Chapter30「Uの呪縛」
屋上の縁に掴まりながら、顔だけをあげて様子を確認する。カイルから報告は受けているが、念のためだ。
視界内ではあらゆるものが吹き飛び壊れ、元々はとても綺麗な場所だったことを思わせるように花壇に植えてあっただろう花が辺りに散らばっていた。
筋力特化型か、あるいはリミットブレイクでも使ったのか。どちらにせよこれだけの破壊力を出せるクラス3となると、性能自体でフィオナを上回っている可能性がある。
いくらクラス3といえど、フィオナのような――を越す性能を持つ者はそうはいない。
ナノマシンでの身体機能の向上は個人差がある。クラス3だって、ナノマシンと相性のいいクラス2とさほど変わらない者もいる。ユーリという人物は生まれからして、かなり恵まれているのだろう。
もっとも、その幸運が本人にとっても幸運かどうかはまた別の話だが。
「よいしょっと」
屋上の様子を確認し終えたフィオナは、安全だと分かると肩にスリングでかけていた相棒のSR-25狙撃銃を先に上に置いてから、縁に足をかけ一気によじ登る。
我ながら、スカートを履いたまま学校の外壁を上るなんて大胆な真似をよくやったと思う。
しかし幸いにも周辺に一般人はいないし、他の連中も戦いに集中していてフィオナには気付いていないようだった。
これも全部制服がスカートなのが悪いのだ。フィオナの部署はプリーツスカートとタイトスカートを選べるのだが、タイトは動きにくいので論外。かといってプリーツスカートは動きやすいがフィオナのポジションが狙撃手なせいで膝射や伏射の姿勢を取ることが多く、いろいろ見えるのが難点だ。
そのせいでランディが今日も白か、なんて言う度に彼を足蹴にしなければならない。
皆のように制服を着なければいいだけなのだが、規則なのだしこういうルールは守るべきだ。みんなてきとう過ぎである。
「さて……と」
ともかく、今はターゲットの確保が最優先だ。
彼女は屋上の中央でボロボロになった花壇に腰掛けている。顔が伏せられ、どうにも様子がおかしい。
ふと、顔から何か光るものが落ちた気がした。
(涙? 泣いて……るんですかね)
ゆっくりとフィオナが近づくと、その気配を感じたのかターゲットが顔をあげた。
その瞬間、互いに顔を見つめ合って驚いたように同じコバルトブルーの目を見開く。
写真で見ているから分かってはいたが、こうして面と向かうと本当に気味が悪いくらい雰囲気までも似ていることに妙な感覚を覚える。まるで鏡でも見てる気分だ。
フィオナも同類にこうして話す余裕があるほどの状態で会った事は無いので、何故か緊張してしまう。
何秒か見つめた後で、急に二人は困ったように目を逸らす。と、フィオナは気まずそうに頬を掻きながら先に口を開いた。
「あー、そのですね……実は」
「分かってる……私でしょ」
フィオナが言うより先に、彼女の方が言ってくれた。
振り絞るように発せられたその声は、震えている。そういえば泣いていたのだったか。
でもフィオナだって任務で来ているのだ。それにこっちもプロ。情に訴えられて役目を放棄するような真似はしない。
捕獲か殺害と言われているが、ランディの確認なしに殺すのもまずいしとりあえず身柄を確保しておこう。
問題なのはこの屋上を出ることなのだが、入口の階段の下には敵がいるらしいし、またこっちに戻ってこないとも限らない。というか護衛対象を放置するわけがないので、きっと戻ってくるはずだ。
そうなるとまた来た道を引き返すことになるのだが、さすがに人一人背負って壁を降りれるほどフィオナは器用じゃないしその手の道具も無い。
思いついたのが屋上から彼女を落とすことだが、いくら同類でも受け身も取れなければこの高さは危ういだろう。
かといって抱えて飛び降りるには、フィオナにはちょっと高すぎる位置だ。
と、その時。
「え? あ、ちょっと!」
急に彼女が立ち上がると、フィオナの腰に付けていたホルスターから拳銃を抜き取る。
反射的にSR-25を構えようとしたが、さすがにこの銃では殺してしまうかもしれないのでフィオナは再び背負い直した。
「今更抵抗したって無駄ですよ。それに、その銃に装填されてる弾じゃあ私を殺せはしません……って、ええ? ちょ、ちょっと! 本当に待ってくださいってば落ち着いて!?」
拳銃の銃口はフィオナにではなく、彼女が自分自身の頭に突きつけた。
なぜそんなことをするのかという疑問を置いて、とにかくフィオナはこれ以上馬鹿な真似をさせまいと銃を奪い取ろうと近づくが、すっと身を引いて距離を取られてしまう。
「……私がいるだけで周りの人が不幸になる。私が死んでも変わらないって、アリスちゃんは言ってくれた。でも、あなた達管理局は私を狙ってる。私が存在し続ける限り、また誰かが死ぬのよ。だったら……」
「ちょ、ちょっと待ってくださいってば!」
「駄目だよ……だって、私を捕まえたらきっとユーちゃん達が取り戻しにくる。そしたら今度はあなた達が死ぬかもしれない。もう……いやだよ、そんなの。だから……ここで私が死ねば――」
フィオナは直感で理解した。彼女は本気だ。本気で撃つ。
どうする。この状況でフィオナが出来る事は――
瞬間、静かだった屋上に一発の銃声が響いた。
風切り音。
それに合わせてアセリアは手に持ったマチェットを振る。
金属のぶつかり合う音が、駐車場に響き渡った。
軽い音を立ててアセリアの目の前に落ちたのは数本の投げナイフ。これで十本。あの女は一体いくつナイフを仕込んでいるのだろうか。
「きゃは! すっごーい、強いんだ。じゃあ私も本気だしちゃおっかなぁ?」
それまで投げナイフで牽制していた女が、なにがおかしいのかけたけたと笑うと懐から大型のナイフを取り出した。
アセリアのマチェットほどではないが、幅広で長い刀身のナイフ。しかも、あの光を浴びても輝きすらしない黒色は間違いなくナノマテリアルで出来たものだ。
ナノマテリアルで出来ている。つまり、あれはどんな物でも触れればナノマシンがそれを浸食し、瞬時に分解するのでいかなるものも断つことができる。
しかもナノマテリアルはナノマシンの集合体。だから所有者の意思一つで機能のオンオフから力の強弱までを調節できる。管理局の裏側の組織しか使えない、強力な武器だ。
「ナノマテリアル……裏の連中が何の用だ」
「難しいことは分っかんないなぁ。そういうのはおっさんやフィオちんが考える事だもん」
言いながら女は手の中で大型ナイフを回転させる。当然だろうが、使い慣れているようだ。
ナイフタイプのナノマテリアルには、銃弾タイプのように掠めただけで傷口から入ったナノマテリアルが対象の体内にあるナノマシンを破壊していくような機能はインプットされていないはずだ。
これは、ナノマシンで身体機能を強化した強化人間用か、人や物など様々な対象に有効な物として作られたかの違い。
銃弾の方をばら撒かれるよりはやりやすいが、ようは物凄く切れ味のいいナイフという事なので油断するわけにもいかない。
もっとも、ナノマテリアル製の物質には弱点と呼べるものが存在するので、そこをついてやればいいだけでもある。
「だからぁ……いっくぞぉ!」
女は地を蹴って突進するかのようにアセリアに接近。
と同時に大型ナイフを振るうが、刃は身をひねって回避したアセリアの横を通り過ぎ背後の街灯を切断した。
ナノマシンが浸食するおかげで、力を入れなくても当てるだけで物が切れてしまう。なので力の入っていない一撃でもくらえば刀身はすっぱりと身体を切断してくれるだろう。間合いに入られたら最後だ。
「まだまだぁ!」
「っく!?」
すぐに身を翻した女は、懐から投げナイフを取り出しそれをアセリアに投げつけた。
隙だらけだと思いマチェットを振りかぶっていたアセリアに避ける暇は無く、左腕を盾にしてそれを防ぐ。
情報室の制服は特殊な加工がされており、防刃機能と45口径の拳銃弾までは防ぐ事が可能な性能を持つ。
しかし女の投げたナイフはそんな制服を貫き、アセリアの腕に突き刺さる。
まあクラス3の力で投げれば小石でも銃弾に匹敵する威力が出るのだから、当然だろうか。
「左腕貰い――っとぉう!?」
そのままアセリアの腕を切断しようとしたのか大型ナイフを女は振るうが、それより先にマチェットを切り上げるようにして刃同士をぶつけ、迫りくるナイフを払った。
吹き飛ばすまでは出来なかったが、刃同士を接触させられたのでアセリアの目的は果たせたことになる。
「あー!? もう!」
女が怒るのと同時に、彼女の大型ナイフとアセリアのマチェット、二つの刃が同時に砕けた。
ナノマテリアルはナノマシン同士が互いに結びつき、ちょっとやそっとのことではそれを分断することができない。
それこそがナノマテリアルで出来た物の強固さを引き出している要因だが、ひとたび別の情報を持つナノマシンが接触すると、互いにエラーが生じその形状を維持することすら不可能となる。つまりは、壊れるという事だ。
異なる情報を持つのナノマシン。要するに、別のナノマテリアルで作られた武器を当てただけでナノマテリアルは崩壊する。
女のナイフも、そしてアセリアのマチェットもナノマテリアル製の刀身を持っていた。これはだからこその結果だ。
「終わりだ」
短くそう呟くと、何も持っていない女の腹部に蹴りを入れる。
が、当たる直前で後ろに身を引かれた。おかげで威力は弱まってしまったが、これで距離を離すことはできた。
アセリアはその隙に背中に手を回すと、もう一本のマチェットを取り出す。こちらはナノマテリアルではなく、普通の刀身の物だ。
対強化人間を想定して、相手もナノマテリアルの武器を使ってくることを考えて予備に持っている物。
重さで叩き斬る使い方をするマチェットは、身体能力が上がった強化人間と相性がいい。と言っても、クラス3の力で振り続ければいくら強度の高い材質のものを使ったとしてもすぐに壊れてしまうので、幾らか力を加減しなければならないが。
それでも同じクラス3を倒すのなら、数回当てるだけで十分だ。いくらクラス3とはいえ身体は人間のそれと変わりはないのだから、怪我をすれば痛いし急所に当たれば死んでしまう。
形勢はこちらが有利。アセリアはマチェットのグリップを握る力を強めた。
「ほんっとにもう! 無茶するんですから!」
耳元で鳴った銃声に、めまいがする。
それでもそう叫ばずにはいられなかった。
呆ける少女の腕を、フィオナはがっちり握っている。
その腕の先には、フィオナから奪った拳銃。あと一歩遅ければ、もしかしたら頭を撃ち抜いていたかもしれない。思い切って覚悟を決められる人は尊敬するが、それをこういう風に使う人は褒めるわけにはいかない。
「……ぅ」
少女がフィオナの腕の中で呻く。彼女の手から銃が零れ、地面に落ちた。
拳銃の弾は、即死する位置は免れたが浅い角度でしっかりと少女の頭部に当たっていた。
もう少し踏み込むのが早ければ銃を奪い取ることも出来たかもしれないが、この子はとの距離はそれなりに離れていたのでこれが限界だ。
少女の頭からは僅かに血が出ているが、それだけで命に関わるほどの傷ではないように見える。通常の人間なら肉を削ぎ落されていてもおかしくはないはずだが。
(むう……9mmとはいえこれだけ耐えますか。硬いですねこの子。この分だとたぶん大口径のライフル弾に対応した防御能力……防御特化型? いえ、見たところそういう感じではなさそうですけど)
少女が倒れないように抱きしめながらいろいろ思案するが、どうもまだ様子がおかしいので今はこの子の相手をするのが優先。
フィオナはそっと、少女をまだ形状を保っている座れそうな花壇の方へ移動させると、そこに腰掛けさせる。
そこでフィオナは少し屈み、少女の髪を少し掻き分けて傷口を確認。
「ん……」
「ごめんなさい。ちょっと傷口、見せてくださいね」
弾は僅かに皮膚を切り裂いただけのようだ。角度は浅いが、確実に頭に当たるコース。これはつまり、弾の方が弾かれたという事になる。
まあ個人差はあれどそういう者もエデンじゃ別に珍しいわけではないので、フィオナはそれを無視して自分の制服の袖を掴んだ。
「え? 何して……あ」
「いいですから、じっとしてて」
おもむろに制服をびりびりと破り捨て、その布で少女の頭から流れる血を拭き、残りは頭に巻いてやる。
肘の少し上までの分の布を使ってしまったが、制服の替えなどいくらでもあるので問題はない。
「すいません。医療キットなんて持ってませんし、こういう状況ですから保健室にほいほい連れていくわけにも……」
「あ、えと……そんなことない、よ。ありがと」
一応の処置を終わらせると、フィオナは少女の隣に座る。
横目で様子を見るが、やはりちょっと気分がよくなさそうだ。
聞いたところ一般人として過ごしていたのだろうし、いくらフィオナと同じでも置かれた環境が違えばこういう事に耐性はつかないものだ。
「少しは落ち着きましたか?」
「……うん」
返ってきた声に力は無い。そうふさぎ込んだまま言われるとフィオナまで気が落ちてくる。
まあ、管理局含めエデンにいる危険な組織に自分が狙われているとなると、そういう気になってくるのも仕方のないことなのだろうか。
「でも変な話ですね。私達の中でもあなただけが特別ってことなんでしょうか……あ、そういえば名前聞いてませんでしたね。私はFのフィオナです。あなたは?」
「え? ええと、悠奈です。東條悠奈」
いやそれは知っている。任務を受ける際にターゲットの名前くらいは聞くのだから。
だがフィオナ達の事情は極限られた人間達、いわば裏のさらに裏側の人間しか知らないので、たとえ裏側の部署にいるランディ達でさえそこまで知らされることはない。しかも、もう闇に葬られたものでもあるのがそれに拍車をかけている。
「いや、そっちじゃなくて識別コードですよ。それとも悠奈でY? え? でもあれってそんなJの人みたいな名前って付けていいんでしたっけ?」
「え? ええ?」
見つめ合いながら、互いに何を言ってるのかと混乱し合う。
そこでいったん整理しようと、フィオナは悠奈に待っててくれと言って頭に手を当てながら思案する。
(え? 本当に他人の空似ですか? いやいやいや、これは間違いなく――でしょう。ということはも、もしかしてこの子何も知らない……)
フィオナは頭を抱えた。何も知らずに生きてきた子に、一番言ってはならない事を言ってしまった気がする。
「えっと……フィオナ、さん?」
「え? ああ!? そ、その大丈夫大丈夫です。私が言った事は気にしないでください。よろしくです悠奈さん」
「は、はぁ……」
とりあえず勢いで誤魔化してはみたが、悠奈も腑に落ちない様子で首をかしげている。
これ以上踏み込まれる前に話題を変えないと大変なことになりそうだ。
「とにかく、いくらなんでもあれはやりすぎです。家族だっているでしょう? 駄目ですよこんなの」
「でも、私がいるだけで傷つく人がたくさんいる……」
悠奈の顔が悲しみに彩られる。
そうだ、ELFの連中は手あたり次第のようだが、フィオナ含め管理局の者達はどういうわけか悠奈を狙っている。それはこれからも変わらないだろう。
悠奈の言う通り、彼女が存在するだけで周りの人間は例外なくそれに巻き込まれる。本来ならこういう時に頼みの綱となる筈の管理局自体が彼女にとっての脅威なのだから、実質このエデンで彼女の味方は護衛の者達だけだ。いや、あの者達ですら、本当に信頼すべき味方であるかどうかの保証もない。
フィオナは何も言えない自分に、唇をかみしめる。この子は一人だ。本当の味方が誰もいないこの場所に閉じ込められた少女。
そう考えれば、自ら戦いに身を置いた自分の方がまだましな方なのかもしれない。少なくとも部署の仲間は味方だし、管理局員としてある程度はエデンで自由が利く。
フィオナと同じ境遇の者は、まるで神がそう定めたかのようにどう足掻こうと結局は銃を手に取り戦うことになった。
悠奈もまた、その楔から逃れられず、それどころかまともに生きる事すら叶わなくなろうとしているのだ。
「悠奈さん……」
依頼のターゲットに同情するのはよくない。分かっている。
助けたのは同じ境遇の者だからか、単に一時の気の迷いなのか。或いは任務の為に生かすと決めたからか。それはフィオナ自身にも分らなかった。
「どうしたらいいのかな? 私はどうし、たら……」
「悠奈さん? あ!? 大丈夫ですか!?」
フィオナの肩に僅かだが重みが感じられ、そこに目を向けると悠奈の頭が乗っていた。
軽い脳震盪でも起こしたのだろうか。拳銃弾防ぐような子がそれは無いと思うが。とにかく今は意識を失っている。
さすがにこの体勢だと悠奈が動いた拍子にずり落ちて頭をどこかにぶつけかねないし、フィオナはそっと悠奈の体を横にして頭を膝の上に置いてあげた。膝枕なんてフィオナは初めてで、意外にも人の頭は重いのかこれは長くやっていると足が痺れそうだ。
そんな悠奈の顔は安らかなものだ。大事にはなっていないだろう。
フィオナはさっと悠奈の頭を撫でる。自分と同じ黒い髪。だが容姿はフィオナと似ていると言っても細かいところまで目を配れば割と細部が違う。エリアJの人の特徴を取り込んであるようだ。身体の形も元のベースからは弄ってあるようだし、この子がどういう調整を受けたのか今だに読み取れない。
「まあそれ言っちゃったら、私も外見じゃ判断できませんからねぇ。たしか男の人と沢山えっちするためでしたっけ? う……これは考えないでおきましょう、もう過去のことです」
自分の本来の使用用途を思い出して落胆しつつ、フィオナは空を見上げた。
状況を整理して、もう一つ分かったことがあるからだ。
「動けませんねこれ……どうしましょう」
膝の上に悠奈を乗せているので、動くに動けない。
もう屋上へ来てそれなりに時間も経っているので、誰かが戻ってくるかもしれない。
最悪フィオナだけでも逃げないとまずい。だが非情にも、焦るフィオナを嘲るように屋上の扉が開かれた。
「あ……」
終わったな、なんて言う間もなく、姿を現した二人のうち一方が険しい顔をしてこちらに向かってきた。
その顔には既視感があり、フィオナは嘆息した。
「なんですか、ここは同総会の会場でしたっけ? あなたもですか」
「……U」
正面まで来たフィオナと似た容姿の人物が表情をより強張らせると、素早く腰のホルスターから拳銃を抜き傍らにあったフィオナの拳銃を蹴る。と、銃は屋上の床を滑るように移動し、そのまま下に落ちた。
「あっ!? ちょっと高いんですからやめてくださいよ!」
「知らないね」
フィオナが抗議するが、知ったことかと黒髪の子は銃口を向けてくる。
が、それをもう一人の女性が制した。こっちはフィオナも知っている。さっきまで戦っていたユーリだ。
「まあまあ、どうやら悠奈君をみてくれていたようだし、ここは銃を収めんかね?」
「でも……」
「悪い子でもなさそうだし、ユー……君の目的は同胞を殺すことではないだろう?」
ユーリに諭され、しぶしぶユーと呼ばれた少女――だろうか、フィオナと同じなら男性はいないはずなので女性だと思う。その彼女が銃を下ろした。
「ふむ、まあ撃たれないならそれに越したことはないです。悠奈さんの事、あとはお願いできますか?」
「うむ、すまなかったね。ところで……君はどうやってここに来たんだ? まさか、上ったのか? 壁を。だとしたらその格好でよくやるよ。さすがに私もそれは考えていなかった」
「う……いいじゃないですか別に。とにかくあとはお任せします。それでは」
この二人を相手に悠奈を奪えるとも思えないので、ここは退くしかない。
今も見逃してもらったようなものだから、ユーの機嫌が変わらない内に戻ろう。
だが、立ち去ろうとするフィオナをユーリが制した。
「まあ待ちたまえ。きっともうすぐ終わる。そんな予感がするのでな。皆で行こう。君の仲間も下で待たせているしね」
「予感って……」
呆れるフィオナの隣で、ユーが悠奈を背負いつつ通り過ぎざまに口を開く。
「ユーリの勘は未来予知みたいなものだから、彼女がそういうならそうなるんだろうさ。それで、どうするの? 来るの? 来ないの?」
「分かりましたよ……行きます、行きますから」




