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【中巻】天皇家のやらかし英雄譚

# 古事記 ―― 俺たちの国産みがこんなにグダグダなわけがない


## 【中巻】天皇家のやらかし英雄譚


---


### プロローグ ~ 前巻のあらすじ(雑) ~


神様が出勤即退勤し、夫婦がノリで日本列島を作り、離婚して、風呂場で子供が三人生まれ、姉が引きこもったのをストリップで解決し、弟が酒で大蛇を倒し、いじめられっ子がウサギの恩返しで成り上がり、最終的におばあちゃんが孫を地上に送り込んだ。


以上が上巻である。正気か?


さて中巻。天孫ニニギの子孫たちが「天皇」として日本を治めていく物語が始まる。


だが安心してほしい。


**血筋が神になっても、やらかしは遺伝する。**


---


### 第一章 ~ ニニギ、顔で嫁を選んで人類の寿命を縮める ~


天孫降臨を果たした**邇邇芸命ニニギ**は、地上で一人の美女に出会った。


**木花之佐久夜毘売コノハナサクヤヒメ**。花のように美しい女神。


「結婚してください」


即プロポーズ。もはや家訓である。


コノハナサクヤヒメの父・**大山津見神オオヤマツミ**は大喜びで、姉の**石長比売イワナガヒメ**も一緒に嫁に出した。セット販売である。


ところが姉のイワナガヒメは……お世辞にも美人とは言えなかった。


ニニギはイワナガヒメだけ送り返した。


「すいません、こっちは結構です」


**返品。**


オオヤマツミは嘆いた。


「イワナガヒメを妻にすれば、あなたの命は岩のように永遠だったのに。コノハナサクヤヒメだけでは、花のように儚く散る命になりますぞ……」


つまり**人間の寿命が有限になったのは、ニニギが顔で嫁を選んだから**。


全人類に謝れ。


さらにニニギはやらかす。コノハナサクヤヒメがすぐ妊娠すると、こう言い放った。


「え、早くない? 俺の子じゃなくて、その辺の国津神の子なんじゃないの?」


最低発言。


ブチギレたコノハナサクヤヒメは、産屋に火を放ち、燃え盛る炎の中で出産した。


「本当にあなたの子なら、火の中でも無事に生まれるでしょう!!」


**証明方法が過激すぎる。**


炎の中から三人の子が無事に生まれた。


- **火照命ホデリ** ―― 通称・海幸彦

- **火須勢理命ホスセリ** ―― 影が薄い次男。以降出番なし

- **火遠理命ホオリ** ―― 通称・山幸彦


ニニギは何も言えなかった。


当たり前だ。


---


### 第二章 ~ 海幸彦と山幸彦 ~ 釣り針一本で兄弟関係が崩壊 ~


**海幸彦ホデリ**は海で魚を獲り、**山幸彦ホオリ**は山で獣を狩っていた。


ある日、山幸彦が言った。


「たまには道具を交換してみない?」


海幸彦は渋ったが、弟に押し切られた。


結果。


山幸彦は海で一匹も釣れず、おまけに兄の大事な釣り針を魚に持っていかれた。


「ごめん、針なくした」


「は?」


「代わりにこれ……」


山幸彦は自分の剣を潰して五百本の釣り針を作り、差し出した。


「いらん」


千本作った。


「いらん。俺の針を返せ」


**兄、頑固。**


山幸彦は海辺で泣いていた。すると**塩椎神シオツチ**という老神が現れた。


「わけを話しなさい」


「釣り針なくして兄に怒られて……」


「海の神の宮殿に行けば見つかるよ。この籠に乗りなさい」


塩椎神は小さな籠舟を用意し、山幸彦を海の底へ送り出した。


---


### 第三章 ~ 海の宮殿 ~ また居候先で嫁を見つける一族 ~


海底の宮殿に着いた山幸彦。井戸のそばの木に登って待っていると、侍女が水を汲みに来た。


山幸彦が井戸を覗き込むと、水面にイケメンが映っていた。自分である。


侍女は驚いて宮殿に報告した。


海の神・**綿津見神ワタツミ**が出てきて、山幸彦を見るなり言った。


「おお、あなたは天孫の御子! さあさあ中へ!」


VIP待遇。アシカの皮の敷物を何重にも敷かれ、豪華な宴が始まった。


そしてワタツミの娘・**豊玉毘売トヨタマヒメ**と目が合い、恋に落ちた。


**この一族、助けを求めに来た先で必ず嫁を見つける。**


遺伝子に刻まれたスキルである。


山幸彦はトヨタマヒメと結婚し、海の宮殿で幸せに暮らした。


三年が経った。


「……あ、釣り針探しに来たんだった」


**三年忘れてた。**


ワタツミは魚たちを集めて聞いた。


「誰か喉に釣り針が刺さってるやつ、いるか?」


鯛が名乗り出た。喉から針が出てきた。


「あった~」


ワタツミは山幸彦に針と一緒に、二つの玉を渡した。


- **塩盈珠しおみつたま** ―― 潮を満ちさせる

- **塩乾珠しおふるたま** ―― 潮を引かせる


「兄上が攻めてきたら、これで溺れさせなさい。兄上が許しを乞うたら、助けてあげなさい」


**海の神、えげつないアイテムを渡す。**


---


### 第四章 ~ 兄弟決着 ~ 潮で溺れさせるのは「話し合い」とは言わない ~


地上に戻った山幸彦は、兄に針を返した。


「はい、これ」


しかしワタツミに教わった通り、針を渡すとき呪いの言葉をかけた。


「貧しくなれ、衰えろ、不幸になれ」


**弟、めちゃくちゃ性格悪い。**


案の定、海幸彦の漁はうまくいかなくなった。


怒った海幸彦が攻めてくると、山幸彦は塩盈珠を使った。


潮が満ち、海幸彦は溺れた。


「ごぼぼぼ! 助けて! もう降参する! 一生あなたに仕えます!」


山幸彦は塩乾珠で潮を引かせた。


こうして海幸彦は弟に永遠に仕えることになった。


**釣り針一本から始まった兄弟喧嘩が、完全な上下関係で決着。**


なお、海幸彦の子孫が隼人はやと族で、山幸彦の子孫が天皇家、という設定。


つまり「天皇家に仕える一族」の起源を「弟に溺れさせられた兄が降参した」で説明している。


古事記、容赦がない。


---


### 第五章 ~ 出産と約束 ~ だから見るなって言っただろ案件Part2 ~


トヨタマヒメが出産のために地上にやってきた。


「産屋を覗かないでください」


**このセリフ、上巻で聞いた。**


イザナギのときと同じフラグである。この一族は学習しない。


山幸彦は覗いた。


産屋の中で、巨大なサメ(和邇)がのたうち回っていた。


トヨタマヒメの正体。海の神の娘なので、出産時は本来の姿――巨大なサメに戻っていたのだ。


「見たああああああ!!」


トヨタマヒメは恥じて、生まれたばかりの子を置いて海に帰ってしまった。


**結論:この一族の男は「見るな」を守れない。**


遺伝である。もう確定である。


残された子は**鵜葺草葺不合命ウガヤフキアエズ**。名前が長い。


この子が育ち、トヨタマヒメの妹・**玉依毘売タマヨリヒメ**と結婚し(叔母と甥の結婚だが神話なので深く考えてはいけない)、四人の息子が生まれた。


その末っ子こそが――


**神倭伊波礼毘古命カムヤマトイワレビコ**。


後の**神武天皇**である。


---


### 第六章 ~ 神武東征 ~ 初代天皇のロードムービー ~


カムヤマトイワレビコ(以下、神武)は日向(宮崎)にいた。


ある日、兄の**五瀬命イツセ**と相談した。


「この国の中心はもっと東にあるはずだ。東に行こう」


「いいね、行こう」


**ノリが軽い。**


こうして神武の東征が始まった。軍を率いて九州から東へ。


途中、各地の豪族に歓迎されたり戦ったりしながら進む。


問題が起きたのは浪速(大阪)に着いたとき。


待ち構えていたのは**登美能那賀須泥毘古トミノナガスネビコ**。名前が長い。地元の有力者である。


激戦になった。兄のイツセが矢を受けて負傷。


「くそ……太陽の子孫なのに、太陽に向かって(東に向かって)攻めたのがまずかった……」


冷静な分析をしながら、イツセは傷がもとで死亡。


神武は方針を変えた。


「回り込んで、東から西に攻めよう。太陽を背にして」


紀伊半島をぐるっと迂回。熊野から攻め上がるルートを取った。


---


### 第七章 ~ 熊野の森 ~ 毒気で全滅しかけて鳥に救われる ~


熊野の山中は過酷だった。


巨大な熊(実は神)が現れ、神武軍は全員意識を失った。


そこに一人の男が駆けつけ、一振りの太刀を神武に差し出した。


高倉下タカクラジと申します。夢でアマテラスとタケミカヅチから『この剣を届けろ』と言われまして」


**物流が夢経由。**


太刀の力で全員が目覚めた。この剣が**布都御魂フツノミタマ**である。


だが熊野の山道は複雑で、進めない。


するとアマテラスが遣わした**八咫烏ヤタガラス**が現れた。三本足のカラス。


「こっちだよ」


ナビゲーション開始。


八咫烏の案内で山を越え、吉野を通り、ついに大和の地へたどり着いた。


余談だが、この八咫烏は後の世でサッカー日本代表のエンブレムになる。カラスも出世したものである。


---


### 第八章 ~ 大和平定 ~ 策略と歌と、ちょっとした虐殺 ~


大和に入った神武だが、敵はまだ多い。


まず**兄師木・弟師木エシキ・オトシキ**を倒した。


次に**兄猾・弟猾エウカシ・オトウカシ**兄弟が待ち受けていた。


兄の方は罠を仕掛けて神武を殺そうとしたが、弟が裏切って密告。兄は自分の罠にかかって死亡。


**自爆。**


そして最大の敵、再びナガスネビコ。


ナガスネビコは自分が仕えている神・**饒速日命ニギハヤヒ**もまた天津神の子孫だと主張した。


「俺の主君も天から来たんだが? お前だけが正統じゃないだろ」


なかなかの正論である。


しかしニギハヤヒ本人が「この人が本物っぽい」と神武側に寝返り、ナガスネビコを殺した。


**主君に裏切られて死亡。** 一番かわいそうなやつである。


こうして神武は大和を平定し、橿原宮で即位した。


**初代天皇、誕生。**


即位後、美人の**伊須気余理比売イスケヨリヒメ**を皇后にした。


出会いのきっかけは「川で見かけて可愛かった」。


**この一族の嫁の選び方、初代から一貫してブレない。**


---


### 第九章 ~ 中間の天皇たち ~ 暗黒のダイジェストゾーン ~


ここから数代の天皇が続くのだが、古事記の記述がびっくりするほど薄い。


**第二代・綏靖天皇すいぜい**:兄を殺して即位。以上。


**第三代・安寧天皇あんねい**:即位した。以上。


**第四代・懿徳天皇いとく**:即位した。以上。


**第五代・孝昭天皇こうしょう**:即位した。以上。


**第六代・孝安天皇こうあん**:即位した。以上。


**第七代・孝霊天皇こうれい**:即位した。以上。


**第八代・孝元天皇こうげん**:即位した。以上。


**第九代・開化天皇かいか**:即位した。以上。


**手抜きか?**


これを「欠史八代」という。歴史学者の間では「実在しなかったのでは」と言われている。


古事記編纂者も書くことがなくて困ったのだろう。気持ちはわかる。


---


### 第十章 ~ 崇神天皇と垂仁天皇 ~ やっと仕事する天皇が出てきた ~


**第十代・崇神天皇すじん**。ようやくまともにエピソードがある天皇。


在位中に疫病が流行り、人口が半分になるという大惨事が起きた。


原因を占うと、**大物主神オオモノヌシ**が怒っていた。


「俺を祀る子孫が冷遇されてるんだが?」


大物主の子孫・**意富多多泥古オオタタネコ**を探し出して神主にしたところ、疫病がぴたりと止んだ。


**神、わりと自己主張が激しい。**


続く**第十一代・垂仁天皇すいにん**の時代には、面白い話がある。


皇后・**沙本毘売命サホビメ**の兄・**沙本毘古命サホビコ**が反乱を起こした。


サホビコは妹に短刀を渡して言った。


「天皇が寝ているときに刺せ」


サホビメは短刀を持って天皇の寝所に行った。天皇は膝枕で寝ている。


三回、短刀を振り上げた。


三回とも、泣いて刺せなかった。


涙が天皇の顔に落ちて、天皇が目覚めた。


「なんか顔が濡れてる……雨? あと夢で小さい蛇が首に巻きついてた」


サホビメは全部白状した。


天皇は軍を出して兄を討ちに行ったが、サホビメは兄のもとへ走り、火の中で兄と共に死んだ。


古事記、ここだけ急にシリアス。


さらに垂仁天皇の時代、**田道間守タジマモリ**が「常世の国から不老不死の実を持ってこい」と命じられて旅立った。十年かけて持ち帰ったが、天皇はすでに崩御していた。田道間守は墓の前で泣き死にした。


**ギャグ路線なのに泣かせにくるな。**


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### 第十一章 ~ ヤマトタケル ~ 古事記最大の問題児にしてヒーロー ~


**第十二代・景行天皇けいこう**の息子、**倭建命ヤマトタケル**。


古事記中巻のメインキャラである。


彼の初登場エピソードからして衝撃的だった。


父の景行天皇が、ヤマトタケルの兄が食事の席に来ないのを注意するよう言った。


「兄を教え諭せ」


数日後。兄が来なくなった。


「どう諭した?」


「朝、トイレに入るところを待ち伏せて、掴んで、手足をもいで、むしろに包んで投げ捨てた」


**教え諭す(物理)。**


景行天皇は震えた。


「この子、やばい」


怖くなった父は、ヤマトタケルを遠ざけることにした。


「西の熊曾建クマソタケルっていう反抗勢力を討ってこい」


少年一人に送り出す。護衛なし。実質、体のいい追放である。


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### 第十二章 ~ 西征 ~ 女装して敵の宴会に潜入する皇子 ~


ヤマトタケルは旅の途中、叔母の**倭比売命ヤマトヒメ**のもとに立ち寄った。伊勢神宮に仕える巫女である。


「叔母上、衣装を貸してください」


ヤマトヒメは女物の衣装を渡した。


ヤマトタケルはそれを着て、**女装**した。


若く美しかった彼は、完璧に女に見えた。


熊曾建兄弟の宴会に、美少女のふりをして潜入。


兄弟は「おっ、可愛い子来た!」と隣に座らせ、酒を飲んで上機嫌になった。


宴もたけなわ。


ヤマトタケルは懐から剣を抜き、兄の方を一突き。


弟が逃げようとしたが、背後から斬りつけた。


瀕死の弟が言った。


「あなたは何者だ……?」


「大和の皇子だ」


「我々より強い者がいたとは……あなたにこの名を贈ろう。**ヤマトタケル(倭の勇者)**と」


「ありがとう。死んでいいよ」


**名付け親を殺すスタイル。**


こうしてヤマトタケルの西征は成功した。


帰り道にも出雲建イズモタケルを友達のふりをして近づいてから偽の剣を持たせて斬り殺すなど、**騙し討ちのオンパレード**で敵を片付けていった。


正々堂々とは無縁の男である。だが強い。


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### 第十三章 ~ 東征 ~ 父はやっぱり息子を使い潰す ~


大和に凱旋したヤマトタケル。


父・景行天皇に報告すると、即座に次の命令が下った。


「東の荒ぶる神々と反抗勢力を平定してこい」


休む暇もない。


ヤマトタケルは泣いた。


「父上は俺に死んでほしいんだ……。西を平定して帰ったばかりなのに、軍もくれず、休みもくれず、また一人で行けと……」


これは古事記の中でも屈指の名場面である。最強の戦士が、父に愛されないことに泣く。


叔母のヤマトヒメは、ヤマトタケルに二つのものを渡した。


- **草薙剣クサナギノツルギ** ―― スサノオがオロチの尻尾から出してアマテラスに贈った、あの三種の神器

- **火打ち袋**


「危なくなったら、これを開けなさい」


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### 第十四章 ~ 駿河の野焼き ~ 火をもって火を制す ~


東征の道中、駿河(静岡)で罠にかかった。


地元の国造くにのみやつこが「この野原に荒ぶる神がいるので退治してください」と言う。


野原に入ったとたん、四方から火を放たれた。


「騙しやがったな!」


絶体絶命。だがヤマトタケルには草薙剣があった。


剣で周囲の草を薙ぎ払い、火打ち袋で向かい火を起こし、迎え撃った。


火を火で打ち消す。逆転。


そして騙した国造どもを焼き殺した。


この地が後に**焼津やいづ**と呼ばれるようになった。地名の由来がバイオレント。


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### 第十五章 ~ 弟橘比売 ~ 古事記で一番泣ける別れ ~


相模(神奈川)から上総(千葉)へ海を渡ろうとしたとき、海が大荒れになった。


海の神が怒っている。


妻の**弟橘比売命オトタチバナヒメ**が言った。


「私が海に入ります。あなたは使命を果たしてください」


「待て、そんな——」


「大丈夫。あなたに出会えて幸せでした」


弟橘比売は菅の畳を波の上に敷き、その上に座って海に沈んでいった。


海は静まった。


ヤマトタケルは無事に渡ったが、しばらく何も言えなかった。


東国の平定を終え、帰路。碓氷峠(群馬と長野の境)から東を振り返り、こう言った。


「吾妻はや……(ああ、我が妻よ……)」


この地方が後に「あづま」「あずま」と呼ばれるようになったのは、この一言が由来だという。


**ギャグ路線だったのに完全に泣かせにきた。**


すまない。古事記が悪い。


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### 第十六章 ~ 白鳥になった英雄 ~ 伝説の結末 ~


東国を平定したヤマトタケルは、帰り道で致命的なミスを犯した。


尾張で草薙剣を妻の**宮簀媛ミヤズヒメ**のもとに預け、**丸腰**で伊吹山の神を退治しに行った。


「あんな山の神、素手で十分だ」


慢心。完全な慢心。


伊吹山の神は巨大な白い猪の姿で現れた。


「ふん、ただの神の使いだろう。帰りに殺してやる」


神そのものだった。


神の放った氷雨に打たれ、ヤマトタケルは瀕死になった。


朦朧としながら山を降り、三重の能煩野のぼのにたどり着いたとき、彼は歌を詠んだ。


*「大和は国のまほろば たたなづく青垣 山こもれる 大和し美し」*


(大和は最も美しい国。青い山々が垣根のように連なる、美しい大和よ)


故郷を想いながら、ヤマトタケルは死んだ。


彼の魂は**巨大な白鳥**になり、空へ飛び立った。


家族が追いかけた。白鳥は大和から河内へ、河内から堺へ。追いかけても追いかけても、空の彼方へ消えていった。


最強の戦士は、最後まで父の愛を得られなかった。


だがその魂は白鳥になって、自由に空を飛んだ。


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### 第十七章 ~ 仲哀天皇と神功皇后 ~ 妻が強すぎて夫が死んだ件 ~


ヤマトタケルの子が**第十四代・仲哀天皇ちゅうあい**である。


(※第十三代・成務天皇は例によってほぼ記述なし。かわいそう)


仲哀天皇の皇后は**神功皇后じんぐうこうごう**。この人がとんでもなかった。


仲哀天皇が熊曾討伐のために九州にいたとき、皇后に神が降りた。


「西に宝の国(新羅)がある。そこを攻めよ」


仲哀天皇は高台に登って西を見た。海しか見えない。


「嘘じゃん。海しかないんだけど」


**神のお告げにダメ出し。**


神は激怒した。


「お前にこの国を治める資格はない」


仲哀天皇、急死。


**神のお告げを疑って即死。** 歴代天皇の中でも屈指の理不尽な死に方である。


残された神功皇后は自ら軍を率い、妊娠したまま海を渡り、新羅を攻めた。


お腹には石を当てて出産を遅らせたという。物理的にどうなっているのかはわからない。


新羅は戦わずして降伏。百済と高句麗も朝貢を申し出た。


帰国後に生まれた子が**応神天皇おうじん**。後の八幡神である。


しかし帰国後、仲哀天皇の前妻の息子たちが反乱を起こした。


神功皇后はこれもあっさり鎮圧。


**強い。夫より圧倒的に強い。**


---


### 最終章 ~ 応神天皇 ~ 中巻、ここに完結す ~


**第十五代・応神天皇**は母・神功皇后の血を色濃く受け継ぎ、英明な天皇となった。


彼の時代には大陸から多くの技術者や学者が渡来し、漢字や機織りの技術が伝わった。


特に百済からやってきた**和邇吉師ワニキシ**が『論語』と『千字文』を持ってきたのは大きい。


日本に「文字」が本格的に入ってきた瞬間である。


……つまり、ここまでの物語はすべて「文字がない時代」に口伝えで伝わってきたということだ。


よくこれだけのストーリーを覚えていたものである。


いや、覚えてるうちに盛ったんだろうなあ、と思わなくもない。


応神天皇はまた恋愛エピソードも多い。矢河枝比売ヤカワエヒメに恋文を贈ったり、息子と女性を取り合ったりしている。


その息子たちの後継者争いの末に即位するのが**第十六代・仁徳天皇**。


だがそれは、下巻の話である。


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### エピローグ


中巻を振り返ろう。


ニニギは顔で嫁を選んで人類の寿命を縮め、山幸彦は釣り針をなくして兄を水攻めにし、「見るな」は相変わらず守れず、欠史八代は中身がなく、ヤマトタケルは最強なのに父に愛されず白鳥になり、仲哀天皇は神に逆らって即死し、神功皇后が全部なんとかした。


上巻に比べると、少しだけ「人間」の話になってきたのがわかるだろう。


神話から歴史へ。


ファンタジーからヒューマンドラマへ。


だがやらかしの量は変わらない。むしろ増えている。


さあ、下巻へ続こう。


仁徳天皇の「民のかまど」伝説から、歴代天皇の恋愛と権力闘争、そして古事記の幕引きまで。


**人間たちの物語が、最後の頁に向かって走り出す。**


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**――中巻・完――**


**下巻予告:仁徳天皇の聖帝伝説と嫁姑ドロドロ劇! 允恭天皇の禁断の恋! 雄略天皇の暴君っぷり! 古事記、ついに完結! ……たぶん一番ドロドロしてるのは下巻です。乞うご期待!**

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