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CODE:Ultimate  作者: 天宮 悠
1章
20/53

Chapter20「真実へと至る道」

 真っ白な通路。

 余程手入れされているのか、まるで新築した建物のように汚れ一つない空間。

 管理局が出来てからもう何十年と経っているのに、まるで時代の流れを感じさせない風景。

 それに悠奈は気味の悪さすら感じてしまう。

「綺麗だねー。ぴっかぴか」

「え? ああ、そうですよね。二十四時間人が出入りしてるのにこんなに綺麗ですからね。でも、綺麗な方がいいじゃないですか、さっぱりしてて」

 隣で微笑むアンバーの顔が一番綺麗だ。なんて悠奈は思ったりもしたが、さすがに口に出すとボブがいろいろ言ってきそうなのでそのまま思うだけに留める。

 ユーもそうだが、アンバーやユーリといい今まで悠奈が出会ったクラス3の人は皆美形ばかりだ。

 もう少し容姿にばらつきがあってもいいのではないだろうか。そりゃあ美形なのに越したことはないのだろうけれど。

 ふとそんな疑問が悠奈の頭をよぎる。

「生まれる前から身体を弄る……つまり容姿とかもある程度は好きなように設定できるってことなのかな」

「……悠奈さん?」

「っとぉ!? 何でもないよ。あはは、管理局に入るなんてこと滅多にないからさ、ちょっと緊張してるのかも」

「お前がそんな玉かよ。なんか悪いモンでも食っただけじゃねぇのか?」

「ボブって本当にさ、デリカシーないよね……」

 呆れながらも、悠奈は内心ほっと胸を撫でおろした。

 ここに来てから、妙に変なことばかり気にしてしまう自分に悠奈は戸惑いを隠せないでいる。今の発言にしても、隣にアンバーがいるというのに迂闊すぎだ。幸い、タイミングよくボブが茶化してくれたおかげで気にされないまま流れてくれたようだが。

 今だけはボブの存在に感謝しなければならない。

「なんでこういう時だけいつものノリじゃねーんだよ! まったく……お前がそういう返しするとなんかユーと話してるみたいだぜ」

「あ、そういえば悠奈さんってちょっとユーさんに似てますよね。容姿もそうなんですけど、どっちかっていうと雰囲気がというか……」

 ボブとアンバー、二人の視線が悠奈へと集中する。

 自分ではそうでもないと思っているのだが、こう何度も言われると少しは認める必要がありそうだ。

「やっぱそう思うか? 悠奈はちゃんと女だし胸でかくてエロいがたまーにユーっぽくなるんだよな。というかあれだよな、俺の冗談に反応する時はほんとユーみたいだぞ」

「ちょっとボブ……普段私のことどういう目で見てんの」

 悠奈は両腕を胸に回し隠しながら、訝しげにボブを見る。

 一応ボブも男性だし、昨日のユーリとのやり取りの様子を見る限りでは少しこちらも気を使った方がいいかもしれない。

 まあ、何気にボブはそっち方面ではしっかりと線引きが出来てそうな節があるので、そこまで悠奈が注意することはないのかもしれないが。

「ははは、冗談だよ。さすがに手は出さねぇって」

「ふぅん? ふーん……ふーん」

 と、笑うボブの後ろでアリスが懐疑の視線をこれでもかというほど彼に当てていた。

「い、いや、さすがにいろいろ問題あるし、本当だぜ?」

「手は出さないんだ。手は、ねぇ? ふぅん?」

 半目でボブを見るアリスの顔は、怖い。

 悠奈が気圧されながら何か別の話題でもないかと頭の中でいろいろと思考を巡らせると、それより先にアンバーが咳払いをする。

「あ! こ、ここですここです! 着きましたよ皆さん」

 やや焦り気味にアンバーがいうと、一枚の黒いドアを指さす。

 横にネームプレートはあるが、真っ白で何も書かれていない。一体どういった部屋なのだろうか。

 そもそも、アンバー達が運んでいる黒い塊の正体も分からないままだが。

「はい、アレンさん。お待たせしました、ナノマテリアル三つです」

「おお、すまんな」

 部屋の中は、悠奈も映画でよく見るような警察所の武器庫とった感じだった。

 ラックに並べられた大小様々な種類の銃に、棚には装備品や弾が溢れるほど積まれている。

 アンバーはカウンターのところで肘をついていた男性のところまで箱を持っていくと、そこに置く。

 男性はアンバーから受け取った箱をしばらく眺めると、その視線をアンバーの背後へ向けた。

「今日はずいぶんとにぎやかだな。いつからここは観光地になったんだ?」

「あはは、ユーさんのお連れさんですよ」

「おお、あの可愛い兄ちゃんか。最近見ねーけど元気にしてるか?」

「見た感じは大丈夫そうでしたけれど……」

 アンバーたちが会話にふけっている間に、悠奈は周囲を観察していた。

 立てかけられているライフルのような大きな銃はさすがに扱いが難しそうだが、拳銃くらいなら悠奈でも扱えるものなのだろうか。

 ふとそんなことを考えていると、

「なんだ嬢ちゃん? 銃に興味があるのか?」

「え? あ、そういうわけじゃないんですけど……」

 不意にカウンターの男性に話しかけられて、悠奈は視線をそちらの方へ向ける。

「そこにいる小さい方の嬢ちゃんやアンバーみたいな、何か理由でもない限りそんなもんは嬢ちゃんみたいなのが握るもんじゃねぇぜ。何せ、ここに置いてあるのはそこらの店で買えるもんじゃねぇ、人に銃口を向けるために作られた銃ばかりだからな」

「人に……人を殺すための銃?」

「そうさ。少なくとも、こんな場所に学校の制服でやってくるような子が持っていいもんじゃねぇな」

 私服で管理局に入るのは気が引けたので、学校の制服を着てきたがそこは果たして問題なのだろうか。

 まあ確かに、学生が銃を持つのは少なくともエリアJでは禁止されているし、こういう場に来ること自体間違いではあるのだが。

「まあそれは、ね。でも、そういうのは抜きにしてこの拳銃みたいのは私でも使えるんですか?」

「使うだけなら簡単さ。撃ちたい奴に銃口を向けてトリガーを引けばそいつは死ぬ。ふふ、なんだね? 殺したいほど憎いやつでもいるのかい? 相談してくれればその役目を引き受けてやらんでもないぞ?」

「わわっ!? ユーリ?」

「まさかここにいるとは思わなかったがね。まあでも探す手間が省けたよ」

 いつの間にか背後にいたユーリが、悠奈の首に腕を回してくる。

 入ってきたのは今なのだろうが、全く気配を感じなかった。ユーリが敵ならきっと悠奈は何度も殺されていたことだろう。

「おう白わんこ。気配消して入ってくんじゃねーっての。何の用だ」

「白わんこは無いだろう。確かに私は管理局の犬でしかないが……まあいい、このリストに書いてある消耗品を補充しておいてくれ。第三倉庫のだ」

 男はカウンターに放り投げられたリストに目を通すと、呆れたような目でユーリを見つめる。

「おい、まーた表の奴らからくすねたのか」

「こっちで準備すると書類とかいろいろ書かないといけないからね。正直面倒だしいいじゃないか」

 言ってユーリは男に背を向けると軽く手を振り、今度はアリスの方へ。

 きょとんとするアリスの前でしゃがみこむと、ユーリはスカートのポケットからいくつか円筒状の真っ黒な外装をしたものを取り出し彼女に手渡した。

「あ、これ……」

「ああ、OOバック、フレシェット、スラグ、それぞれ五発ずつ。予備はないから大事に使ってくれ。これならば、いざという時に戦況を覆すことができるかもしれん」

「ありがとう……」

 どうやらあれはアリスが使うショットガンの弾らしい。先ほどアリスに銃の事を聞いていたのはこのためだったのだろう。

 アリスはそれを大事そうにユーリから受け取ると、戦闘用ベストのポケットにしまいこむ。

「それと、ボブ君にもこれを」

「んお? 俺もか?」

 ユーリが手渡したのは、ボブが使っているライフルの弾倉だ。もちろん、弾が装填されている。

 ただ、弾の弾頭部分全体が艶のない黒色をしている。

 そう、なんというか、先ほどアンバーが運んでいたあの黒い塊と同じような色。

「これは?」

「ある物質を加工した弾。通常弾の倍以上の貫通力と、生物相手なら掠っただけでも一発で仕留める事が出来る力がある。アリス君に渡したのも同じ物だよ」

 問うボブにユーリが返すと、彼は驚愕に顔を染める。

「そりゃあ……」

「まあ詳しいことは言えんがね。一応本来なら君らが持つべきものではないし、そもそも見る事すらかなわない代物だ。とはいえ、これから先は必要な力だと判断した。現状ではこれがクラス3レベルに対抗しうる唯一の手段だと考えてくれたまえ」

 ユーリが渡したのは、クラス3と戦うための装備。

 この場の誰もが、そのことについて問う事はなかった。

 皆、少なからず理解しているのだろう。もはや、管理局と戦うことは避けられないのだと。

 表側の者達は鍵の争奪戦に乗ってしまった。

 彼らがそうした以上、鍵を守るべき管理局の裏側の者達はたとえ相手が仲間だろうと戦わねばならない状況が嫌でもやってくるはずだ。

 もっとも、ユー達の話を聞く以上、裏側の人間にとって表の連中は仲間と呼ぶほどの価値がある者達なのかすら怪しいところだが。

「そ、それじゃあ行きましょうか。悠奈さん、どこか行きたいところってありますか?」

 アンバーの声が、若干この場に流れ始めていた剣呑な空気を和ませる。

 意図してのものなのだろうか。いや、彼女の場合そういうのを無意識にできてしまう気質なのだろう。

 狙ってやらなければ、ああいう振る舞いをできない悠奈よりよほどいい子だ。

「え? あー、そーだね。せっかくここに来たんだし、展望台みたいなところない? ここって超おっきいじゃん、見晴らしの良いところに行きたいなーって」

「ならちょうどいいです。目的地も同じ階にありますし、六十七階の展望室に行きましょうか。アレンさん、また後で」

 アンバーはカウンターの男性に手を振り、部屋を出る。

 悠奈達はそのままアンバーの後ろについていき、エレベーターを使い六十七階へ。

「わぁ、綺麗」

 エレベーターを出た瞬間、悠奈は視界一面に広がる景色に思わず声を漏らす。

 悠奈の部屋から見る景色もなかなかのものだが、さすが管理局といったところだろうか。エデンの中心部に位置するというだけあって、ここからだといくつものエリアが見渡せる。

 それぞれエリア別に景観そのものが違うため、こうして上から見るとエリア間の境界線がよく分かる。

 そもそもエリアJから出る事すらそうない悠奈にとって、これは貴重な体験だ。

「この階は外側の壁が全部透明ですから、ぐるっと一周すれば全部のエリアが見渡せますよ」

「す、すごい……エデンってこんなにおっきいんだ。あ、ユーナ! エリアJが見えるよ!」

 アンバーの説明を聞いているのかいないのか、アリスも目を輝かせながら悠奈の袖を引っ張りあそこに見えるのはなんだろうとかあれが綺麗だとか、ぴょんぴょん跳ねながら悠奈以上に管理局を満喫していた。

「微笑ましい光景だな。なぁ、アンバー?」

「うぇ!? なんでそこで私に振るんですか!?」

「いやなに、面白い子達だろう? どうだね、君も一緒に来るかね?」

「私だって持ち場がありますし……それに、その……私は何というかすごくあれらしいので、沢山人がいるところに行くと……」

 胸の前で両手の人差し指の先をつんつんと合わせながら、アンバーは俯く。

 そんなアンバーの肩に、ユーリが手を置いた。

「まあ、弄り倒されてしまっては可哀想だしね。特に悠奈君やボブ君が相手だと君では大変そうだ」

「もぅ……ユーリさん」

 なんて言いながら、アンバーは頬を膨らませてそっぽを向く。

 弄られやすいのは、いちいちからかいたくなるアンバーの仕草が原因なのではないだろうか。

 ちょうど、悠奈とは真逆の性格をしている。

「さてさて、あまりうろちょろしていてユーを待たせることになっても面倒だ。探索は合流してからにしよう」

「そうですね、長くかかるかもしれませんし、一旦事務所に行きますか。悠奈さん、見学はまた後で。こっちです」

 アンバーに導かれ、通路をしばらく進む。

 と、急にアンバーが足を止めた。

「ここです。さあ、中にどうぞ」

 タッチパネルにアンバーが手を置くと、白色のドアは横にスライドしながら開く。

 ネームプレートには、第一特殊警備部隊E分遣隊と書かれていた。

「お! おお! ……お? 普通の事務所だこれ」

「当たり前ですよ! 何を期待してたんですか」

「いや、こう謎兵器とかがばーんって」

「……悠奈君、君は管理局を何か勘違いしてはいないか?」

 アンバーとユーリ、二人の管理局員から呆れたような目を向けられ悠奈は肩を落としながらもう一度部屋を見渡す。

 なんの変哲もない、どこにでもあるような事務所だ。

 たくさんの書類やデスクが立ち並び、多くの人が忙しそうにせわしなく動き回っている。

「ここがアンバーさんの?」

「はい、第一特殊警備部隊E分遣隊です。まあ長いのでみんな特警かエコーって呼んでますけどね」

 警備部隊という名がついているわりには、この部屋にいるのは事務職っぽい人が多い気がする。

 まあ外見で判断するのもどうかと思うが、見るからに非戦闘員っぽい人もいる。

 だがよく考えてみればユーやユーリだって学生服を着ればただの学生にしか見えないし、管理局の人ならこういうのもありなのかもしれない。

「そこに座って待っててくださいね。今、お茶出しますから」

 言って、アンバーは奥の方へと消えていく。

 悠奈達はソファーに座ると、そのままアンバーが戻ってくるのを待つことにした。

 すると、

「ゆ、悠奈さん悠奈さん!」

「ほえ?」

 アンバーが血相を変えて走ってくる。

 全員分のお茶を入れるには少し早目の到着だ。案の定お茶は持っていないし、どうしたのだろうか。

「今連絡があって、ロビーで悠奈さんのお父様が待っているって……」

「ええ!? とーさんが?」

「なんでも一人で来てほしいそうなんです。何か内密に伝えたいことがあるとか」

 そういえば悠奈の父、明は管理局に用があると言っていた。最近いろいろあって忘れていたが、ここに父がいるのは間違いないのだろう。

「そかそか、えと……さっきのエレベーター使えばいいんだよね?」

「待つんだ悠奈君」

 ドアの方まで進もうとした悠奈の手を、ユーリが掴む。

「これはあまりにも……」

「……承知の上さ。まあ何とかなるでしょ」

「しかし、むう」

 珍しく本気で心配するユーリの手をそっと引き離すと、悠奈は特警の事務所を後にし先ほど乗ってきたエレベーターに乗り込む。

 ロビーにと言っていただろうか、とりあえずはそこへ行くボタンを押す。

 と、ゆっくりとエレベーターは下降を始めた。

「まあ、私がここに来てるなんて知ってるわけないんだよねーこれが」

 悠奈はエレベーターの中にある鏡に映った自分を見る。

 自分でもひどく落ち着いているのが驚きだが、こうして真面目な顔を作るとどことなくユーに似ている気がして、悠奈は少し顔を綻ばせた。

「さぁて、そんなにしてまで私に会いたい人は誰なのかな?」

 十中八九、呼び出したのは明ではない。そのことは悠奈でも簡単に察しがついた。

 ここが管理局である以上、ELFの連中とも違うはずだ。

 だからこそ、向こうの希望通り悠奈一人でこうして向かっている。さすがにユーリは気付いたのか彼女を心配させる結果となってしまったが、まあ命の危険があるほどのことではないはずだ。確証はないが、なぜかそう思える。 

「管理局……私は……私は何?」

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