。
「まあここで立っていても仕方がない。とっとと入って終わらせようじゃないか」
ユーリが腕にくっついたユーを引き連れたまま入り口に立つ。
ドアの前に電子板が置かれていたが、ロックはかかっていないようだ。
「あ、開いてるね。だから警備部隊の人が……」
「ふむ……妙だな。ああ、それとユー、くっつくならアセリアか悠奈君にしてくれ。これでは銃が抜けん」
「へぅ……」
ユーリに冷たくされユーがとぼとぼと悠奈の方へ向かってくる。
が、アセリアは半目を作りくっつくなと視線で訴えていたのでユーは迷うこと無く悠奈の側へとやってきた。
「あ、あーその……わ、私の後ろにいてていいからね」
無言で何度も頷くユーを連れ、悠奈もユーリの後に続く。
戦力的には十分だろうが、何かあったらユーを守らないといけないのは悠奈だ。
少しだけいつもより多めに覚悟を決めて、悠奈は一歩を踏み出した。
ぱっと、数個のライトが通路の先数メートルを照らし出した。
軍用の物だけあって光量もなかなかで、市販のものよりはだいぶ明るいがそれでも十分とは言いがたい。
通路にはたくさんの物が散らばり、棚やよくわからない大きなケースが倒れたり積み重なったりしていて視界はそんなに良くはない。
これはさすがの悠奈も一人では怖いレベルだ。こういった趣向のアミューズメント施設だったとしても、絶対に入りたくはない。
ロッカーなど大きなものの横を通るたびに、その影からなにか出てこないかとユーが怯え悠奈の上着の裾をぎゅっと掴む始末。
「随分荒れているな、何をしていた場所だ?」
アセリアがさして怖がった様子もなく周囲の物を手に取り弄りながら言う。
「ここかね? 人でありながら、その領域を越えようとした愚か者の夢の跡地だよ」
先頭を行くユーリが答えると、アセリアが首を傾げて不満気に眉をひそめた。
「どういうことだ?」
「さて、どういうことなのかね」
口ぶりからして、ユーリはこの施設が本来何をしていたか知っているようだ。
ならユーも知っているのではと思い、気晴らしも兼ねて悠奈は背後にいるユーに顔を向けた。
「ねぇユーちゃん、ここってどういう場所なの?」
「え? いや、フィナンシェからは何も聞いてないやそういえば。あ、そう……ユーリはなにか知ってるの? ずいぶん詳しいみたいだけど」
やや声のトーンが低めのユーにユーリがくすりと笑うと、振り返って笑みを浮かべる。
その時、ユーリのあの赤い瞳がアセリアのライトの光を受けいつにもまして妖しく光った、ような気がした。
「そういえば君は知らないか。ここは今の情報室が設立される以前に私やノワール、フィナンシェで潰した施設だよ」
「そうなんだ、情報室設立前じゃわた……俺が知らないのも無理はないか」
「あれ? ユーってずっとユーリたちと同じ所にいたんじゃないの?」
さり気なくアセリアの影に隠れるようにしていたアリスが、ここへ入って初めて口を開いた。
アリスも子供だし、怖いのだろう。
「ああうん、俺は途中から。ユーリとノワール、そして何よりリーダーのフィナンシェ。この三人は情報室が作られる前から有名だったみたいだね。そんな人が新しい部署を立てるってので、当時は結構裏でも騒がれたらしいよ」
「はは、私はそんなに有名になった覚えはないのだがね」
「情報室を作った最初の三人。お前達は管理局の中でも特に異質だ。ノワールにしろフィナンシェにしろ、それにお前も。設立以前のデータがほぼ無いに等しいのだろう? 結局何者なんだお前は」
アセリアが睨みつけるようにユーリを見た。
こんな話をされれば、確かに気になるのも無理はない。
「はは、そんな大それたものでもないさ。期待とは裏腹に真実とはいつも意外に拍子抜けするようなことばかりだ」
「ふん……私達には言えんということか」
それだけ言って、アセリアは顔を背け探索に戻る。
そういえば、まだこの施設がどんなものか答えてもらっていない。
それを思い出すと、また怖がり始めたユーの手を握って微笑みを向けてから、悠奈はユーリに視線を移した。
「そういえばさ、結局この施設はどういうものだったの?」
「む……言ったほうがいいかね?」
ユーリが若干顔をしかめる。言い淀む程の場所、ということだろうか。
管理局を知るためにも、悠奈は真実を知りたい。ゆっくりと悠奈は頷いて返す。
「ここは、表の連中が裏に対抗できる戦力を作り出そうとしていた研究施設の一つだよ」
「対抗できる……戦力?」
悠奈の問いに答えたのは、意外にもユーだった。
その顔は真剣そのもので、一時的とはいえ恐怖の色が消えている。
「まさか、数年前に表の連中がやったっていうクラス3の発展型の開発?」
「ああ、それだよ。体の半分を機械にしたりナノマシン漬けにしたり、とにかくあらゆる方法で強化人間の……クラス3以上の存在を作ろうとしたやつだ。施設によって研究内容はだいぶ違うようだがね」
「そんな……人をそんな風に扱うなんて」
つまりは人体実験だ。きっと数多くの子達が犠牲になったはずだ。
目的もくだらなすぎて、悠奈は怒りがこみ上げ爪が食い込むくらい拳を握しめた。
「いつどんな時代でも、自分に関係ない人間は道具程度にしか思えん連中は存在するものさ」
そこでユーリは言葉を切ると、横にあったドアを開け中に入ってしまう。
後に続くか迷っていたところで、施設内に電子音のようなものが響きユーがびくりと肩を震わせるのと同時に通路内の照明が灯る。
といっても、切れかけているのかちらちらとついたり消えたりして逆にホラー感を演出している。
「電源は生きてるようだ……が、これでは無いのと変わらんな。悠奈君、君もライトを持っておいたほうがいい」
用を済ませたらしいユーリがドアの中から出てくると、彼女が持っていた予備のライトを悠奈は受け取る。
「はは、これはあれだな。映画だったら電気が消えた瞬間、一番後ろにいるユーが消えてるとかそういうやつだな」
ユーリがけらけらと笑いながら言うと、ユーの顔が一瞬で青ざめる。
そして慎重に背後を確認して、ユーは深く息を吐いた。これはさすがにユーがもたなそうだ。
悠奈はユーの腕を掴み隣まで引き寄せると、クラスの男子にも見せないくらいの笑顔を向けてやる。
「さ、これなら一番後ろじゃないよ。大丈夫大丈夫」
少しだけユーの表情が和らいだのを確認すると、悠奈はユーリへと向き直った。
「それで、これからどーする?」
「ふむ……この施設は地下に結構深く続いててな。なにげに広い。できれば手分けしたいところなのだが……」
そこまで言って、ユーリは先ほど入ったドアを再び開ける。
「皆一度この部屋に。一応施設内の地図もある」
ユーリに誘われうようにして皆が部屋にはいると、そこだけは割と綺麗で物がきちんと整って置かれていた。
「ここは綺麗だね」
「一階では一番重要な部屋だからな。あのドアも12.7mmに耐えられる防弾性だ」
ユーリは説明しながら部屋の奥にあるコンソールを操作する。
と、壁に備え付けられた大型のスクリーンにこの施設内部の構造らしいものが表示された。
「え? ちょっとこれって……地下何階分?」
スクリーンには、悠奈達がいる一階からどんどん下に伸びていく階層が映しだされる。
T字型のような構造で、少なくとも地下二十階程度はありそうだった。
「この通り意外に内部は広い。これだと一本線に見えても、地下階は一階の半分くらいの広さがあるからな」
「だったらさっさと別れて探したほうが早い。私は行くぞ」
皆の返事を待つ気がないのか、アセリアが一人先にドアの方へ歩いて行く。
「待て待て、何が起こるかわからん。アリスくんだけでも連れて行きたまえ」
「ふぇ!?」
急に名前を呼ばれてアリスが飛び上がる。
が、状況を理解したのかアリスも自分の銃をぎゅっと握ると、アセリアの後をついていく。
少し前なら嫌な顔くらいしただろうが、アリスも大分アセリアと打ち解けたようだ。
「はは、なんだか前より仲良くなったみたいで悠奈ちゃんうれし……およ?」
アリスの背を見送りながら悠奈が机に手をつくと、コンソールのボタンのどれかを小指で押してしまった。
別に大丈夫だろうと悠奈が机から離れたその時――
「な!? 罠か!」
「きゃああ!?」
部屋の天井から、透明なケージのようなものが降ってくる。
それはちょうどアセリアとアリスを捉え、二人にかぶさるようにして床に落ちた。
「おっと、何かの拍子に作動したか。待っていたまえ、いま……ん?」
ユーリがコンソールを操作するが、芳しくないのか顔を歪めた。
「すまん、ロックされた」
「すまんですむか。っち、叩き割って出るから離れていろ」
やや怒ったような口調でアセリアが言いながら腰から大型のナイフを取り出すが、ユーリが首を振ってそれを制する。
「いや駄目だ。クラス3に対応した設計になっているから私達でもどうにもならん」
「ならナノマテリアルの武器で破ればいいだろう」
「いやそれも無理だ。ナノマテリアルとアクリルやらポリカーボネートやらそれぞれ違う素材を何層も重ねてるものだからナノマテリアルの武器一つじゃ足りん。まあ諦めてくれ。最下層にある部屋で操作できるはずだから、そこまで行ったら開放してやろう。それまで待ってくれ」
「なんだとふざけるな! おい待て! おい!」
ユーリは仕方ないと両手を広げながら部屋から出て行ってしまう。
それに習うように、おそらくは作動の原因である悠奈は両手を顔の前で合わせアセリア達に無言で謝ってからユーを引き連れ部屋の外に出た。
これで、戦力として連れてきた内の二人が実質脱落。
お化け屋敷じみたこの広い建物を、三人で探索しなければならない。
「はは、ちょっと困った……かにゃ」
「まあなぁ、せめてユーが一人で探索してくれるならまだ……駄目そうだな」
ユーリの言葉に、悠奈の手を力一杯握りながら涙目で首を激しく左右に振るユーは見るからに大丈夫ではなさそうだ。
悠奈はほぼ戦力外だし、固まって動くしかない。そうなると、捜索にかかる時間は増える一方だ。
いきなり躓いてはいるが、人の命もかかってる事案なだけあって引き返すことはできない。
「気合……入れますかねぇ、私も」




