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CODE:Ultimate  作者: 天宮 悠
1章
37/53

Chapter37「M:I:コンビネーションアサルト」

 ほんの数分前までは人で溢れかえっていた会場だが、今はもう豪勢な食事も無くきらびやかなドレスを身にまとった女性もいない。

 ただ数人の警備部隊の人間が会場内を散策し、表側の連中に切り捨てられたと思われるELFのメンバーが拘束されていた。

「やっぱタイラスはちゃっかり回収してるな。ここらへんは抜け目がねぇ……クソが」

 シグは悪態をつきながら足元にあった小石を蹴り飛ばす。

「まあそこを言ってもしかたないよ。でも今回の件で、表の奴らはここまでやってくるっていうのを知れただけでも良しとしよう」

 ユーが手すりにノートパソコンを置き、なにか操作をしながらシグを一瞥した。

 今この場には悠奈の他に、ユーとシグ、そしてユーリとフィオナがいる。

 何故か当然のように合流してきたフィオナに、悠奈は懐疑の目を向けた。

「ねぇ……なんでここにいるの」

「聞かないでください……色々あるんです、色々」

 フィオナは学校で悠奈に会ったとき同様に武装している。偶然パーティに呼ばれたというわけではなさそうだ。

 まあユーリとユーが警戒していないので、大丈夫ということなのだろう。

「ところでこの変なの誰だ?」

「変なのじゃないです! フィオナです!」

「ふーん」

 シグにも指摘されフィオナは声を荒げるが、シグはいつもどおりに知った仲でない者には薄い反応で素っ気なく返す。

「よし、見つけた。みんな、ちょっと見てほしい」

 そこでユーが両手を合わせて音を鳴らし、みなをパソコンの前へと集める。

 画面には、どこかの建物のの構造とそこの地図、そして複数の光点。その光点の中には点滅するものがあり、ニコライ・ロマネンコと英語で書かれている。おそらく光点は建物内にいる人間の位置だろう。

 全員がそれを見ると、ユーは一度パソコンを閉じた。そして一度目を瞑ると、再度開き視線を悠奈に合わせる。

「さて、ここからどうするのかっていうのが俺達の問題。悠奈ちゃん、今ここにいるみんなは君がこうなることを防ごうと言ったから集まった人達だ。だから――」

「ここから先、進むも退くも私次第ってことでしょう?」

 ユーが言い切る前に言わんとする事を言ってやると、ユーは静かに頷いた。

「はっきり言って、ニコライは助けるに値するほどの価値がある人間じゃない。そこも踏まえて、君はどうする?」

「なるほど、ね……でも、救うほど価値が無い程度なら私にとっては救うに値する人だよ。他の人に害を振りまくような、救う必要がないほどに駄目な奴じゃないなら私は諦めたくはない」

 ニコライの性格は一度接してみてわかった。だが、それがどうしたというのだろうか。

 人を殺したわけでもなく、ただ研究者だったというだけの人なのだ。どこにでもいる普通の人。それならば助けることを躊躇する必要はない。

「そのためにユーちゃん達を危険に晒すことになるのもわかってる。ごめ――んぅ?」

 暗い雰囲気になってしまったからか、シグが悠奈の唇に指を当て塞ぐと急に肩を組んでくる。

「いやいや、こいつが確認したかったのはお前さんの意思だけさ。俺らが危ないわけ無いだろうが、仮にも全員裏側の連中なんだぜ? まあ、この変なのは知らんが」

「フィオナです!」

 シグなりに悠奈を励ましてくれたのだろうか。今の彼の外見だとくっつかれてもなんとも思えないのだが、彼は男である。

「はは、そっか。って、シグ君セクハラ」

「ひでぇな」

 いい感じに場が和んだところで、ユーは再度パソコンを開き先ほどの画面を表示させる。

 と、ニコライの光点を指で軽くつついた。

「さて、それじゃあ時間もないし軽くブリーフィングといこう。現在ニコライはエリアRの管理局支部に拘束されている。ここは実質表が管理してると言っていい場所だから、セクター5のシグや俺達じゃあ素直に返せって言ってもここにはいませんで門前払いだと思う」

「あーそうだろうな、奴ら案の定この作戦に関することはこっち側にバレんよう何一つ公的な処理は行ってない。非公式の作戦だ、流石に書類やデータ上にないもんは情報室といえどどうにも出来んだろ」

 シグの言葉にユーが頷く。

こっち(情報室)で偽の査察命令を出して無理に入ることはできても、俺達が来ることが向こうに察知されればニコライが無事でいる保証もない。だから悪いけど、今回は強引に侵入してニコライを奪って逃げるって感じになると思う」

「まぁいい感じに頭より体使う連中のほうが多いし、なんとかなんだろ」

 ユーリもシグもどちらかといえば戦闘を主とする人だろうし、きっとフィオナも同様だ。

 そこにユーのサポートが加われば大抵の連中はなんとかできるだろう。と、悠奈は思う。

 とはいえほとんど別の部署の人間なのだ、連携はちゃんと取れるのだろうか。特にフォオナはユー達と一緒に組むのも初めてだろう。

「一応言っておくけど、さっきの部隊を追跡して位置が分かっただけだから、ここを移動されればニコライはもう追えない。逃せば後はあっち独自のルートで別の場所に監禁されて終わりさ。だから失敗はなし、君らならできるだろう?」

「任せたまえ。シグや変なのはどうでもいいとして、私がいるのだからな」

「フィオナです! ていうかユーリさんは私のこと知ってますよね!? ねぇ!?」

 ユーリにまでからかわれ声を荒げるフィオナだが、まるで存在ごと無視されるかのように話はそのまま続く。少し可哀想だ。

「こほん、とにかく管理局支部の正面から入るのはお勧めできない。だから隣のビルからジップラインを張って屋上から進入する。シグ、道具は持ってるだろう?」

「ああ、一個は車のトランクに積まれてるはずだ」

 ジップラインということは、映画のようにワイヤーをビルに打ち込んでそれを滑りながら隣のビルに移動するということだろうか。

 一瞬楽しそうだなと思ってしまったが、何故か同時に悠奈は寒気がした。それはこれから戦いに行くからなのか、何か別の理由あってのことなのかは分からないが。

「それと、支部の屋上には常時狙撃手が数名警備で立ってる。ついでに今日だけは警備用ドローンを飛ばしてるようだね」

「ふむ、タイプは?」

 ユーリが聞くと、ユーがパソコンのキーを数度叩き別の画面を表示させる。

 画面には、四つの足の先にプロペラが付いた機械が表示されていた。本体下部に銃のようなものも装備されているし、黒塗りで結構物騒な形をしている。

「自立行動型のタイプS。当然だけど、落とそうものなら墜落して被害が出るし連中にもバレる。俺が何とかするからユーリはスナイパーを片付けて。多分規則を守っていれば警戒範囲は1km四方だ。君ならそれ以上からでも、できるだろう?」

「うむ、了解だ」

「ちなみに、さらっと言ってるが1kmオーバーの狙撃なんて誰にでもできるもんじゃないからな。歩いてたら突然頭がパーン、なんてことになりたくなけりゃユーリは怒らせんほうがいいぞ」

 何故かシグが悠奈に耳打ちしてくるが、ユーリの凄さはもう見せつけられているのでその実力は十分に理解しているつもりだ。

 本当に彼女が敵でなくてよかったと思う。

「さて、ここでもう一つ問題」

 ユーが若干顔をしかめると、今度は何やら言いづらそうに頬を掻く。

「なんだよ」

「あー、その。運が悪いことに補給部隊が一部隊だけ帰ってきてるんだ、支部に。しかもアルカナの部隊」

「おおぅ……マジかよ」

「だからあっちとはあまり事を構えないように、中に入っても穏便にね」

 シグの反応からするによほど戦闘力の高い部隊なのだろうか。部隊名が補給なんて付いているのでそんなに強そうには思えない。

「補給部隊って?」

「ああ、悠奈君はJで暮らしていたのだったね。あっちには外に繋がるゲートがないから見る機会もないか。補給部隊は壁の外に展開している部隊が確保した物資を受け取りに行きエデンに持ってくるのが目的の部隊だよ。当然外に出るわけだから、あの魑魅魍魎の巣を突破出来るだけの実力や装備を持った者で構成されている。人間相手ではないが、実戦経験が豊富な連中だな。アルカナというのは補給部隊……いや、表側が保有する部隊で最強と謳われる者のことだ。その仲間達も相当強いぞ」

「ひええ……だ、大丈夫なのそれ?」

 最強なんて言葉が出てくるとどうしても不安になる。

 おそらくばれなければどうということはないのだろうが、あっちも管理局の部隊として侵入者がいればそれなりの対応をしてくるだろう。

「ま、まあ大丈夫なんじゃねーの? バレなきゃいいんだよバレなきゃ」

「ふむ……」

 終始会話を聞いていただけのフィオナが、顎に手を当て何やら思案するように視線を伏せた。

「どうした、変なの」

「フィオナです。それより、私も突入メンバーに入れてもらっていいですか? たぶん、補給部隊とやりあうことになってもしばらくは持たせられるかと」

 特に臆した様子もなく、フィオナは言い放つ。

 フィオナも裏側の部隊であることに変わりはないのだし、それ相応の実力はあるはずだ。自分の能力を過信してる風にも見えないので、心配はいらないだろう。

「それで、役割分担だけど……」

 そこまで言って、ユーがちらりと悠奈に視線を向けた後何やら言いづらそうに目を逸らした。

 役割は大まかに分けて、狙撃手を始末する狙撃手と突入メンバー、それにドローンの処理や全体を指揮する人。

 狙撃手は当然ユーリが、指揮はユーでなくてはならない。となると、悠奈が入れるのは突入メンバーだけだ。

「お、おおぅ……ええと、が、がんばる」

「やっぱくんのかよ……いや、お前は意外と役に立つかもしれんな。ユー、こいつも俺らと一緒に行かせていいか?」

 一瞬悩んだ後で、シグがユーに提案する。本当は待っていてくれる方がいいのだろう、ユーの表情は芳しくない。だが前にも言ったとおり、ただ待っているだけは絶対に嫌だ。そんな意志を汲みとってくれたのか、ユーはしぶしぶだが頷いてくれた。

「ちなみにだがユー、ニコライが移されるまでの猶予はどれくらいかわかるか?」

「後一時間」

 ユーがつぶやくと、シグが目を丸くした。が、補足するようにユーは手を降って答える。

「かもしれないし、一日かかるかもしれない。あっちの気分次第。だからできるだけ早いほうがいい。もしかしたらこうして話してる内に移動される可能性もある」

「んじゃあ仕方ねぇな。このままの格好で行くか。あの車道具ばっかで着替えはないんだよな。というわけで俺らの装備は最低限、戦闘になったら頼むぜ変なの」

「フィオナです」

 フィオナももう慣れたのか突っ込む口調も穏やかになり、親指をぐっと立てる。

 メンバーは最高の逸材が揃っている。後は、目的を果たすだけだ。



「ははは、悠奈お前力持ちだな。楽で助かる」

「あんたもちゃんと持ちなさいよ!」

「女の子にこんな重いの持たせるとか相当のクズですねシグさん」

 悠奈とフィオナはシグに罵詈雑言を浴びせながら、人一人分くらいの大きさがある箱型の黒い鉄の物体をビルの屋上へ続く扉の前へと運びこんだ。

 このビルに入っている会社はすでに営業時間を過ぎ中には誰も居ないため、楽に不法侵入できた。

 200mほど先には、管理局のエリアR支部のビル。高さはこちらのほうが少し高いおかげで、外に出れば向こうの屋上が見下ろせるだろう。

『ドローンの制御は乗っ取った。ユーリ、出番だよ』

『うむ、少し待て。二分だ』

 耳につけたイヤホンから二人のやり取りが聞こえる。

 今屋上に出れば支部の狙撃手に見つかってしまうので、ユーリが役目を終えるまで悠奈達は扉の前で待機だ。

 フィオナとシグはその間に装備の確認をし、悠奈はそれをじっと眺める。

 と、シグが突然悠奈の額を指で弾いた。

「痛、何よ」

「ぼーっとすんなよ、もうすぐ俺らの番だ。ニコライを確保した後のプランは覚えてるか?」

 頬をふくらませながら、悠奈は機嫌が悪そうにそっぽを向きながら言う。

「わかってるよ。屋上からワイヤーで降下、道に停めてあるシグ君の車にニコライ放り込んで逃走、でしょ」

 脱出時は、ワイヤーを切り離すことができるジップラインを使い、突入時に使用したワイヤーを射出機から切り離してそれを地上降下用のワイヤーとして使用する。

 位置の関係上ユーやユーリとの合流は不可能なので、車に乗り込むのは突入メンバーだけだ。

 まあ、あのニコライの巨体を乗せるのだからあまり大人数はまずいのも事実。

「よしよし、じゃあ準備しとけよ。装備の確認もだ」

『屋上確保。シグ、急げ』

 淡々と、ユーリが告げる。つまり、屋上にいた狙撃手達の『処理』が終わったということだ。

 体感では二分も経っていないように感じる。何人いたのかは分からないが、1km以上の場所から狙撃してこんな短時間で仕事を済ませるユーリはさながら映画の主人公のような実力である。

「よし、こいつを屋上まで運ぶぞ」

 シグが扉を蹴り開けると、普段誰も立ち入っていないのであろう小綺麗な灰色の屋上が目の前に広がった。

 さして障害物もないため、中央に金属の箱を置くと悠奈は事前に渡されていたグローブと滑車が腰のポーチにちゃんとあるかを確認。これがないと移動もままならないので、無くさないようにしないといけない。

「ジップライン展開」

 シグが箱側面のパネルを操作すると、上部が開き中から尖った金属の槍とそれを固定する台座のようなものが飛び出してくる。

 それは僅かにだが火薬の炸裂音を発し打ち出されると、金属の槍後部に繋がるワイヤーがするすると箱から出てきて黒い線を描きながら支部の屋上の壁に突き刺さり固定された。

 何度かシグがワイヤーを引っ張り弛みがないか確認し、親指を立てて合図するとポーチから滑車を取り出してワイヤーへ引っ掛ける。

「よし行くぞ、遅れるなよ」

 屋上の柵にシグは片足を乗せ、一度悠奈を見るとそのまま柵の向こう側へと消える。

 悠奈が覗き込むと、シグは空を翔けるかのようにワイヤーを滑りながら支部の屋上へと着地した。

殿しんがりは私が務めましょう。悠奈さん、先に」

「あ、ええっと……うん」

 そっと悠奈も柵に足をかけ、そこでつい下を見てしまう。

 三十階建てのビルだ、それなりに高い。道を歩く人が小さく見える。

 今から空中散歩だと気分を高めたいところだが、もし落ちたらと思うとやはり竦んでしまう。腰のベルトで繋がっているから一応手を離しても落ちはしないのだが、どうしてもこういう場面ではもしもが頭をよぎってしまうのだ。

「えい」

「――は? え? えええええ!?」

 しかし、そんな悠奈を見かねてかフィオナが背中を押した。

 軽く突き飛ばされ床から離れた足は宙を泳ぎ、ワイヤーに添って悠奈は支部のビルへと滑り降りていく。

「あ、そんなに怖くないや」

 しかし思いの外やってみるとそうでもなく、真ん中辺りまで来たところで悠奈は姿勢を直すと両手を広げ受け止めようとしてくれているシグの顔面を蹴って停止する。

「痛ぇな! 何すんだ!」

「そこにいるシグ君が悪い」

 派手に屋上の地面を転がり壁に激突したシグが怒声を張り上げるが、悠奈はそれを無視して滑車を外し後続のために道を開ける。

「いやそれにさ、いくらその格好でもいきなり男の子に抱かれるのはちょっと……」

「もうしてやらんからな! 絶対だぞ!」

 体についた埃を払いながらシグが立ち上がると、それと同時に屋上の扉が開き管理局の人間と思わしき男が欠伸をしながら姿を見せた。

 悠奈は非武装、シグも油断していたのか武器を構えてはいない。

 が、

「おっと、そうきますか」

 もうすぐそこまで来ていたフィオナは、腰に抱えたライフルを片手で構えると機械のように均等に揃えられた発射間隔で四回銃声を鳴らした。

 ドアに立っている男は胴体に四つの穴が空き、一瞬遅れて頭部から破裂したような音を出して背後の壁に頭に詰まっていたモノをぶちまけた。

「うへぇ、この反応速度……しかも1kmオーバーの狙撃でしっかりヘッドショットとかほんとバケモノですかあの人」

 消音器をつけているらしいが近くにいた悠奈はしっかりとフィオナが四発撃ったのを確認した。つまりもう一発はユーリのものだろう。

 それを示すように降りてきたフィオナがぶつくさと遠くの方を見ながらなにか言っている。

「ほれ、行くぞ」

「了解……悠奈さん? どうかしましたか?」

「え? ああうん、なんでもない」

 ふと、悠奈がニコライを救うと言い出さなければここに倒れている者達は皆死ぬことはなかったという考えが過ぎったが、首を左右に振ってその思考を払拭する。

「放っておけばこの人達は市民すら巻き込んで事件を起こす……殺さなければ誰かが殺されて、殺せば私達が殺人者……どう転んでも良くわならないわね、結局」

 一人つぶやく悠奈は、そっと決意を秘めた眼差しでシグ達の後を追っていった。

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