第6話:誤送の合図は二本指
二本指の合図で誤送を実行。
反応者三名を特定し、癖から露見を確定。
倉で証拠の束が揃い、迎撃位置(足場・視線・導線)を確保。
明け前の迎撃に向けて準備完了。
第6話:誤送の合図は二本指
庇の影で指をほどく。
二本指を見せるのは、今夜だけの合図だ。
誤送は細い流れでいい。反応だけ拾えば足りる。
副隊長が短く頷く。
外周は薄めろ、と目で言う。
二層は静かに、と口の動きが告げる。
導線は庇から斜路へまっすぐ伸ばす。
油の帯が石に残る。
起き抜けの冷えが残り、鉄の冷たさが手の甲に移る。
荷の刻みは昨日のまま。歯欠けが拍を刻む。
王女リナは庇の内側。
声は低い。
「任せる。ただし報告は」とだけ置く。
視線を角へ渡す。受けた。
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二本指を少しだけ上げる。
合図は滴音に合わせる。
水門の落ち水が一度落ち、二度目で流す。
油紙の包みをわざと外周に見えるよう渡す。
誤送の手順は単純だ。
受け手を一歩ずらし、列の拍を乱す。
渡す相手を半歩だけ間違える。
そこに反応が生まれる。
視線は外周の角へ。
靴音は揃っているか。
呼気は浅くなるか。
二層の影から誰が一歩早く出るか。
副隊長が指で拍を切る。
三で止め、二で流す。
誤送の包みが外周の男の肩で跳ね、受け手はわずかに遅れた。
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その瞬間、反応が出た。
一人目。
袖口で口元を隠す手が一つ。
影が浅い。
癖が出た。
訓練でしか出ない動きだ。
視線は外周の油紙へ泳ぐ。
二人目。
列の拍に合わせ直す足が一つ。
遅れは半拍。
呼吸を詰め、次の刻みに呼気を合わせる。
もう一つ、癖が出た。
三人目。
誤送は流れ、包みは二層に落ちる。
拾った手は躊躇がない。
右足だけ刻み跡を跨いだ。
日々の道に慣れている足取りだ。
指の第二関節で印影を撫でる仕草が見える。
癖は深い。
印章輪の擦れ跡を知っている手だ。
ここで露見は確定した。
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副隊長が言う。
「穴を埋めろ。外周を狭め、導線を塞げ」
王女の位置を斜路の手前にずらす。
庇の陰が背に入る。
王女の視線が一瞬だけ動く。
遮る位置に入る。
報告は後で、と口を動かす。
リナは頷く。短く、静かに。
油の帯の匂いが薄い。
七三の甘みが夜気に立つ。金属臭が遅れて混ざる。
一致の匂いだ。昨日の控えに寄る。
指先で確かめる。
油の甘みが先に立ち、蝋の金属臭が後を追う。
配合は七三。封蝋欠片と同じ順序だ。
庇の柱に背を当てる影が一つ。
合図の前に半歩出た癖が戻れずに残る。
二層の影を踏まない足取り。訓練の型だ。
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副隊長が指を下ろす。
「二層目、静かに。外周は角を押さえろ。導線は残せ。戻しは後だ」
短い命令が拍で続く。
列の穴を埋める。
王女の外側に一人、内側に一人。
拍の乱れは小さくする。撹乱はここまでで切る。
誤送は終わり、反応者は三名。
袖口を隠した小柄。
印影を撫でた中背。
その間に一人、呼吸を合わせ直した影が滑る。
三名が候補に重なった。
合図理解者。
先回りできる者。
印鍵に接近できる者。
今夜の条件に当てはまる。
王女の位置から、見える角度に並んだ。
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橋からの斜路は乾いている。
石畳は水気を弾く。
足場は良い。
視線は斜路の抜けで絞れる。
導線は外周の遮断で止まる。
迎撃位置は水門先の倉。
庇から二十歩。
斜路が抜け、石が乾く。
外周は二層で挟める。
足場・視線・導線が揃う。
倉口の死角は樽列の端。
そこを押さえれば退路を塞げる。
王女の位置からは斜路の抜けが見える。
視認性と退路、二重に確保できる。
副隊長に一文で告げる。
「足場は乾き、視線は抜け、導線は遮れる。ここで受ける」
副隊長は短く頷く。
「角を押さえろ」
鉄の冷たさが指先に戻る。
夜気は浅い。
苔の帯が斜路の縁に沿って細く走る。
滑りはない。踏み位置は固定できる。
王女リナが小さく言う。
「任せる。報告は早く」
目で受ける。
動きは最小、声は短く、拍は一定に保つ。
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露見者は視線を割る。
油紙に泳ぐ目が今は倉の口を測る。
半歩の差で並ぶ。どちらも逃げの導線を作りたい。
子の影は消えた。
横移動で渡しを済ませた。
大人が受けに残る。
受けの癖は残る。今なら動線は切れる。
庇の端で一度だけ止まる。
音は車輪。
水門の落ち水が遅れて響く。
拍を計る。
三で割り、二で締める。
副隊長が言う。
「誤送を待て」
「もう終わった」
「なら、穴を埋めろ。角は押さえた。戻しは後だ」
短い命令で場を固める。
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倉の前に立つ。
人の気配は薄い。
印章輪の擦れ跡が扉の板で光る。
重ね押しの癖が残る。
ここで線は閉じる。
封蝋欠片の欠け位置は既知。
七三の匂いは既知。
帳簿の抜け時刻は迎撃時刻に重なる。
証拠の束はここに集まった。
反応者は倉の口を見た。
合図の前に半歩出た男が今は足を止める。
袖口の手は下がらない。
指は印影を探す。
副隊長が短く告げる。
「導線を塞げ。二層目、静かに。外周を狭め、穴を埋めろ。拍は揃えろ」
頷く。
迎撃位置は確定だ。
足場は石畳の乾き。
視線は斜路の抜け。
導線は外周の遮断。
一文で刻む。動きはこれに従う。
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王女の位置は安全圏へ下げる。
庇の影が深い。
斜路の抜けはここから見える。
報告は後で良い。目だけで言う。
油紙の包みはもう道具だ。
暗器ではない。
撹乱ではない。
証拠を繋いだ導線だ。
ここで切る。そのための位置だ。
水門の音が落ちる。
二度目で静まる。
拍は合う。
全体が揃う。
倉の口に影が二つ、深く沈む。
合図は二本指。
今は上げない。
誤送は役目を果たした。
反応は露見した。
迎撃は明けの前で良い。
息を浅く整える。
鉄の冷たさが喉を撫でる。
苔の帯は光らない。
足の裏は乾く。石は動かない。
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王女リナが小さく笑う。
「任せる。報告を先に」
短く返す。
「受けた。位置は決まった。導線は切れる」
倉の戸板に触れる。
印章輪の擦れが指に触れる。
欠けの角度が目の裏で回る。
止まる。
一致する。線はここで束ねる。
外周の角で気配が揺れる。
列の拍が揃い直す。
呼吸が一斉に浅くなる。
明けを待つ。迎え撃つための前夜が始まる。
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小目標=誤送作戦で反応者三名を特定。
袖口を隠す癖、印影を撫でる癖、拍を合わせ直す癖から露見を確定。
迎撃位置(足場・視線・導線)を確保し、証拠の束を完成させる。
明け前に迎撃予定。