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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

キス距離シリーズ

愛情テレパシー

作者: 祈緒


 みんな、いつの間にそれを覚えたのだろう。

 「恋」や「愛」を歌う歌は沢山あるけれど、意味は理解できても、その深い部分は理解できない。「恋」や「愛」の違いなんて、俺にはわからない。

 だけど、みんな知らない間にそれを覚えてきて、気軽にそれを口にしている。多分、俺も。

 いつの間にかそれを知っていて、よくわからないまま恋しいと口にしてる。


 時刻は午後一時を少し過ぎた辺り。約束の時間は午後一時三十分。映画館前で集合。今月から上演される泣けると話題の映画を観ようと昨日の放課後に約束をしたんだ。

 多分、間に合う。俺は黒いタートルネックのシャツに同じく黒のダウンジャケットを羽織り、外に出る。十二月の気候は俺が思った以上に寒い。去年なら映画を観るためだけになんて外に出ようとも思わなかった。着込んできてもやっぱり寒かった。吐いた息は白く寒空に消えていく。

 街に出ると、これまた思った以上の人が今日も行き交い、俺はその人の波に呑まれる。

 街は様々な建物に様々な人、たくさんの色や音に溢れている。けれど、俺にはそれらはあまり目につかない、意識していないからだ。すれ違った人がどんな顔をしていたのかなんて、すれ違ったら、すぐに忘れる。相手も当然俺を忘れているだろう。

 これがいつもの日常なんだけど、それはどこか「恋」だとか「愛」に似ている気がした。知らない間に心に湧いてきて、知らない間に消えていく。すれ違ったら忘れる人の顔のように。確かにそこにあったのに、消えてしまう感情。でも確かにそこにあった感情。意識していないだけで、確かにそこにある筈のーー

「こんな所に居たの? 探しちゃったよ」

 その声に俺はハッとした。俺の目には、周りの景色なんてぼんやりとしか映らないのに、その姿だけははっきりと映る。手をかけていない触り心地の良さそうな黒髪に、あどけない目。人懐っこくて、よく笑うその姿は犬を連想させる。

 以前、「犬みたいだ」と本人に言ったら、「なら、涼人は猫だね」といって笑った俺の恋人。

「優也、……約束の場所、ここだっけ?」

「違うよ、でも涼人が電話に出ないから、心配になって探しに来ちゃった」

「携帯、電源切ってある」

「また切っちゃったの? 持ってる意味ないじゃん」

「うん。携帯が無くても多分、優也なら俺を見付けられるし、俺も優也を見付けられる」

 優也は「テレパシー?」と言って笑った。そうかもしれない。景色はとっくに俺の興味から消えてぼやけ、俺の世界には優也しか居ない。いや、見たくないんだ。恋は盲目という言葉があるが、こういう事なのだろうか。

 心、場所で言えば心臓辺りが甘く痛む、決して嫌ではない心地の良い痛み。これが、「恋」だとか「愛」だとかいう感情なんだろうか。誰に教えられた訳じゃないが、俺は確かにそう思うし、もし違うなら、俺は一生「恋」とか「愛」に無縁の人生を送るだろう。

 優也に手を握られはぐれないように歩く。先程まで身体の芯まで冷えていたが、今はなんだか暖かく感じる。ゆっくりゆっくり溶かされて俺の本当の部分が現れていくようだ。

「今日は随分、人が多いな」

「新しいショッピングモールが出来たからだよ」

「そっか、だから沢山人が居るんだ」

 凄いと思った。沢山人が居るのに、俺は優也にだけにこんな気持ちを抱いているのだから。

 誰に教えられなくても、俺はゆうやを好きになる。

 「恋」と「愛」の違いはわからなくて良い。結局、俺がそうだと思えばそうで、誰かに否定されても肯定されても、変わらない。わかりきった事だったが、改めて確信する。偶然出会ったあの日からここにずっとそれは確かにあったのだ。

「好き」

「ん、なんか言った?」

「言ったよ、今優也に告白した」

「本当?」

「本当だよ」

「じゃあ、返事する」

「……」

 そう言って、優也は黙ってしまった。代わりに手を強く握られる。

「今、言ったよ」

「聞こえない」

「涼人ならわかるよ」

「テレパシー?」

「それ、さっき俺が言った」

 優也が笑う。俺もつられて笑う。言葉は聞けなかったが、伝わった気がした。

 この距離だから届く。俺達の「愛情テレパシー」

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