神などいない(34)
動けぬシレイス…
愕然とするディエマ。
アゼク村は湖底にある。
村を覆っていた魔力で作られたバリアを爆発させてしまった。
自分の手で…
今頃みんな…
あまりの悔しさに、涙を浮かべるディエマ…
「シドも同じ顔をしてたぜ…毎回、ざまあみろだったが、今回は格別だ…なんたって、悔しがらせる相手が二人もいるんだからなぁ?」
水の化け物の勝ち誇ったような声を聴きながら思う。
この憎たらしい化け物は、
「もうすぐ爆発するぜ」
と言った…はず?
だが、そんな気配は湖面には微塵も感じられない。
そうだ…!!!
「も、もうばく…はつ…しても…いい、ころ…では?」
希望にすがるシレイス。
「そ、そうだ!!しっぱ…」
ディエマもそれに同調するが…
「ばあか、この湖の広さを見ろ、神殺しの奴に邪魔されんように一番深いところに沈めてるんだ…わからんさ…現に、貴様が水面で起こした水蒸気爆発でだって、村は見えなかったろ?」
神獣イフリートとなったシレイスをあざ笑う魔人の声が響くだけだった。
「なんで、レナンは…あの球…弱点…なんて…」
「ガキは毎回、いい仕事してくれるぜ!!あいつがそう信じるように持っていくのも簡単だしな…ガキがウソ情報を信じて、シドに伝えようとした瞬間、慌てたように、俺がガキを攻撃する、怒りに狂ったシドは、必死に戦い、負けそうになっても、ガキの言葉を信じ、希望をもって、死に物狂いで、ウソっぱちの弱点を攻撃…でも俺は死なねぇ!!村人も全滅…あの、驚いた間抜け面ってばよぉお!!さすが村のリーダー!!今のお前らより、間抜けで、最高の表情をするんだぜぇ?」
「この…」
立ち上がろうとするディエマ…
だが、立てない…
「くそ…」
ここまでか…
無念の表情…
「むあ!!!!!!!」
願うような声をあげる神獣姿のシレイス…
力込めるが、どんなに願っても、回復しない体…
せっかく、手にした能力…
何やってんだ俺は…
悔しがる二人を見てニヤニヤが止まらないクウォリッグス。
「さあてっと、お前らもういらねえからよ。沈んでみんなのとこ行って詫びて来いよ。間抜けな自分たちのせいで、殺してしまってすいませんってよぉ…」
言いながら、膨らむ湖面。
水でできた巨大な手を伸ばすクウォリッグス。
掴まれるのに抵抗できない二人…
もやが覆っていく…
凍らされ、湖底に沈められたハージンとレナンの姿がフラッシュバックする。
そんな二人の脳裏に、またあの言葉が響く。
今度こそ死なせない!!!
「え??」
二人同時に声が出る。
過去の記憶なんかじゃなく、それは今、ここで響いたものだった…
声のした方向を見やると、
「ハージン!!!!」
光に包まれたハージンが居た。
「なんだと…凍らせたうえで、湖の底に沈めたんだぞ…こんなにも長い時間を生きていられる訳が…」
驚きのあまり、二人を放すクウォリッグス。
「氷は水に沈まない…特に、大きな氷はな…」
「や、やっぱりワザとか…」
???
気づいていたシレイスとは対照的に、顔をしかめるクウォリッグス。
「抜け出した後の氷が浮いていくのがバレないようにするのは骨が折れた。今後騙されないようにおぼえておくといいと言いたいところだが、もう、闘う事もないだろう…お前との闘いは今日で終わりだ…」
「くっ、終わるだと?お前、本気で…」
真っすぐ見返す目に、迷いはない。
そんなハージンに、おびえる様な表情を見せるクウォリッグス。
「あの方に敵う訳ないだろ!!!あの方は創造主だぞ!!」
「神なら殺した…それに、あいつは神じゃない…」
記憶が戻った?
何についての事かわからないが、そう錯覚するほど明確に答えるハージン。
「負の連鎖は終わらせる…」
「ふん、終わるものか…今回もアゼク村は全滅したんだ」
「してない…」
「あ?」
理解できない化け物の目に、信じられない光景が現れる。
オリオストの雲が目立つ方の広場で、ジョーに、アベナとカル、キンデとシャムゥ他、祈るような村人たちが見ていた。
レナンとバードも居る!!
「馬鹿な…村は湖に…奴らは氷の中で死を待って…が、ガキは凍らせた時点で死んだはず…」
わななくクウォリッグス。
「魔導爆弾だぞ…一瞬にして広範囲の物を消し飛ばす。村といえど、あの広さから全員を守るなど、不可能だ…」
「出来るさ。貴様が村を移動させるのに使った装置のある場所は前の闘いで学習済みだからな…」
その装置とやらを使って村人たちを救っているあいだ、ディエマ達が時間稼ぎをしていたという訳だ。
「ま、前の闘いで…学習…だと」
!!!!!!!!!
驚愕するクウォリッグス。
「キサマ…記憶をとどめて…それじゃ、お前も…」
それまでも記憶のある会話をしていただろうに、やっと気づくクウォリッグス。
「あぁ、ぼんやりとではあるが、さっき、お前が何者か…ここで何をやったのか思い出すことが出来た…」
「な…すべての者は、記憶を無くす…それが…」
「何を驚く…前回、教えてくれたじゃないか…なぜ記憶を消されずに済んだのか…お前だけが特別だと思うな。お前に出来るなら、俺もできるさ…」
「なるほど…シドが俺に会うことなく死んだことと言い、貴様に記憶がある事といい…今までとは同じでは無いという事か…全ては、今までのシナリオに飽きたあの方が考えた茶番なのか…」
少し考える様子のクウォリッグスだったが…
ニヤリ…
勝ち誇ったような声と表情で言った。
「だが!!ラリスを救えなかった!!シドを救えなかった!!結果は何も変わらん…変わってないではないか!!!」
!!!!
取り返しようのない事実がハージンから余裕を奪う。
「か、変える…二人の死は、無駄にはしない!!」
「笑わせる…なぁにが今度こそ死なせない!だ!!」
「……………………」
うつむくハージン。
そんなハージンに、檄が飛ぶ!
「救った!!!死なせなかった!!!」
「村のみんなだ!!シドやラリスは残念だ!!でも、それ以上に多くの命を救ったじゃんか!!」
ディエマとシレイスだ。
「ハージン!!!お前は俺たちの英雄だ!!」
「こんな卑怯者に負けんな!!!」
「死にぞこないが!!!」
倒れる瀕死の二人を、再び巨大な水の拳で潰そうとするクウォリッグス。
刹那、
光が走る…
グァッシッ!!!!
拳を受け止めるハージン!!!
だが、後ろ向きに反るような格好だ…
体勢が悪すぎる…
どんなに力があろうと、こんな体勢では…
「ぐくっ…こんの…」
「ふん、貴様らしくもない。さすがの神殺しも、体勢が悪ければ、力が入らぬか」
巨大な氷塊を形成すると重みをかけながら圧をかける水の魔人。
押しつぶされる!!
だが、寸でのところ、まるでブリッジのような姿勢でこらえるハージン!!!
「な!?無駄なあがきを!!!」
更に力を込めるクウォリッグス。
しかし、沈まぬハージンの体はビクともしない。
「勝て、ハージン!!」
「負けんな!!」
瀕死で動けなかったはずのディエマとシレイスが四つの手でハージンを支えていた。
「くっ、お前ら…」
瞬間、ひるみそうだったハージンの瞳に火が灯る!!
「う…おぉおおおおおおおおおおおおおおおお」
ぐぐぐ…ググッ…
少しずつ、少しずつ上がっていく…
常人であれば、筋肉がブチ切れて、絶対に成しえない力技…
「おんのれ…」
水量を増し、更に巨大化する氷…
全てを覆いつくすほどだった。
だが突如、翼が生えたように浮き上がるハージンの力が勝った。
「だぁりゃぁああああああああっ」
ハージンの叫びと共に、折れた氷の拳が回転しながら落下し、湖面に巨大な水しぶきを作った。
「悲劇の主人公は卒業だ!!!」
~第三十五話に続く~
この小説、はじまりは中学生の時に中途半端な気持ちで描き、数ページで描くのをやめてしまった漫画でした。
でも、いつか完成したいという気持ちだけは本物でした。
そこから数十年かけて、ようやくハージンというキャラクターと向き合うことができました。
僕にとって、ハージンは同志であり、戦友です。
僕の中にあるヒーローそのものです。
絶対に後悔しない物語にしたいので、自己満足に陥らないよう、最後まで読んでてよかったと言っていただける作品を目指してまいります
すこしでも気になったら、ご一読いただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。




