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CODE:Ultimate  作者: 天宮 悠
1章
13/53

Chapter13「動き出す者達」

 古めかしいレンガ造りの家。

 内装こそある程度整ってはいるが、外壁は誰が書いたのやらアートとも呼べない落書きがそこらじゅうに描かれ、ゴミは玄関の周りに放置とお世辞にも綺麗とは言い難い。

 まあ、このエリアはそんなもので溢れかえっているので今更それを気にする者は誰もいないだろうし、変に小奇麗なのはかえって目立つ。

 家の中には男が数十人。

 一人、木製の椅子に背を預け目の前のテーブルに足を置く男が手の平でナイフを遊ばせながら呟いた。

「さぁて、次の一手はどうするかね」

 髪に白髪が混じる初老の男――ローク・アーバインはいやらしい笑みを浮かべる。

 予定外とはいえ初手から思いのほか良い方向に事が進んだことを喜ぶかのように、ロークはナイフをテーブルに突き刺すと傍に置かれていたグラスに入っていたウィスキーを一気に飲み干した。

「とにかくターゲットの多いところを選んではみたが、いきなり当たりを引いたっぽいからなぁ。奴らが出てるならまず間違いなくあの中のどれかが正解だ……しかし」

 問題は、なぜ正規の護衛対象である研究員ではなく、その家族の方を守っていたかという事だ。

 別の奴らが動いているというのは考えにくい。なにせ、中央情報室の中でも特別な立場にいるユーとユーリが同時にあちらにいたのだ。それがある以上、守るべきものはあの学校の中にこそ存在していた、ということに他ならない。 

「あの学校にいた警護付きのリストを作れ。あとはそいつらの監視。他の連中は……そうだな、俺が指示すっからちょいと外で暴れてもらおうか」

 とりあえずは、ユー達が一体誰を守っていたのかを知る必要がある。

 ただ、正面からユー達とぶつかり合うのは避けたい。

 恐らく背後には中央情報室そのものが付いているのだろうし、そうだとすればエリアDの全戦力を投入したところですぐに鎮圧されるのが関の山だ。

 ならば、

「ユーリも優秀な兵とはいえ、一人の人間だ。その身一つでは対応できる数に限りがあるだろうさ。ついでだ、どうせならエデン中騒がせてやろうぜ」

 奴らだけでは処理できない量の問題をぶつけてやればいい。

 こちらの練度は低くても、ロークの知識があればいくらかの底上げはできる。

「さあ、ユー……お前と俺とで知恵比べだ」

 ロークは虚空で何かを掴むように拳を握りしめると、そのまま椅子が倒れんばかりに後ろに仰け反って笑い声を立てた。

 ELFの一派とはいえ、ロークの従えるメンバーの数は複数あるELF派閥の中でもそれなりの数を誇っている。

 そんな者達が事を起こすとなれば、エデンに相応の被害が出る事は明白であった。そう、三年前に起こったDの悲劇のように――



 申し訳程度に床を照らす天井の光。

 それでも、辛うじてすれ違う者達の顔の識別はできる光量は確保されている。が、全体的に薄暗いので少々薄気味悪さを感じさせてしまう空間。

 窓も無く絵の一枚すら飾られていない無機質な黒色の壁が延々と続く廊下は、何者であろうとも立ち入るのを拒む、そんな雰囲気すら醸し出していた。

 そんな場所を、ユーは歩き続けていた。

 エデン中央に建てられた、天まで伸びるタワー。中央管理局の本局であり、エデンの頭脳ともいうべきところだ。

 ユーがいるのは、その六七階の一角。中央情報室。

 正確に言えば、そこに至るまでの道だが。

 予定外の人物の登場。そして早期にELFの活動が見られたとなれば、一度ここへ戻って彼女達に報告をせねばならない。

「東條明……厄介なものをあの子に仕込んでなければいいけど――ひゃ!?」

 不意に首筋を指でなぞられる感触がして、ユーは素っ頓狂な声をあげる。

 すぐさま振り返り、ユーは後ろにいるであろうもう一人を見やる。と、一人の少女が口元に手を当てながらくすくすと笑い声を立てていた。

 髪も肌も真っ白で、その瞳だけが真紅の輝きを放ち神秘的な印象を与える白髪の少女。

 身長はユーよりも少し高めで、静かな雰囲気が外見よりもずっと大人びたイメージを与える。

「また難しい顔をして、君はすぐそれだ。もっと気楽にしたまえ」

 言いながら、白髪の少女はユーの頭をぽんぽんと優しく撫でる。

 子ども扱いされているようで、やや不機嫌な様子でユーは半目で少女を見据えた。

 彼女とは悠奈を護衛するより以前から組んでいて、ある意味ユーのパートナーと言ってもいい存在だ。

 そして悠奈の件にしても、ある意味ではアリス達よりもずっと長い時間行動を共にしていたと言ってもいい。

「ユーリ、これでも私は真剣に……むぐ」

 言いかけた瞬間、ユーリと呼ばれた少女の指がユーの唇に添えられ言葉を遮られる。

「一人で考え込んでも仕方あるまい。もっと仲間を頼りたまえ。その為に私たちがいるんだからね」

 抑揚のない声。それでも、彼女が十分にユーを心配してくれているのは長い付き合いもあって十分理解できる。

 ユーは大きく息を吐くと、

「そうだね……立ち話もなんだし、とりあえずフィナンシェのところに行こう。話はそれからだ」

 再び歩を進め、数分同じ景色を眺めながら歩き続ける。

 と、やっとドアの付いた壁が正面に見えた。

 ユーが重い鉄のドアを開くと、ぱっと光が差し込み目が眩む。

 フロア自体は廊下よりもさらに暗いが、たくさんのモニターが部屋中に散らばり吹き抜けのおかげでその光がフロア全体を照らし出しているので、中の暗さはさほど気にならない。

 このフロアは三層構造になっていて、一階にエデン内の情報をまとめる担当官達のデスクが並び、正面の壁には三階まで届く大型のモニターが設置されている。二階は休憩室や資料などの倉庫、三階がユー達の目的の場所である幹部クラスの者達の部屋になる。

 ユーとユーリは階段を上り、室長室へと向かう。

 このフロアの最上階、その最奥に位置する室長室。このドアをくぐれる人間はそう多くはない。

 室長は気に入った人物としか直接会話もしないので、ここに所属していたとしても彼女の顔を知るものはそこまでいはしないだろう。

 ユーはドアの前に立つと、数度ノックする。

 すると、ドアの向こうから女性の声が聞こえた。

「待っていたよ、入りたまえ」

 ユーリとはまた別の、淡々としているがどこか威圧感を与えるような声が返ってくる。

 ユーが静かにドアを開けると、

「随分と早いご帰還だ。まあ、仕方ないともいえるかな。とりあえずはご苦労様、とでも言っておこうか」

 いくつものモニターが埋め込まれた壁を背に、高級そうな黒革の椅子に座るスーツを着た長い黒髪の女性。

 彼女は薄く笑みを作りながら、椅子の肘掛けに肘をつき手に顎を乗せている。

 偉そうではあるが、実際に地位で言えば管理局内でもかなり高い方であるし、そもそもここの室長なのだから当然といえばそうだ。

 まあ、もう一方の手に資料を持っているところを見ると、ユーがいなくなって少しは忙しくなったと見える。ほとんどの仕事をユーに押し付けていた報いだろう。

「や、ユーもユーリも元気そうで何よりだよ」

 まるで守っているかのように黒髪の女性の横に立つ、全身黒色の戦闘服に身を包んだ青年がユー達に手を振る。

 常に僅かだが笑みを張り付かせたその顔は、無表情よりもさらに本来の感情を読み取りにくい。

 もっとも、似たようなのがユーの隣にもいるので彼も同様にある程度は長年の付き合いで察することが出来はするが。

「ほんの三日くらい離れていただけだろうに。ノワールは少しユーに対して過保護じゃないか?」

「はは、確かにユーリの言う通りかもね。でも、ユーに何かあって困るのはどちらかといえばフィナンシェの方だけど……ねぇ?」

「こら、なぜそこで私を見るノワ」

 中央情報室室長のフィナンシェに、その護衛のノワール。そこにユーとユーリも含め仕事をする上では上司と部下と名目上はそうなっているが、実際はこの四人の間に上下関係など無いに等しい。

 中央情報室がまともに機能し始めて、室長がフィナンシェに変わった以来からの付き合いともなれば、自然にこういった仲になるのも必然だろう。

 ユーだけは後からの参加ではあるが、事情が事情の為に三人ともよくしてくれている。

「でも、無事でよかったよ。傷跡も残って……いないようだね。よかった」

「なななな、だ、大丈夫だからノワ……」

 急にノワールがユーの傍までやってくると、手でユーの顎を持ち上げ昨日怪我をした頬を確認するように視線を這わせる。

 こっちでも昨日のやり取りは見えていたはずだから、怪我をしたこともノワールには見られていたようだ。

 ノワールは美形だし、異性に顔を凝視されるのはさすがに恥ずかしい。いや、どちらかと言えばノワールだからこそ恥ずかしい。

 ユーが頬を赤く染めながら身を後ろに引くと、ノワールは残念そうに肩を落としてまたフィナンシェの傍に戻っていった。

「さて、本題に入ろうか」

 フィナンシェが手を打つと、後ろのモニターに昨日の事件の映像やそれに関する資料などのデータが映し出される。

 そして、中央のモニターにはローク・アーバインの資料。

「ローク……今一番の問題はこいつだろうね。なによりも私の姿を見られたのがまずい」

「ああ、君が見られた以上あの学校に狙いを絞るだろうな。まだ誰を護衛していたかまでは分からんだろうが、それも時間の問題だ。そして、ロークが東條明の名までたどり着けば……」

 けだるそうにフィナンシェは両手を頭の後ろで組み、天井を見つめながらため息をついた。

「しかし、ロークはどこまでUの事を知っているんだ? 少なくともこちらにいた時にユーを見て何も反応していなかったようだし、そこまで知っているものとも思えんが」

「まあユーリの言うとおりだ。ロークはさほどUについて知っているわけではない。個人的に調べていた様子もないしな。とはいえ、Uの……あの二十六人の生みの親である者の娘、それについて何も思わぬほど愚かな男でもないさ、奴はな」

 フィナンシェは珍しく真面目な顔を作ると、画面に表示されたロークの顔を睨む。

 ただでさえ元情報室の隊員というのに加え、そこそこ優秀だったのがこうして敵となった今では厄介なことこの上ない。

「ジト目コンビよ、君らはこれからどうすればいいと思うね?」

 急に態度をいつものように戻すと、フィナンシェはユー達に向き直りノワールとユーリを見ながら言う。

 そういえばユーリもノワールほどではないがいつも半目で笑っているし、ジト目コンビという呼び方もあながち間違ってはいないのかもしれない。少しだけユーは笑ってしまった。

「そういうのを考えるのは君とユーの仕事だろう? 僕やユーリは君らが邪魔だと思った奴らを消す、それだけだよ」

「そうだな、トリガーを引くのは私達の仕事だ。だが、我々という銃を抜き照準を合わせるのは君らの役割だぞ。あとユー、笑うな」

「ぬう、お前達は……」

 頭を抱えるフィナンシェの肩に、ユーはそっと手を置く。

 と、ばつが悪そうな子をした彼女がユーへ振り向いた。

「まあ、これからも連絡を取り合って何とかするしかないね。ELFのローク派の連中が街に出てきたら、徹底して動きをマークするしかない。フィナンシェ」

「ん、そちらは任せろ。情報操作とハッキングは私の専門分野だ」

「なんだったら、ユーリの代わりにフィナンシェも現場に出てみるかい?」

 ノワールが冗談めいた風に言うと、フィナンシェはやれやれと肩をすくめる。

 そういえば、フィナンシェも元スナイパーだとノワールが言っていた。

「よしてくれ、五年以上もブランクがあるし全盛期でもユーリには及ばんよ。それに、ここでこうして人をこき使うのはなかなか楽しいしな、もう現場には戻らん」

「相変わらず性格は最悪だねフィナンシェは。とまあそういう事だ、ユーリもユーも頑張って。何かあったら僕も協力するよ」

「ノワが言ってくれると頼もしいね。その時が来たらお願いするよ」

 恐らく、個人レベルでノワールに対抗できる人間はこの世界に存在しない。

 そんな彼が言ってくれるのだから、これ以上の言葉は無いだろう。

 もっとも、彼は中央情報室の戦力の一つだし、早期に彼やこっちで保有している部隊を世間の目に晒すことができないので呼ぶのは相当後になるが。

 それまでは何とかユーとユーリでしのぐしかない。

 少女一人を期限まで守る簡単な任務、のはずだったのだがやはりそううまく事は運んでくれないらしい。

 どちらにせよ、今はとにかく悠奈を守り切らねばならない。

「それじゃあ、また何かあったらサポート頼むよ」

「ん、ユーもユーリも怪我の無いようにな」

「うん」

「善処はしよう」

 言って、ユーはユーリを連れ情報室を後にする。

 再び戻ってきた、静かすぎる質素な廊下。ここに来るとどうしても、なにもなさ過ぎてつまらないことばかり考えてしまう。

 それを察してか、隣にいたユーリが口を開いた。

「ふう、また一人か。やれやれだよまったく。……とはいえユー、ロークには恐らくもう私というカードは通じん。私とて万能ではないのだ、あまり過信するなよ」

「……分かってるさ。でもまだ……まだ手札は残ってる」

 失敗するわけにはいかない。

 だからこそ、全てを賭ける必要がある。多少の犠牲を払ってでも、やり遂げなければならないのだ。

 エデンを、人を救うために――

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