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第二話 ようこそ

どのくらいの時間が経ったんだろうか。雫の感じていた浮遊感はもう消えて、周りを取り囲む光もすでに失われていた。

緩やかな風が耳を撫でるのがわかる。雫はゆっくりと目を開いた。

目の前にはどこまでも広く青い空があった。

「え?」

慌てて体を起こし、あたりを見渡す。

「ここ、どこ……?」

雫が倒れていた場所は草原だった。どこまでも続く緑の草原。そして遠くには、見たこともない石造りの建物が立ち並ぶ、中世ヨーロッパ風の街が見えた。

「もしかしてここ天国?私、死んじゃった!?」

楽園ともいえる景色を前にした雫は自分の死の可能性に焦る。

その時

「ようやく目が覚めたね」

背後から、あの光の中で聞いた中性的な声が聞こえた。

雫が振り返ると、そこには謎の生物が立っていた。

銀色の艶やかな毛並みに、まん丸の青い瞳が輝いている。そしてその体躯は、まるで昔何かで読んだグリフォンのような四足獣が羽を失ったような姿だった。

その美しくも異様な姿に、雫は少し後ずさる。

「怖がらないでよ」

表情は分からないが、その生物は少し笑みを含んだ穏やかな声で言った。

「私の名はるふぁ。世界の意思の代理人と呼ばれているものだ」

「世界の意思?」

るふぁと名乗る謎の生物から謎のことを言われ、雫は混乱している。

「突然のことだろうからね。今わからなくても、後々分かっていけばいいから大丈夫」

雫は声は出さず、首を縦に振る返事をした。それを確認したるふぁは続ける。

「君を呼んだのは、私なんだ」

「え……」

「君の力が必要だから呼んだんだ」

光の中で聞いた言葉。雫の唇は震えていた。

「ほんとに私なの?」

「そうだよ。この世界を救うために必要な最後のピースが君なんだ」

心拍が上がり高揚しているのが分かる。

初めてだった。ここまで分かりやすく、自分の力が、いや。自分の存在が必要とされているということが。

そしてるふぁは、雫にゆっくりと近づく。

「この世界は、魔子に蝕まれてるんだ」

「魔子?」

「そう。魔子っていうのは簡単に言うとこの世界を取り巻く負のエネルギーってところかな。魔子は存在してるだけなら基本的には無害なんだけどね、濃度が濃くなりすぎると具現化して、メメントと呼ばれる異形生命体になるんだ」

るふぁは空を見上げる。

「メメントは人々を襲い、命を奪う。だから倒さないといけないんだ。そして、それを倒せるのは魔法少女だけなんだ」

「魔法……少女?」

その言葉は馴染みがあるはずなのに知らない世界の言語のようだった。

「そう。君も知ってるだろう?その魔法少女だよ。この世界の魔法少女は強い欲望を持つ者だけが、魔法少女になれる。そして、君からは誰よりも強い欲望を感じ取ったんだ」

その言葉に、雫は息を呑む。

るふぁは雫の眼をじっと見据え続ける

「君の心は叫んでた。私を見て、私を必要としてってね」

図星だった。確かに雫にはそんな欲があった。るふぁの言葉が胸に刺さる。

「ここなら、君のその願いを叶えられる。だからこそ、君を呼んだんだ」

その言葉に雫は嬉しさを感じていたが同時に不安もあった。

雫は初めて自分の心と向き合う。

るふぁに従って本当に自分の欲は叶うのか。突然連れてこられたこの世界で、自分は生きれるのだろうか。

しかし、元の世界に戻っても自分には何があるのだ。灰色の日常が過ぎて普通にもがく毎日が続くだけ。誰も自分を見出さない。必要としない。透明人間として生きる世界。

それに何の意味があるんだ。

そんなとこよりも。ここで特別になれるなら。

葛藤なんて言い訳をしたが、答えは一つ明確に決まっていた。

「……私は」

雫は青い瞳を強く、まっすぐと見つめる。

「私を特別にして」

淀みない声は楽園のような世界によく馴染んだ。

「私がこの世界を救って見せる」

るふぁは静かに頷く。

「契約完了だ」

そう言うと、雫の目の前に光が現れ何かが形作っていく。

「綺麗」

生まれたのは手のひらサイズのブローチだった。七色に輝く宝石が埋め込まれた小さなブローチ。

「それに触れれば、君は晴れて魔法少女の仲間入りだ」

雫の周りをるふぁが飛び回る。

「そうだな、君の名前は……アステラなんてどうかな?」

アステラ。

雫の魔法少女としての名前。

「ブローチを取って。君は選ばれたんだ」

選ばれた。

「そうだよね。選ばれたんだから、私は戦う」

雫の決意にるふぁはにやりと笑った。

「これでいい」

るふぁが呟いたのと同時に雫は、ブローチに手を伸ばし触れる。

その瞬間、ブローチが強く輝いた。

そして雫の指先から、温かな光が脈打つように這いあがり、腕を伝い全身へと広がっていく。

光が全身に馴染むように溶けていき、雫は春の日差しのような心地の良い感覚を覚えた。

そして、ふわりと雫の身体は浮く。

「これで完全に契約は成立だ」

るふぁが飛び上がり、声を響かせる。

「ようこそ、この世界へ。アステラ」

るふぁの声に呼応するようにして、光がさらに強くなっていく。

雫の服が光と共に変化していく。

今まで着ていた制服が、光の粒子となって消えていく。

袖も、スカートも、リボンなどの装飾も光に呑まれた。そしてその光は新たな姿を形作っていく。

ブローチの光から生まれた純白の生地が身体を包み、そこにまっすぐと桃色の装飾が走る。

そして腕には、肘まで伸びた白い手袋が現れた。胸に走った装飾と同じ色のリボンが手首に巻き付いた。

白と桃色が重なり、煌びやかなグラデーションとなった生地がドレスのように広がる。裾や内側はまるで星空のように煌々と輝いていた。

足元は、いつの間にか膝下までの白いブーツが纏われていた。

最後に髪が変化を始める。

元々肩上までしかなかった雫の髪は腰あたりまで伸び、光でまとめられポニーテールのようになる。

そして強い光を帯び、やがて深く艶めく桃色へと変化する。

右手に光が集まり、形を成していく。

それはペットボトル程度の杖だった。

白い柄に、紅い宝石が先端部分に埋め込まれている。それを握ると、昔から自分のものだったかのようによく馴染んだ。

いつの間にか目の前にあったはずのブローチは胸元に収まり輝いていた。それを最後に雫に纏わっていた光が飛び散った。

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