Chapter39「M:I:アナザー・デイ」
「いやああああ!? こぼれるこぼれるこぼれる!」
シグの耳の横で、悠奈は必死に叫ぶ。
闇夜の空にダイブしたのはいいが、落下の衝撃で悠奈のドレス――主にその胸の部分から中身が零れそうになっている。
押さえつけてはいるが、これは着地したらぼろんといきそうだ。
それに備えてかシグは顔を悠奈の身体から外すと、着地地点を確認。
事前に車の横に衝撃吸収シートを敷いてあるし、流石にどんくさそうなニコライでも落ちたままということもなく、少し先の方を走って逃げようとしている。
ニコライを踏みつける心配もなくなったので、シグは悠奈を抱くようにするとシートの上に背中から着地。
「で!? さすがにこの高さはつりぃな。大丈夫かゆう――」
「わちょ!? ま、待って待って待って!」
「っと、そうか」
悠奈の方に顔を向けてしまいそうになったシグが何かを思い出したかのように顔を背け、ドレスからこぼれた物をしまい込む悠奈をその場に残して逃亡を図りフェンスを乗り越えようとするニコライの方へ走る。
「逃げんなよ、俺らに任せろって」
「むー!?」
背中を掴みフェンスからニコライを叩き落とすと、襟を持って引きずるようにシグは車の方へと戻ってきた。
逃走にはエリアRに来た時に乗った車両を使う。至って普通の乗用車のように見えるが、色々機能が付いているシグお墨付きらしいのでたぶん大丈夫だろう。
「おら、さっさと入れおっさん!」
ただ見てくれから内装まで一般車のそれなので、ニコライ一人が後部座席を占領してしまった。悠奈はしぶしぶ助手席へと乗り込む。
「よし、出すぞ。たぶん追っ手が来る」
「嘘でしょ……って、マジだ!? シグ君早く早く!」
言ったそばから、地下の駐車場から大きな装甲車が鼻先を見せた。
「待て待て待て、ストライカーまで出すほどじゃねぇだろ!? ちっくしょう!」
シグも声を張り上げると、キーを回してエンジンを掛け、アクセルを踏み込んだ。
急発進した車はフェンスを突き破り、公道へと出る。
突然現れたシグ達の車に、走っていた何台かの車がブレーキを踏んで急停車。さすがに数が数だけに事故にはならなかったが、これは後でニュースにでもなりそうだ。
「シグ君もっとスピード上げて! 追いつかれる!」
しかし他の者の心配をする暇など無く、巨大な装甲車はその図体に似合わないスピードで徐々に距離を詰めてくる。
「悠奈! ストライカーの武装は!」
「すと? ああ、っと……分かんない! 上にでっかい大砲!」
「よしわかっ――なんだと!?」
悠奈の言葉に、シグが驚いた様子で窓から顔を出し後ろの装甲車を見た。
「105mmじゃねーかふざけんな! 俺たちゃ化けもんじゃねーぞ!」
叫びながらシグは運転に戻ると、何度も悠奈の肩を叩く。
「悠奈おい悠奈! なんとかしろ! 何でもいい!」
「無茶言わないで相手装甲車だよ!?」
「なんでもいいから投げろ!」
「おっさんしかないよ!」
「おっさんは投げるな! ちくしょう近道だ! 悠奈、シートベルト!」
「それ今言う!? わああああああ!?」
悠奈がシートベルトに手を伸ばすより先に、シグはハンドルを切る。
車が向かう先は――防護柵の向こう側。
しかも、ここの道路は陸続きになっているわけではない。地上はこの下数十メートルの場所。
柵を突き抜け、悠奈は車に乗ったまま再び宙を浮くことになった。
公道の中央で、柱のように巨大な鉄塊に背を預ける少女は息を吐いた。
視線の先では、道路の柵を突き破って降ってくる車が一つ。
「……5000といったところですか。誰が払うと思っているのやら」
諦めにも似た口調でつぶやくと、少女は腰まで伸びた黒い髪を夜風になびかせながら、スカートのポケットにしまってあった白い手袋を両手にはめる。
ふと、少女の横で結った髪が背後の巨大な鉄塊を撫でた。
月明かりを受け鈍く光る黒色の刀身が、少女に答えるようにその姿を徐々に現していく。
それは、巨大な両刃の大剣。ナノマテリアルと一般的な金属を複合した、重さ300kgの鉄の塊。
「会長ー! 時間通り、ナイスだ!」
轟音を立てなんとか着地したはいいものの、その衝撃で半壊した乗用車の運転席から声とともに腕が伸びる。
少女は組んでいた右手を解き、それを車の方へと差し伸ばした。
「選手交代だ! ぶちかませ会長!」
すれ違いざまにぱちんと音を鳴らしながら互いの手の平が合わさり、それが交代の合図となる。
黒い制服を着こなし、どこか気品を漂わせる少女は鉄塊から背を離すと、その華奢な腕を伸ばし地面に突き刺した両刃剣を手に取る。
刃を振るだけで、剣圧が地面の埃を巻き上げ空気が震えた。
柄の前後から伸びた刃が、迫り来る獲物を前に舌なめずりする猛獣のように月明かりを帯びて煌めく。
「そのようなものまで持ちだして……エデンの秩序を乱す者は、誰であろうと許されません。あなた方の罪は、今ここで裁かせていただきます」
車の後を追うようにして、105mm砲を装備したストライカー装甲車が姿を見せる。
ストライカーからはすでに少女の姿は見えているのだろうが、速度を落とす気配はない。
落胆したように少女は溜息をつくと、身の丈以上もある両刃剣の刀身を装甲車へと向けた。
ストライカーの乗員達は相手が人間だと舐めていたのだろう。ここで105mm砲さえ撃っていれば多少結果は変わったかもしれない。
だが、彼らは少女を轢くことを選んだ。それもそうだろう、彼らが知る表のクラス3の性能はたかが知れている。あのアルカナでさえ真正面からストライカーを受け止めるような真似はしない。
だが、裏のそれは表との比較にすらなりはしないのだ。できた過程は同じでも、その後がまるで違う裏のクラス3は表の者達とはわけが違うのだ。
「愚かですね……やはり貴方がたではエデンの命運を担うのは荷が重すぎる」
ストライカーは少女に接触する直前、まるで透明な壁にぶつかったかのようにその動きを止めた。
徐々に黒煙を上げ始めるストライカーの正面には、少女の大剣が深々と突き刺さっている。
「ん、なるほど。遠隔操作……ですか」
少女は大剣の柄についたトリガーに指をかけると、躊躇なくそれを引く。
空気の振動と共に大剣に衝撃が走り、ストライカーの装甲が音を立てて崩壊。
大剣に備え付けられた砲身から放たれた30mm口径弾はストライカーを貫き、後部の装甲に風穴を開けた。
ごとん、と役目を果たした30mm口径弾の薬莢が大剣から排出され地面に落ちる。
ほんの数秒の内に、武装された装甲車はただの鉄塊へと変貌を遂げた。これが、敵の実力を見誤った者達が招いた結末。
「流石だな生徒会長。こういう時頼りになるわやっぱ」
人の気も知らずに、不名誉なあだ名で少女を呼びながらドレスを着た少年が車から降りてくる。
少女は気に求めていない様子で少年の横を通り過ぎると、何も言わずに帰路につく。
「おいおい、怒ってんのか?」
「私は私の務めを果たしただけです。遅かれ早かれ、あそこまでエデンに害をもたらす者達は我々が処理する事になったでしょうから。……それと、シグ」
少女は少しだけ足を止めて、顔だけを少年へと向けた。
「なんだよ」
「私のことをその名で呼ぶのはやめなさい」
「はは、俺が言わなくても別の誰かがそう呼ぶだろうが。嫌ならちったぁ可愛げのある振る舞いをするんだな」
「……失礼します」
後ろでけらけらと笑い声を立てる少年を一瞥して、黒衣をまとった少女は月明かりの届かぬ闇に消えていった。
一フロアだけが半壊したビルの屋上で、金色の髪を揺らしながら緑と紫、左右色の違う瞳で月を見上げるアルカナはつぶやいた。
「あの子達は無事に逃げられたでしょうか……」
腰につけた無線機から何度も自分の名を呼びながら助けを求める求める男の声に嫌気が差し、電源を切る。
それほどに執着するものなのかすらわからないものに対して、関係のない自分達が体を張るのは割にあわない。
それに、エデンに相当な被害をもたらしてまで目的のためにあれだけの手段を行使する者達にこれ以上肩入れしたくはなかった。
「あ、こ、ここここにいらした、いらしたんでしゅか」
舌足らずな発音で、背後から少女が声をかけてくる。
後ろで結った銀色の髪をなびかせながら顔の下半分を手の平で覆い、アルカナが視線を送ると恥ずかしそうに顔を背ける。
いつも付き合っているから、彼女の事はちゃんと知っている。一目見て彼女に足りないパーツがあるのが見て取れた。
「あらあら……でも、なかなか強かったですね。あれが裏の実力、ということでしょうか」
言いながら、アルカナはベストについたポーチを探り手頃な布を探す。
「ああ、ありましたありました。どうぞ、ハンカチくらいしかありませんが」
「しゅ、しゅみませ……」
顔を伏せたまま銀髪の少女は手を伸ばしてアルカナのハンカチを受け取ると、それをくるくると顔に巻きつけた。
愛用していたアフガンストールほどではないが、ちゃんと顔の半分は隠せているようだ。彼女はこれで十分。
「……ん。申し訳ありません、侮っていたつもりはないのですが……どうやら我々とは違い機能そのものに差があるように感じられました。でも……やっぱり練度や戦闘スタイルも違いますね、私達とは。身体能力が同じでも勝ててたかどうか……」
「ふふ、そうですか」
突然凛々しくきりっとした口調に変わった少女にアルカナは笑いつつ答える。何度か体験はしたがこの豹変の仕方には毎回笑わせられる。
しかも、戦闘服を着てハンカチで顔を隠すとなんだか映画に出てくる強盗みたいな格好でなんとも滑稽だ。
「わ、笑わないでください! 休憩中で予備持ってなかったので……うぅ」
赤面しながら顔を背ける銀髪の少女の髪を、アルカナはそっと撫でる。
少女はしばらくそれを堪能するように目を伏せるが、遠方で大きな爆発音が聞こえるやいなやそちらに顔を向けた。
「リリー?」
「……決着、ついたみたいですね」
空に登っていく黒煙を見守りながら、銀髪の少女――リリアン・A・ハートネットは険しい表情をする。
しかしそれをすぐにいつもの凛とした顔に戻すと、リリアンはもう興味なさげに黒煙に背を向けアルカナに視線を移した。
「よかったんですか? きっとあのデ……んん、支部長怒ると思いますけど」
「私たちは補給部隊です。エデン内部のことは専門家に任せましょう」
「どうもその専門家さん達はお手上げみたいですけどね。さっきから私の方にも助けてくれって通信が……」
呆れるように肩を落としたリリアンに向け、アルカナは片目をつむりながら人差し指をぴんと上に伸ばした。
「自分のお仕事もできない人の命令は聞けません! ……ってね」
「あはは、言えてますねそれ」
その時、慌ただしく中で騒ぐ音が聞こえる管理局エリアR支部の屋上で、可愛らしく笑い声を立てる二人の女性の声を聞くものは誰もいなかった。
爆発するストライカーをとあるビルの一室から眺めながら、フィオナは机に置いた無線機の電源を入れた。
「これで私の役目は終わり……で、いいんですよね」
窓の外の赤に染まった景色を見ながら、つぶやくようにフィオナは声を発する。
すると、無線機からはあの融通が利かなさそうな指揮官の声。
『ああ、助かったよ。ありがとう』
「一つ、いいですか?」
『……なんだい?』
「悠奈さんはこれからどうなるんです? これからも、こんなことを続けるおつもりですか?」
無線機から声は返ってこない。何か逡巡しているのかしばらく間が空くと、突然返事が返ってくる。
『もう彼女に安全な場所はない。一つの場所に留まることもできないだろうし、たぶんこれからもこうなるだろうね』
「まあ、悠奈さんならなんだかんだでうまく立ちまわってくれそうですけどね。あの子はあなたよりもずっと人との付き合い方を弁えている」
無線機の向こうから微かに笑う声が聞こえた。どうやら自覚はあるらしい。
「あ、報酬とかそういうのはいらないです。どうせ私一人でもやるつもりでしたし。でももうこれ以上は私の力は必要なさそうなので、ここらへんで失礼させてもらいますね。それでは」
『うん、ありがとう。それじゃあ、また』
「ええ、そうですね。『また』どこかで」
言って、フィオナは通信を切る。
今度悠奈と会うときは敵同士だ。まだ悠奈を捕縛する任を完全に解かれたわけではない以上、またどこかで彼女達とやり合う可能性時は十分にある。
とはいえ、一時的にでも協力し合い一緒にいると妙な感情が生まれるのも事実。
特に悠奈の気立ては常人のそれよりもだいぶ接しやすく、毒気を抜かれてしまうほどだ。
それがフィオナと悠奈の関係上は良くないことだと理解しながらも、フィオナの視界でシグと手を合わせ喜ぶ彼女につい安堵する自分がいる。
「やれやれ……です。悠奈さん、あなたという人は……」
これ以上見ていると次あった時に支障をきたしそうで、フィオナはカーテンを閉めるとベッドに倒れ込んだ。
ふと、テーブルの上においたSR-25が視界に入る。
それで思い出されるのは、数分前に行ったアルカナとの戦闘。
最強に立ち向かえる実力が、フィオナにはある。これは紛れもない、フィオナ自身が勝ち取り得た力。
「大丈夫……私は、大丈夫。Uの呪縛なんて……私には」
生まれる前に決まっていた運命。それに逆らっても、フィオナは生きている。
Uとしてではなく、フィオナとして――自分はここにいる。
「私はフィオナ……そう、UのFではなく……私は、フィオナ……フィオナです」
エデン中央にそびえ立つ一本の柱。
中央管理局本局のタワーの根本に来た悠奈は、一秒でも早くあの硬いシートから開放されたいがためにドアを勢い良く開けてシグのハンヴィーから飛び降りる。
後ろの方では、暴れまわるため口も手も足も拘束されたニコライがユー達の部署の人に連れて行かれる途中だった。
表側とはいえ管理局に目をつけられてしまったため、当分はユー達の部署で彼を匿うらしい。
「ほいっと、いたた……やっぱなれないなぁ」
「悪いが俺の車はVIPを送迎するためにあるもんじゃねぇからな、嫌なら荷台であのおっさんと一緒に寝ててもいいんだぜ」
「今度その口開いたらあのタワーのてっぺんから叩き落とすからね」
「おおこわ、野蛮人は怖いわー」
合わせてシグも降りてくると、からかいつつ悠奈の肩に手を置いた。
「まあなんだ……そうだ、あいつらに愛想尽かしたらセクター5に来いよ。席は空けててやっからさ。お前、結構こっちでやってける才能あると思うぜ」
「そりゃどーも。でも私がユーちゃん達から離れるのはありえないから」
だろうな、とシグは笑う。
その答えが返ってくることを予想済みの問いだったらしい。
「それにシグくんにはパートナーっぽい人いたじゃん。あの人でいいでしょ」
「あ? あーリカルドか。あいつはなんだ……ユーにべた惚れだしなぁ」
「そ、そういやそんな感じだったね。え、えと、男同士で……ってことだよね?」
「ユーくらい可愛けりゃ性別は関係ない、だそうだ。あれで妻子持ちだからな、人間はわからん」
「え?」
今とんでもない発言がシグの口から飛び出したような気がしたが、それも視線の先で腕を伸ばしながら背伸びするユーに全ての思考が持っていかれる。
なんてことのない仕草なのに、それだけで一枚の絵になってもおかしくないような愛らしさに、周囲にいた他の男性まで作業をやめてユーを見みめていた。
その視線に気づいてちょっと恥ずかしがるのもかわいい。ユーは可愛い。
「まあなんにせよお疲れだ悠奈。次もあるんだろ? 休めるときにゆっくり休んどけよ」
「うん。フィオナちゃんにも本当はお礼言いたかったんだけど……仕方ないね」
「ああ、あの変なのか。そういやいつの間にかいなくなってたな。結構腕が立つみてーだし、ランディの部隊のやつだったらまあエデン巡りしてるうちに会えんじゃねぇの?」
「そっか……そうかな。うん、そだよね。えへへ、ありがとねシグ君」
悠奈が笑って返すと、シグは驚いたような顔をしながら気まずそうに頬をかいて顔を逸らした。
「……お、おうよ。あ、あーそれとだな……その、お前それあんまり男の前でやらんほうがいいぞ」
「お? シグ君も悠奈ちゃんのプリティースマイルでメロメロかな? ふへへ男はちょろいですのぉ」
「な!? てめぇそれ狙ってやってんのか!?」
声を荒げるシグに、悠奈は片目をつむりながら自分でこつんと頭を叩いた。
「てへっ」
「やっぱお前嫌いだ! ばーかばーか! 馬鹿女! 二度と顔見せんなよ!」
「へーんだ! 私だってシグ君みたいな荒っぽい人嫌いだもーん!」
「ぬああああ! ちくしょう覚えてろよ!」
それを捨て台詞にして、シグはさっさとハンヴィーに乗って道路へと消えてしまった。
「ふふ……ごめん、ありがとね」
今度は本当に裏のない笑顔のまま悠奈がつぶやくが、それ向けられた者はすでにこの場にはいない。
そしてシグと入れ替わるようにして、ユーとユーリが側によってくる。
「おいおいシグ怒ってたぞ悠奈君。何言ったんだね」
「現実の女の子の厳しさを教えていたのさ……」
「う、うむ?」
頭の上にはてなマークが浮かんでそうなユーリの横で、ユーが携帯型端末で誰かと通話しながら真面目な顔を作る。
と、通話を切るとユーが悠奈の方を向いた。
「悠奈ちゃん」
「は、はい」
ついユーの様子を見て緊張してしまい、悠奈らしからぬ返事を返してしまった。
それを気に留めずに、ユーは続ける。
「これからもこういうこと、続けるつもりなのよね?」
「……うん。やるって決めたから、途中で放り投げるなんてできないよ」
「そう……」
ユーも悠奈の返答はだいたいわかっていたのだろう。当たり前の事のように受け取り顔をしかめることもない。
「次の行き先が決まったのかね?」
「ええ。でも今回は内容が違うわ。フィナンシェからの依頼」
「えっと……ユーちゃん達の部署のリーダーさんだっけ?」
悠奈も管理局に来た時に、一度だけ見た。
独特の、ユーリと似たような外見ではなく纏う雰囲気で相手に威圧感を与えるような妙な気配の青年を連れた、黒髪のスーツを着た女性。
ユーやユーリもそうだが、彼女達の部署にはこういった見るからにヤバそうな雰囲気の人しかいないのだろうか。
「ええ、でも今回は残念だけど人助けじゃないわ。今は特にこれといって狙われるような人もいないようだから」
「だからフィナンシェか」
「そう、次の目標はエリアF……そこにある研究所跡を調べて欲しいそうよ」
「……そうか」
僅かにだが、珍しくユーリが反応した気がする。普段通りを振るまってはいるが、一瞬驚いたような顔をした。
ユーはそれに気づいていないようだが、悠奈はなんとか察することができた。が、追求する程のことでもないと飲み込んでユーの言葉に耳を傾ける。
「まあ、戦闘になることはないでしょうから、今回よりも簡単よ。それに公では存在しない施設だから、悠奈ちゃんに街中を歩かせるよりよっぽど安全だわ」
「はえー、なるほどなるほど」
「でも結構広いらしいから、Jに寄ってもう少し人手を増やしましょう。そろそろアセリアも限界でしょうし」
「よし、じゃあ我が家に帰還、だね! れっつごー!」
こうしてエリアRでの事件は無事に幕を下ろすことはできた。こちらに被害は殆ど無い。が、それがいつまでも続くとは限らない。
こんなことをいつまで続けるつもりなのか。ふと、悠奈の中でそんな疑問が芽生えた。
「終わりのない戦い……か」
「悠奈君?」
心配して声をかけてくれるユーリに、悠奈は微笑む。
「ううん、大丈夫。次も頑張ろ、ユーリ」




