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第五章:死体の山と道場破り

天城が席に戻ると、名取が小声で報告してきた。


「敵対部署の連中、何人か転職したそうです。……で、詰んだって」


「詰んだ?」


「ええ。出た先で使い物にならなくて、居場所なくして戻れなくて――つまり、“死体”です」


その言葉を、真正面から天城にぶつけてきた者がいた。

企画開発部の係長・白根。かつて天城の設計を雑巾のように扱った張本人だ。


「……お前のせいでよ、逃げた奴ら、死体になったんだよ」

「技術も通用しない、再就職もできない、家庭も壊れて――」

白根の目には狂気すら滲んでいた。


天城は一歩前へ出る。そして――言い放った。


「お前も、その仲間に入れてやるってんだよ」


一瞬、空気が凍った。

「死体の山に、もう一体くらい増えてもわからんだろ?」


白根は言葉を失ったまま、唇を震わせてその場を去っていった。


その日の夕方――


天城が帰ろうとした通用口で、数人の人影に囲まれた。

リーダー格は、入社当時に机を並べた同期の長谷部。かつて「天城は天才だ」と持ち上げていた男だ。


「どっか行けよ、もう。調子乗ってんじゃねえよ」

「お前さえいなきゃ、もっと普通にやれてたんだよ。潰してやるからな、マジで」


天城は表情一つ変えず、そのまま立ち去った。

暴力がくるのは、わかっていた。


数日後、出勤途中の駐車場裏。

天城は、後ろから複数人に殴られ、蹴られた。


だが彼は――倒れなかった。


「……これで満足か」

血を吐きながら、それでも口元に笑みを浮かべていた。


「お前らのやることはいつもそうだ。“数でしか来れない”」


回復後のある晩、社内SNSに匿名で投稿があった。

投稿言語は――スペイン語。


“El sistema del desafío sin fronteras.

Cualquier ingeniero puede retar a cualquier proyecto dentro de la empresa y tomar su lugar si demuestra superioridad.”

「境界なき挑戦制度――

技術者は誰でも、他部署のプロジェクトに挑戦できる。

優れていれば、その場で交代させる」


題して――「道場破り制度」。


翌週、社内のフランス人経営陣がこの案を正式に取り上げた。

「La liberté technique, comme les duels de mousquetaires(技術の自由は、決闘のようにあるべき)」

彼らはそう評し、この制度を試験導入に踏み切った。


週末の夜。傷が癒えた天城は、一人、自宅で図面を描いていた。


画面の隅に、ふと映った人事資料。

そこには「既婚者優遇制度」の改定案が書かれていた。


天城は、画面を見つめたまま、心の中で呟いた。


「……いや、独身者を優遇しろ。

一馬力で、孤独で、余裕もなく、それでも仕事に人生かけてんだぞ。

“守るものがない”んじゃない。“支えるものがない”ってだけなんだよ」


その夜、社内にまた一通の匿名メッセージが流れた。

“個人の価値は、家庭の有無で測るものではない”――


誰が書いたか、名指しされることはなかった。

だが、読む者すべてが、その筆跡に覚えがあった。


技術ではなく、魂が書いた文だった。



第六章 予告:

暴行事件はもみ消される。だが、経営層は内密に天城の「排除計画」を進めていた。

一方、道場破り制度の初の実践者が現れ、社内が揺れ始める。

次は天城自身が、破られる番かもしれない――。

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