表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

第3話 水門前、滑る足場

ゼロのまま水門前で接触。滑る足場で暗器を落とさせ、相手は川へ逃走。

格子に残された封蝋の欠片から、川下の工房を特定。

外製の毒と内通者の線が一点に結ばれた。

次は川下へ。

合図を理解できる者のリストが、内通者の条件になる。

今日は巻き戻しがゼロだ。それでも、進む。


水門の鉄は苔の帯で黒い。足裏に冷たい鉄が貼り付く。王女の馬車は橋の終わりで止まり、外周の盾が二層に寄る。囮は角の先で空回りし、高めの軋みが雨音に溶ける。


「来るなら、ここ」


副隊長が示す。柱の影と屋根の端が交差する一点。


動いた。跳ぶには遠い。跳ばなければ届かない距離。


苔は水門の格子に厚く、橋の継ぎ目には薄い。相手が跳べば、着地で滑る。こちらが待てば、間合いが潰れる。


「右、一歩」


短く切る。副隊長が即座に従い、盾が格子の縁へ寄る。


影が跳んだ。刃が閃き、石に当たる音。狙いは継ぎ目ではない。盾の縁だ。


痺れた。毒ではない。重い。


「押すな、逸らせ」


盾の角度を変え、刃を石に落とす。影が体勢を立て直す前に、足で暗器を蹴る。格子の隙間へ落ちた金属音が、水に呑まれる。


「下がれ」


列が一歩退き、影との間合いが開く。相手は武器を失い、足場は滑る。追わない。目的は通過だ。


影が膝を折り、格子に手をかける。逃げる準備だ。


「待て」


声を掛けるより速く、影は格子を蹴って川へ落ちた。水飛沫が上がり、流れに呑まれる。


「追うか」


「悪手。深追いは罠」


橋の下に仲間がいる。水位は昨日より高い。こちらが降りれば、流れに足を取られる。


副隊長が格子の縁を指でなぞる。爪に引っかかった何かを拾い上げる。


「これは」


小さな欠片。赤い蝋の破片だ。封蝋の一部。


「封蝋か」


「はい。工房の印が残ってます」


欠片を掌に乗せ、雨に晒す。滲まない。油を含んだ配合だ。


川下の工房。油紙と同じ混ぜ物。封蝋に残る印は、三つ爪の鳥。街の外れ、川沿いに並ぶ工房のうち、この印を使うのは一つだけ。


外から毒を調達し、内から時刻を流す。両線が交わる。封蝋の欠片が、二つの線を一点に結んだ。


「報告を」


王女の声が、カーテンの向こうから落ちる。


「水門前で接触。暗器を落とさせ、相手は川へ逃走。封蝋の欠片を回収しました」


「次は」


「川下の工房。封蝋の印から、場所は特定できます」


「任せる。ただし報告は」


短いほど芯が立つ。


列が動く。王女の馬車が橋を完全に渡り、石畳の音が遠ざかる。


副隊長が封蝋の欠片を袋に収める。


「川下へ行くなら、陸路か水路」


「陸路なら関所。名簿と足取りが残る」


「水路なら夜。川の流れが速い」


「どちらも一長一短」


頷く。陸路は足跡が残るが安全。水路は痕跡が残らないが危険。


「もう一つ」


副隊長が声を落とす。


「合図を理解できる者」


「何だ」


「二本指の合図。あれを即座に理解したのは、限られた者だけです」


「内通者の条件か」


「可能性です」


列の中に、相手の目がある。時刻を流し、足並みを読み、護衛の癖を教える者。


「誰だ」


「まだ分かりません。ただ、合図を理解できる者は、訓練を受けた者だけです」


「リストは」


「作ります」


副隊長が短く返す。短いのは、信用の形だ。


雨が弱まり、光が戻る。


「次は川下」


「はい」


「内通者の線も、同時に追う」


「了解」


列の後ろを歩く。視線で疑いの線を引く。誰が合図を理解し、誰が時刻を流したのか。


川下の工房。封蝋の印。内通者のリスト。


三つの線が、交わる場所がある。


今日は巻き戻せなかった。それでも、進んだ。


次は川下だ。次は、三つを切らず辿り着く。


---

水門前での小規模な交錯から、封蝋の欠片という新たな証拠が得られました。


次話では川下の工房で「印と匂い」を突き合わせ、外と内をつなぐ線を追います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ