表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/36

第参拾壱話 流転、牙を向いた潮流

隠された時代(ハイデンヒストリー)》  鎌倉市中(いちなか)


 濃霧が視界を遮る市中で、夜叉丸は骸鬼と交戦していた。


 気圧を変動させ骸鬼の体内膨張を誘発させるも、夜叉丸の計算した通りの損傷を与えることは出来なかった。


 それは、何故か。


「糞が……! あの女、とんでもない仕組みを!」


 膨張した腹部を夜叉丸は確かに大刀で突いた。その力は鎌倉の大仏を一撃で灰塵とすることができる威力を有していた。


 問題は裂けた骸鬼の腹から出てきたのは、バリアブルバブルの青い光ではなく、真っ赤な血と大きな臓物。


 それどころか、内蔵を剥き出しにした傷口は、見る見るうちに流血を止め、皮膚が傷口を覆い隠していった。


『傷が癒えていく……!』

「再生機能だ。あの尼は大本となっている人間の脳に異常な情報を叩き込んだ。元々人間の持っている治癒能力を暴走させるように……」

『いつものように、力の源を抜き去ることができないということですか?』

「蒼雪が血肉と化しているのなら、できるのが条理。だが、こいつは……違う!」


 何度も何度も攻撃を繰り返したが、結果は同じ。そしてまた骸鬼の傷が、完治した。夜叉丸は再び太刀を構える。


 飛ばされた兜の下から現れた骸鬼の素顔に、周囲で戦っていた武士は悲鳴を上げた。


 血の滲んだ包帯に顔半分が隠され、凝固した血液と新しい血液が満遍なく、その包帯にこびれついている。再生機能を有していながら、絶えず血を流し続けている傷口があると言うのか。


 しかし、骸鬼はそれ以上の分析を許さない。振り上げられた大鉈が夜叉丸の頭上へ叩き落とされた。

予測通りの軌道、夜叉丸はこれを回避し、再び攻撃に臨む。家屋を破壊し、瓦礫に埋もれた骸鬼の腕を渡り、背後に回った。


「もらった!」


 首から肩を斜めに斬り裂く。それを狙って肩に登った夜叉丸は踏み込んだ。


 だが、その時、骸鬼が地面から大鉈を勢いよく引き抜いた。


「なっ――!?」


 恐るべき速度。引き抜いた反動を利用した骸鬼の大鉈が夜叉丸を狙う。彼は咄嗟に太刀で防御するが、あまりの力に宙に弾かれた。


 しなる神刀、着地の衝撃で抉れる地面。どれをとっても、今まで餓鬼とは比べ物にならない実力――


「なるほど……!」


 土埃の中、夜叉丸は怒りの声で呟いた。


「その反応速度……五感を潰して、人の魂に反応できるよう弄られたみたいだな。潰れた目からまだ出血があるのは、そこだけ再生が追いつかないほど強い力に晒されているということだッ!」


 青い光を纏い、隠し持っていた屋根瓦の破片を、夜叉丸は骸鬼の出血箇所目掛けて投げた。意識の具現化によって生まれた細い真空の道を、破片が真っ直ぐ突き進む。


 だが、骸鬼の顔面を射る前に破片は閃光を帯びて弾け、稲妻に打たれた如く粉々に消え去った。

そして、夜叉丸は確信した。


「やはりな……お前は脳みそを二つ持っている。六生に造られた核がな!」


 突破口を見つけた。しかし、そこを突き破るには通常の倍以上の力がいる。


 攻撃の手をさらに強めることは可能だ。だがその代わり、周囲に巡らせた結界の力を弱めなくてはならない。その代償に餓鬼は今よりも行動範囲を広め、犠牲者は増える一方になろう。


 だが、やるしかないのだ。先に餓鬼を潰している時間もない。その間にこの骸鬼が暴れまわり、六生の合流を許すことになってしまうのだから。


「――六生? おかしい、鶴岡の方角だ!」


 間違いなく、気配は鶴岡八幡宮の内部から発せられた。たった一瞬だったが、それは身を凍りつかせる事実、妃子や虎次郎達に害が及んだ可能性を意味しているのだ。


 その時、骸鬼がこちらに突進してきた。


『夜叉丸!』

「くっそォォォォォォッ!」


 苛立ちと焦燥。骸鬼の突進を鋼鉄のような空気の壁で夜叉丸は迎え撃つ。


 大砲のような音を上げて、空気の塊が超高速で骸鬼の図体を殴打した。吹き荒れる気流、倒壊する家屋。激突するエネルギーの中心で、骸鬼の身体はズタズタに引き裂かれていく。


 だが、屈辱にも同等の速度で再生も繰り返されていた。


 猛烈な勢いで前進しようとする骸鬼を夜叉丸は全身全霊を以って、押し返す。


 ――何が神だ。肝心な時に何も出来ない。


 初めて味わわされた無力感に、夜叉丸は激しく業を煮やした。


 だが、六生の気配が明確になって数秒後、それを追うように新たに別の気配が強くなった。それが虎次郎だと気づくと、彼は突如、空気の壁を消し去った。


 力の均衡を失った骸鬼は凄まじい音と土埃を立てて盛大に転がった。すかさず夜叉丸は背後から大刀を突き刺し、細胞の分解を指示したバリアブルバブルを一気に流し込む。


「……あいつ!」


 大刀の青い光に照らされた小面は、心なしか嬉しそうに見えた。

 

 


 想像以上に夜叉丸が暴れているらしい。激しい磁場の乱れが彼女の体を形成するバリアブルバブルに多大な影響をもたらしていた。力が低下している今、ダイバースーツの圧力が安定せず、息苦しさに似た感覚が蝕んでいた。


「くそ……! 何でよ! 何でこんなに……!」


 計算外の事態だ。骸鬼を生み出すために使いすぎた魂の力が回復できずにいる。主に原因は結界内で強大な力を使用してしまったために、エネルギーの消費量が跳ね上がっていることにあった。


 背後の虎次郎の気配が強くなる。


 彼女は焦った。彼は自分を上回るスピード迫っている。この磁場の乱れに影響を受けずに済んでいるのは、恐らく現代からの支えがあるため。


 自分を狩ろうとしている奴らが――


「許さない……! 負けない、あいつらなんかに! 私は消えない……この手であいつに復讐するまでは!」


 涙ぐんだ声だった。しかし、もはや彼女の頬を涙が伝うことはない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ