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CODE:Ultimate  作者: 天宮 悠
1章
11/53

Chapter11「初動Ⅳ」

 ホームルームの時間を知らせるチャイムと、それが鳴り響いたのはほぼ同時だった。

 音源は駐車場の方だろうか、聞きなれない炸裂音が連続で鳴り悠奈の教室、いや、学校中に響き渡った。

 誰もがその音を聞き逃すことは無く、それまで教室内を支配していた喧噪もまるでミュートのボタンを押したかのようにぴたりと止まりクラスの皆が窓の外を見つめていた。

「銃声? いえ……そんな、まさか」

 秋奈が横で物騒なことを言っていたが、とりあえず悠奈も窓を開け身を乗り出しなにが起こったかを確認――

 したいところなのだが、駐車場方面は樹木が多く視界は遮られほとんど見えないと言っていい。これは直接向かう意外に何が起こっているのかを確認する術はないだろう。

 教員室からなら学校中に設置された監視カメラの映像を見れるはずだし、そのうち校内放送で教員が伝えてくれるかもしれない。

「んにゃ? なんか違う音も交じってるっぽいね」

「アンタよく聞き取れるわね。私にはそんなに……あ、止まった」

 連続した炸裂音の他にも、金属を打つような音や同じ炸裂音でも妙に重く感じるものが混じって聞こえた。

 その重い音が聞こえた後すぐに音は止みその後も断続的に銃声らしい何かの音は聞こえたが、また別の乾いた音が連続で響いたのを最後にして完全に音は止んだ。

「今の音、なんでしょうね? やっぱり銃声みたいでしたけど」

 秋奈は、クロエと悠奈にだけ聞こえるくらいに音量を絞り、声を出した。余計な混乱を引き起こさないための配慮だろうか。

「うへーちょっと待ってよ。マジで誘拐とかありえんの?」

「私も昨日されかけたから、あながち無いとも言い切れないねー」

「ちょ、初耳だぞそれ。昨日アンタに何が――」

 クロエが驚いたような顔をしたその時、教室のドアが乱暴に開け放たれた。

 先生でも来たのかと思ったが、悠奈が振り返りドアに立つものを見た瞬間、それが間違いだったことを理解する。

 男が二人、この学校の生徒と思われる女の子を拘束しながら気味の悪い笑みを浮かべ並んで立っている。

 薄汚れた衣服を身に纏った、いかにもな悪役風の男達。悠奈は最近、彼らのような風貌の者達を見た。そう、あの場所――エリアDで。

「さぁて、こん中にロークさんが言ってた奴がいるんだよな」

 この場の全員の視線が男達に集中する。

 誰かが叫び声をあげる前に、女の子を拘束している男が拳銃を懐から取り出し彼女の頭に銃口を突きつけた。

 捕まった女生徒の顔がみるみる青くなり、恐怖で染まりきった瞳で周囲に助けを乞う視線を送る。 

「おっと、全員そのまま動くんじゃねぇ。ちょっとでも口を開きやがったら、こいつの頭が風船みてーに弾け飛んじまうぜ」

 言って、男はいやらしい笑みを浮かべながら銃口で女の子の頭を何度も小突く。

 女の子は誰の助けも入らない状況に目にいっぱいの涙をためて、ただ床を濡らすことしかできなくなっていた。

 ふと、そんな女の子と悠奈は目が合う。

 さすがにこんな場面、こんな状況で自分を顧みずに女の子を助けるようとする奴は、余程ヒーロー願望が強いか馬鹿かのどちらかだろう。

 どのみちたかが学生にどうにかできるものではないし、下手をすれば余計に事態を悪化させてしまうだけ。 

 ――そんなことは分かっている。

 だからこそ、この場面で前に出た悠奈を見てクロエが驚愕しながらも悠奈の腕を掴み止めようとするのも分かる。

 けど――

「ちょっと馬鹿、アンタ――」

「離して……」

 強引にクロエの腕を振り払うと、悠奈は男達の前に出る。

 何か打開策があるというわけでもない。でも、悠奈が危険な目に合えばもしかしたら――

「おいおいなんだよ? 俺今動くなっつったよなぁ?」

 もう一方の男が、目に見えて怒りをあらわにすると悠奈の方へ向かってきた。

 そのままその男も拳銃を取り出すと、悠奈の額に銃口を押しあてる。

「その子……泣いてます。離してあげて。私が代わりになるから」

「なんだこいつ……っち」

 真っ直ぐに悠奈は男と視線を合わせ、そのまま逸らすことなく見据えた。

 もちろん、怖い。この男が引き金を引けば、それで悠奈は終わる。玩具でした、なんていうオチはまずありえない。

 額に、ひんやりとした鉄の感触。命を奪う武器の冷たさを感じる。悠奈の心を折ろうと、少しずつ圧迫感を与えながら心を削っていく。

 膝が折れてしまわないようにしっかりとと力を込めて、この数秒間だけでいいからと身体に無理を言って目の前の男を睨みつける。

 すると、悠奈が折れるよりも先に気圧されたかのように男が顔を背けながら若干身を引き、それを狙ったかのように秋奈が悠奈の横に立つ。

「そこで……止まってください。武器を置いて、その子を解放して」

 いつの間にか、秋奈の手には小さな拳銃が握られていた。

 それを構えながら、彼女はゆっくりと移動し途中片腕で悠奈に下がっていろと伝えるジェスチャーをしながら庇うように男達の正面へ。 

 両手でしっかりと拳銃を構え直すと、秋奈の指がトリガーに触れた。

「護衛はまだ居ねーんじゃなかったのかよ……まあいいか、ガキ一人ならいねぇのと同じだ」

「おいおいブルってんぜ? 撃ったことあんのか? 俺が教えてやろうか? へへっ」

 秋奈が銃を向けているにもかかわらず、男達は余裕を見せている。

 数で勝り、人質もいるこの優位な状況では無理もないだろう。

 加えて、秋奈の構えた拳銃の銃口はさっきからはっきり分かるほど上下している。

 大きさ的にもそれほど重い銃ではないはずだし、男達の言う通り秋奈が震えているということなのだろうか。

「武器を……捨ててください」

 秋奈が必死に声を振り絞る中、男達は互いに顔を見合わせ鼻で笑った。

 この状況を打開することなど不可能。だから大人しくしていろ、と。

 自分の運命を悟ったかのように、人質の女の子の目に溢れた涙が頬を伝い床にぽたりと落ちた。

 力もなく、何もできないのがこんなに辛いことだとは思いもしなかった。

 ただユー達の力にすがり、歳も同じくらいの秋奈の小さな体の後ろに隠れ彼女に守られることしかできない自分に怒りが込み上げてくる。

 こんな、たかが素人二人。武器も拳銃だけしか持っていないような奴ら。こんなの悠奈にとって――


 そう――『私なら――すことが出来る。――である私なら。こんなただの人間ごときに――』


「……っ!?」

 唐突に頭に浮かんだ言葉に悠奈は片手で頭を押さえ、よろめく。

 所々まるでノイズがかかったように認識できない部分もあったが、確実に今悠奈の中の何かが反応した。

 これでも自分の力量はちゃんと理解しているはずだ。だから今のは悠奈ではない。絶対に違う。

 でも、今のは紛れもなく自分の中から出てきた感情だ。


 私は――だから。


 再びノイズが頭に走る。

 呼吸が上手くできない。思考がかき乱される。まるで自分の中の何かが上書きされていくような感覚。

 胸が苦しい。ふらふらする。なのに、なのになんで――

「お、おい悠奈?」

 突然ポケットからペンを取り出し、それを本来の用途とは違う逆手持ちに切り替え歩き出す悠奈にクロエは驚愕する。

 あまりの展開にクロエも今度は手が出なかった。ただ事の成り行きを見守るだけ。

「ひ……て、てめぇ動くなっつったろうが!」

 恐れることなく近づいてくる悠奈に男が怯え、銃を悠奈に向ける――と、それよりも先に秋奈の銃が弾丸を放った。

 思ったよりも軽い音。だが今の悠奈の頭には、まるで反響するかのように頭の中を掻き回すかのように銃声が鳴り響いた。

 音は、四回ほど鳴っただろうか。それから教室は再び静けさを取り戻した。

「……何?」

 悠奈は天井を見上げる。

 秋奈の放った銃声に合わせて何かが悠奈の上を通り過ぎて行ったような気がしたから。

 まあそれはいい。今の悠奈は情報の処理に時間がかかっているため今一認識できていないが、とにかく終わったようだ。

「う……ぐあああああ!」

 男は崩れ落ち膝を床に付けると、銃を持っていた方の手を押さえうずくまる。

 秋奈の放った弾丸はちゃんと男に命中していたようだ。とても悠奈の目にはそうは見えなかったが、事実こうして男は負傷しているのだから当たったのだろう。

 男の背後の壁に、弾痕が五つ。銃声と数が合わないが、悠奈の聞き間違いかもしれないのでさして気にすることでもない。

「え? あた……た? え、あ、嘘……こんなに威力は無いはず」

 秋奈は秋奈で、男の傷の具合を見て戦慄している。

 これまでの態度を見るに、たぶん人を撃ったのは初めてなのだろうし無理もないだろう。

 男の持っていた銃は、秋奈の放った弾丸で握っていた手ごとはじけ飛んでいた。

 かろうじて指らしき残骸が悠奈の目の前まで飛んでくる。気持ち悪いので悠奈はそれをゴミのようにつま先で蹴ると、ころころと教室の隅まで転がっていった。

 まだもう一人いる。悠奈はそちらに視線を向けた。

「ひぃ……く、くそ! 来い!」

「いやぁ! 離して! 離してぇ!」

 突然悪魔か何かでも見たように怖気づいた男は、そのまま捕えた女を引き連れ教室を出て屋上へと続く階段がある方へと走り去っていった。

 それと入れ違いに、ユーが教室に入ってくる。

「……悠奈ちゃん!」

 ユーはさっと教室を見渡し悠奈を発見すると、うずくまる男を警戒しながら歩み寄り悠奈の身体に傷が無いか確かめるように下から上へと視線を這わせた。

「大丈夫……じゃなさそうだね。怪我はしてなさそうだけど……って、本当に大丈夫?」

「……ええ」

 悠奈は簡単に返すと、男の去って行った方向に視線を向ける。

 と、そっちに向け指を指した。ユーがそれに首を傾げる。

「悠奈……ちゃん?」

「あっち……男が人質を連れてった。たぶん……屋上」

 ユーが怪訝な顔をしながらも、悠奈の言わんとしていることを理解するとすぐにいつもの顔に戻した。

「分かった。あとは俺に任せて。悠奈ちゃんは休んでていいからね」

「……うん」

 悠奈はユーを一瞥すると、その辺にあった椅子に腰かけた。

 すると、

「あ、私も行きます!」

 秋奈がユーについていこうとする。

 だがそれにユーは顔をしかめると――先に悠奈が口を開く。

「ここにいた方がいい。まだ安全じゃない。護衛は必要」

「あ……」

 秋奈ははっとした顔を作ると、ユーに所に行きかけた足を止めクロエの傍に戻る。

 それを確認すると、今度こそユーは教室の外へと消えていった。

 ユーが去ったのを皮切りに、教室で様々な声が湧き上がる。

 恐怖に泣き叫ぶ者、目の前の惨状に目を逸らし教室の外に出ていこうとする者。そして、悠奈を見据えるものが一人。

「こらアンタ。あっぶないなーもう。つーかどーしたのよ? こういうキャラだっけアンタ?」

 クロエの言葉を聞き流し、悠奈は外を見つめた。クロエの、そして生徒達の声は悠奈の耳には届かない。

 確か、悠奈の上を通り過ぎて行った飛翔体は方向からしてあの辺から飛んできたはずだ。

 悠奈はそちらの方が気になっていた。



「む? いや馬鹿な……」

 急に視線を感じ、銃を抱きかかえると傍らの柵に身を隠す。

 彼女――いや、彼だったか。彼から聞いていた情報ではスペックだけなら自分にも匹敵するとは聞いていたが、だからといって二キロ近く離れたこの場所にいるのが見えるはずがない。

 状況が状況だけに監視ではなく直接手を下してしまったが、あの反応からすると銃弾が見えていたのだろうか。

 だとすれば、体の性能はほとんどこちらと変わりないレベルでもう機能していることになる。でなければ銃弾を知覚できるはずもない。

「やれやれ……まあばれたとしても別に問題は無いのだろうが」

 ふう、と息を吐きながら頭だけ出して学校を確認。

 常に無線機のスイッチを入れ会話を聞いている。確か屋上に向かったと言っていた。

 手早く位置を変えると再び銃を構え、今度は屋上の方へと銃口を向ける。

 本当に目が離せない子だ。いちいち危なっかしい。いったい本当の護衛対象は誰なのか。

「ふふ……まあそんなところが可愛いのだがね」

 ふと笑みを零しながら――は再びスコープを覗き込んだ。



 せっかく悠奈の元へとたどり着いたのにまた移動しなければならないことに面倒さを感じつつも、ユーは屋上へと続く階段を上る。

 とはいえ気になることもあるし、後顧の憂いを立つ意味でも自分の目で確認したほうがよさそうだ。

「……ここかな」

 屋上への扉は乱暴に開け放たれていた。恐らくここは普段解放されていないのだろう。

 窓は解放厳禁の張り紙と共に黒く塗りつぶされ、電子ロックまでついている。

 テロリストは余程慌てていたのだろうか、電子ロックを壊してまでこの扉をくぐったようだ。

 無理にこじ開ければすぐに警備部隊か保安部隊に連絡が行くようになっている事は彼らでも十分わかっているはずなのだが。

『ユー。あの子は大丈夫そうだし、私もそちらの援護をした方がいいかい?』

 ふと、イヤホンから抑揚のない口調の女性の声が聞こえた。

 彼女には悠奈達のいる教室の監視を頼んでおいたのだが、まあどうせ何事もないだろうしこっちの支援をしてくれたらそれはそれでありがたい話ではある。

 ユーは扉をくぐろうとしたところで一度動きを止め、襟を引っ張りマイクを口に近づける。

「お願いできるかな? 出来れば君の援護があると嬉しい」

『了解だ。扉周辺に敵影なし。あとは……奥の柵に二人だが、一人は人質か何かかね?』

「らしいね。まあ必要になった時は合図するから、頼むよ」

 了解、と通信の相手は短く言って切ると、ユーも屋上へと歩を進める。

 一歩屋上へ踏み出すと、これまで遮ってくれていた壁が無くなり吹き荒れる強風がユーを襲う。さすがに屋上ともなれば風もそこそこ強い。

 乱れる髪を押さえながら、ユーは屋上を見渡す。すると、一番奥の柵の辺りで携帯電話に向け怒鳴りつけている男を見つけた。

 その男の腕に拘束されているのは、この学校の生徒と思われる女の子。

 ユーはゆっくりと男の方へと近づき、

「やあ」

 まるで待ち合わせをしていた友人に挨拶でもするかのような口調で声をかける。

 余程焦っていたのか、それまでユーの接近に気づいていなかった男はびくん、と体を震わせ携帯を取り落す。

「な!? く、くそぉ!」

 相当切羽詰っていたのか、慌てて男は握っていた拳銃を女の子の頭に向ける。

 距離にすればほんの五メートルほどだが、さすがにこの距離を走って銃を奪うよりは男がトリガーを引く方が早い。

 テロリストがいくら死のうがかまわないが、民間人、それも子供の死体がここに転がるのだけは避けねばならないだろう。

 更に、状況はあまりよろしくない方へと進んでいる。

 男がユーに集中しすぎて、腕に力を込めすぎているのか女の子が首を絞められる形になり、苦しそうに涙を流しながらこちらに手を伸ばしてくる。これでは、刺激するのもこれ以上時間をかけるのもまずい。

「来るんじゃねぇ……来るんじゃねぇよ! 撃つぞ! 撃つぞぉ!」

 もうまともに思考を働かせることも出来ないらしい。ユーはそれに深くため息をつく。

「子供を誘拐するだけの簡単な仕事だとでも思ったのかい? 考えが甘すぎるよ。ただでさえここ(エデン)では事件を何度も起こせるもんじゃないってのに。だから、やるからには相応の用意と覚悟が必要なんだよ」

「んだと?」

 聞き返してくる男に、ユーは少しだけ舌を出しながらまるで幼い少女のように悪戯っぽく笑うと、指先で側頭部を軽くつつき、

「一度でもやると決めたなら、自分の頭が吹き飛ばされても構わないっていう覚悟さ」

 ユーの態度と言葉に男はそれを挑発と受け取ったのか、銃口をユーへと向ける。

「ぶっ殺してやる! クソアマが!」

 男の指が握る銃のトリガーにかかったその時、

「撃て」

 ユーが静かに、そう呟いた。

「撃ってやる! 撃ってやるぞ畜生!」

 男がトリガーを完全に引ききる前に、まるで男の行為が全て無駄で、滑稽だと嘲笑するかのようにユーはくすりと笑う。そして――

「君に言ったんじゃあないよ」

「……あ?」

 男がそれを理解するよりも早く、どこからともなく飛んできた弾丸が男の頭を撃ち抜いた。

 銃弾は男の頭部を破砕しながら進み、貫通して後頭部に大穴を開ける。が、それでも勢いは止まらず、後ろの柵に男の血で赤い模様を描きながら着弾し小さな穴をあけた。

「きゃ!」

「おっと……大丈夫?」

 倒れる男の身体に押され、女の子が前のめりに倒れかける。ユーは女の子の身体をキャッチし、抱きしめるようにして少女の顔を自分の胸に寄せる。

 別に可愛そうだからとかではなく、頭からいろいろと飛び出ている男の死体を見て騒がれるのも面倒だから、というのが理由だが。

「後ろは見ない方がいい。このまま振り返らず教室に戻るんだ、いいね?」

「え? ぁ……はい」

 ユーは女の子の目を手で覆いながら、身体を扉の方へ向き直らせる。

 不思議そうな顔をしていたが、女の子もちゃんと言った事を守りユーの方を振り返ることなく足早に階下に降りて行った。

 これで、屋上には二人と一人の死体だけ。

 そう、ここにはもう一人ずっと息を潜めている者がいる。事の成り行きを観察していた者が。

「ローク、出てきたらどうだ。いるんだろ!」

 ユーが叫ぶと、階段へ続く扉の上に設置してある給水タンクの裏から小馬鹿にするような笑い声が聞こえた。

「ははっ、機械頼りのお前さんにしちゃ勘がいい。見てくれは変わらずとも中身はそれなりに成長したか? ユー」

「そっちは相変わらずくだらないことばっかりやってるようじゃないか。無駄な死人まで出して何してんのさ」

「っけ、道を外れた奴は徹底して見下すその性格は治っちゃいねぇか」

 ロークは四十代とは思えない身のこなしで、ユーの言葉を気にすることもなくタンクから降りてくる。

 彼は、ローク・アーバイン。ELF――Eden Liberation(エデン解放戦線) Frontと呼ばれるエリアDを活動拠点とするテロリストのメンバーであり、元中央情報室の工作員でもある。ユーと顔見知りなのはそのせいだ。

「ここに攻め込んだ奴らが練度の割にエデンの監視を抜けてきたり、このタイミングで仕掛けてくるあたりあなたが関与してるのはすぐに分かった。どういうつもりだ」

「どういう? んなこたぁきまってら。鍵を手にいれ、マザーを落としてこのクソみてぇな機械に管理された社会をぶっ潰す。お前さんが動いてるんだ、デマじゃねぇんだろ?」

「…………」

「だんまりか。まあいいさ、お前がここにいるのが何よりの証拠だ。ユーリまで連れてるならなおのことな」

 まるで見透かしたかのように、へらへらと笑いながらロークは言う。

 ここで撃ってもいいのだがこの男の事だ、何か学校に小細工でもされていて教室が吹き飛んだなどという事態になってもおかしくはないし、それはこちらがまずい。用心する意味でも今は手出しはできない。

「汚いものは徹底して排除し、綺麗な奴らだけが残る。俺はそんなくだらねぇ決まりが嫌であそこ(中央情報室)を抜けたんだ。エデンの住民達、その全ての情報を余すとこなくナノマシンで管理だ? プライバシーも何もねぇ、なのに民衆はそれを当たり前のように受け入れてやがる。気味が悪いぜ」

「そのおかげで犯罪は減っているし、未然に防ぐこともできる。これで市民だって犯罪者の危険に怯えるような事はない。それの何がおかしいって言うんだ」

「どんな軽い罪でも、犯罪者のレッテル貼って迫害してる連中がいるからな! 厄介なものは排除され、管理局にとって都合のいい連中だけが生き残れる社会! それに何の疑問も抱かないのか?」

 まるで演説でもするかのように、ロークは両手を広げて叫ぶ。

 もうこの男は、心根から完全にELFの思想に染まってしまっているのかもしれない。

「悪人が咎められるのは当たり前のことだろう!」

「っは! 選民思想に支配されたような奴に言っても時間の無駄か。やっぱり変わらねぇなぁ? お前も、あそこ(中央情報室)も。まあいいさ、とりあえず今日は三年前と同じでお前ら管理局の一歩先を行ってやった。それだけでも十分だ。じゃあな、また会おうや」

 ロークは大げさに両手を広げると、やれやれと言うようなジェスチャーをする。

 それでユーに興味を失ったのか、ロークは背中を見せると階段の方へ身体を向けた。

「待て、あなたにはまだ――」

「お前の考えが変わらん限り、今俺が話すことはもうねぇよ。今の管理局の在り方を、中身が詰まりすぎたその頭でよぉーく考えてみるんだな」

 言いながら、ロークは扉に手をかけ走り出そうとする。

 そこをユーも追いかけるが一歩遅く、扉が閉められ――

 大きく開かれて、見えなかった扉の反対側。黒塗りの窓に張り付けられていた物がユーの視界に入った瞬間、イヤホンから叫ぶような声が聞こえた。

『逃げろ、ユー!』

 直後、屋上には空気を震わせる重い爆発音。

 そして、対人地雷クレイモアから放たれた七百発の鉄球が凄まじい土煙を巻き起こし、屋上の風景を一瞬で蜂の巣のように変えた。

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