番外編:「俺から見た天城」
※登場順に、それぞれの同期・部下・敵対者のモノローグ
■ 長谷部(同期、暴行リーダー)
天城はな、才能を隠すってことを知らねぇんだよ。
新人の頃から“自分だけ正しい”みたいな顔して、何も教えなくても勝手に成果を出してくる。
上司も目をかける。後輩も懐く。
俺たちは一歩下がって、足並み揃えて、順番を守って――その隙に全部持ってかれた。
ふざけんなよ。
俺たちは負けたんじゃねぇ。天城が“勝ってはいけない場所”で勝ったんだ。
……それだけだ。
■ 名取(後輩・部下)
最初は“怖い人だ”って思いました。言葉も表情も、冷たすぎて。
でも図面に触れた瞬間、わかるんです。あの人は設計の中では、誰よりも優しい。
ミスする余地を残してくれてる。
次に繋がるように“わざと穴”を残してる。
あの人のやり方は、きっと“もう人を信用できないから”なんです。
でも……それでも、“誰かに届いてくれ”っていう意志が、設計の中にある。
僕はそれを、受け取った一人だと思ってます。
■ 白根(中間管理職・敵対者)
あいつが怖いのは、成果じゃない。
組織に「成果がすべてである」と言わせてしまう空気を作ることだ。
俺たちは“生き残るための談合”をしてきた。
年功序列に従って、空気読んで、空気作って、空気で回してきた。
天城は、その空気を設計図みたいにピシッと真っ二つに割ってくる。
あれはもう、テロだよ。社内テロ。
■ 中村(出世同期)
お前が俺の何を知ってる?
逆差別だ? 計画された出世だ?
そんなもん、恥ずかしくて誰にも言えねぇよ。
お前は“自分が正しい”って信じ切れる天才だろ?
俺は最初から“間違ってる”ってわかってて、それでも人間関係にしがみついて生きてきた。
正しさなんてどうでもいい。俺はただ、お前に負けたことが許せないだけなんだ。
……なぁ天城。いつか“正しすぎるお前”も壊れる日が来るんだろうな。
そんときはさ――そのときだけは、隣にいてやるよ。
(※彼だけ、最後にわずかに“友情”を残している)
■ 匿名のSNS投稿者(管理部門の既婚女性・子持ち)
独身のくせに、なぜあんなに強いのかと思ってた。
でも違う。
あの人は“独身だから”強いんじゃない。
“何も頼れないまま、一人で全部抱えてるから”ああなったんだ。
独身って、気楽なんかじゃない。
天城さんはずっと、“全部の重さ”を一人で背負ってた。
そのことに気づいてしまったとき、
……私は、自分の制度提案が恥ずかしくなった。