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第三章:魂を割く理由

「天城さん、外資系メーカーからの招待状です。封筒、黒いです」

名取が神妙な顔つきで封筒を差し出した。


天城は中身を見ることなく、書類用シュレッダーに放り込んだ。

「魂を売るには、俺は少しばかり“割って”しまってるんでね」


彼の言う“魂を割る”という言葉は、かつて自分を嘲り、笑い者にした組織に背を向け、それでも機械に真実を刻むことを選び続けた代償だった。


ホークラックス。自分の意思を、技術に刻み、物理的に「分身化」していく。


一つ目は、開発中の次世代駆動装置に封じた。

二つ目は、協力メーカーへの設計転送用ブラックボックス。

三つ目は、若手たちの中に、自らの思想を継承させる教育マニュアルの形で。


「魂ってのはな、誰かに理解されるたびにちょっとずつ千切れてくもんだ」


天城はそれを“戦術”と割り切っていた。


しかし、すべての分身は盗まれる危険性を孕む。

ある日、社内ネットワークに侵入があった。

ソースは不明、だがアクセス先は明確だった――天城の設計保管領域。


「内部か……あるいはスパイか」

名取が顔をしかめる。


「内部だろうな。まだ“旧い正義”を守ろうとするバカが残ってる」


天城は冷たく笑った。そして、“偽の設計図”を設置する。

それは一見、完成された次世代装置の仕様に見えたが、

一定の条件を超えると意図的に機械を自己破壊に導く構造を内蔵していた。


「スパイにくれてやる用の、“魂の欠片デスシャード”だ。俺を盗むなら、覚悟して盗め」


数日後――


天城に一報が入る。「競合企業の試作装置、爆発。社内リークの疑いあり」


その夜、天城は一人、図面を見ながら呟いた。


「魂は分けてもいい。だが、偽物を喰ったやつの口には、毒を流す」


名取が小声で尋ねる。「そこまでして、何を守りたいんですか?」


天城はふと視線を天井に向ける。


「俺がここまでやって残したかったのは、誰もが好きなように設計できる未来だよ」


「自由に“自分で考えた機構”を形にして、笑って出せる現場」

「そんな当たり前のことが、かつては地獄だったんだ」


夜のオフィスで、彼は最後の魂の欠片を差し込む。


それは、未来の技術者のためのオープン設計体系だった。

AIと共同作業する次世代設計支援システム。

使用者が独自のアイデアを「否定されずに」シミュレートできる空間。


「杭は叩かれる。なら杭じゃなく、“地面”から変える」


彼はもう、復讐では動いていなかった。

“杭を打ち込む地面ごと、新しい基礎に置き換える”――それが彼の最終目的だった。


そして天城は、最後の魂をそのプロジェクト名に込めて送り出した。


Project: Phoenix Draft

再設計の火種。技術者たちの再生。

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