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【なろう版】魔国の勇者  作者: マルコ
幼年学校1年 :クラス対抗戦開始

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7組 VS 8組②

 幼年学校の演習場。

 その山中の森を、1年7組の攻撃班5名が移動していた。


 先頭を行くのは、年齢に似合わぬ筋骨隆々の人間族のリーダー、ダルクだ。

 彼の隣には、鋭い狼の耳と尾を持つ獣人族のバズ。

 その後ろには、華奢で素早いハーフフット族のリーザと、インプ族のゾーイ。

 最後に俊足のゴブリン族のガストが続く。


「チッ、また上りかよ。山道を進むなんざ、演習じゃなきゃやってられねぇ」


 ダルクは額の汗を拭い、木剣の柄を強く握った。


「文句はナシだぜ、ダルク。俺たちみたいな平民は、こういう場所で鍛えるしかねぇんだ」


 獣人族のバズが応じる。


 ダルクは、演習場の苛酷さよりも、ある一人の人物への苛立ちを露わにした。


「山道なんて、どうせあのリオスって奴は避けてるだろうよ。楽なルートを探してるに決まっている」


 リオスの名が出た途端、攻撃班の空気は一変する。


 華奢なハーフフットのリーザが、ダルクの隣に寄った。


「リオスって、人間なのに上級生にも勝ったって、聞くわ」


 小さな角を持つインプのゾーイが、頬をうっすらと染め、純粋な好奇心を示す。


「ええ。デーモン族も負かせたって噂、正直、あこがれちゃう」


 その話題にゴブリンのガストも参加した。


「俺は嫌いだな。女を何人も連れてるとか聞くし……

 実力は凄いんだろうけど」


「凄いだと?」


 ダルクは鼻で笑った。


「あれは凄いんじゃねぇ。アイツが軽薄な成り上がり者だってことの証明だ」


 ダルクは低い声で断じた。

 彼の目には、自分と同じ「人間」でありながら、名声と女を得たリオスへの嫉妬と蔑視が宿っている。


「いいか。アイツが上級生に勝ったってのは、事実だ。

 だが、勝った理由は卑劣そのものだって言うじゃねぇか。実力じゃねぇ。

 連れてる女だって、決闘で無理やり手籠めにしたんだろうさ」


 それを受けて、狼獣人のバズも噂話を思い出す。


「そういえば、妙な噂が流れてるよな。

 アイツは実はグリムボーンの血を引く貴族、って話だ」


 ガストが、眉間に皺を寄せた。


「グリムボーン家の貴族の噂か……もし本当なら、俺たちとは違って苦労知らずってわけか」


 ダルクは鼻を鳴らし、地面に唾を吐いた。


「どうせ、噂だけだよ。

 本当だとしても、使用人か何かを孕ませたんだろう。

 本物の貴族様なら、こんな劣等生のクラスには来ねぇ。

 結局は、軽薄な成り上がり者ってことだ」


 男子3人の、露骨な嫉妬と嫌悪に満ちた会話が途切れた隙に、リーザとゾーイは顔を見合わせた。


「ねえ、リーザ。あんなに熱くなって、リオス君の噂を必死に貶めるなんて……」

「ええ、ゾーイ。あれ、みっともないわ。実力で勝てばいいのに、嫉妬丸出しじゃない」


ふたりがため息を漏らした。

その時、前方の茂みから不規則な「ガサッ」という音が、地面を踏みしめる重みを伴って響いた。


それまでの内緒話は、瞬時に途切れる。

ダルクを筆頭に、5人全員が口をつぐみ、木製の得物を構え、音のした方向に注意を集中させた。


ゾーイの尖った耳がピクリと動き、彼女は緊張した面持ちで短く発言した。


「……複数の魔力を感じる。小動物じゃない。隠す気のない、荒い流れよ」


演習場は魔物の領域とは異なるため、この音の主は生徒か、生徒が使う使い魔の類いに限られる。


「間違いない。8組の奴らだ」


ダルクは喉の奥で低く唸り、一瞬、敵の意図を測るように目を細めたが、思考を切り捨て、すぐに先制攻撃を優先した。


「リーザ、バズ。3人で突っ込む。ガスト、ゾーイは後方支援だ」


教科書通りの戦法。自分たちが先に仕掛ければ、相手は容易に崩れると確信していた。


彼らは、正面の敵を恐れていなかった。


ダルクは木製の長剣を、リーザは小刀を、バズはリストブレードを構え、3人は音のした茂みへ一斉に突入した。


3人が茂みに消えた後、後方に残ったゾーイとガストの真後ろから、複数の影が奇襲してきた。


「な、なんだ!?」


ガストとゾーイはすんでのところでその攻撃を回避できた。

回避できたのは、攻撃者の技量が低く、素人染みた踏み込みの音と、荒い呼吸が駄々洩れだったからだ。


正規兵程度に鍛えた攻撃者だったら、この一撃で二人は脱落していただろう。


ガストとゾーイは、回避できた安堵よりも、目の前の光景に思わず息を詰めた。


敵は6人。男女3人ずつ。


そして、男子のひとりが顔を上げた時、ガストは血液が逆流したかのように全身を硬直させ、喉の奥から張り裂けるような絶叫を絞り出した。


「げぇ、リオス!」


先ほどまで話題にしていたリオスだった。黒髪黒目の人間の男子。


噂が事実だろうと、誇張だろうと、6対2で勝てる相手ではない。


「ダルク! 手を貸してくれ! こっちに6人居る! リオスもだ!」


突っ込んだダルクたちに助けを求めるが、戻ってくるまで耐えなければならない。

そもそも、あちらも敵がいるのだ。そう簡単には戻れないだろう。


そう考えながらガストが木剣を構えたとき――


「え……?」


隣から、ひどく間の抜けた声が聞こえた。


一瞬、隣――ゾーイの方に目を向けてしまい、慌てて相手の方に視線を戻すと……


「な!?」


リオスひとりに目を奪われていたが、ふたたび6人全員を視界に収めると、リオスが3人いた。


いや、正確には、リオスと、よく似た2人なのだろう。

3人それぞれ、顔の細部が違っている。


しかし、よく似ている。特徴、受ける印象は同じ。


「……幻惑ね」


ゾーイが苦々しく言う。

その言葉で、ガストも女子のほうがサキュバスだと気が付いた。

遠目にリオスを見た時に、一緒に居たのをみた記憶もある。


となれば、3人のリオスのうち、2人は幻惑。

いや、3人すべてが幻惑で、ダルクたちが突っ込んでいった方にこそ、本物のリオスがいる可能性もある。


ガストには、むしろそれが正解に思えた。


「リオスは無視だ!」

「――だよね!」


ゾーイも同じ結論に達し、リオスの幻惑を無視して3人のサキュバスに向かって攻撃を仕掛けた。


リオスの幻影が行く手を阻むが――


ふたりは、それぞれリオスの幻影を突き破り、霧散させる。

さらに一体の幻影がダルクに攻撃を仕掛けてくるが、彼はそれを強引にすり抜けようとした――


バシィッ!


乾燥した打撃音と同時に、予想外の固く重い衝撃がダルクの腹を襲った。


「……え?」

「なっ!?」


硬い木の感触が、彼の皮膚と服を通して肉に食い込んだ。


『七組、ダルク、脱落』


どこからともなく、職員の声が響く。

魔法で声を飛ばしてきているのだ。


本物のリオスが混じっていた!


呆然と未だ事態をのみこめていないダルクを他所に、ゾーイはそのままサキュバスたちに迫った。

リオスには勝てなくとも、サキュバス相手であれば、インプの自分にもまだ勝算があると踏んだのだ。

3人すべては無理でも、一人でも道連れにする。


その覚悟で、胸がやたら大きいサキュバスから順に薙ぎ払うつもりで、木製の短剣を振りぬいた。


――まったく手ごたえが無かった。


「……は?」


予想外の事態に混乱するゾーイの目の前で、サキュバスたちの像が霧散してゆく。

それを呆然とした面持ちで見つめるゾーイの頭に、「ポンッ」と拍子抜けするほど軽い衝撃があった。


「あいたっ」


『七組、ゾーイ、脱落』


後ろを振り返ると、リオスの幻影を取り払ったルゥナが、ゾーイのあたまをこずいたままの姿勢で、勝利の笑みを浮かべていたのだった。


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