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日輪夜叉姫

 今から約200年ほど前のこと。花の都である京の街──から西に数百里離れたとある地方の町に、「日輪夜叉姫」と呼ばれる剣客少女がいた。

 白昼堂々振るわれる多数の白刃をひらりひらりと躱し、受けさばき、それを振るう悪党たちを薙ぎ倒していく。

「ッオラア!」

「!」

 こちらの腹めがけて穿たれた鋭い突きを紙一重でどうにか避けきり、反撃で5人目の頬に一閃を叩きつけた。

鈍い打撃音とともに男が倒れる──あと2人。

 軽く距離をとり、深くふうっと息を吐く。肩でしていた呼吸をすぐに整えて、残る敵に向かい合った。

 と、そこで敵はかろうじて意識のある仲間を2人抱え起こし、逃亡を始めた。荒い足音をたてながらいそいそと走り去って行く背中を、「日輪夜叉姫」はただ眺めていた。追う気は起こらない。刀を腰に差し戻して、避難していた民たちの方へ歩き始める。

 刀といってもここは将軍徳川家の治世。武士以外の、まして女の帯刀は禁じられているため、彼女が使うのは木刀だった。交戦した悪党たちにしたところで、使用していたのは帯刀に含まれない脇差だ。人に振るった時点で刑罰の対象であることに変わりないが。

「おい、ひょうが!しっかりしろ!」

 声の方へと振り返ると、目を覚ました男が仲間の肩を揺すって金切り声をあげていた。先ほど少女に鋭い突きを放った男だ。仲間の男の方は目を覚ます気配はない。頭部から血を流している。殺してしまったのだろうか。

「……」

やがて男は沈黙し、仲間を揺するのをやめた。

「……死んだのか」

 短く淡々と問うた少女を、男は無言のまま氷のような目で睨めつけた。この男の洗練された動きを思い出し、少女の背をいやな汗が伝った。

「仕方なかろう、ああせねばこちらが殺されていた。手心を加えるような余裕は私にはなかった」

「……襲ってきたのはそちらだろうが」

睨む目と同じ、とても温度の低い声だった。

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